宮西香弁護士が金沢弁護士会の会長に就任しました

当事務所の宮西香弁護士が2020年4月1日に,金沢弁護士会の会長に就任しました。

 

http://www.kanazawa-bengo.com/about/greeting/index.html

タクシー運転手の未払残業代請求事件で重要な判決がでました~国際自動車事件最高裁判決~

1 国際自動車事件最高裁判決

 

 

2020年3月30日,最高裁において

残業代請求事件で重要な判決がくだされました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3Z6STHN3ZUTIL014.html

 

 

国際自動車事件と呼ばれる,

タクシー運転手による未払残業代請求事件です。

 

 

 

国際自動車というタクシー会社では,

複雑な賃金体系が採用されていて,

弁護士の私が見ても,よくわからないものになっています。

 

 

複雑な賃金体系の中で,問題になったのは

タクシーの売上高に応じて支給される歩合給の計算において,

残業代相当額が歩合給の計算の過程で

差し引かれることになっていた点です。

 

 

基本給と残業代が支給されていても,別に支給される歩合給から,

残業代が引かれて,歩合給が減額されるのでは,

実質的には残業代がゼロと評価される余地があります。

 

 

そのため,通常の労働時間の賃金に当たる部分と

労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを

判別することができるのかが争点となりました。

 

 

2 労働基準法37条の趣旨から判別可能性を検討する

 

 

まず,最高裁は,労働基準法37条で会社に対して,

時間外労働について割増賃金を支払うことを義務付けている趣旨は,

会社に割増賃金を支払わせることによって,時間外労働を抑制して,

労働基準法に定められている労働時間規制を守らせて,

労働者への補償を行うことにあるとしました。

 

 

次に,会社が労働者に対して,労働基準法37条の定める

割増賃金を支払ったかを判断するためには,

労働契約における賃金の定めにつき,

通常の労働時間の賃金に当たる部分と

労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを

判別できることが必要になります。

 

 

そして,この判別できるというためには,

会社が割増賃金であると主張する手当が,

時間外労働に対する対価として支払われるものである必要があり,

労働契約書の記載内容のほかに,当該手当の名称や算定方法だけでなく,

労働基準法37条の趣旨をふまえて,

労働契約の定める賃金体系全体における当該手当の位置づけなど

にも留意して検討しなければなりません。

 

 

3 国際自動車事件では判別可能性なしと判断されました

 

 

国際自動車事件では,会社は,深夜手当,残業手当,公出手当を

労働基準法37条の割増賃金として支払ったと主張しました。

 

 

 

しかし,これらの手当が歩合給の計算にあたり控除されて,

歩合給が減額される仕組みは,タクシー運転手が

売上高を得るために生じる割増賃金をその経費とみた上で,

その全額をタクシー運転手に負担させているに等しく,

労働基準法37条の趣旨に沿わないと判断されました。

 

 

また,割増賃金が多くなり,歩合給がゼロになれば,

出来高払制の賃金部分について,割増賃金のみが支払われることになり,

出来高払制の賃金部分につき通常の労働時間の賃金にあたる部分はなく,

全てが割増賃金となるのですが,これは,

労働基準法37条の割増賃金の本質から逸脱しています。

 

 

そのため,国際自動車事件の賃金の仕組みは,実質において,

出来高払制のもとで歩合給として支払う賃金を,

時間外労働がある場合に,その一部につき名目のみを

割増賃金に置き換えて支払っているものとされました。

 

 

その結果,深夜手当,残業手当,公出手当には,その一部に

時間外労働に対する対価として支払われているものが

含まれているとしても,通常の労働時間の賃金の部分を

相当程度含んでおり,どの部分が時間外労働に対する対価にあたるかが

明らかではありません。

 

 

よって,通常の労働時間の賃金に当たる部分と

労働基準法37条の割増賃金に当たる部分とを判別できないと判断され,

深夜手当,残業手当,公出手当の支払いにより,

労働基準法37条の割増賃金を支払ったことにはならないとされました。

 

 

会社が残業代と考えて支払った深夜手当,残業手当,公出手当が

残業代の支払いではないと判断されたので,

会社は追加で残業代を支払わなければならなくなりました。

 

 

