会社が新型コロナウイルスの感染対策をしてくれない場合の対処法

1 会社が新型コロナウイルスの感染対策をしてくれない

 

 

新型コロナウイルスに関連する労働問題の電話相談が断続的にあります。

 

 

電話相談の中には,会社が新型コロナウイルスの感染対策

を十分にしてくれないという不満の声もありました。

 

 

 

隣の県へ研修に行くのを命じられた際,

一部の社員は社用車で行くのに,

一部の社員は公共交通機関で行くように言われ,

公共交通機関で新型コロナウイルスに感染するリスク

を考えてくれないといったことがあるようです。

 

 

本日は,会社が新型コロナウイルスの感染対策をとってくれない場合に,

労働者に何ができるのかについて検討します。

 

 

2 会社の安全配慮義務

 

 

まず,会社は,労働者に対して,労働災害を防止することに加えて,

快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて,

職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない

義務を負っています(労働安全衛生法3条)。

 

 

そして,会社は,労働者に対して,生命と身体の安全を確保しつつ

労働することができるように必要な配慮をしなければなりません

(労働契約法5条)。

 

 

これを,安全配慮義務といいます。

 

 

そのため,会社は,仕事中や通勤において,

労働者が新型コロナウイルスに感染して健康を害することがないように

配慮しなければならない義務を負っているのです。

 

 

具体的には,マスクを持っていない労働者に対して,

マスクを配布する,職場にアルコール消毒液を設置する,

職場の換気を行う,テレワークや時差出勤をさせることなどが,

安全配慮義務の内容になります。

 

 

3 衛生委員会

 

 

次に,常時50人以上の労働者を使用する事業場では,

衛生委員会が設置されなければなりません

(労働安全衛生法18条1項)。

 

 

衛生委員会では,職場の衛生について,

計画の策定,実施,評価,改善に関することについて議論されます。

 

 

衛生委員会は,毎月1回開催されなければならず,

衛生委員会の議論については,議事録として労働者に対して

公開されます(労働安全衛生規則23条)。

 

 

衛生委員会の設置を義務付けられている会社では,

衛生委員会において,職場における新型コロナウイルスの感染対策を

決めなければならないことになります。

 

 

 

4 労働組合への相談

 

 

次に,会社は労働者に対して安全配慮義務を負っていますので,

労働者は,会社に対して,新型コロナウイルスの感染対策を

実施するように求めるべきですが,会社が対応してくれない場合,

会社に労働組合があれば,労働組合に相談してみましょう。

 

 

労働組合が,団体交渉という形で,会社に対して,

新型コロナウイルスの感染対策の実施を要求すれば,

会社は,正当な理由がない限り,団体交渉を拒めないので,

対応を検討してくれる可能性があります。

 

 

会社に対する要求を実現したいときには,

労働組合の団体交渉が強力です。

 

 

仮に,労働組合がない会社であれば,

新型コロナウイルスの感染対策は,

経営者も含めた共通の懸念事項ですので,

職場の他の労働者と共同で,

会社に対して新型コロナウイルスの感染対策を実施するように

要求することをおすすめします。

 

 

労働者1人の意見だと,会社は重視しないかもしれませんが,

職場の大多数の労働者の意見であれば,会社は無視できません。

 

 

会社の外の労働組合に相談することもできます。

 

 

それでも,会社が新型コロナウイルスの

感染対策をしてくれない場合には,労働基準監督署に相談して,

会社に対して,是正の指導をしてもらいましょう。

 

 

法律上,会社に対して,新型コロナウイルスの感染対策の実施を

強制できるものがないので,上記の方法で

粘り強く会社と交渉するしかありません。

 

 

会社が新型コロナウイルスの感染対策を怠って,

労働者が職場で新型コロナウイルスに感染して損害を被ったなら,

会社に対して,損害賠償請求をすることができますが,

新型コロナウイルスの感染対策の実施を強制まではできないのです。

 

 

多くの職場で,労働者が安心して働けれるよう,

新型コロナウイルスの感染対策が実施されることを祈っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ロイヤルリムジングループの解雇手続から解雇の対処法を検討します

1 約600人のタクシー運転手に対する解雇

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴う業績悪化を理由に,

ロイヤルリムジン東京というタクシー会社が,

タクシー運転手約600人に解雇通告をしたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN4C722JN4CULFA00F.html

 

 

