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トラック運転手の待機時間は労働時間か

未払残業代請求の裁判では,会社の指示があれば

直ちに作業にとりかからなければならない状態にある

手待ち時間が労働時間なのか,休憩時間なのかで

争われることがあります。

 

 

本日は,トラック運転手の出荷場や配送先における

待機時間が労働時間なのか,休憩時間なのかが争われた田口運送事件

(平成26年4月24日横浜地裁相模原支部判決

・労働判例1178号86頁)を紹介します。

 

 

この事件のトラック運転手は,集荷場で乳製品や冷凍食品を

トラックに積み込み,運送して,配送先で荷物をおろす

という仕事をしていました。

 

 

 

集荷場や配送先で,トラック内で待機する時間があり,

その待機時間に具体的な作業をしていなかったと推測されます。

 

 

もっとも,集荷場では,荷物の積み込みを待つトラックの列に

並ばなければならず,行列が前に進むたびに

トラックを前進させなければなりません。

 

 

乳製品や冷凍食品を積み込むので,

トラックの冷凍庫の保冷器を稼働させてままに

しておかなければなりませんし,温度管理を

厳格に行うことが要求されていました。

 

 

集荷場では,荷物が五月雨式にでてくる上,

他の並んでいるトラックの迷惑にならないように,

原告らトラック運転手は,でてきた荷物をすぐにトラックに運び,

他の運転手の積み込みを手伝っていました。

 

 

 

また,配送先にトラックを駐車させるスペースがないこともあり,

配送先から連絡があるまで,トラックの中で荷物を

継続的に保管しなければなりませんでした。

 

 

このように,原告らトラック運転手は,

トラックから離れることができませんでした。

 

 

このような原告らトラック運転手の手待ち時間は

労働時間なのでしょうか,それとも休憩時間なのでしょうか。

 

 

そもそも,労働時間とは,

労働者が会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が

義務付けられていると評価される場合には,

労働からの解放が保障されているとはいえず

労働者は会社の指揮命令下におかれていると判断されます。

 

 

本件では,原告らトラック運転手の労働実態をみれば,

集荷場や配送先における待機時間は,いずれも

待ち時間が実作業時間にあたり,会社の指揮命令下に

置かれていたと評価できるので,労働時間とされました。

 

 

待機時間に,原告らトラック運転手がトイレにいったり,

コンビニに買い物にいくなどトラックを離れる時間があったとしても,

休憩時間とは評価できないと判断されました。

 

 

会社が手待ち時間は,労働時間ではないとして,

その分の残業代を支払っていなくても,

実際の労働の状況を具体的に明らかにして,

会社の指揮命令下に置かれていたことを積極的に主張することで,

手待ち時間が労働時間と判断されて,

未払残業代請求が認められることがあります。

 

 

手待ち時間に対する給料が支払われていない場合,

自分の労働実態からして,手待ち時間が労働時間といえないか

を検討することをおすすめします。

仮眠時間は労働時間か?

警備員や看護師,ホテルのナイトフロントなど

宿直を伴う業務には,仮眠時間がもうけられていることがあります。

 

 

 

 

この仮眠時間が労働時間なのかが,

未払残業代請求事件で争点になることがあります。

 

 

仮眠時間中,労働者は寝ているので,労働時間ではなく,

休憩時間であり,仮眠時間について,

賃金は発生しないとも考えられます。

 

 

しかし,仮眠時間であっても,呼び出しがあったら,

すぐに仕事に戻らなければならない場合,

労働時間のようにも思えます。

 

 

そもそも,労働時間とは,どのような時間なのでしょうか。

 

 

 

 

労働時間について判断した重要な判例を紹介します。

 

 

最高裁平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)は,

労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,この時間に該当するか否かは,

労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと

評価することができるか否かにより

客観的に定まるものであると判断しています。

 

 

ようするに,使用者の指揮命令があって,

それにしたがって働けば労働時間になります。

 

 

もっとも,使用者の指揮命令下に置かれている時間

という基準だけでは,仮眠時間が労働時間にあたるのかが

判然としません。

 

 

次に,仮眠時間が労働時間にあたるかの基準を

示した重要な判例を紹介します。

 

 

最高裁平成14年2月28日判決(大星ビル管理事件)は,

次のように判断しました。少し長いですが引用します。

 

 

「不活動仮眠時間において,労働者が実作業に従事していない

というだけでは,使用者の指揮命令下から

離脱しているということはできず,

当該時間に労働者が労働から離れることを

保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に

置かれていないものと評価することができる。

したがって,不活動仮眠時間であっても

労働からの解放が保障されていない場合には

労基法上の労働時間に当たるというべきである

そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が

義務付けられていると評価される場合には,

労働からの解放が保障されているとはいえず,

労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

 

 

ようするに,仮眠時間中に労働から完全に

解放されていないのであれば,

仮眠時間は労働時間になります。

 

 

労働から完全に解放されているかについては,

①業務遂行についての義務付けがあるか

(仮眠中に呼び出しがあれば,すぐに現場に

戻らければならないように指示されていたか),

②場所的拘束性があったか

(仮眠時間とされていた時間に,会社の外に出て

自由に過ごすことができたか),

③対応の頻度

(仮眠時間中の呼び出しが多いか少ないか)

といった事実をもとに判断されます。

 

 

例えば,ホテルのナイトフロントの場合,

①仮眠時間中であっても,顧客からの呼び出しがあれば

すぐに対応しなければならず,

②ホテルの外に出て休むことが禁止されており,

③顧客の呼び出しが頻繁にある場合,

仮眠時間は労働時間と判断されると考えられます。

 

 

仮眠時間について,多くの会社では残業代が

支払われていないでしょうが,場合によっては,

労働時間となり,労働者は,

未払残業代を請求できることがあります。

 

 

仮眠時間のある労働者は,一度,

ご自身の労働実態を検討し,

仮眠時間の対応頻度などを調べてみるといいでしょう。