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未払残業代請求の消滅時効を中断するには

未払残業代請求の相談を受けた場合,

弁護士がまず検討すべきは,

消滅時効を中断することです。

 

 

2019年2月13日時点では,労働基準法115条により,

未払残業代請求権の消滅時効は2年となっております

(将来,労働基準法の改正によって

未払残業代請求権の消滅時効が5年になる可能性があります)。

 

 

 

 

未払残業代は,何もしないで放って置くと2年で消えてしまうのです。

 

 

例えば,給料が20日締めの当月末日払いの場合,

本日2019年2月13日時点であれば,

2017年2月分から2019年2月分までの

2年間分の未払残業代を請求できます。

 

 

しかし,2019年2月28日の給料支払日を経過して,

2019年3月1日以降になってしまえば,

2017年2月分の未払残業代請求権は消滅時効にかかり,

請求できなくなり,2017年3月分以降の

未払残業代しか請求できないのです。

 

 

そこで,消滅時効を止める必要があるのです。

 

 

消滅時効を止めることを,時効を中断するといいます

(民法改正により,時効の完成の猶予となります)。

 

 

未払残業代請求で,時効を中断するには,

労働者は,会社に対して,未払残業代を請求するように催告をして,

6ヶ月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起をすればいいのです。

 

 

消滅時効を中断するための催告については,

未払残業代を請求する意思表示を明確に会社に知らせるために,

配達証明付内容証明郵便で通知するのが一般的です。

 

 

 

もっとも,内容証明郵便では,相手方が受け取らなかったり,

時間的な猶予がない場合には,特定記録郵便か,

送信リポート付きでファックス送信することもあります。

 

 

では,消滅時効を中断するための催告には,

どのようなことを書く必要があるのでしょうか。

 

 

昨日のブログで紹介したPMKメディカルラボ事件においては,

会社が,原告の通知には,請求金額やその内訳,

未払賃金の期間などが記載されていないとして,

消滅時効を中断するための催告にはあたらないと主張していました。

 

 

PMKメディカルラボ事件の東京地裁平成30年4月18日判決では,

催告とは,「債務者に対し履行を求める,債権者の意思の通知であり,

当該債権を特定して行うことが必要である」と定義し,

「債権の内容を詳細に述べて請求する必要はなく,

債務者においてどの債権を請求する趣旨か分かる程度に

特定されていれば足りる」と判断されました。

 

 

そして,原告の通知には,「賃金の未払いについて

(1)早出,休憩未取得,残業,休日出勤等に対して,

未払いである賃金を支払うこと。」という記載があり,

「資料提出について (2)過去2年間分の労働時間記録,

給料明細書のコピーを書面にて提出すること」と記載されていることから,

原告が会社に対して,原告の在籍期間のうち,

通知からさかのぼって2年間の時間外労働に対する

未払残業代の請求をしていると認められるとして,

催告にあたり,消滅時効の中断が認められました。

 

 

また,日本セキュリティシステム事件の

長野地裁佐久支部平成11年7月14日判決では

(労働判例770号98頁),

未払残業代を計算するのに必要な賃金台帳やタイムカードは

会社が所持しており,労働者が容易に計算できないことから,

消滅時効の中断の催告としては,

具体的な金額及びその内訳について明示することまで

要求するのは酷に過ぎ,請求者を明示し,

債権の種類と支払期を特定して請求すれば,

時効中断のための催告としては十分である」と判断されました。

 

 

よって,消滅時効を中断するための催告としては,

「~年~月から~年~月までの残業代を含む全ての

未払い賃金を請求します。」と記載して,

会社に通知すればいいのです。

 

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業代計算の基礎賃金に含まれる賃金とは?

労働者が未払残業代を請求する場合,

残業代を計算しなければなりません。

 

 

残業代の計算方法は,次のとおりです。

 

 

 

 

残業代=時間単価×残業した時間×割増率

 

 

このうち,時間単価は次のようにして計算します。

 

 

時間単価=月によって定められた賃金÷月平均所定労働時間

 

 

賃金にはどこまでが含まれるのか,

月平均所定労働時間をどうやって計算するのか,

残業した時間をどうやって特定するか,

割増率が時間外労働,深夜労働,休日労働で異なっていることから,

はっきり言って,残業代の計算は面倒です。

 

 

残業代の計算は面倒なのですが,

会社に対して残業代を請求するには,

これらのことに対応していかなければなりません。

 

