学習塾の塾講師の過酷な労働実態

最近,学習塾の塾講師が

過酷な労働をさせられたことが原因で,

労災認定されたニュースが報じられました。

 

 

 

 

神奈川県の大手学習塾「ステップ」の40代の塾講師は,

40日連続勤務が原因で適応障害を発症して,労災認定されました。

 

 

精神障害の労災認定基準によれば,

1ヶ月以上にわたって連続勤務を行えば,

労働者が被る精神的負荷の強度が強くなり,

仕事が原因で精神障害を発症したと

認定される可能性が高くなります。

 

 

また,進学塾「栄光ゼミナール」で働いていた49歳の塾講師は,

長時間労働が原因で死亡したとして,労災認定されました。

 

 

栄光ゼミナールの事件では,死亡した労働者は,

会社に自己申告していた残業時間はゼロだったのですが,

社内のシステム作業ログと妻とのラインでのメッセージの

やりとりなどで残業時間を集計したところ,

死亡する1ヶ月前の時間外労働が113時間となっていたようです。

 

 

過労死の労災認定基準によれば,

脳・心臓疾患の発症前1ヶ月の時間外労働が

おおむね100時間を超えると,長時間労働が原因で

脳・心臓疾患を発症したと認定される可能性が高くなります。

 

 

このように学習塾の講師が,精神障害を発症したり,

過労死するのは,少数の正社員が多数の学生アルバイトを

管理監督する運営方法に原因があるようです。

 

 

学生のアルバイトが講義を担当しても,

アルバイトが生徒や保護者の求める水準に達している

講義をしているのかを正社員がチェックする必要があります。

 

 

 

 

正社員は,学生のアルバイトの管理監督の他に,

自分が担当する講義の準備がありますし,

生徒や保護者への対応,

教室の清掃,

塾代を支払わない保護者への督促,

近隣の住宅へ塾案内のポスティングをすること

などの仕事もしているようです。

 

 

このように仕事の種類が多く,

授業準備や保護者対応に時間がかかることから,長

時間労働に陥ってしまうのです。

 

 

土日祝日には,模擬試験などのイベントが多いので,

休みがなく,連続勤務になってしまうのです。

 

 

また,講義をしている時間については,給料は支払われますが,

講義の事前準備やテキストの作成の時間については,

給料が支払われずにサービス残業が横行している可能性もあります。

 

 

 

 

このような仕事の準備時間については,

会社の指揮命令下に置かれたものといえますので,

労働時間であり,この時間についても,

賃金が支払われなければなりません。

 

 

学習塾の講師の精神障害や過労死を減らすためにも,

学習塾には,タイムカードなどで労働時間を適正に把握して

労働基準法に基づいた残業代を支払う,

1週間に1回必ず休日を与えるなどの,

労働基準法を守る対応をしてもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労自殺で労災が認められなくても,会社に対する損害賠償請求が認められた事件

過労死や過労自殺事件の相談を受ける際に,

弁護士が気にするのは,長時間労働をどのようにして

証明していくかということです。

 

 

タイムカードやパソコンのログデータといった証拠は,

会社が保管しているので,それをどうやって入手するのか。

 

 

 

 

時間外労働が1ヶ月80~100時間を超えるのか。

 

 

弁護士は,このようなことを考えます。

 

 

証拠保全という裁判所の手続を利用して,

会社に乗り込み,タイムカードの証拠などを確保して,

長時間労働を立証できるかを検討します。

 

 

では,タイムカード等の労働時間を証明する

証拠がなかった場合,どうすればいいのでしょうか。

 

 

本日は,タイムカード等の客観的証拠が存在しなくても,

過重労働によって過労自殺したことを認めた

大阪地裁平成30年3月1日判決を紹介します

(判例時報2382号60頁)。

 

 

過労死や過労自殺事件で有名な大阪の

弁護士松丸正先生がご担当された事件です。

 

 

通常,過労死や過労自殺の事件では,

まず,労働基準監督署に労災の申請をし,

労災と認定された後に,会社に対して,

労災では補償されない慰謝料などについて

損害賠償請求をします。

 

 

