接待は過労死事件における労働時間といえるのか

1 接待は労働時間に該当するのか

 

 

年が明けて,明日から仕事始めのところが多いと思います。

 

 

おそらくこれからは新年会が多く開催されることでしょう。

 

 

新年会のほかに,営業の方であれば,接待も多くなるかもしれません。

 

 

くれぐれも飲み過ぎには注意してください。

 

 

さて,接待が多いと,接待も仕事のうちであると考えることがあります。

 

 

 

飲み会の席では,円滑なコミュニケーションが図れて,

仕事が有利に進むこともあります。

 

 

本日は,接待が労働時間と認められた,

国・大阪中央労基署長(ノキア・ジャパン)事件の

大阪地裁平成23年10月26日判決を紹介します

(労働判例1043号67頁)。

 

 

この事件では,居酒屋で会食していた労働者が,

くも膜下出血を発症して死亡したことから,ご遺族が,

過労死であるとして,労災申請したものの,

労災と認定されなかったことから,

労災の不支給決定の取消訴訟を提起しました。

 

 

2 接待の業務起因性

 

 

労災と認定されるためには,仕事が原因で

死亡したといえなければならず,そのためには,

仕事に内在する危険が現実化したと認められる必要があります。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

一般的には,接待は,仕事との関連性が不明であることが多く,

直ちに業務起因性を肯定することは困難です。

 

 

しかし,本件事件では,次のような事情がありました。

 

 

・接待が顧客との良好な関係を築く手段として行われており,

会社は,その業務性を承認して,被災労働者の裁量に任せていたこと。

 

 

・会社関係者が,技術に詳しい被災労働者から本音で

込み入った技術的な話を聞く場として,会合が位置づけられていたこと。

 

 

・接待に使う飲食費を会社が負担していたこと。

 

 

これらの事情から,接待のほとんどの部分が

業務の延長であると判断されました。

 

 

接待の目的や内容,費用負担などによっては,

接待の業務性が認められて,労働時間と認定されることがあります。

 

 

3 業務の質的過重性

 

 

また,この事件では,1ヶ月の時間外労働80時間という

過労死ラインを下回る時間外労働だったのですが,

業務の質的過重性が考慮されました。

 

 

すなわち,被災労働者は,24時間携帯電話の電源を

オンにすることが求められており,

24時間いつでも対応しなければならない状態に置かれており,

実際に重大事故が発生したときには出勤して対応していました。

 

 

 

そのため,寝ていたときの電話やメールで中途覚醒を強いられ,

睡眠の質が悪化していたとして,

24時間のオンコール体制の質的過重性が認められました。

 

 

その結果,業務の量的過重性と質的過重性が認められて,

裁判所で,労災の不支給決定が取り消されて,

過労死の労災認定がされたのです。

 

 

このように,過労死ラインに届かなくても,

業務の質的過重性を考慮することで,

過労死と認定されることがあるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

革命のファンファーレ~現代のお金と広告~

1 口コミが重要

 

 

立花B塾の課題図書である,西野亮廣氏の

革命のファンファーレ~現代のお金と広告~

を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

インターネットの普及により,

様々な物やサービスの内容や価格がガラス張りになった現代において,

どのように広告をすれば,売れるのか。

 

 

西野氏は,現代の宣伝力は,信用力であり,

口コミが最強であると主張しています。

 

 

利害関係のある方ですと嘘が入り込み,信用がありませんが,

利害関係の無い方がすすめるものには,信用があり,

その信用ある口コミを信頼して,人は買うのです。

 

 

そうなると,いかに口コミを発生させるかがポイントになります。

 

 

その一つは,当然ですが,売る商品やサービスの

クオリティーが高いことです。

 

 

インターネットの時代には,実力が可視化されるので,

良いものは良いと正当に評価されますので,

実力を高める必要があります。

 

 

2 他人の力を使う

 

 

もう一つが,他人の力を使うための仕掛けです。

 

 

自分独りでは1日24時間の制約があり,

能力にも限りがあるので,他人の時間と能力を使えば,

広告がどんどん拡大していくのです。

 

 

 

とはいえ,まだまだ,他人は,

インターネットで簡単に口コミをしてくれるわけではないので,

口コミを自然発生させるための仕掛けを作ることが重要になります。

 

 

西野氏は,ご自身の絵本「えんとつ町のプペル」の販売の際に,

読者がインスタグラムにアップするための導線を設計し,

絵本の個展を開催する権利を売り,

そのためのクラウドファンディングが自然発生するなど,

他人の力を借りる広告の実践例を,

公表してくれているので,参考になります。

 

 

今後,弁護士の世界でも,口コミによる広告が重要になってくる

と思いますので,西野氏の具体的な実践例が,とても参考になります。

 

 

3 行動すること

 

 

そして,西野氏は,行動することの重要性を説いています。

 

 