 

本日は,残業代請求における時間単価を計算するための

基礎となる賃金にはどこまでが含まれるのかについて解説します。

 

 

これは,給料明細に記載されている賃金の各項目のうち,

どこまでが基礎賃金に含まれて,

どれが除外されるのかという問題です。

 

 

 

まず,労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条において,

基礎賃金から除外されるものが記載されています。

 

 

①家族手当

 ②通勤手当

 ③別居手当

 ④子女教育手当

 ⑤住宅手当

 ⑥臨時に支払われた賃金(結婚手当など)

 ⑦一ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 

 

個人的事情に応じて支払われ,

労働の内容や量との関連性が弱い賃金,

または,計算技術上算定が困難である賃金について,

基礎賃金から除外することにしているのです。

 

 

この7つの除外賃金に該当するか否かは,

その名称によらずに,実質的に判断されます。

 

 

例えば,⑤住宅手当ですが,基礎賃金から除外されるのは,

住宅に要する費用に応じて算定される手当のことです。

 

 

 

 

名称は住宅手当であっても,実際には,

住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの,

住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給するとされているもの,

全員に一律に定額で支給されているものは除外されません。

 

 

昨日のブログで紹介したPMKメディカルラボ事件では,

住宅手当が除外賃金にあたるかも争われたのですが,

この事件の住宅手当は,労働者が親族から家賃補助を受けておらず,

自分名義で契約したアパートに居住している場合に,

労働者の住宅が存在する地域や最寄り駅からの距離に応じて

支給されていることから,住宅手当は除外賃金にあたるとされました。

 

 

また,PMKメディカルラボ事件では,業績給が

⑥臨時に支払われた賃金にあたるかについても争われました。

 

 

⑥臨時に支払われた賃金とは,

支給条件が確定されているのですが,

支給事由の発生が労働と直接関係のない個人的な事情により

まれに生ずる賃金をいいます。

 

 

PMKメディカルラボ事件の業績給は,

店舗ごとの売上目標を達成するという条件が成就した場合に

支給されていたので,支給事由の発生が不確実なものといえ,

⑥臨時に支払われた賃金といえ,除外賃金にあたるとされました。

 

 

PMKメディカルラボ事件では,住宅手当と業績給は

除外賃金にあたるとされましたが,手当の名称にとらわれずに,

手当の支給実績などを検討すると,実質的には除外賃金にあたらず,

基礎賃金にふくめられるときもあります。

 

 

そのため,労働者は,未払残業代を計算するときには,

給料明細に記載されている各手当がどのような支給基準に基づいて,

実際に支給されているのかをチェックするべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

変形労働時間制を争う方法

労働者が会社に対して,未払残業代を請求すると,

会社から,うちは変形労働時間制を採用しているので,

労働者の残業代の計算方法は誤っている

という反論をしてくることがあります。

 

 

会社から,変形労働時間制の反論をされた場合,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間(1ヶ月以内,1年以内または1週間)

につき,1週間当たりの平均所定労働時間が

法定労働時間を超えない範囲内で,

1週または1日の法定労働時間を超えて

労働させることを可能とする制度です。

 

 

 

 

所定労働時間とは,労働契約で決められた勤務時間のことで,

法定労働時間とは,労働基準法で定められた1日8時間,

1週間40時間の労働時間のことで,

法定労働時間を超えると残業代が発生します。

 

 

変形労働時間制であれば,1週間あたりの所定労働時間が

40時間以内に定められていれば,

予め所定労働として特定された日や週の

特定された時間の範囲で1日8時間,1週間40時間

を超えた労働について,会社は残業代を支払わなくてよくなります。

 

 

例えば,1週間のうち1日は9時間働き,

別の1日は7時間働き,1週間で40時間の範囲内に収まっていれば,

1日9時間働いたうちの1時間分の残業について,

会社は残業代を支払わなくてよくなるのです。

 

 

なぜ,変形労働時間制ができたのかといいますと,

労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し,

業務の繁閑に応じた労働時間の配分を行うことによって

労働時間を短縮するためです。

 

 

 

 

変形労働時間制は,あくまで,労働時間を短縮することを

目的としているのであり,決して,法定労働時間を超えて

労働させることや残業代を支払わないための

手段としてはいけないのです。

 

 

労働基準法32条の2において,

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するには,

労使協定や就業規則などで,次の事項を定めて,

労働者に周知しなければなりません。

 