労災申請をしても,労災と認定されない場合,

労災を不支給とする行政処分について,

異議申し立てをする審査請求をし,

それでも労災と認定されない場合,

再審査請求や労災不支給処分を取り消すことを

求める訴訟を提起します。

 

 

それでも,労災不支給処分の取消訴訟をしても,

労災と認定されない場合,裁判所が,

労働者の自殺は仕事が原因ではなかったと

判断したことになるので,会社に対して,

損害賠償請求をすることは非常に困難です。

 

 

しかし,この事件では,

労災不支給処分→審査請求→再審査請求→

労災不支給処分取消訴訟の第1審判決→高裁判決と,

全ての過程で労働者の自殺は仕事が原因ではない

と判断されたにもかかわらず,

会社に対する損害賠償請求では,

労働者の自殺は仕事が原因であるとして,

約6959万円の損害賠償請求が認められたのです。

 

 

遺族と弁護士のあきらめない熱い思いが,

裁判所を変えたという点で,本当にすごいことです。

 

 

 

 

この事件では,自殺した労働者が通院していた

精神科のカルテに3ヶ月休みなく働いていたことの記載があり

同僚も3ヶ月休みがなく働いていたと証言していることから,

自殺した労働者が3ヶ月休みなく働いていたことが認定されました。

 

 

さらに,自殺した労働者のうつ病発症のきっかけは

過重労働と考えられるという主治医の意見書が提出されており,

仕事が原因で自殺したと認定されました。

 

 

 

 

労災の手続では,すべて負けたにもかかわらず,

あきらめずに,会社に対して損害賠償請求したところ,

それが認められたという画期的な判決です。

 

 

労働者の弁護士として,あきらめずに,

全力を尽くすことの大切さを学ばせていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者の性格を根拠に損害額を減らせるのか

電通の新入社員である高橋まつりさんの過労自殺が労災認定されて

,社会に衝撃を与えたのがちょうど今から2年前のことです。

 

 

この労災認定がきっかけで,電通のずさんな労務管理が批判され,

電通は法人として労働基準法違反で処罰されました。

 

(https://www.huffingtonpost.jp/2016/10/14/dentsu_n_12496662.htmlより抜粋)

 

 

また,長時間労働が問題視され,働き方改革関連法において,

これ以上の時間,残業させれば,会社に罰則を課すという,

罰則付きの残業時間の上限規制が導入されました。

 

 

このように,社会に大きなインパクトを与えた

高橋まつりさんの電通事件ですが,電通は,

高橋まつりさんの事件よりも以前に,

労働者を過労自殺に追い込んでいた事件を起こしているのです。

 

 

高橋まつりさんと同じように,入社約1年5ヶ月の新入社員が,

平成3年8月に働き過ぎによって過労自殺しているのです。

 

 

この事件では,遺族が電通に対して,

損害賠償請求の裁判を起こし,最高裁まで争われ,

平成12年3月24日に,過労自殺事件にとって

画期的な最高裁判決がくだされました。

 

 

本日は,電通事件の平成12年3月24日最高裁判決を紹介します

(労働判例779号13頁)。

 

 

この最高裁判決は,過労死事件の第一人者である

弁護士の川人博先生がご担当されました。

 

 

電通事件の被害者である労働者は,

ラジオ番組についての営業や企画立案の仕事をしており,

午前2時ころまで働いたり,

帰宅せずに徹夜で仕事をすることも多かったのです。

 

 

 

 

被害者である労働者は,極度の長時間労働と睡眠不足,

疲労が蓄積し,うつ病にかかり,突発的に自殺したのです。

 

 

会社は,労働者が仕事によって疲労や心理的負荷が過度に蓄積して,

健康を害さないように注意する安全配慮義務違反を負っています

 

 

電通は,被害者である労働者が長時間労働をして

健康状態を悪化させていることを知っていながら,

仕事の負担を軽減させる措置を採っていないので,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

その上で,電通事件では,労働者が働き過ぎで過労自殺した場合,

自殺した労働者の性格を根拠に,損害賠償額を減額することが

許されるのかが一つの争点となりました。

 

 

ようするに,まじめな性格のために思い悩んで自殺したことで,

損害が発生,拡大したのであれば,

損害額を減額する要因となるのかが争われたのです。

 