報道によりますと,解雇通告の際に,

その場で退職に合意するとの内容が書かれた文書が配られ,

サインをしないと失業給付の申請に必要な離職票を出さないと言われ,

解雇予告手当も支払われなかったようです。

 

 

今後,新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,

解雇が増加することが予想され,上記のように

解雇なのに自己都合退職にしようとする会社もでてきそうです。

 

 

 

本日は,会社から,突然,解雇を通告された場合の対処法

について解説します。

 

 

2 解雇されても解雇予告手当を請求すべきではない

 

 

まず,労働基準法20条1項により,会社は,

労働者を解雇する場合には,少なくとも30日前に

解雇の予告をしなければなりません。

 

 

30日前に解雇予告をしない会社は,労働者に対して,

30日分以上の平均賃金を支払わなければなりません。

 

 

これを解雇予告手当といいます。

 

 

そのため,会社が労働者を即時に解雇するには,

解雇予告手当を支払わなければならないのです。

 

 

もっとも,解雇予告手当を支払わずにした即時解雇であっても,

会社が即時解雇に固執する趣旨でない限り,

解雇通告後30日の期間を経過するか,

または解雇通告の後に解雇予告手当の支払をしたときには,

有効になるとされています。

 

 

 

次に,即時解雇がされたものの,

解雇予告手当の支払を受けていない労働者が,会社に対して,

解雇予告手当を請求すべきかについて検討します。

 

 

労働者が解雇が無効であるとして,解雇を争いたい場合には,

労働者は,解雇予告手当を請求してはいけません。

 

 

これは,どういうことかといいますと,

労働者が解雇を争う場合,会社に対して,

就労する意思があることを明示する必要があるところ,

解雇予告手当を請求することは,解雇による労働契約関係の終了を

前提とするものであり,解雇した会社で就労する意思を喪失したと

評価されてしまうおそれがあるからです。

 

 

解雇予告手当を請求していることから,

就労する意思を喪失したとして,

労働契約の終了を認定した裁判例があります

(三枝商事事件・東京地裁平成23年11月25日判決・

労働判例1045号39頁)。

 

 

そのため,失業給付の受給資格がなく,蓄えもないなど,

解雇された後の当面の生活が困窮するような場合以外は,

解雇されても,解雇予告手当の請求をしないのが無難なのです。

 

 

3 解雇の際に退職に合意することの文書にサインしてはいけない

 

 

また,解雇の際に,退職に合意することの文書に

サインを求められたとしても,サインをしてはいけません。

 

 

退職に合意する文書にサインをすると,解雇ではなく,

自己都合退職となってしまい,自分から勝手に会社を辞めたことになり,

会社に対して何も請求できなくなるからです。

 

 

このように,解雇の際には,判断を間違うと,後々,

会社に対して金銭請求ができなくなることがありますので,

なるべく早い段階で,弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

テレワークの場合は給料を減額すると言われたときの対処法

1 新型コロナウイルス関連の労働相談が増えています

 

 

4月6日に石川県で実施した日本労働弁護団主催の

新型コロナウイルス労働問題ホットラインの後も,

私のもとには断続的に電話での相談があります。

 

 

緊急事態宣言がだされ,新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない今,

多くの労働者が困っていることがわかります。

 

 

やはり,賃金に関する相談が多いです。

 

 

2 テレワークの場合に会社は給料を減額できるのか

 

 

その中で,会社からテレワークを命令されて,

給料を減額すると言われたという相談がありました。

 

 

 

この会社の給料減額は違法と考えられます。

 

 

まず,テレワークは,就業場所を会社ではなく,

自宅とするものであり,労働者は,休んでいるのではなく,

自宅で働いているので,会社は,テレワークをした労働者に対して,

今までどおりの給料を支払わなければなりません。

 

 

テレワークに関して,会社が給料を減額できるのは,

次の2点が考えられます。

 

 

①労働者との合意に基づく給料減額

 

 

 ②就業規則の変更による給料減額

 

 

3 合意による不利益変更

 

 

①について,会社が労働者に対して,テレワークの場合には,

給料を減額することを提案し,労働者がこれを了承すれば,

給料減額について,労使の合意があったとして,

給料減額は有効になる可能性があります。

 

 

もっとも,給料減額のように労働者の労働条件を不利益に変更する場合,

労働者の同意については,「労働者の自由な意思に基づいてされたもの

と認めるに足る合理的な理由が客観的に存在する」ことが必要なので,

そう簡単には同意は認められません。

 