 

①変形期間(1ヶ月以内の一定期間)及びその起算日

 ②変形期間における各日,各週の労働時間と各日の始業及び終業時刻

 

 

会社が,この要件を満たしていなければ,

変形労働時間制は無効になるので,労働者は,

会社から労使協定や就業規則を開示してもらい,

特に②変形期間の労働日と労働時間が

特定されているのをチェックします。

 

 

大星ビル管理事件の最高裁平成14年2月28日判決では,

就業規則などにおいて,変形労働期間の各日,

各週の所定労働期間を具体的に特定する必要があると判断されました。

 

 

そのため,就業規則に「勤務時間については変形労働時間制とし,

個別に定める」と規定されているだけでは,

変形労働期間の各日,各週の所定労働期間が

具体的に特定されておらず,変形労働時間制は無効となります。

 

 

勤務割表で所定労働期間を特定する場合には,

就業規則において各勤務の始業・終業時刻及び

各勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続きや周知方法を定めて,

各日の勤務割は,それに従って,

変形期間開始までに具体的に特定しておけば足りることになります。

 

 

私の経験上,地方の中小企業において,

変形労働時間制の労働時間の特定を適法に定めているところは少なく,

変形労働時間制が無効になる可能性が多いと感じています。

 

 

そのため,労働者は,会社から,

うちは変形労働時間制を採用しているので,

そんなに多くの残業代を支払わなくてもいいのだと主張されたとしても,

労使協定や就業規則を見た上で,

各日,各週の労働時間が具体的に特定されているのかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

一般先取特権を活用した未払残業代のスピード回収方法

労働者が会社に対して,未払残業代を請求する場合,

まずは,会社にタイムカード等の資料の開示を求めて,

未払残業代を計算し,会社に未払残業代を

請求する旨の文書を送付します。

 

 

会社が素直に残業代を支払ってくれればいいのですが,

会社は,なんだかんだとケチを付けてきて,

そんなに簡単には残業代を支払ってくれないことが多いです。

 

 

そこで,労働者は,会社に対して,

労働審判か裁判を起こして,未払残業代を請求します。

 

 

 

 

裁判で会社が敗けても,会社が残業代を支払わないのであれば,

会社の財産を差押えて回収する強制執行手続にすすみます。

 

 

労働審判の場合は,決着するまでに,申立てから2~4ヶ月,

裁判の場合は,決着するまでに,提訴から約1年以上の時間がかかります。

 

 

このように,裁判は時間がかかるのが難点です。

 

 

ところが,未払残業代を早期に回収する方法があることを

知りましたので,本日は,その方法を紹介します。

 

 

大分共同法律事務所の弁護士の玉木正明先生が担当された,

健康ランドの店長の未払残業代請求事件で,

一般先取特権を活用して,未払残業代をスピード回収したものです。

 

 

先取特権とは,法律で定められた債権を有する者が,

他の債権者に優先して弁済を受ける権利のことです。

 

 

 

 

民法306条2号と民法308条により,

労働者には,会社の財産について,優先的に弁済を受ける

一般先取特権を有しているのです。

 

 

この一般先取特権を利用すれば,

労働審判や裁判という時間がかかる手続をすっ飛ばして,

会社の財産に対する差押えができるのです。

 

 

さらに,会社の言い分を聞かずに,書面による審理で足り,

保証金を積む必要もありませんので,

1ヶ月くらいのスピード回収が見込めるのです。

 

 

もっとも,一般先取特権は,労働者の手持ち証拠だけで,

会社の反論を聞くまでもないと判断できるくらいに,

高度な証明を書面のみで行う必要があるので,

裁判所が認めるのはかなり稀であります。

 

 

そのため,一般先取特権は,あまり利用されていません。

 

 

玉木先生の未払残業代請求事件では,タイムカードがあり,

毎日の始業・終業時刻を,月末に月報でまとめて

会社に提出していたので,残業して働いていたことの

証明があったと認定されたようです。

 

 

タイムカードに漏れなく始業・終業時刻が打刻されていて,

会社がタイムカードをチェックして承認を与えており,

あわせて,給料明細や労働契約書といった証拠がそろっている場合には,

一般先取特権による未払残業代の回収が認められそうです。

 

 

そして,会社のどの財産を差し押さえるかですが,

大きく分けて,不動産,債権,動産の3つがあります。

 

 