 

この点について,電通事件の最高裁判決は,次のように判断しました。

 

 

「ある業務に従事する特定の労働者の性格が

同種の業務に従事する労働者の個性の多様さとして

通常想定される範囲を外れるものでない限り

その性格及びこれに基づく業務遂行の態様等が

業務の過重負担に起因して当該労働者に生じた

損害の発生又は拡大に寄与したとしても,

そのような事態は使用者として予想すべきものということができる。」

 

 

ようするに,労働者の性格が同じ仕事をしている

労働者の性格と比べて特に問題がなければ,

労働者の性格を根拠に損害額を減額できないとしたのです。

 

 

この電通事件の最高裁判決によって,過労自殺事件では,

よほど特殊な労働者の性格が自殺に影響しているといえない限り,

労働者がまじめであるとか打たれ弱いなどの性格を根拠に,

損害額を減額することは認められなくなりました。

 

 

過労自殺事件では,とても重要な裁判例ですので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

過労死弁護団第31回総会in犬山

昨日,私が所属している過労死弁護団全国連絡会議

第31回総会が愛知県犬山市で開催されたので,参加してきました。

 

 

過労死弁護団とは,過労死や過労自殺の労災申請,

行政訴訟,会社に対する損害賠償請求訴訟に取り組む

全国の弁護士集まりで,毎年1回,全国の弁護士が一堂に会し,

過労死や過労自殺の事件について協議します。

 

 

 

 

このような集まりに参加すると,

全国各地にいる経験豊富な弁護士からスキルやテクニックを

学ぶことができるので,よほど重要な案件がない限り,

私は,毎年参加するようにしています。

 

 

過労死や過労自殺の事件は,相談から実際に事件として

依頼を受けるまでにハードルが高いので,

頻繁に担当するわけではないのですが,

専門性の高い分野ですので,全国の弁護士が集まる会に参加して,

情報を収集して,自分のスキルやテクニックを

ブラッシュアップしていく必要があると考えています。

 

 

全国の弁護士が,自分が担当した事件を紹介し,

他の弁護士の事件を学びながら,互いに経験を共有して,

自分の事件に活用していくのです。

 

 

毎年,過労死弁護団の総会では,

幹事長の川人博先生のご報告を聞くことで,

1年間の裁判や労災の状況,

何が問題になっているのかがよくわかります。

 

 

(講演する川人博先生)

 

川人先生は,過労死や過労自殺の分野の第一人者で,

数多くの過労死,過労自殺事件に取り組まれています。

 

 

そのような第一人者の先生から,

実務で役立つスキルやノウハウを学べるので,大変有意義でした。

 

 

とくに,今回の総会では,川人先生から,

過失相殺(労働者側にも落ち度があり,損害額が減額されること)や

素因減額(労働者の病気や肉体的精神的要因が原因で

損害が発生したり拡大した場合に損害額が減額されること)

を会社が主張してきた場合には,

電通事件,東芝(うつ病・解雇)事件,

アテスト(ニコン熊谷製作所)事件

3つの裁判例を利用すればいいと教わりました。

 

 

川人先生に教えてもらうまで,

知らなかった裁判例もありますので,今後,ブログで紹介していきます。

 

 

また,他にも,過労死や過労自殺の場合,

役所や会社が調査報告書を作成していることがあり,

その調査報告書に,貴重な情報が書かれているので,

証拠保全手続きで確保すべきことを学びました。

 

 

パワハラの事件では,個々のパワハラの出来事を

個別に判断するのではなく,一連のものとして総合判断することで,

損害賠償請求が認められたり,

会社の同僚が協力してくれたので,

パワハラの事実を証明できたなどの体験談を聞くことができました。

 

 

過労死弁護団の総会で学んだ知識を,

今後の過労死・過労自殺事件に活用していきます。

 

 

なお,せっかく愛知県犬山市へいってきたので,

国宝犬山城を観光してきました。

 

 

 

犬山城は日本最古の木造の城のようで,

城の中に入ると木の香がしますし,最上階からは,

素晴らしい風景を眺めることができて,とても癒やされました。

 

 

 

 

旅先で新鮮な刺激をもらいましたので,

今後とも仕事をがんばっていきます。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

 