ある手当が時間外労働の対価として本当に支払われていたのかを,

賃金体系全体における位置付けから検討する手法は,

労働者が固定残業代制度を否定していく上で,有効に活用できそうです。

 

 

今後の固定残業代制度の裁判に影響を与える

重要な判決なので紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大によるマスク増産に残業規制は及ぶのか

1 マスク増産による残業

 

 

厚生労働省は,新型コロナウイルスの感染拡大で

マスクや消毒液などの緊急増産におわれる企業があることを念頭に,

残業時間規制の例外とする場合があるとして,労働局に通知しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3K5T5MN3KULFA00V.html

 

 

一方で,労働組合の相談には,マスクメーカーの工場で

勤務している労働者から,2月から休日がなく,泊まりも多く,

過労死してしまうという悲痛な相談が寄せられているようです。

 

 

 

ちょうど,本日2020年4月1日から,中小企業にも

残業時間の罰則付き上限規制が施行されますので,

マスクの増産などで残業がどこまで許容されるかについて解説します。

 

 

2 36協定と残業時間の罰則付き上限規制

 

 

まず,会社が労働者に残業を命じるためには,36協定を締結して,

労働基準監督署に届け出なければなりません。

 

 

この36協定に,何時間残業させることができるのかを

規定しなければなりません。

 

 

この残業時間の限度時間は,原則として,

1ヶ月45時間,1年間で360時間となっています。

 

 

次に,この限度時間の例外として,当該事業場における

通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い

臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合には,

次の条件を満たす36協定の特別条項を定めることで,

1ヶ月45時間,1年間で360時間を超えて

残業させることが可能となります(労働基準法36条5項)。

 

 

①1ヶ月について,時間外労働と休日労働の合計労働時間数を

100時間未満の範囲で定める。

 

 

②1年間について,時間外労働の合計時間数を,

720時間を超えない範囲で定める。

 

 

③特別条項により1ヶ月45時間を超えて

時間外労働をさせることができる月数を,年6ヶ月以内で定める。

 

 

マスク工場のマスク増産による残業ですが,

労働基準法36条5項の事由に該当すると考えられるので,

36協定で上記の特別条項を定めれば,

1ヶ月45時間以上100時間未満で残業させることが可能となります。

 

 

もっとも,36協定で特別条項を定めたとしても,次の場合には,

労働基準法36条6項に違反したとして,会社は,

懲役6月以下または30万円以下の罰金の刑事罰の対象となります。

 

 

①1ヶ月について,時間外労働及び休日労働の合計時間が

100時間以上となった場合

 

 

 ②直近2ヶ月から6ヶ月の各期間における時間外労働及び休日労働の

合計時間の平均が1ヶ月あたり80時間を超えた場合

 

 

そのため,マスク工場のマスク増産による残業は,基本的には,

1ヶ月100時間以上させることはできません。

 

 

3 労働基準法33条による災害等の場合の残業

 

 

もう一つ,これらの例外として,

労働基準法33条による残業があります。

 

 

災害その他避けることのできない事由によって,

臨時の必要がある場合においては,会社は,

労働基準監督署の許可を受けて,

その必要の限度において残業させることができます。

 

 

 

もっとも,労働基準法33条の規定は,これまで述べてきた

36協定では対応できないような不可抗力の場合に限って認められます。

 

 

そのため,単なる業務の繁忙その他これに準じる経営上の必要の場合

には,労働基準法33条は適用できません。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大によるマスク増産については,

36協定の範囲の残業で対応すべきものであり,

労働基準法33条が適用されるされるべきではないと考えます。

 

 

マスク増産も大切ですが,マスク工場で残業する労働者の

健康を守ることも大切ですので,

36協定の範囲内での残業しか認めらないと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする整理解雇が認められるか

1 新型コロナウイルスを理由とする整理解雇が増えそうです

 

 

厚生労働省は,新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,

全国で888人が解雇や雇止めされる

見通しがあることを明らかにしました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3W6H4HN3WULFA01G.html

 

 

解雇や雇止めが多くなりそうなのは,

観光客の減少が経営を直撃する観光業のようです。

 

 

今後,日本における新型コロナウイルスの感染拡大が増えていけば,

解雇や雇止めも増えていくことが予想されます。

 