不動産の差押えについては,費用が多くかかりますので,

費用対効果の観点で,使い勝手が悪いです。

 

 

会社の預金債権や売掛債権の差押えについては,

これが認められると,会社の銀行や取引先に対する信用がなくなり,

会社の資金繰りがショートして倒産する危険がありますので,

裁判所は,なかなか認めてくれないと考えられます。

 

 

そこで,未払残業代を回収する際に,

差し押さえるのは,現金などの動産が効果的なようです。

 

 

 

玉木先生の未払残業代請求事件では,

健康ランドが閉店する午前9時に,

裁判所の執行官と共に店舗へ乗り込み,

券売機,両替機,レジ,金庫,翌営業日用の釣り銭

全て提出するように促して,現金を回収したようです。

 

 

裁判所の許可があるので,会社は抵抗できません。

 

 

このように,店舗に一定金額の現金がある場合には,

動産執行が効果的なようです。

 

 

一般先取特権を活用すれば,未払残業代を早急に

回収できる可能性があることを知ったので,

証拠が確実にそろっていて,店舗に一定金額の現金が存在するような,

未払残業代請求事件を担当することになった場合,

一般先取特権を利用してみようと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

産婦人科医の未払残業代請求

本日,ありがたいことに,私の2人目の子供が誕生しました。

 

 

元気な男の子です。

 

 

 

 

生まれたばかりの長男の産声を聞いたら,

生きることへの力強さを感じ,感動しました。

 

 

がんばった妻へ感謝しかありません。

 

 

さて,本日の手術(帝王切開)は午前8時30分からだったので,

産婦人科医は,おそらく手術の準備のために,

もっと前から出勤して仕事をしているのだと考えられます。

 

 

産婦人科医の労働時間はどうなっているのだろうかと

気になったものでして,本日は,産婦人科医の労働時間が

争点となった奈良県医師割増賃金事件を紹介します

(大阪高裁平成22年11月16日判決・労働判例1026号144頁)。

 

 

 

 

この事件では,奈良県が設置運営する病院の

産婦人科に勤務する医師が残業代請求をしたものです。

 

 

この病院では,産婦人科医は,所定労働時間以外に

交代で宿日直勤務をしており,宿直が平日休日を問わず

午後5時15分から翌朝8時30分まで,

日直が土日祝日の午前8時30分から午後5時15分までで,

1回につき2万円の宿日直手当が支給されていました。

 

 

この事件では,産婦人科医の宿日直業務が,

労働基準法41条3号の「断続的労働」

に該当するかが争われました。

 

 

労働基準法41条3号には「監視又は断続的労働に従事する者で,

使用者が行政官庁の許可を受けたもの」については,

労働基準法の労働時間規制が適用されないと規定されており,

残業代が請求できなくなります。

 

 

断続的労働とは,休憩時間は少ないものの

手待ち時間が多いものをいいます。

 

 

断続的労働の場合に,残業代が請求できないのは,

労働密度が薄く,精神的肉体的負担も小さいことから,

当該労働時間は,全て会社の指揮命令下にある

労働時間であることを前提に,労働基準監督署の許可

を受けることを条件として,労働時間規制の適用を免れるからです。

 

 

そして,労働基準監督署では,医療機関の宿日直について,

労働基準法41条3号の「断続的労働」として許可をするのは,

当該労働者の本来業務は処理せず,

構内巡視,文書・電話の収受又は

非常事態に備えて待機するものであり,

常態としてほとんど労働する必要のない勤務としていました。

 

 

病室の定時巡回,少数の要注意患者の定時検脈など,

軽度又は短時間の業務のみが行われる場合に,

宿日直は「断続的労働」として許可されるのです。

 

 

被告病院では,産婦人科医の不足から近隣病院で

夜間の救急受け入れが困難になり,

1日平均3.95人の救急外来患者を受け入れ,

1日平均1.1件の分娩処理をすることが予定されていたので,

原告の産婦人科医は,宿日直においても本来業務をしていました。

 

 

 

 

また,助産師や看護師からの患者の容態についての

頻繁な連絡や応答,患者や家族に対する説明などもありますので,

軽度又は短時間の業務のみが行われることにはなりません。

 

 

そのため,産婦人科医の宿日直について,

労働基準法41条3号の「断続的労働」とは認められず,

宿日直についての未払残業代が認められました。

 

 