トラック運転手の過労事故死問題

過重労働を強いられて過労状態で車の運転を誤り,

交通事故で死亡したとして,トラック運転手の遺族が,

勤務先の運送会社に対して,損害賠償請求の裁判を起こすようです。

 

 

朝日新聞の報道によれば,死亡したトラック運転手は,

1週間に6日間,夜8時30分に出勤して,

翌日昼に帰宅する勤務状態であり,交通事故発生前の6ヶ月間の

時間外労働は1ヶ月102時間,最長で132時間だったようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S13694507.html

 

 

1ヶ月の時間外労働が平均80時間を超えると,

脳や心臓の病気を発症して過労死するリスクが高まります。

 

 

 1ヶ月の時間外労働が平均100時間を超えると,

うつ病などの精神疾患を発症して過労自殺するリスクが高まります。

 

 

長距離トラック運転手は,労働時間が長く,

運送業界は,どの業界よりも一番過労死が発生しているのです。

 

 

 

 

死亡したトラック運転手は,バイパスを走行中,

前方で停車していた車に追突したようで,

死亡したトラック運転手と追突された人の

過失割合は100対0となります。

 

 

交通事故の被害者であれば,加害者が任意保険にはいっていれば,

加害者に対して損害賠償請求することで,

賠償金を取得することができます。

 

 

しかし,今回の事故の場合,死亡したトラック運転手の過失が

100のため,交通事故の相手方に対して

損害賠償請求することが困難なのです。

 

 

 

 

そこで,会社に過酷な労働を強いられて,

過労状態で交通事故を起こして死亡した「過労事故死」の場合,

会社が労働時間短縮などの措置を怠ったなどの

安全配慮義務違反を根拠に,会社に対して

損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

最近,過労事故死の損害賠償請求で注目されたのが,

グリーンディスプレイ事件の和解です

(平成30年2月8日横浜地裁川崎支部決定・労働判例1180号・2頁)。

 

 

この事件は,過労状態で原付バイクで帰宅途中に,

労働者が電柱に追突して死亡した自損事故ついて,

遺族が,会社に対して損害賠償請求をしたものです。

 

 

死亡した労働者は,深夜や早朝の不規則な勤務で

重い荷物の積卸しをするという身体の負担が重い業務を行い,

事故日前1ヶ月間の時間外労働が91時間となっていました。

 

 

 

 

本来,通勤は労働者の自由に任せられているにもかかわらず,

通勤時における交通事故について,会社の安全配慮義務違反

を認めた点において画期的でした。

 

 

さらに,裁判所は,若くして亡くなった労働者の無念さ,

遺族の悲痛な心情に思いを致し,

過労事故死を防止するための先例としての意義が高い

という熱いメッセージを発信し,再発防止のために,

詳細かつ適切な和解勧告を公表しました。

 

 

このグリーンディスプレイ事件の和解勧告が公表されたことで,

これまで放置されてきた過労事故死について,救済の道が開かれたのです。

 

 

おそらく,死亡したトラック運転手の遺族は,

グリーンディスプレイ事件の和解勧告に勇気づけられて,

提訴をふみきることができたのだと推測されます。

 

 

裁判所における紛争の解決が,社会を動きを変えるという

重要さを再認識し,そのような仕事に携わる責任の重さを感じて,

改めて身を引きしめていこうと思いました。

 

 

トラック運転手の過労事故死の裁判で

どのような解決がなされるのか注目していきます。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

北國新聞社員の過労自殺で労災と認定された事件

平成30年7月31日付で,当事務所の宮西香弁護士が

担当している北國新聞社の社員の過労自殺の労災事件で,

労災認定がされましたので,本日は,この労災認定について説明します。

 

 

過労自殺の場合,遺族は,労働基準監督署に対して,労災請求をします。

 

 

 

 

労働基準監督署の段階で,過労自殺が労災と認定されれば,

遺族は,国から遺族補償給付を受けられます。

 

 

他方,労働基準監督署の段階で,不支給決定処分という

労災と認定されない判断をされた場合,遺族は,不服申立てができます。

 

 

この不服申立てを審査請求といいます。

 

 