 

 

それでは,正社員が会社から新型コロナウイルスの影響で

経営が厳しいので解雇すると言われてしまった場合,労働者は,

どうすればいいのでしょうか。

 

 

本日は,新型コロナウイルス感染拡大と整理解雇について解説します。

 

 

2 整理解雇の4要件

 

 

会社の経営上の必要性に基づき行われる解雇を整理解雇といいます。

 

 

会社の経営状況の悪化に基づき,人件費削減のために行われるのが

整理解雇の典型例であり,今回の新型コロナウイルスの感染拡大の

影響による会社の業績悪化を理由とする解雇は,まさに整理解雇です。

 

 

整理解雇は,労働者に責任のない会社側の事情に基づくものなので,

労働者側を保護する必要性が高いため,会社は,

次の整理解雇の4要件を全て満たさなければ,

整理解雇は無効になります。

 

 

①人員削減の必要性があること

 

 

 ②解雇回避努力を尽くしたこと

 

 

 ③人選が合理的であること

 

 

 ④説明・協議を尽くすなど,解雇手続が相当であること

 

 

新型コロナウイルスを理由とする整理解雇の場合,

①と②の要件が特に重要になると考えます。

 

 

①人員削減の必要性ですが,経営状況が悪化して,

経費削減の必要性が認められても,

それが人員削減によって達成されなければならない程度に

達していない場合や,人員削減以外の経費削減によって

達成できる程度のものである場合には,

人員削減の必要性は否定されます。

 

 

すなわち,新型コロナウイルスの影響で一時的に客がいなくなったや,

仕事が少なくなって売上が減ったという程度の理由では,

①人員削減の必要性は認められないことになります。

 

 

3 雇用調整助成金

 

 

また,②解雇回避努力ですが,新型コロナウイルスについて,

雇用調整助成金制度の要件が緩和されて,

会社が支払った休業手当の一部の助成が容易になっているので,

整理解雇の前に,労働者を休業させて,

休業手当を支払うなどの解雇回避措置をとっていない場合には

,解雇回避努力を尽くしていないと判断されると考えます。

 

 

雇用調整助成金とは,経済上の理由により

事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が,労働者に対して,

一時的に休業,教育訓練または出向を行い,

労働者の雇用の維持を図った場合に,

休業手当,賃金などの一部を助成するものです。

 

 

例えば,取引先が新型コロナウイルスの影響を受けて

事業活動を縮小した結果,受注量が減ったために

事業活動が縮小した場合や,行政からの営業自粛要請を受けて,

自主的に休業を行い,事業活動が縮小した場合などに利用できます。

 

 

 

この雇用調整助成金を活用せずに,いきなり整理解雇をしたのでは,

会社は,②解雇回避努力を尽くしていないとして,

整理解雇が無効になると考えます。

 

 

そのため,新型コロナウイルスの影響による整理解雇といえども,

簡単にできるものではなく,労働者としては,あきらめずに,

整理解雇を無効として職場復帰したり,

一定の金銭の支払を受けて退職するなどの解決方法がありますので,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

なお,石川県では,4月6日月曜日10時から15時までの時間帯に,

新型コロナウイルス労働問題ホットラインを実施します(日本労働弁護団主催)。

 

 

この日時に076-221-4111に電話していただければ,

弁護士が新型コロナウイルスに関する労働者側の労働問題について,

電話でアドバイスします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス感染拡大の影響による雇止めの増加

1 雇止めの増加

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響により,企業の業績が悪化し,

契約期間の定めのある有期労働契約の雇止めが増加傾向にあるようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3L66YSN3KPTIL00N.html

 

 

年度末の3月は,契約社員や派遣社員の契約期間満了の時期と

重なるので,今年は,新型コロナウイルスの感染拡大も加わって,

飲食業や宿泊業では,雇止めが増えることが予想されます。

 

 

 

本日は,新型コロナウイルス感染拡大の影響による

雇止めについて解説します。

 

 

2 有期労働契約と雇止め

 

 

労働契約の契約期間が半年や1年間で区切られているものを

有期労働契約といい,有期労働契約は,

契約期間が満了したら終了するのですが,

会社が有期労働契約を更新すれば,契約が継続して,

働き続けることが可能になります。

 