 

労働者としては,給料減額に応じたくないなら,

同意をしなければいいのです。

 

 

断固として拒否してください。

 

4 就業規則の不利益変更

 

 

②について,おそらく,多くの会社では,

テレワークの場合には給料を減額するという

就業規則の条項を設けているところはないと思いますので,

今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,

就業規則の内容を変更することが考えられます。

 

 

しかし,就業規則を労働者に不利益に変更するためには,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合などとの交渉の状況,

⑤その他の就業規則の変更に係る事情,

を総合考慮して,合理的といえなければなりません。

 

 

テレワークの給料減額にあてはめますと,

①自宅でも会社と同じように働いているのに給料が減額されるのでは,

労働者の被る不利益は大きいです。

 

 

特に,10%を上回るような賃金減額は,

相当に大きな不利益と考えられます。

 

 

そのため,新型コロナウイルスの感染拡大で

会社の経営状況が危機的となっていないのであれば,

②労働条件の変更の必要性があるとはいえず,

テレワークによる給料減額を内容とする就業規則の変更は無効になります。

 

 

 

就業規則を不利益に変更されたかについては,

会社は変更した就業規則を労働者に周知しなければならないので,

労働者は,周知された就業規則をよく確認してください。

 

 

まとめますと,会社からテレワークを命令されて,

給料を減額すると言われても,応じる必要はなく,

給料の満額を請求してください。

 

 

もし,テレワークをして給料の満額を会社が支払わない場合,

弁護士や労働基準監督署に相談して,アドバイスを求めてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

徳田弁護士の記事が弁護士ドットコムニュースに掲載されました2

徳田弁護士の記事が弁護士ドットコムニュースに掲載されました。

下記のURLからアクセスできます。

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_11043/

コロナショックで関心が高まっている休業手当の計算方法

1 緊急事態宣言がだされて休業手当への関心が高まっています

 

 

新型コロナウイルス対応の特措法に基づく緊急事態宣言を受けて,

東京都は,娯楽施設や一部商業施設に対して,

休業を要請したいようですが,

神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府,兵庫県,福岡県は,

住民の外出自粛の効果を見極めてから,

休業の要請を検討する考えのようです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200408/k10012375431000.html

 

 

やはり,知事が事業者に対して,休業を要請した場合,

「使用者の責めに帰すべき事由」ではないとして,

休業に応じた事業者が,労働者に対して,

休業手当を支払わなくても,労働基準法違反ではなくなる可能性が高く,

労働者に何も補償されなくなりますし,

事業者の不利益が大きすぎるので,

事業者に対する補償がないのに休業を要請するのが

ためらわれるからなのでしょう。

 

 

 

緊急事態宣言がでた今,

休業手当がどうなるのかに関心が高まっています。

 

 

労働基準法26条では,使用者の責めに帰すべき事由によって

労働者が働けなかった場合,その休業期間中,

使用者は,労働者に対して,平均賃金の60%以上の休業手当を

支払うべきことを規定し,労働者の生活を保護しようとしています。

 

 

2 休業手当の計算

 

 

この休業手当について,朝日新聞に気になる記事がありました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20200406000180.html

 

 

東京ディズニーリゾートを運営しているオリエンタルランドが,

東京ディズニーリゾートを臨時休園する際のキャストに対する説明では,

休業時は手当などを除いた基本時給の6割だけが支給される

との説明があったようです。

 

 

労働基準法26条は,休業手当は,平均賃金の6割以上

と規定されているので,手当などを除いた基本給の6割ではありません。

 

 

平均賃金については,労働基準法12条に定められており,

平均賃金を算定すべき事由の発生した日以前3ヶ月間に

労働者に支払われた賃金の総額を,

その期間の総日数で割った金額なのです。

 

 

ここでいう「賃金の総額」には,通勤手当,年次有給休暇の賃金,

通勤定期券代及び昼食料補助なども含まれます。

 

 

この「賃金の総額」から除外されるのは

臨時に支払われる賃金(私傷病手当,加療見舞金,退職金など),

3ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(年2期の賞与など)です。

 

 

例えば,基本給22万円,営業手当3万円,通勤手当1万円の

合計26万円の給料をもらっていた労働者が

2020年4月1日から休業した場合,

1月から3月までの平均賃金を計算すると次のようになります。

 

 