他にも,本件事件では,通常の勤務時間外に必ず自宅にいて,

呼び出しがあればすぐに病院に急行して診察に当たるという

宅直という制度について,労働時間かが争われました。

 

 

この宅直で病院に呼び出される回数は年間6~7回であること,

産婦人科医がプロフェッショナル意識に基づいて始めた

自主的な取り組みであることから,宅直については,

病院の黙示の指揮命令があったとはいえず,

宅直の時間について,労働時間とは認められませんでした。

 

 

宅直の場合,医師は,自宅を離れられず,

飲酒を控えるなどの負担が生じるのですが,

呼び出される回数が少なく,呼び出された場合に

残業代が支払われていれば問題がないといえます。

 

 

宅直の際に頻繁な呼び出しがあれば,

労働から解放されていないとして,

労働時間と判断される可能性はあります。

 

 

産婦人科医の宿日直の仕事は,労働時間なので,

適正な残業代が支払われるようになってもらいたいです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

昼休みがとれないときの対処法

弁護士ドットコムニュースに,

昼休みをとれない保育士のことが掲載されていました。

 

 

保育園では,子供達が昼寝をしている際も,

呼吸やうつぶせ寝のチェックのために休むことができず,

早く起きてしまう子供がいるため,

保育士は,別の部屋にいくことができず,

子供達が寝ている部屋で食事をとっているようです。

 

 

 

 

元気に動き回る子供達が相手ですので,

保育士がきちんと昼休みを取得するのは難しいことが予想されます。

 

 

保育士の仕事は過酷です。

 

 

とはいえ,休憩時間を取得させないことは

労働基準法違反になります。

 

 

本日は,休憩時間について説明します。

 

 

そもそも,休憩時間とは,労働者が権利として

労働から離れることが保障されている時間,

労働時間の途中において完全に仕事から離れることを

保障されている時間をいいます。

 

 

 

 

労働基準法34条において,会社は,

1日の労働時間が6時間を超える場合には少なくとも45分,

8時間を超える場合には少なくとも1時間の休憩時間を

労働時間の途中に与えなければならないと規定されています。

 

 

労働時間が6時間未満の場合であれば,

休憩時間を与えなくても,労働基準法違反にはなりません。

 

 

また,電車や飛行機の乗務員,郵便事業の乗務員については,

休憩時間を与えないことができると規定されています。

 

 

休憩時間は,労働時間の途中に与える必要がありますので,

仕事が始まる前や仕事が終わった後に

休憩時間を与えることはできません。

 

 

休憩時間を分割して与えることも可能ですが,

5分や10分の休憩時間ですと,

トイレにいくだけで終わってしまうので,

労働からの解放が保障されているとはいえず,

休憩時間とみなされない可能性があります。

 

 

休憩時間は,労働者に一斉に与えなければならないのですが,

労使協定を締結することで,

休憩時間を一斉に与えなくてもよくなります。

 

 

会社は,労働者に,休憩時間を

自由に利用させなければなりません。

 

 

 

 

とはいえ,休憩時間後の労働に支障が生じてはいけませんので,

飲酒を禁止したり,

会社内の危険な設備の近くでのスポーツを禁止したり,

他の労働者の休憩を妨害することを禁止したりすることは,

休憩時間の自由利用の原則に違反しないと考えられます。

 

 

会社が労働者に対して,休憩時間を与えていなかった場合,

休憩時間も労働契約の内容になっていることから,

会社は,労働契約に違反したことになります。

 

 

そして,休憩時間を与えられないことで,

労働者の身体・自由といった法律上の利益が侵害されているとして,

慰謝料の支払が認められることがあります。

 

 

もっとも,慰謝料の金額はそれほど大きくはなりません。

 

 

その他にも,休憩時間が与えられないことによって,

1日の労働時間が8時間を超えれば,

残業代を請求することができます。

 

 

会社が休憩時間を与えない場合,労働基準法違反として,

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金の罰則がありますので,

労働者としては,労働基準監督署に違反の事実を申告し,

是正を求めることも可能です。

 

 

このように,休憩時間を与えない場合,

労働者としては,とりうる手段がいろいろあります。

 

 

冒頭の保育士の場合,何人かの保育士が

交代で休憩時間をとれるように,経営者には,

労働環境を改善していってもらいたいですね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業代請求をして,会社からサボっていただろうと言われたら・・・

労働者が,会社に対し,未払い残業代を請求すると,

会社から次のような反論がされることがよくあります。

 

