人事考課による賃金の減額を争うポイント
1 人事考課による賃金の減額
現在、私が担当している未払残業代請求事件において、
人事考課による賃金の減額が有効になるかが争点となっています。
私のクライアントは、人事考課について何も説明を受けておらず、
短期間に基本給を約半分にまで減額されているため、
賃金の減額は無効であると主張しています。
人事考課による賃金の減額が無効になれば、
減額前の賃金で残業代を計算できるので、
クライアントが請求できる残業代がアップするのです。
また、会社からの人事考課がどのようになされて、
どうしてこの金額の賃金になるのか
不満に思っている労働者の方々もいるでしょう。
それでは、会社から人事考課を理由に賃金を減額されたら、
どのような場合に、賃金の減額が無効になるのでしょうか。
結論から言うと、人事考課が公正な評価に基づかない場合に、
会社の人事考課権の濫用として、
人事考課による賃金減額が無効になります。
2 人事考課とは
まず、人事考課とは、労働者の能力や成果を評価して
賃金や処遇を決定する制度です。
おおむね、年度のはじめに、会社と労働者との間で、
評価基準と達成目標を設定し、中間レビューや賞与評価を経て、
年度末に評価が行われます。
評価項目は、①成果(職務の達成度)、
②能力(知識・技能、理解・判断力など)、
③意欲・職務行動(能力を成果に向けてどのように発揮したか)、
④情意(勤務態度、協調性など)に分かれ、
これらが基本給や賞与の決定や処遇に反映されます。
3 公正な評価
次に、人事考課が公正であることが、
人事権行使の必須の要件となります。
賃金は、労働者にとって重要な生活原資であり、
人事考課はその先行手続なので、人事考課を公正に行うことは、
会社の賃金支払義務に内在する責務なのです。
すなわち、会社が恣意的に人事考課を行い、
不当に低い評価となって、賃金が減額されたのでは、
労働者は、生活原資を不当に減額されて、
生活が困窮するリスクがあるので、会社は、
労働者の納得が得られるように
公正に評価をする責務を負っているわけです。
そして、人事考課における、公正な評価の具体的な内容としては、
①会社は、公正・透明な評価制度を設計し、
②それに基づいて公正な評価を行い、
③評価結果を労働者に対して開示して説明することです。
人事考課の制度や手続の公正さ(①と③)が重要でして、
実際の評価(②)の命運を握っています。
そのため、人事考課の制度や手続(①と③)が
十分に整備されていない場合には、
実際の評価(②)の不公正さが推定されて、
人事権を濫用したとされます。
実際の評価の部分(②)については、
会社の裁量が認められやすくて争いにくいですが、
問題となっている人事考課の制度や手続(①と③)については、
就業規則を検討したり、
実際に会社からどのような説明を受けたかなどによって、
人事権の濫用であると主張しやすいです。
問題となっている人事考課の制度や手続(①と③)が
十分に整備されているかについては、
具体的には、次の観点から検討します。
ⓐ透明性・具体性のある評価項目・基準の整備があるか。
ⓑ評価の納得性を確保するための評価方法が導入されているか。
ⓒ評価を処遇に反映されるためのルールが整備されているか。
ⓓ個々の労働者との間の面談・説明・情報提供がなされているか。
ⓔそれらルールの労働者への説明・情報提供・開示がなされているか
4 賃金の変動幅にも注意
加えて、人事考課による賃金の減額については、
減額できる賃金の幅に、一定の制約があると考えられます。
あまりにも大きな幅の賃金の減額は、
労働者の生活に大きな打撃を与えることになりますし、
制約のない大幅な賃金の減額は、退職強要などの
不当な動機も目的のために用いられることがあるからです。
まとめますと、人事考課による賃金の減額を争うときには、
人事考課の制度や手続が十分に整備されているか,
大幅な賃金の減額になっていないかを検討することが重要になります。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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