(26万円×3ヶ月)÷(31日+29日+31日)

=8,571円

 

 

そして,この労働者が2020年4月1日から30日間休業した場合,

休業手当は,8,571円×0.6×30日

=154,278円となります。

 

 

そのため,基本給以外にも,

各種の手当を含んだ賃金で休業手当を計算するのです。

 

 

結局,オリエンタルランドでは,手当も含めた賃金の6割分

が支給されたようで,間違った計算はされていなかったようです。

 

 

会社が休業手当の計算をするにあたり,

基本給の6割を支払えばいいと勘違いしているかもしれませんので,

労働者は,基本給以外の手当を含めて,

休業手当が計算されているのかを,

給料明細を見て,チェックしてください。

 

 

3 休業手当では生活できない

 

 

とはいえ,もともとの賃金が低い場合,

休業手当は低い賃金の6割になりますので

生活がままならないという問題があります。

 

 

やはり,コロナショックで生活が苦しくなる方々への

補償が必要不可欠になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

緊急事態宣言による協力要請を受けていない業種での休業の場合に休業手当は支払われるのか

1 緊急事態宣言がだされました

 

 

ついに昨日,新型コロナ特措法に基づき,

東京都,神奈川県,埼玉県,千葉県,大阪府,兵庫県,福岡県

を対象に緊急事態宣言がだされました。

 

 

 

緊急事態宣言がだされたことによって,7つの対象地域の知事は,

新型コロナウイルス感染症の蔓延防止措置として,

人が密集するカラオケ店,ナイトクラブなどの娯楽施設に対して,

使用やイベントの制限の協力を要請できます。

 

 

この協力要請は,法的な根拠があるものの,

従わなかったからといって,罰則があるわけではないので,

協力要請を求められた施設の管理者は,これに応じないことができます。

 

 

しかし,協力要請に応じなかった場合,公表されますので,

K-1の二の舞になりたくないので,事実上,

協力要請には応じざるをえなくなります。

 

 

2 緊急事態宣言後の協力要請に応じた場合の休業

 

 

そのため,協力要請に応じて娯楽施設などが休業した場合,

使用者の責めに帰すべき事由に該当しないと考えられ,

休業期間中,労働者に対して,

給料の6割にあたる休業手当を支払わなくても,

労働基準法違反にはならない可能性があります。

 

 

もっとも,昨日,加藤厚生労働大臣が,

在宅勤務などで労働者を働かせることが可能か,

他に就かせる仕事があるかも含めて,

不可抗力によるものかを総合的に判断し,一律に,

休業手当の支払義務がなくなるものではないとコメントしました。

 

 

https://this.kiji.is/620083427313910881

 

 

休業による不利益を被る労働者への補償をしなければならない一方で,

休業によるダメージを受ける会社の経営のことを考えると,

判断が難しいです。

 

 

3 緊急事態宣言後の協力要請の対象とならない業種の休業

 

 

それでは,上記の協力要請の対象とはならない飲食店などが,

緊急事態宣言による国民の自粛によって,客が激減したり,

労働者が通勤できなくなって,休業した場合,

労働者は,飲食店などに休業手当を請求できるのでしょうか。

 

 

例えば,ケンタッキーフライドチキンやタリーズコーヒーでは,

緊急事態宣言の対象地域の店舗を休業させたり,

営業時間を短縮させるようです。

 

 

この場合は,緊急事態宣言による協力要請を受けておらず,

会社の自主的な判断で休業することになるので,

会社には休業手当の支払義務が生じる可能性があります。

 

 

休業手当は,労働者の最低生活を保障するためのものなので,

休業手当の支払義務の要件である「使用者の責めに帰すべき事由」は,

広く解釈されており,天災地変などの

不可抗力に該当しない限りはそれに含まれます。

 

 

不可抗力といえるかは,外部起因性と防止不可能性の2つの要件

を満たした上で,経営上の障害の原因が使用者の支配領域から

近いところで発生しており,労働者の最低生活の保障の観点から,

使用者に平均賃金の6割の程度で保障をさせた方がよいと認められれば,

休業手当の支払義務があるのです。

 

 

 

「使用者の責めに帰すべき事由」の具体例として,

機械の検査,原料の不足,流通機構の不円滑による資材入手困難,

監督官庁による操業停止,親会社の経営難のための資金・資材の獲得困難

などが挙げられます。

 

 