 

ようするに,会社から有期労働契約を更新してもらえなかったら,

契約期間の満了で仕事がなくなってしまう,不安定な働き方なのです。

 

 

もっとも,労働契約法19条の以下の要件を満たす場合には,

有期労働契約が期間満了で終了しても,

従前と同じ内容の有期労働契約が継続することになります。

 

 

①有期契約労働者が契約更新の申込をした場合または

契約期間満了後遅滞なく有期労働契約の申込をした場合

 

 

②-1過去に反復して更新されたものであって,雇止めをすることが,

期間の定めのない労働契約を締結している労働者を解雇することと

社会通念上同視できると認められること(労働契約法19条1号)

 

 

または

 

 

②-2有期労働契約の契約期間満了時に当該有期労働契約が

更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものと

認められること(労働契約法19条2号)

 

 

③使用者が当該申込を拒絶することが客観的に合理的な理由を欠き,

社会通念上相当であると認められないとき

 

 

雇止めの事件では,要件の②を満たすのかが第1のハードルになります。

 

 

要件の②を満たすかについては,

以下の要素を総合考慮して判断されます。

 

 

①業務の客観的内容

(業務の内容が恒常的か臨時的か,基幹的か補助的か)

 

 

②更新の回数

 

 

③雇用の通算期間

 

 

④契約期間管理の状況(更新手続が厳格か形式的か。

契約書を作成しない,事後的に作成するなど,ずさんであるか)

 

 

⑤雇用継続の期待をもたせる言動や制度の有無

 

 

⑥労働者の継続雇用に対する期待の相当性

 

 

⑦契約上の地位の性格(基幹性,臨時性,労働条件の正社員との同一性)

 

 

②更新回数が多く,③雇用の通算期間が長ければ,

上記の要件の②を満たす方向に傾きますが,更新回数が少なく,

雇用の通算期間が短くても,間違いなく契約を更新するという

社長の言動の録音があれば,⑤や⑥の要素を重視して,

要件の②が満たされることもあります。

 

 

そのため,雇止めの事案は,見通しがたてにくいのが現状です。

 

 

3 新型コロナウイルス感染拡大による雇止めを争うには

 

 

さて,要件②のハードルを超えれば,

次は要件の③を満たすかが問題になりますが,

これは解雇とパラレルに考えればよく,

新型コロナウイルス感染拡大の影響による業績悪化を理由とする

雇止めの場合は,整理解雇と同じ4つの要件を満たすかを検討します。

 

 

 

整理解雇の4要件とは,

①人員削減の必要性があること,

②解雇回避努力を尽くしたこと,

③人選が合理的であること,

④説明・協議を尽くしたこと,です。

 

 

ただ,整理解雇の4要件のあてはめにあたって,

非正規雇用労働者の場合は,正社員の場合と比べて,

緩やかに判断される傾向にあります。

 

 

③人選の合理性の要件の検討において,

正社員よりも非正規雇用労働者を先に整理して,

正社員の雇用を守ることを認める裁判例が多いです。

 

 

そのため,本当に会社が経営危機で,

リストラやむなしとなった場合には,

雇止めを争うのはなかなか難しくなります。

 

 

もっとも,会社が雇用調整助成金の利用をして

②解雇回避努力を尽くしたのかなどについては,

雇止めであっても厳格に検討する必要があります。

 

 

また,有期労働契約が2回以上更新されて,

契約の通算期間が5年を超えれば,

有期労働契約を無期労働契約に転換させて,

正社員になる方法もあります。

 

 

打つ手があるかもしれないので,

新型コロナウイルスの関係で雇止めにあった場合,

早目に弁護士に相談してみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

森友学園の公文書改ざん問題から公務員個人に対する損害賠償請求が認められるのかを検討する

1 元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対する損害賠償請求

 

 

先日もブログに記載しましたが,

森友学園への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で,

財務省近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺したのは,

公文書改ざんに加担させられたからであるとして,

赤木さんの奥様が国と元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対して,

損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3L4WFBN3LPTIL00H.html

 

 

今回の訴訟で気になったのが,国家公務員の赤木さんを任用していた

国以外に,佐川氏も被告として,提訴したことです。

 

 