審査請求は,労働基準監督署の所在地である各都道府県の

労働局に置かれた労働者災害補償保険審査官に対して行います。

 

 

北國新聞社の事件では,労働基準監督署の段階では,

労災と認定されませんでしたが,審査請求の段階で

労災と認定されました。

 

 

さて,過労自殺で労災と認定されるためには,

仕事の心理的負荷が原因でうつ病などの精神疾患を

発症したと判断されなければなりません。

 

 

この心理的負荷について,厚生労働省は,

心理的負荷による精神障害の認定基準

という判断基準を公表しており,

労働者が負担に感じる出来事ごとに,

心理的負荷の程度を弱中強に分類し,

労働者が精神疾患を発症するおおむね6ヶ月の間に

体験した出来事の心理的負荷が「強」と判断されれば

基本的に労災と認定されます。

 

 

 

 

では,心理的負荷が「強」の出来事はなかったものの,

労働者が体験した出来事が複数あり,その心理的負荷が

「中」だった場合はどうなるのでしょうか。

 

 

厚生労働省の認定基準によれば,

労働者が体験した出来事が関連して生じている場合には,

全体評価を行い,「中」が複数ある場合には

「強」と評価されることがあります。

 

 

労働者災害補償保険審査官の判断によれば,

北國新聞社の事件では,労働者が体験した出来事が3つあり,

その3つの出来事の心理的負荷は「中」でしたが,

全体評価として「強」となりました。

 

 

まず,1つ目の出来事は,当該被災労働者は,

北國新聞社のグループ会社である北國新聞小松販売へ出向中に,

新聞配達員の欠員が生じたので,営業の仕事の他に,

朝刊の新聞配達をしていました。

 

 

この朝刊の新聞配達の仕事が増えたことで,

当該被災労働者の残業が1ヶ月あたり45時間以上となりました。

 

 

 

 

この出来事が,認定基準の

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

に該当し,心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

次に,2つ目の出来事は,当該被災労働者は,

「2週間以上にわたって連続勤務を行った」

ことが6ヶ月の間に5回ありました。

 

 

2週間以上連続で勤務するということは,

まったく働かない日が2週間の間に1日もないため,

十分に疲労を回復することができず,疲労が蓄積していきます。

 

 

この「2週間以上にわたって連続勤務を行った」ことの

心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

最後に,3つ目の出来事は,当該被災労働者は,

深夜の新聞配達の仕事を連続して27日間行ったことです。

 

 

新聞配達の仕事は,普通の人が寝ている早朝の時間帯

(午前3時ころから午前5時ころ)に行われます。

 

 

そして,新聞配達の仕事をした後に,

休憩時間をはさんだとしても,

日中の時間帯に営業の仕事をするのは大変なことです。

 

 

この出来事も,認定基準の

「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」

に該当し,心理的負荷は「中」と認定されました。

 

 

これら3つの心理的負荷が「中」の出来事が全体評価されて,

「強」となり,労災認定されたのです。

 

 

1つ1つの心理的負荷は「中」ですが,

深夜に連続で新聞配達の仕事をしてから,

日中の時間帯に通常の営業の仕事をすれば,

睡眠のリズムが崩れて,質の悪い短い睡眠が積み重なって,

疲労が蓄積されるので,全体評価として

心理的負荷が「強」となりました。

 

 

不服申立ての段階で,心理的負荷が「中」の出来事が複数あって,

それが全体評価で「強」と判断されて,

労災と認定されるのは珍しいので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

過労死防止大綱の改訂

7月24日に,厚生労働省が過労死防止大綱を3年ぶりに改訂しました。

 

 

過労死防止大綱を読むと,現代社会の労働の現状と課題,

過労死を防止するには,どのような対策を行えばいいのかが

分かりますので,本日は,労働者の方々に

知っておいていただきたい点をアウトプットします。

 

 

まず,現状と課題ですが,月末1週間の労働時間が

60時間以上の労働者の割合は,平成26年から平成29年の間

に0.8ポイント(32万人)減少し,平成29年は

7.7%(432万人)となっており,

長時間労働している労働者がなかなか減少していない現状があります。

 

 

 

 