確かに,新型コロナウイルスによる客数の減少や

労働者の通勤困難などの要因はあるものの,

緊急事態宣言による協力要請を受けていない業種の会社が

休業する場合には,最終的には裁判所の判断に委ねられますが,

休業手当の支払義務が認められる可能性があると考えます。

 

 

会社としては,雇用調整助成金などを利用して,

休業してもなんとか労働者に対して,

休業手当を支払ってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス労働相談ホットラインを実施しました

1 新型コロナウイルス労働相談ホットライン

 

 

昨日,日本労働弁護団が主催する,

新型コロナウイルス労働相談全国一斉ホットラインを

石川県で実施しました。

 

(2020年4月7日の北陸中日新聞の朝刊で報道されました)

 

 

北越労働弁護団に所属する当事務所の弁護士が中心となって,

新型コロナウイルスに関連する労働問題の電話相談に応じました。

 

 

通常,弁護士が実施する電話相談は,

広報がうまくいかないからか,

あまり電話がかかってこないのですが,

今回のホットラインでは,私が経験した中で

最も多くの電話がかかってきました。

 

 

10時から15時までの時間帯で

合計13件の電話相談がありました。

 

 

それだけ,多くの労働者が新型コロナウイルスの感染拡大で不安を抱き,

また,実際に不利益を被っていることがわかりました。

 

 

 

2 休業と賃金に関する相談

 

 

最も多かった相談は,

会社から休業を命じられている期間の賃金の問題です。

 

 

具体的には,次のような相談がありました。

 

 

会社から新型コロナウイルスに感染している可能性があるので,

会社を休むように言われたのですが,

休業期間中の給料がどうなるのかが不安です。

 

 

3月にインフルエンザにかかり,

一週間会社を休んで出社したものの,また高熱がでてしまい,

病院では新型コロナウイルスではないと言われたのに,

会社から自宅待機を求められたが,給料の支払いがない。

 

 

このように,労働者が新型コロナウイルスに感染しているのか

明確になっていないにもかかわらず,

会社が感染疑いを理由に労働者に休業を命じる場合,

使用者の責めに帰すべき事由により労働者が就労できなくなるので,

民法536条2項に基づき,給料の全額を請求すべきです。

 

 

また,休業について,会社に落ち度がなかったとしても,

労働基準法26条に基づく,給料の6割である休業手当を請求できます。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大を理由に

会社から休業を命じられた場合の対処法については,

こちらのブログ記事をご参照ください。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202003029086.html

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202003199133.html

 

 

3 解雇と雇止めの相談

 

会社休業による賃金の支払の次に多かった相談は,

解雇や雇止めの相談です。

 

 

 

会社から,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で

売上がガクンと落ちたので,辞めてくれと言われてしまいました。

 

 

このように,会社の業績悪化によって,

正社員に対する解雇や退職勧奨,

非正規雇用労働者に対する雇止めが増えているようです。

 

 

新型コロナウイルスに関する解雇と雇止めについては,

こちらのブログ記事をご参照ください。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202003279147.html

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202003309151.html

 

 

4 緊急事態宣言によって労働問題が増加する可能性があります

 

 

マスコミ報道によりますと,本日,緊急事態宣言がだされるようです。

 

 

緊急事態宣言がでますと,都道府県知事から休業を要請されたり,

住民の外出自粛が強化されるので,ますます,

労働問題が増加することが予想されます。

 

 

今後,弁護士会や様々な弁護士の団体が,

新型コロナウイルスに関する法律相談を実施したり,

情報を発信していきますので,まずは,

正確な知識を理解していただき,その上で,

次の行動に移っていただきたいと思います。

 

 

私も,新型コロナウイルスに関連する労働問題について,

今後とも情報発信していきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルス感染拡大防止への当事務所の対応方針

この度、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患された方々には謹んでお見舞い申し上げますとともに、一日も早いご快復を心よりお祈り申し上げます。

 

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、厚生労働省ほか関係各所より、感染拡大の防止に向けた行動を強く推進するよう、事業者に対して呼びかけられております。

 

 

当事務所の取り組み

 

1.マスクの着用

当事務所では、ご来所いただくお客様ならびに弊所スタッフの新型コロナウイルス・インフルエンザの発生に伴う感染予防を目的とし、原則として弁護士及びスタッフのマスク着用を推奨しております。