国に対する損害賠償請求をする際に,

公務員に対しても損害賠償請求をすることができるのかが,

問題となるからです。

 

 

本日は,公務員個人に対する損害賠償請求について解説します。

 

 

2 不法行為と使用者責任

 

 

ある者が他人の権利や利益を違法に侵害することを不法行為といいます。

 

 

具体的には,AさんがBさんを殴って怪我をさせた場合,

Aさんの殴る行為が不法行為になり,Aさんは民法709条に基づき,

Bさんに対して,損害賠償責任を負います。

 

 

 

そして,労働者が仕事中に不法行為をした場合,

労働者の雇用主である会社も,損害賠償責任を負います。

 

 

これを使用者責任といいます。

 

 

使用者責任については,民法715条に規定されています。

 

 

被害者は,不法行為をした労働者に対して,

民法709条に基づく損害賠償請求をでき,

使用者責任を負う会社に対して,

民法715条に基づく損害賠償請求をできるのです。

 

 

このように,会社と労働者の両方を訴えることができるのです。

 

 

3 国家賠償法1条に基づく損害賠償請求

 

 

これに対して,公務員が不法行為をした場合,

被害者は,国家賠償法1条に基づいて,

国または地方公共団体に対して,損害賠償請求をします。

 

 

国家賠償法1条に基づく損害賠償請求をする場合,

不法行為をした公務員個人の損害賠償責任は否定されます。

 

 

すなわち,国または地方公共団体を訴えることができても,

不法行為をした公務員個人を訴えることができないのです

(公務員個人を訴えても,請求が認められません)。

 

 

その理由は,公務員が負うべき責任を国または地方公共団体が

代位して負担するからなのです。

 

 

そのため,被害者は,国または地方公共団体を被告として訴えて,

勝てば,国または地方公共団体から損害賠償をしてもらい,

その後,国または地方公共団体が不法行為をした公務員個人に対して,

求償していくことになります。

 

 

しかし,不法行為をした公務員個人を訴えれない場合,

被害者としては納得できないことがあります。

 

 

4 公務員個人に対する損害賠償請求が認められた裁判例

 

 

例外的に,公務員個人に対して損害賠償請求ができないのでしょうか。

 

 

この公務員個人に対する損害賠償請求を

例外的に認めた裁判例があります。

 

 

共産党幹部宅盗聴事件の東京地裁平成6年9月6日判決です

(判例タイムズ855号125頁)。

 

 

この事件では,現職の警察官が犯罪にも該当すべき

違法な盗聴行為を行い,自分達の行為が違法であることを

当初より十分認識しつつ,あえて公務として盗聴行為に及んだもので,

警察官個人に対する損害賠償請求が認められました。

 

 

 

そのため,公務としての特段の保護を何ら必要としないほど

明白に違法な公務で,かつ,行為時に行為者自身が

その違法性を認識していたような事案については,

公務員個人に対する損害賠償請求が認められる余地があるのです。

 

 

赤木さんの事件の場合,公文書を改ざんする行為は犯罪であり,

明白に違法な公務になります。

 

 

 

また,佐川氏は,公文書改ざんが違法な公務であることを認識しながら,

指示をしていたはずです。

 

 

そのため,佐川氏個人の不法行為責任が認定される

可能性があると考えます。

 

 

公務員個人に対する損害賠償請求は認められにくいのですが,

赤木さんの事件では,佐川氏に対する損害賠償請求が認められる

可能性がありますので,訴訟の経緯に注目したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

森友学園の公文書改ざんによる財務局職員の自殺の損害賠償請求事件

1 公文書改ざんと財務局職員の自殺

 

 

森友学園への国有地売却と財務省の公文書改ざん問題で,

財務省近畿財務局の赤木俊夫さんが自殺したのは,

公文書改ざんに加担させられたからであるとして,

赤木さんの奥様が国と元財務省理財局長の佐川宣寿氏に対して,

損害賠償請求の訴訟を提起しました。

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3L4WFBN3LPTIL00H.html

 

 

報道によりますと,赤木さんが残した手記には,

公文書を改ざんするに至る経緯がなまなましく記載されているようです。

 

 

赤木さんは,公文書の記載のうち,森友学園を優遇した部分の記載を

削除するように上司から指示を受けたようです。

 