1つの勤務と1つの勤務の間に連続した休息時間をもうける

勤務間インターバルの導入状況は,「導入している」企業が1.4%,

「導入を予定又は検討している」企業が5.1%,

「導入の予定はなく,検討もしていない」企業が92.9%であり,

まだまだ勤務間インターバルについての理解が広がっていません。

 

 

年休の取得日数は横ばいで推移しており,

取得率は直近2年間で微増しているものの,

平成28年で49.4%と近年5割を下回る水準で推移しています。

 

 

過労死を発生させる一つの原因は長時間労働ですので,

長時間労働する労働者に着目して,労働時間の短縮,

年休の取得の促進,労働時間の把握を客観的に行う

ことが課題となっています。

 

 

この現状と課題を踏まえて,過労死防止大綱では,

数値目標が設定されています。

 

 

労働時間については,2020年までに

週労働時間60時間以上の労働者の割合を5%以下とする。

 

 

勤務間インターバルについて,2020年までに

勤務間インターバルを知らなかった企業の割合を20%未満とし,

勤務間インターバルを導入している企業の割合を10%以上とする。

 

 

年休について,2020年までに年休の取得率を70%以上とし,

年休の取得日数が0の労働者を解消する。

 

 

現状の労働実態からすると野心的な目標ですが,

過労死防止大綱ができてからも,過労死や過労自殺がなくならず,

事件も大きく報道されていることから,

過労死や過労自殺をなくすために,

国民が一丸となって達成すべき目標なのです。

 

 

また,働きすぎが多いとして特別に調査する対象業種として,

自動車運転者,教職員,IT産業,外食産業,医療,建設業,メディア

の7業種が選ばれました。

 

 

最近,過労死や過労自殺がマスコミで大きく報道されたり,

労働判例の過労死や過労自殺で紹介されている

業種と一致しているので,まずはこれらの業種の

長時間労働対策をいかにしていくのかが重要になります。

 

 

 

今後,国は,過重労働の疑いのある会社への監督指導の徹底,

過労死を発生させた会社に対する原因究明と再発防止の指導,

違法な長時間労働が認められた企業の公表,

36協定を締結していない会社に対する監督指導など,

長時間労働を削減する取り組みを実施していきます。

 

 

過労死をなくしていくためには,

労働者が自分の労働時間や健康状態を把握し,

周囲の人も働き過ぎを警戒するなど,

国民一人ひとりの小さな実践が不可欠だと考えます。

 

過労死防止大綱が,少しでも多くの国民に,

過労死の実態を知ってもらい,過労死をなくすために

どうすればいいのかを真剣に考えるきっかけになることを願います。

過労事故死について会社に損害賠償請求できるのか

過労状態で仕事中や帰宅途中に自動車などの

運転操作を誤って,交通事故をおこして死亡した場合,

遺族は,会社に対して,損害賠償を請求できるのでしょうか。

 

 

過労の蓄積で脳・心臓疾患を発症して死亡した過労死や,

過労により精神疾患を発症して自殺した過労自殺については,

厚生労働省から労災の認定基準が公表されており,

会社に対する損害賠償請求が認められている裁判例もあります。

 

 

他方,過労状態で仕事中や通勤途中に交通事故で死亡した,

いわゆる「過労事故死」の場合,労災で補償が受けられますが,

過労死や過労自殺のような認定基準は定められていません。

 

 

 

 

また,過労が原因で交通事故が発生したのか,

運転者のミスで交通事故が生じたのか明確に分からなかったり,

交通事故の場合,自動車保険で損害が補填されることから,

過労事故死の場合に,会社に対して

損害賠償請求することは少なかったと考えられます。

 

 

このような状況の中,過労事故死について,

平成30年2月8日に横浜地裁川崎支部において

重要な和解がありましたので,紹介させていただきます。

 

 

24歳だった若者が,夜通しの仕事を終えて,

片道1時間かかる自宅へ原付バイクで帰宅途中に,

見通しのよい直線道路を走行中に左前方へ斜走して

路側帯にはみ出して電柱に激突して

死亡したという交通事故がありました。

 

 

通勤災害として,労災から補償はでますが,

自損事故のため,事故相手の自動車保険が利用できず,

自分の原付バイクに十分な損害保険をかけていなければ,

遺族に対する損害は十分に補填されません。

 