2.消毒液の設置及び相談室の換気

当事務所では、手指の消毒液の設置及び相談室の換気を行い、インフルエンザ及び新型コロナウイルスの発生に伴う感染予防に努めております。

 

3.お客様へご協力のお願い

① 手指の除菌のために、事務所に設置してある『手指の消毒液』をご利用ください。

② マスク着用のままでお話いただいて結構ですので、マスク着用のままご相談ください。

 

感染拡大の動向を注視し、お客様、当事務所サービスをご利用いただくみなさま及び従業員の安全・健康確保を考慮した予防対策を強化しております。

皆様のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。

 

尚、安心して当事務所サービスをご利用いただけますよう、予防対策の内容につきましては、適宜見直す可能性がございます。

新型コロナ特措法の緊急事態宣言と労働基準法26条の休業手当

1 緊急事態宣言と休業手当

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大がとまらず,

東京では2日連続で感染者が100人を超えました。

 

 

 

新型インフルエンザ等対策特別措置法の適用対象に,

新型コロナウイルス感染症が追加される改正がなされていますので

(いわゆる新型コロナ特措法),

国が緊急事態宣言をだすことが現実的になりつつあります。

 

 

そして,厚生労働省は,新型コロナ特措法に基づく

緊急事態宣言がだされて,ライブハウスや映画館などが

営業を停止した場合の労働者への休業手当について,

休業手当の支払義務の対象にならないとの見解を示しました。

 

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202004/CK2020040302000154.html

 

 

本日は,緊急事態宣言と休業手当について説明します。

 

 

2 緊急事態宣言

 

 

緊急事態宣言がなされますと,都道府県知事は,

感染症蔓延の防止のための措置をとることができます。

 

 

感染症蔓延の防止のための措置として,協力要請があります。

 

 

協力要請とは,都道府県知事が,住民に対して

外出制限の協力を要請したり,学校や様々な施設

(デパート,ホテル,美術館,ナイトクラブ,

ライブハウス,映画館,理髪店など)の使用の制限や

そこでのイベントの制限の協力を要請することです。

 

 

施設の管理者やイベントの主催者が,

都道府県知事の協力要請に対して,正当な理由なく,

従わなかった場合,都道府県知事は,

施設の管理者やイベントの主催者に対して,

一定の入場制限や手指の消毒などの措置を講じるように指示ができます。

 

 

そして,都道府県知事は,協力要請や指示を行った場合には,

そのことを公表します。

 

 

指示を公表することは,施設の管理者やイベントの主催者が

都道府県知事の協力要請に従わなかったことを意味します。

 

 

K-1の大会が埼玉県の自粛要請に応じないで実施されたことに

多くの批難が殺到したように,おそらく,上記の指示が公表されると,

施設の管理者やイベントの主催者は,世間から,

バッシングを受けることが予想されます。

 

 

そのため,協力要請や指示に罰則はないのですが,

事実上,施設の管理者やイベントの主催者は,

協力要請に従わざるをえないことになると考えられます。

 

 

 

3 休業手当の支払義務がない不可抗力といえるか

 

 

ここまできますと,休業手当の支払義務はない

とされてもやむを得ないと思います。

 

 

労働基準法26条に基づく休業手当は,

使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合に,

休業期間中,労働者に対して,平均賃金の6割を補償するというものです。

 

 

ここで,使用者の責めに帰すべき事由とは,

経営者として不可抗力を主張しえない

一切の場合を包含するものとされています。

 

 

会社にとって休業が不可抗力であったか否かがポイントになります。

 

 

不可抗力であったか否かの判断は難しいのですが,

第1に,その原因が事業の外部より発生した事故であること,

第2に,事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしても

なお避けることのできない事故であること

の2つの要件を備える必要があります。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大は,会社の外部で発生した現象であり,

それによって,緊急事態宣言がだされて,協力要請を求められれば,

事実上従わざるをえないので,通常の経営者として

最大の注意を尽くしてもなお避けることができない

と評価される可能性があります。

 

 

そのため,緊急事態宣言がだされて,協力要請を求められ,

会社を休業することになった場合,

使用者の責めに帰すべき事由による休業とはいえず,

会社は,休業手当を支払わなくてもよいことになりそうです。

 

 

ただ,こうなると,緊急事態宣言による協力要請を受けた

会社の労働者は,全く給料の補償がなく,生活が困窮します。

 

 