 

 

赤木さんは,上司の指示に対して抵抗したようですが,

複数回改ざんを強要されたようです。

 

 

赤木さんは,公文書改ざんを強要されたストレスからうつ病と診断され,

検察庁から事情聴取を受けるころに体調が悪化し,自殺に至ったようです。

 

 

本日は,今回の損害賠償請求について解説します。

 

 

2 安全配慮義務

 

 

まず,国は,国家公務員に対して,

生命と健康を危険から保護するように配慮する義務を負っています。

 

 

これを安全配慮義務といいます。

 

 

国は,この安全配慮義務に違反して,

国家公務員が損害を被った場合に,

損害賠償責任を負います。

 

 

過労自殺事案における安全配慮義務について,

電通事件の最高裁平成12年3月24日判決は,

次のように判断しました。

 

 

「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めて

これを管理するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が

過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう

注意する義務を負う」

 

 

使用者は,このような安全配慮義務を負っているので,

過労自殺した労働者の業務の量などを適切に調整するための

措置を採ることをしなかった場合には,

安全配慮義務に違反したことになるわけです。

 

 

3 公文書改ざんの業務命令の心理的負荷

 

 

さて,赤木さんの事件の場合,反対したにもかかわらず,

上司から違法行為を複数回強要されたわけですが,これは,

民間の精神障害の労災認定基準の中では,

心理的負荷の強度は「強」と判断されます。

 

 

特に,財務局という公的な職場で,

公文書を改ざんするという犯罪行為を強要されれば,

良心のある公務員であれば,

多大なストレスを感じたはずです。

 

 

 

そのため,公文書を改ざんする業務命令は,

それだけで労働者の心身の健康を損なう危険のあるものといえます。

 

 

また,報道によると,赤木さんは,公文書の改ざんの指示を受けて

長時間労働をしたとされています。

 

 

長時間労働による睡眠不足などで疲労が回復せず,

うつ病などを発症してしまうことがあるので,国は,

赤木さんが長時間労働をしないように

業務量を調整する義務を負っていたのです。

 

 

50代中ころの財務局の職員が自殺したのは

よほどのことがあったからといえますし,何よりも,

残された手記の証拠としての価値は高いといえるでしょう。

 

 

そのため,赤木さんの事件では,

国の安全配慮義務違反が認められる可能性があると考えます。

 

 

また,公務災害の認定も出ていますので,

国の安全配慮義務違反と赤木さんの自殺との

因果関係も認められやすいと考えます。

 

 

赤木さんの奥様の「夫が自殺したことの真実を知りたい」という思いが,

この訴訟の証人尋問などで実現されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働基準法26条の休業手当と民法536条2項による賃金請求権の関係

1 労働基準法26条と民法536条2項

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて,

労働者が本来働かなければならない日に,

会社が労働者を休ませた場合に,

労働者に対していくらの賃金を補償しなければならないのか

ということについて,労働基準法26条の休業手当が注目されています。

 

 

 

労働基準法26条では,「使用者の責に帰すべき事由」

による休業の場合には,会社は,休業期間中,

労働者に対して,平均賃金の60%以上の手当

を支払わなければならないと規定されています。

 

 

これと,似た規定が民法536条2項にあります。

 

 

民法536条2項には,「債権者の責に帰すべき事由によって

債務を履行することができなくなったときは,債権者は,

反対給付の履行を拒むことができない」と規定されています。

 

 

ここでいう債権者とは会社のことです。

 

 

債務を履行することができなかったとは,

労働者が労務を提供できなかったことをいいます。

 

 

反対給付の履行とは,労働者からの賃金全額の請求のことです。

 

 

まとめると,会社の落ち度で労働者が

労務を提供することができなかったとしても,会社は,

労働者からの賃金全額の請求を拒むことができないのです。

 

 

2 会社の責に帰すべき事由とは

 

 

労働基準法26条と民法536条2項では,

会社の「責に帰すべき事由」という言葉は共通していますが,

労働基準法26条の方が労働者を保護するために,

会社の「責に帰すべき事由」を広く捉えています。

 

 