 

そこで,過労状態で原付バイクで帰宅させたことについて,

会社に対して,安全配慮義務違反

(会社には労働者の安全を確保する義務があります)

による損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

本件では,被害者の仕事が顧客の店舗で観葉植物などの

設置や撤去をするという重い荷物の積卸しなど,

身体的な負荷の高い仕事をしており,被害者は,

複数の取引先を社用車を運転して頻繁に移動しながら,

深夜と早朝における作業をしていました。

 

 

そして,本件事故の日の前日から夜通しで,

拘束時間が21時間以上に及ぶ仕事をし,

他の日の時間外労働も多かったのです。

 

 

 

 

そのため,被害者は,深夜と早朝の勤務を含む不規則で

過重な仕事をし,事故直前に夜通しで仕事をしたため,

疲労が過度に蓄積して,顕著な睡眠不足の状態に陥り,

本件事故が発生したと認定されました。

 

 

そして,被告の会社は,被害者の仕事の負担を軽くする

などの措置をとることなく,深夜や早朝の仕事の場合に,

原付バイクによる通勤を明確に指示していたので,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

その結果,7590万円の損害賠償が認められました。

 

 

さらに,本件では,和解において,

被告会社が遺族に謝罪すること,

再発防止策を実施することを確約して,

実施状況をホームページで公表すること,

和解内容を公表することが合意されました。

 

 

判決では,単に,損害賠償としてお金を支払えで

終わるのですが,和解では,謝罪や再発防止策という

遺族が求める解決が実現できるメリットがあります。

 

 

通常,和解内容は,秘密にすることが多いのですが,

本件は社会的に重要な事件であることから,

和解内容が公表されたことが非常に画期的です。

 

 

過労が原因で交通事故が発生していることは多いと思いますが,

過労事故死は今まで表面化していなかっただけなのだと考えられます。

 

 

この和解をきっかけに,過労事故死の

救済がすすんでいくことに期待したいです。

過酷な労働で健康を害する労働者が減らない日本社会

厚生労働省が平成29年度の過労死等

の労災補償状況を公表しました。

 

 

厚生労働省では,過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や,

仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害

の状況について,毎年公表をしています。

 

 

まず,脳・心臓疾患については,

労災請求件数が840に対して,

支給決定件数が253であり,

認定率は38%です。

 

 

このうち,脳・心臓疾患を発症して死亡した,

いわゆる過労死の労災請求件数が241に対して,

支給決定件数が92であり,

認定率は39%です。

 

 

脳・心臓疾患の労災請求件数は,

平成26年度以降増加していますが,

支給決定件数は,その年で増えたり減ったりしています。

 

 

発症前1ヶ月間におおむね100時間または

発症前2ヶ月間から6ヶ月間にわたって,

1ヶ月当たりおおむね80時間を超える

時間外労働が認められると,長時間労働が原因で

脳・心臓疾患を発症したと認定されやすいです。

 

 

 

 

そのため,脳・心臓疾患の労災請求件数が増えている

ということは,長時間労働が原因で,

脳や心臓を悪くした労働者が増加しているといえ,

長時間労働による労働者の健康悪化の状況が

改善されていないと考えられます。

 

 

もっとも,過労死は,平成27年度から減少傾向にあります。

 

 

業種別でみると,脳・心臓疾患の労災請求件数も支給決定件数も

一番多いのは,運輸業,郵便業のうち道路貨物運送業です。

 

 

他の業種に比べてダントツで多いです。

 

 

長距離トラック運転手は,深夜に長時間運転しますし,

トラックの中で休憩しているので,十分な休息ができておらず,

睡眠の質が悪く,疲労を回復することができずに,

疲労が蓄積して,脳・心臓疾患を発症するのだと考えられます。

 

 

次に,精神障害の労災補償状況ですが,

平成29年度の労災請求件数が1732に対して,

支給決定件数が506で,

認定率は32.8%です。

 

 

労災請求件数は,前年度と比較して146件も多く,

精神障害の労災請求は毎年右肩上がりに増加しています。

 

 