 

会社は,残業を命じていないのに

労働者が勝手に残業をしていただけである。

 

 

パソコンゲームで遊んでいたり,

席を離れて仕事以外のことで時間を潰していたので,

労働時間ではなく休憩時間である。

 

 

 

 

ようするに,労働者は働かずにサボっていたのであるから,

残業代を支払わなくてよいという反論です。

 

 

それでは,労働者が勝手に残業していた,

遊んでいた等の会社の主張は認められるのでしょうか。

 

 

結論としては,このような会社の主張は

認められないことがほとんどです。

 

 

この点について判断された裁判例をいくつか紹介します。

 

 

まずは,株式会社ほるぷ事件を紹介します

(東京地裁平成9年8月1日判決・労働判例722号62頁)。

 

 

この事件では,会社は,土曜休日労働の指示をしていないのに,

労働者が勝手に土曜休日労働をしていたと主張していました。

 

 

裁判所は,通常の勤務日のみでは

仕事の全部を処理することが不可能な状況であり,

労働者は,土曜休日に通常の勤務日に処理できない

仕事をしていたのであり,タイムカードで会社に管理され,

会社は,労働者がこれらの仕事をしていたことを

十分に認識しながら,仕事を中止するように

指示を出さなかったのであるから,会社による

黙示の指示によって土曜休日出勤がなされたと判断しました。

 

 

 

 

ようするに,会社は,労働者が残業していることを知っていて,

残業を中止する指示をしていないのであれば,

黙示の指示で残業をさせていたことになるのです。

 

 

次に,山本デザイン事件を紹介します

(東京地裁平成19年6月15日判決・労働判例944号42頁)。

 

 

この事件では,会社は,労働者がパソコンやインターネットで

遊んでいたと主張していました。

 

 

裁判所は,作業と作業の合間に空き時間があるとしても,

その間に次の作業に備えて調査したり,待機していたので,

空き時間も会社の指揮監督下にある労働時間であり,

そのような時間を利用してパソコンで遊んでいたりしても,

これを休憩時間と認めることはできないと判断しました。

 

 

仮に,遊んでいる時間があったとしても,

労働から完全に解放されていないと,

休憩時間ではなく,労働時間になるのです。

 

 

最後に,京電工事件を紹介します

(仙台地裁平成21年4月23日判決・労働判例988号53頁)。

 

 

この事件では,会社は,労働者が勤務時間後に

パソコンゲームに熱中し,席を離れて仕事以外のことに

時間をつぶしていたと主張していました。

 

 

 

裁判所は,タイムカードに打刻された時間の範囲内は,

仕事に当てられていたものと事実上推定され,

会社において別途時間管理者を選任し,

その者に時計を片手に各労働者の毎日の残業状況をチェックさせ,

記録化する等しなければ,タイムカードによる勤務時間の推定を

覆すことができないと判断しました。

 

 

すなわち,パソコンゲームに熱中したり,

会社を離れて仕事に就いていなかった時間が

相当あることがうかがわれても,

タイムカードの範囲の時間中,

働いていたと推定されるのです。

 

 

以上3つの裁判例を紹介しましたが,

勝手に残業していたやサボっていたという

会社の反論は認められないことが多いのです。

 

 

そのため,労働者は,会社から勝手に残業していたや

サボっていたと言われても,臆することなく,

未払い残業代を請求するべきなのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

店長になると残業代を請求できないのか?

ブラック企業の手口の一つに,

入社して半年くらいで店長やマネージャー

になるように義務付ける方法があります。

 

 

 

 

半年間,働きながら社内の試験に合格するために必死で勉強し,

晴れて試験に合格して,店長やマネージャーになっても,

「管理監督者」だからという理由で,残業代が支払われないまま,

長時間労働を強いられる,という手口です。

 

 

試験に合格しなければ,ブラック企業から

使えないやつだと認定されて,

酷いパワハラで精神的に追い詰められて,

自己都合退職させられてしまいます。

 

 

試験に合格してもしなくても,

地獄が待っているという恐ろしい手口です。

 

 

さて,会社から店長やマネージャーという役職をもらっただけで,

残業代が支払われないのは合法なのでしょうか。。

 

 

本日は,残業代請求事件で,会社から争われることのある,

管理監督者について解説します。

 

 

労働基準法41条2号には,

「監督若しくは管理の地位にある者」は,

労働時間に関する規定が適用されないと定められています。

 