すなわち,労働基準法26条の会社の「責に帰すべき事由」とは,

会社の故意(わざと)・過失(落ち度)に加えて,

会社側に起因する経営・管理上の障害を含むと解されています。

 

 

ようするに,天災などの不可抗力以外によって,

会社が休業することになっても,会社は,休んでいる労働者に対して,

平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければならないのです。

 

 

そのため,コロナウイルス感染拡大が不可抗力になるかは

判断が難しいですが,2020年3月19日時点での日本においては,

まだ不可抗力とまではいえないと考えられ,

会社は,労働者に対して,休業手当を支払うべきだと考えます。

 

 

 

他方,民法536条2項の会社の「責に帰すべき事由」とは,

会社の故意または過失による休業のことです。

 

 

会社が労働者を退職に追い込むために休業させる場合などが,

これに当たります。

 

 

このような休業であれば,労働者は,

会社に対して,賃金全額を請求できます。

 

 

ノースウエスト航空事件の昭和62年7月17日判決

(労働判例499号6頁)は,民法536条2項に基づく賃金請求権と

労働基準法26条休業手当請求権とは,

それぞれの要件を満たす限りにおいて,競合するので,

労働者は,全額の賃金請求権を失わないと判断しました。

 

 

そのため,会社が6割の平均賃金を支払っていても,

民法536条2項の要件を満たすのであれば,労働者は,

賃金全額と6割の休業手当の差額の4割分を請求できるのです。

 

 

コロナウイルス感染拡大による休業の場合,

会社には故意過失は認められないと考えられますので,

民法536条2項に基づいて,賃金全額を請求するのは難しいと考えます。

 

 

コロナウイルス感染拡大以外の会社の落ち度で休業に至った場合には,

労働者は,民法536条2項を根拠に賃金全額の請求をしてみてください。

 

 

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新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振を理由に給料を減額できるのか

1 新型コロナウイルスの感染拡大による業績不振を理由とする給料の減額

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で企業の業績が悪化して,

給料がカットされるという労働相談があるようです。

 

 

 https://www.kobe-np.co.jp/news/keizai/202003/0013198554.shtml

 

 

本日は,新型コロナウイルス感染拡大による業績不振を根拠に

給料を減額することが認められるのかについて,解説します。

 

 

 

2 給料を減額できる場合とは

 

 

そもそも,給料は,労働者にとって,

生活の原資となる大切なお金なので,労働基準法24条1項で,

賃金全額払の原則が定められているように,

原則として,減額ができません。

 

 

例外的に,会社が労働者の給料を減額できるのは次の場合に限られます。

 

 

 ①懲戒処分としての賃金減額

 

 

 ②業務命令としての降格に伴う賃金減額

 

 

 ③就業規則中の賃金の査定条項に基づく賃金減額

 

 

 ④就業規則の変更による賃金減額

 

 

 ⑤労働協約に基づく賃金減額

 

 

 ⑥労働者との合意に基づく賃金減額

 

 

このうち,①~③については,就業規則に

懲戒処分,降格,賃金査定の条項が存在していることが前提となります。

 

 

④と⑤については,就業規則と労働協約が

存在していることが前提となります。

 

 

すなわち,労働者の給料を減額するためには,

就業規則や労働協約などの根拠規定が必要になるわけです。

 

 

そのため,会社の業績不振を理由に給料を減額できるという条項が

就業規則にあれば,それを根拠に減額できる余地があるのですが,

そのような条項が就業規則にないのであれば,給料を減額できません。

 

 

私は仕事柄,多くの会社の就業規則を見ますが,

業績不振を理由に給料を減額できるという条項がある

就業規則はほとんどありません。

 

 

3 合意に基づく給料の減額

 

 

次に,就業規則に業績不振を理由に給料を減額できるという

条項がない場合,上記の⑥の労働者との個別の合意に基づいて,

給料を減額できる場合があります。

 

 

 

しかし,労働者との個別の合意に基づく給料の減額の場合,

労働者の合意が厳格に判断されます。

 

 

すなわち,山梨県民信用組合事件の最高裁平成28年2月19日判決

が示した次の判断基準をもとに労働者の合意が厳格に判断されるのです。

 

 

労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者が同意に至った経緯及び態様,

同意に先立つ労働者への情報提供または説明の内容などから,

給料の減額への同意が,労働者の自由な意思に基づいてされたものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点から判断されます。