そのため,国は,緊急事態宣言をだすのであれば,

協力要請を受けることになる会社とその労働者に対する

十分の補償を迅速に実施すべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中に新型コロナウイルスに感染した場合,労災申請をしつつ傷病手当金の申請もする

1 仕事中に新型コロナウイルスに感染して会社を休むことになったら

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大がとまりません。

 

 

 

2020年4月2日の段階で全国の感染者の総数は

3450人となりました。

 

 

自分がいつ感染してもおかしくない状況になりつつあります。

 

 

もし,新型コロナウイルスに感染してしまった場合,

最低2週間ほどは会社を休まなければならなくなりますので,

治療費や会社を休んでいる期間の給料のことが気になります。

 

 

本日は,仕事中に新型コロナウイルスに感染してしまった場合の

労災申請や傷病手当金について解説します。

 

 

2 新型コロナウイルス感染症と労災申請

 

医療機関で働いている医師や看護師が,

新型コロナウイルスに感染した患者の診療をして

新型コロナウイルスに感染したり,海外渡航が禁止される前に,

中国,アメリカ,ヨーロッパなどに海外出張へいき,

日本に帰国後に新型コロナウイルス感染症を発症した場合には,

労災申請をすることを検討します。

 

 

仕事をしていたときに新型コロナウイルスに感染したのであれば,

労災保険を利用すれば,治療費を労災保険から全額支給してもらい,

仕事を休んでいる期間の給料の8割を補償してもらうことができます。

 

 

労災と認定されるためには,業務が原因となって

新型コロナウイルス感染症が発症したといえなけばなりません。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

新型コロナウイルス感染症の場合,

仕事中における感染機会や感染経路が明確に特定され,

感染から発症までの潜伏期間や症状などに医学的な矛盾がなく,

仕事以外の感染源や感染機会が認められない場合に,

業務起因性が認められて,労災と認定されます。

 

 

医療機関で働いている医師や看護師の場合であれば,

プライベートな活動で新型コロナウイルスに感染する機会がなかったなら,

業務起因性は肯定されやすいと考えます。

 

 

 

海外出張の場合は,新型コロナウイルスが流行している地域に出張して,

商談などで新型コロナウイルスの感染者と接触し,

プライベートな活動中に感染機会がなかったなら,

業務起因性が認められると考えます。

 

 

しかし,海外出張先の商談相手が新型コロナウイルスの

感染者だったと証明できないかもしれず,また,

海外出張中に立ち寄ったレストランで感染した可能性もあるなど,

業務起因性が認められるか不明です。

 

 

また,国内において,接客などの対人業務において,

新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触し,

仕事以外に感染者との接触や感染機会が認められないときには,

業務起因性が認められると考えます。

 

 

この場合も,仕事中に新型コロナウイルスの感染者と

濃厚接触したという感染経路を証明できるのかという問題がでてきます。

 

 

このように,仕事が原因で新型コロナウイルスに感染したとして

労災申請をする場合,自身の感染経路を証明することが

ハードルになる可能性があります。

 

 

また,調査する労働基準監督署も,時間と労力がかかりますので,

労災と認定されるまでに時間がかかることがあります。

 

 

3 傷病手当金の申請

 

 

そこで,労災の認定までに時間がかかり,

その間に仕事を休んでいる給料の補償が欲しい場合には,

健康保険の傷病手当金の受給をします。

 

 

傷病手当金は,仕事とは関係ない傷病で休業した労働者が

会社から十分な報酬が受けられない場合に

健康保険協会などから受けることができる手当金です。

 

 

傷病手当金は,最大1年6ヶ月間,

おおむね給料の3分の2(70%弱)の支給がされます。

 

 

傷病手当金は,会社と主治医の証明をもらって申請書を提出すれば,

労災よりも早く受給できます。

 

 

もっとも,労災保険の休業補償給付と

傷病手当金の両方を受給することはできません。

 

 

そこで,労災申請と,傷病手当金の申請をして,

傷病手当金の受給後に労災認定されれば,

労災保険から休業補償給付が支給されるので,

それですでに支払われた傷病手当金を返還すればいいのです。

 

 

労災の休業補償給付は給料の80%で,

傷病手当金は給料の70%弱なので,

労災認定されれば,傷病手当金を十分に返還できます。

 

 

そのため,仕事中に新型コロナウイルスに感染したものの,

感染経路の調査に時間がかかりそうであれば,労災申請をしつつ,

傷病手当金を受給するのがいいと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。