 

すなわち,管理監督者に該当すれば,

会社に残業代の支払を義務付けている労働基準法37条

が適用されない結果,管理監督者に該当する労働者は,

会社に対して,残業代を請求できなくなるのです。

 

 

それでは,管理監督者とは,どのような労働者をいうのでしょうか。

 

 

管理監督者の裁判例で有名なのは,

名ばかり管理職」を世に広めた,日本マクドナルド事件です

(東京地裁平成20年1月28日判決・労働判例953号10頁)。

 

 

 

 

そもそも,本来の管理監督者は,経営者と一体的な立場において,

労働基準法の労働時間の枠を超えて働くことを求められても

やむを得ないといわれるくらい重要な職務と権限が与えられ,

勤務態様や賃金において,他の一般労働者に比べて

優遇措置が取られているので,労働時間の規制を適用しなくても,

労働者の保護に欠けることがないのです。

 

 

そのため,管理監督者に該当するか否かは,

次の3つの観点から判断されます。

 

 

①職務内容,権限及び責任に照らし,労務管理を含め,

企業全体の事業経営に関する重要事項にどのように関与しているか

 

 

 ②その勤務態様が労働時間等に対する規制に

なじまないものであるか否か

 

 

 ③給与及び一時金において,

管理監督者にふさわしい待遇がされているか否か

 

 

日本マクドナルド事件では,

①店長は,アルバイトの採用育成,従業員のシフトの決定,

販売促進活動の企画,実施の権限を行使して,

店舗運営において重要な職責を負っていましたが,

店長の職務,権限は店舗内の事項に限られているので,

経営者と一体的な立場ではなく,

重要な職務と権限が与えられていないと判断されました。

 

 

 

 

②店長の勤務態様は,長時間の時間外労働を余儀なくされており,

労働時間に対する自由裁量があったとは認められませんでした。

 

 

③全体の40%の店長の年額賃金は,

下位の職位の労働者の年額賃金よりも

年額で約44万円多いだけであり,

管理監督者に対する待遇としては不十分と判断されました。

 

 

以上より,マクドナルドの店長は,

管理監督者ではないと判断されて,

約500万円の未払い残業代請求が認められました。

 

 

経営者と同じ立場にあり,

仕事内容も賃金も経営者と同じレベルでないと,

残業代が支払われなくてもやむを得ない

管理監督者とは認められません。

 

 

コンビニや飲食店の店長であれば,

労働基準法で定められた管理監督者ではなく,

未払い残業代を請求できることが多いです。

 

 

店長やマネージャーだからという理由で

残業代が支払われていないのであれば,

未払い残業代を請求できる可能性があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

タイムカードの時刻と実際の労働時間がずれているときの対処法

会社から,閉店直後にタイムカードを

打刻するように指示されており,

タイムカードを打刻した後にも,

掃除などの仕事をしていたとします。

 

 

 

 

この場合,掃除などの仕事を終わった時刻が

終業時刻とならないのでしょうか。

 

 

本来,掃除などの仕事が終わった時刻に

タイムカードを打刻していれば,

何も問題はないのですが,労働者は,

会社から,閉店直後にタイムカードを打刻するように

明確に指示されていたのでは,それに従わないと,

会社から何を言われるのか不安になり,

ついつい会社の言うとおりにしてしまいます。

 

 

本日は,タイムカードを打刻した時刻と

真実の終業時刻がずれていた場合に,

真実の終業時刻で残業代が認められるのは

どのような場合かについて,

ケンタープライズ事件をもとに検討します。

(名古屋高裁平成30年4月18日判決・労働判例1186号20頁)

 

 

この事件は,居酒屋の店長が未払い残業代を請求した事件です。

 

 

 

 

この事件では,タイムカードに打刻された終業時刻は,

真実の終業時刻ではなく,会社から閉店直後に

タイムカードを打刻するように指示を受けて,

そのとおりにしており,タイムカード打刻後も働いていたという,

店長の言い分が信用できるかが争点となりました。

 

 

人の言い分が信用できるかを判断する際には,

当該言い分に合致する証拠があると,

信用できると判断されやすいです。

 

 

まず,原告のタイムカードは,

閉店直後に打刻されているものがほとんどでした。

 

 

次に,閉店前から可能な範囲で掃除などの仕事をしても,

閉店時刻直後に従業員が直ちに退勤することは困難であり,

閉店時刻から1時間働く必要があることを,証人が証言しました。

 