 

 

そのため,会社から給料の減額を求められて,

十分な説明がないまま,会社からの圧力を感じて,しぶしぶ,

給料の減額に合意した場合には,

給料の減額が無効になる可能性があります。

 

 

以上まとめると,労働者は,コロナウイルス感染拡大による

業績不振を理由に給料を減額すると会社から言われても,

就業規則に給料の減額規定が存在しないのであれば,拒否すればよく,

給料の減額への同意を求められても,拒否すればいいのです。

 

 

給料の減額を求められたら,就業規則に減額の根拠規定があるのかを

チェックしてみてください。

 

 

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新型コロナウイルス感染拡大の影響で内定取消が認められるのか

1 新型コロナウイルス感染拡大を理由とする内定取消

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,

製造業の企業に入社する予定だった高校生の

内定が取り消されたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN3F5T40N3FULFA013.html

 

 

ハローワークは,企業から内定取消の相談があった場合,

休業補償の助成金を活用するなどして

内定を取り消さないように助言をしているようです。

 

 

本日は,新型コロナウイルスの影響で

内定取消が認められるのかについて,解説します。

 

 

 

2 内定で労働契約が成立する

 

 

まず,企業が採用予定者に対して,内定を通知することで,

入社予定日を就労の始まりとする解約留保権付の労働契約が成立します。

 

 

内定段階でも労働契約が成立しているので,

企業が自由に内定を取り消すことは許されません。

 

 

内定を取り消すことができるのは,

内定当時には知ることができなかった事実が後から判明して,

それによって,内定を取り消すことが

「客観的に合理的と認められ,社会通念上相当」

と認められるときに限られます。

 

 

具体的に内定取消ができるのは,重大な経歴詐称が発覚したり,

内定から就労開始日までに犯罪行為を行ったような場合です。

 

 

以上述べたのは,採用予定者側に問題があった場合です。

 

 

コロナウイルス感染拡大の影響による内定取消の場合,

採用予定者側には何も問題はありません。

 

 

3 整理解雇の4要件

 

 

このような場合の内定取消の場合には,

整理解雇の4要件を総合考慮して,

内定取消が有効かが判断されます。

 

 

整理解雇の4要件とは,

①人員削減の必要性があること,

②解雇回避努力を尽くしたこと,

③人選が合理的であること,

④説明・協議を尽くすなど,解雇手続が相当であること,です。

 

 

①人員削減の必要性については,経営状況が悪化し,

経費削減の必要性が認められても,

それが人員削減によって達成されなければならない程度に

達していない場合には,否定されます。

 

 

②解雇回避努力を尽くすとは,役員報酬カットを含む経費削減策や

希望退職を募集するなどをすることです。

 

 

③人選の合理性とは,どの労働者を解雇するかについては,

客観的に合理的な選定基準を設定して,

その基準に基づき公正に選定しなければならないことです。

 

 

④については,解雇に先立ち,会社は,労働者に対して,

整理解雇の必要性とその内容,人選基準について,

十分な説明を行い,誠意をもって協議しなければなりません。

 

 

整理解雇の4要件をもとに内定取消を無効と判断した

インフォミックス事件の東京地裁平成9年10月31日決定は

(労働判例726号37頁),この④の要件を重視しました。

 

 

すなわち,採用予定者に対して,必ずしも納得を得られるような

十分な説明をしたとはいえず,会社の対応は誠実性に欠けていたとして,

社会通念上相当といえず,内定取消は無効と判断したのです。

 

 

 

コロナウイルス感染拡大の影響による内定取消については,

ハローワークが助言しているように休業補償の助成金を活用するなどして,

②の要件の内定取消を回避する努力を尽くすことが必要になります。

 

 

そして,④の要件として,採用予定者に対して,

内定取消の必要性を誠実に説明して,

代替手段などを提案するなどして,

誠意を尽くす必要があります。

 

 

このような会社の誠意ある対応がないまま,

単にコロナウイルスの感染拡大の影響で経営が苦しいという理由だけでは,

内定取消は無効になる可能性があります。

 

 

とにかく,早くコロナウイルス感染拡大による

混乱が収束してほしいものです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。