自分の脳に仕入れた情報を編集して,

アイディアを創造するので,

アイディアの待ち合わせ場所になる人間が強いです。

 

 

アイディアの待ち合わせ場所になるためには,

とにかく行動することです。

 

 

行動することで他人の脳と多く接続でき,

自分の中に体験が蓄積されるので,情報が増え,

より多くの情報を編集して,

知識や知恵に昇華できるのだと思います。

 

 

西野氏は,華やかにみえる活躍の裏で,

圧倒的な努力を尽くしているからこそ,

あれだけ売れているのがよく分かります。

 

 

自分の信用を高めることの重要性を学べる名著ですので,

一読をおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

未払残業代請求においてメールの最終送信時刻やパソコンのログオフの時刻が終業時刻とされた事例

1 未払残業代請求では労働時間の立証が重要になります

 

 

未払残業代を請求する事件では,残業代を計算するうえで,

原告の労働者が1日に何時間働いたのかを証拠に基づいて,

証明しなければなりません。

 

 

タイムカードで労働時間の管理がされている会社であれば,

タイムカードをもとに労働時間を認定するのですが,

タイムカードなどで労働時間をしっかりと管理している会社は,

まだまだ少ないのが現状です。

 

 

会社が適切に労働時間を管理していない場合には,

様々な証拠をもとに労働時間を認定できるように,

弁護士は知恵を絞ります。

 

 

2 ウエディングプランナーの未払残業代請求事件

 

 

本日は,様々な証拠をもとに労働時間を認定した

結婚式場運営会社A事件の東京高裁平成31年3月28日判決

を紹介します(労働判例1204号31頁)。

 

 

この事件では,ウエディングプランナーが

結婚式場を運営する会社に対して,未払残業代を請求しました。

 

 

 

被告会社では,シフト表で労働時間を管理していましたが,

原告のウエディングプランナーは,

パソコンのログインやログオフの時刻,

メールの送信時刻,原告のメモの時刻などをもとに,

労働時間を主張しました。

 

 

まず,始業時刻について,裁判所は,

原告の担当する結婚式がない日は,

シフト表に記載された始業時刻,

担当する結婚式がある日は,

新郎新婦が到着する予定時刻の1時間前と認定しました。

 

 

原告は,パソコンのログインの時刻を始業時刻と主張していましたが,

原告の仕事の性質上,パソコンの起動と仕事が直結しているといえず,

業務関連性が明白ではないと判断されたのです。

 

 

本件事件のウエディングプランナーの場合,

パソコンの電源をいれてすぐにデスクワーク

にとりかかるような仕事ではなかったため,

このような判断になったのだと思います。

 

 

デスクワークの多い事務職であれば,

出社してすぐにパソコンの電源をいれて,

パソコンが立ち上がったら,すぐに仕事に取り掛かるのであれば,

パソコンのログインの時刻が始業時刻になると考えます。

 

 

パソコンのログイン時刻を始業時刻と主張するときには,

パソコンの起動と業務関連性を意識する必要があります。

 

 

3 最終送信メール時刻やパソコンのログオフ時刻が終業時刻と認定される

 

 

次に,裁判所は,終業時刻については,

最終送信メールの時刻やパソコンのログオフ時刻があれば,

その時刻を終業時刻としました。

 

 

 

被告会社では,原告のアカウントで他の社員が

ログインすることができるのですが,

他の社員が原告のアカウントで終業時刻まで

仕事をすることは考えがたいので,

原告のアカウントでログオフした時刻まで

業務の必要性があったと認定されました。

 

 

また,最終の送信メール時刻も業務上のものであると認められて,

終業時刻とされました。

 

 

ただ,原告のメモについては,事後的に作成されたものとして,

信用性がないと判断されました。

 

 

労働者の作成したメモについては,

労働したその日にその都度作成しないと,

証拠としては弱いです。

 

 

未払残業代を請求するためには,

労働時間を立証するためにどのような証拠があるか,

その証拠はどの程度証明力があるのかを吟味する必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

若年性認知症の影響による万引についての懲戒免職処分が取り消された事例

1 犯罪行為と懲戒処分

 

 

人は時として過ちをおかしてしまうことがあります。

 

 

刑事事件の弁護人をしていると,貧困が原因で万引をしたり,

精神的な病気から犯罪をしてしまったり,

という事件をよく担当することがあります。

 

 

罪を犯した人が人生のやり直しのきっかけを与えることも

弁護士の大切な仕事だと考えています。

 

 

犯罪をしたことが勤務先に発覚すると,

懲戒処分となるリスクが高まります。

 

 

 

本日は,犯罪行為と懲戒処分について,

検討された裁判例を紹介します。

 

 

海上自衛隊厚木航空基地自衛官事件の

東京地裁平成30年10月25日判決です(労働判例1201号84頁)。

 

 