 

飲食店の場合,お客さんがいるときに,

店内の掃除を始めると,お客さんに対して

嫌な思いをさせることがあるので,

お客さんがいなくなった閉店時刻の後に,

店内の掃除などの後片付けの仕事をすることがよくあると思います。

 

 

 

 

そのため,裁判所は,原告の言い分が信用できるとして,

タイムカードに打刻された終業時刻は真実の終業時刻ではなく,

閉店後の仕事は1時間程度で終わらせれることができるとして,

閉店時刻から1時間後を終業時刻としました。

 

 

加えて,会社がタイムカードの打刻について

実際の労働時間より少なめに打刻するように

指示していたことは悪質であるとして,

未払い残業代の他に,ほぼ同じ金額の付加金

の支払いが命じられました。

 

 

付加金とは,残業代などをきちんと

支払っていなかった会社に課される制裁金です。

 

 

基本的に,裁判ではタイムカードの時刻をもとに,

労働時間を認定しますが,このように,

タイムカードの時刻と実際の労働時間がずれていても,

ずれている理由を合理的に説明できれば,

実際の労働時間で認定されることがあります。

 

 

労働者は,正確にタイムカードを打刻するようにすべきですが,

タイムカードの時刻と実際の労働時間がずれていても,

あきらめずに主張と立証を尽くすことが重要ですね。

 

 

また,会社が真実の労働時間と異なる時刻で

タイムカードを打刻するように指示していれば,

場合によっては,付加金の制裁が課される

リスクがありますので,気をつけるべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

シフト表を証拠にして未払い残業代を請求する

「たくさん働いているのに,残業代が支払われていない」,

「サービス残業が当たり前なのはおかしい」

 

 

 

 

このような残業代の未払いについての法律相談は多いです。

 

 

労働者が8時間を超えて働いた場合,

会社は残業代を支払わなければならないのですが,

残業代を支払っていない会社はたくさんあります。

 

 

長時間労働をしているのに

残業代が支払われていないのはおかしいと思ったなら,

まずは,自分が1日何時間働いていたのかをチェックします。

 

 

自分が1日何時間働いていたのかを

チェックするには,タイムカードが最も便利です。

 

 

 

 

タイムカードに始業時刻と終業時刻が

正確に打刻されているのであれば,

労働時間を証明することができます。

 

 

平成29年1月20日に公表された,

労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき

措置に関するガイドラインにおいて

会社は,タイムカードなどで,

労働者の労働時間を適正に把握しなければならない

ことが規定されています。

 

しかし,地方の中小企業では,タイムカードがなく,

労働時間を全く把握していないところも多いのが現状です。

 

 

まだまだ,労働時間の把握義務が守られていないのです。

 

 

それでは,タイムカードがない場合に,

どうやって労働時間を証明すればいいのでしょうか。

 

 

タイムカードがなくても,

他に労働時間が記録されているものがあれば,

それを使って労働時間を証明していきます。

 

 

本日は,シフト表を使って労働時間が証明された

岡山地裁平成19年3月27日判決を紹介します。

(セントラルパーク事件・労働判例941号23頁)

 

 

 

 

この事件は,ホテルの料理長が未払い残業代を請求したものです。

 

 

原告の料理長が,料理人の意向を確認して,

自らの判断でシフト表を作成しており,

シフト表の作成にあたり,経営陣に相談したり,

了承をえたりはしていませんでした。

 

 

タイムカードのように時間が記録される

客観的な証拠ではなく,

原告の料理長が自分で作成したシフト表という,

やや主観的な証拠であっても,

労働時間を証明するための証拠として

十分であると判断されました。

 

 

さらに,被告会社は,労働時間を客観的に記録,

把握する仕組みを設けておらず,

労働時間の適正な把握という使用者の

基本的な責務を果たしていないと評価すほかない

として,未払い残業代と同額の付加金の支払いが命じられました。

 

 

付加金とは,残業代を支払わない会社に対して,

支払いが命じられることがある一種の制裁です。

 

 

ようするに,会社は,タイムカードなどで

労働時間を適正に把握していないと,

未払い残業代以外にも,付加金という

制裁を受けるリスクがあるのです。

 

 

タイムカードがなくても,

他にシフト表などの労働時間を証明できる証拠

がないかと知恵を絞ることで,

未払い残業代を請求する突破口がみつかることがあるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。