転勤やクレーム処理をしたという出来事の前後に,

1ヶ月100時間程度の時間外労働が認められたり,

発病直前の連続した3ヶ月間に1ヶ月当たり

おおむね100時間以上の時間外労働が認められる場合

長時間労働が原因で精神疾患を発症したと認定されやすいです。

 

 

 

 

労災認定された506人のうち,

最も多かった原因の出来事は

嫌がらせ,いじめ,または暴行を受けた」の88人でした。

 

 

パワハラや長時間労働が原因で精神を

病んでしまう労働者が増加していることが分かります。

 

 

精神疾患では,労災請求件数が多い業種は,医療・福祉の分野です。

 

 

医療や福祉の職場では,夜勤や交替勤務,

組織における人間関係,患者とのトラブルなどが原因で,

疲労とストレスが蓄積して,

精神疾患を発症する労働者が多いのかもしれません。

 

 

平成29年度の過労死等の労災補償状況をみると,

日本の労働者は,過酷な労働をして健康を

害してしまうことがよく分かります。

 

 

過酷な労働で健康を害する労働者を少しでも減らすように,

長時間労働を削減したり,パワハラを防止する施策が求められます。

 

 

また,労災の認定率が30%台で,

労災はやや狭き門となっているので,

労災の認定率が多くなり,一人でも多くの

労働者が労災で救済されることを願っています。

過労死防止対策と高度プロフェッショナル制度の矛盾

5月31日,政府は,新たな「過労死防止大綱」の最終案を発表しました。

 

 

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000209413.html

 

 

過労死防止大綱は,過労死ゼロの実現を目指す

政府の基本方針を示すもので,厚生労働省の施策の土台となるものです。

 

 

この過労死防止大綱を読むと,日本人の働き方がよくわかります。

 

 

月末1週間の就業時間が60時間以上の雇用者の割合は,

平成29年は7.7%で432万人となっています。

 

 

 

 

個人的な感覚としては,月末1週間の就業時間が60時間を

超えている労働者の割合は,もっと多いような気がします。

 

 

政府は,週労働時間60時間以上の雇用者の割合を平成32年までに

5%以下にする目標を掲げているので,まだ達成できていません。

 

 

次に,勤務間インターバル制度について,

導入している企業が1.4%

導入を予定しているまたは検討している企業が5.1%,

導入の予定はなく,検討もしていない企業が92.9%となっています。

 

 

勤務間インターバル制度とは,

勤務終了から次の勤務開始までの間に

十分な休息時間を確保するというものです。

 

 

1日の労働が終了して,次の労働が始まるまでの間に,

十分な休息時間を確保することで,長時間労働を抑制して,

労働者の疲労を回復させ,ワークライフバランスを確保できるようになります。

 

 

この勤務間インターバル制度については,

周知が不十分なのか,

導入企業がわずか1.4%しかありません。

 

 

そこで,政府は,平成32年までに

勤務間インターバル制度を導入する企業の割合を

10%以上

とする目標を掲げました。

 

 

医療,介護,運送業など夜働く業界の場合,

夜働くことで睡眠バランスが崩れて,

疲労が蓄積しやすいので,

労働者保護の観点から勤務間インターバル制度が必要であると思います。

 

 

また,勤務間インターバル制度における休息時間ですが,

睡眠以外にも家族と団らんする時間を確保するためにも,

ヨーロッパで導入されている11時間以上が必要です。

 

 

休息時間が短い「名ばかり」勤務間インターバル制度

が導入されないようにチェックする必要があります。

 

 

過労死防止の観点から,早急に多くの企業で

勤務間インターバル制度が導入されることを願います。

 

 

その他にも,年休の取得率約50%を平成32年までに70%以上にし,

年休取得数が0の労働者を解消する目標も掲げられています。

 

 

過労死を防止するための対策が具体的数値と共に記載されており,

過労死をなくすための意気込みを感じますが,一方で,

5月31日に高度プロフェッショナル制度を含む

働き方改革関連法案が衆議院を通過しました。

 

 

何度もブログで投稿してきましたが,高プロは,

労働時間の規制を撤廃して,過労死を助長する制度です。

 

 

過労死防止対策をすすめながら,

一方で過労死を助長する高プロを導入するので,

政府の対応に矛盾を感じます。