新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振を理由に給料を減額できるのか
1 新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振を理由とする給料の減額
新型コロナウイルスの感染拡大の影響で企業の業績が悪化して,
給料がカットされるという労働相談があるようです。
https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/202003/0013198554.shtml
本日は,新型コロナウイルス感染拡大による業績不振を根拠に
給料を減額することが認められるのかについて,解説します。
2 給料を減額できる場合とは
そもそも,給料は,労働者にとって,
生活の原資となる大切なお金なので,労働基準法24条1項で,
賃金全額払の原則が定められているように,
原則として,減額ができません。
例外的に,会社が労働者の給料を減額できるのは次の場合に限られます。
①懲戒処分としての賃金減額
②業務命令としての降格に伴う賃金減額
③就業規則中の賃金の査定条項に基づく賃金減額
④就業規則の変更による賃金減額
⑤労働協約に基づく賃金減額
⑥労働者との合意に基づく賃金減額
このうち,①~③については,就業規則に
懲戒処分,降格,賃金査定の条項が存在していることが前提となります。
④と⑤については,就業規則と労働協約が
存在していることが前提となります。
すなわち,労働者の給料を減額するためには,
就業規則や労働協約などの根拠規定が必要になるわけです。
そのため,会社の業績不振を理由に給料を減額できるという条項が
就業規則にあれば,それを根拠に減額できる余地があるのですが,
そのような条項が就業規則にないのであれば,給料を減額できません。
私は仕事柄,多くの会社の就業規則を見ますが,
業績不振を理由に給料を減額できるという条項がある
就業規則はほとんどありません。
3 合意に基づく給料の減額
次に,就業規則に業績不振を理由に給料を減額できるという
条項がない場合,上記の⑥の労働者との個別の合意に基づいて,
給料を減額できる場合があります。
しかし,労働者との個別の合意に基づく給料の減額の場合,
労働者の合意が厳格に判断されます。
すなわち,山梨県民信用組合事件の最高裁平成28年2月19日判決
が示した次の判断基準をもとに労働者の合意が厳格に判断されるのです。
労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,
労働者が同意に至った経緯及び態様,
同意に先立つ労働者への情報提供または説明の内容などから,
給料の減額への同意が,労働者の自由な意思に基づいてされたものと
認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か
という観点から判断されます。
そのため,会社から給料の減額を求められて,
十分な説明がないまま,会社からの圧力を感じて,しぶしぶ,
給料の減額に合意した場合には,
給料の減額が無効になる可能性があります。
以上まとめると,労働者は,コロナウイルス感染拡大による
業績不振を理由に給料を減額すると会社から言われても,
就業規則に給料の減額規定が存在しないのであれば,拒否すればよく,
給料の減額への同意を求められても,拒否すればいいのです。
給料の減額を求められたら,就業規則に減額の根拠規定があるのかを
チェックしてみてください。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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