この事件では,自衛官がコンビニで栄養ドリンクを万引したとして,

懲戒免職処分を受けましたが,この懲戒免職処分の

取り消しを求めて訴訟を提起しました。

 

 

2 懲戒処分の要件

 

 

懲戒処分が有効となるためには,

①懲戒処分の根拠規定の存在,

②懲戒事由への該当性,

③懲戒処分の相当性

の3つの要件が満たされなければなりません。

 

 

本件事件では,②と③の要件が争点となりました。

 

 

まず,原告の自衛官がどのような万引をしたのかが争いとなりました。

 

 

原告は,万引をして,コンビニの店長に捕まったときに,

許してもらいたくて,店長から言われるがままの事実を認めてしまいました。

 

 

しかし,防犯カメラの映像といった客観的な証拠からは,

原告が2日間にわたり,栄養ドリンクを各1本ずつ

万引したことしか認定できませんでした。

 

 

民事事件においても,懲戒処分の該当行為については,

客観的な証拠の裏付けをもとに厳格に認定される傾向があります。

 

 

3 懲戒処分の相当性

 

 

次に,コンビニで栄養ドリンクを2回万引したことで,

懲戒免職処分ができるのかが争われました。

 

 

 

この点,公務員に対する懲戒処分について,

懲戒事由該当行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響の他,

公務員の懲戒事由該当行為の前後における態度,

懲戒処分などの処分歴,選択する処分が他の公務員に与える影響など,

諸般の事情を考慮して,懲戒権者の裁量の逸脱・濫用がないかを検討します。

 

 

本件事件では,以下の事情が考慮されました。

 

 

・2回にわたり2本の栄養ドリンクを万引したものであり,

被害の程度は軽微であること。

 

 

・原告は,被害店舗に謝罪して被害弁書をして示談が成立していること。

 

 

・原告は,過去に停職1日の懲戒処分を受けているものの,

14年前のことであり,本件とは事案が異なること。

 

 

・原告は,若年性認知症によって認知機能が低下していて,

これが犯罪行為に影響を与えた可能性があること。

 

 

以上の事実を総合考慮すれば,懲戒免職処分は重すぎ

停職処分が相当であるので,懲戒免職処分が取り消されたのです。

 

 

最近では,万引をしたのに記憶がないと主張する方がおり,

若年性認知症が影響しているのではないかと疑うケースがあるので,

若年性認知症のことが,労働者に有利に判断されたことが評価できます。

 

 

懲戒処分を争うときには,③懲戒処分の相当性で

労働者が勝つことがあるので,

懲戒処分が重すぎないかを検討することが重要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇事件で未払賃金を請求するために必要なこと

1 解雇事件では労務提供の意思と能力が必要

 

 

あけましておめでとうございます。

 

 

今年も,働く方々にとって役立つ情報を発信していきますので,

このブログをよろしくお願い致します。

 

 

さて,本日は解雇に関して,労働者にとって

有意義な判断をした裁判例を紹介します。

 

 

横浜A皮膚科経営者事件の横浜地裁平成30年8月23日判決

(労働判例1201号68頁)です。

 

 

この事件は,個人病院を経営する被告から,

口頭で懲戒解雇を告げられて,

それ以後出勤しなくなった原告労働者が,

未払賃金を請求したというものです。

 

 

 

労働者が賃金を請求するためには,労務を提供し,

会社がその労務を受け取ることが必要になります。

 

 

解雇の場合,会社が労働者の労務の提供を拒否していますので,

労働者としては,現実的な労務の提供は不要なのですが,

労務提供の意思と能力が必要になります。

 

 

労働者が労務提供の意思と能力を表明しているにもかかわらず,

会社が労務の提供を拒否したのであれば,

会社には民法536条2項の帰責事由があるとして,

労働者は,会社に対して,未払賃金を請求できるのです。

 

 

そこで,解雇事件においては,労働者は,

会社に対して,働く意思があることを通知します。

 

 

この通知を出すことで,労働者の労務提供の意思と能力が明確になり,

労働者は,会社に対して,未払賃金を請求できるのです。

 

 

本件事件では,被告に,民法536条2項の

帰責事由があるのかが争われました。

 

 

この点,被告は,原告に対して,病院への出勤を要請した事実はなく,

懲戒解雇を撤回し,原告の労務提供を受け取ることを

積極的かつ明確に表示していないことから,

民法536条2項の帰責事由は解消されていないと判断されました。

 

 

要するに,会社は,解雇を撤回して,

出勤を促すなどをしないと,労働者から解雇を争われて,

解雇が無効になれば,未払賃金を支払わなければならなくなるのです。

 

 

2 未払賃金から失業給付を控除できるのか

 

 

また,本件事件では,原告は,

雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付です)を受給していたところ,

被告は,未払賃金の請求から,

この失業給付が控除されるべきであるとして争いました。

 

 

 

しかし,結果として失業していない期間に

失業給付を受給したのであれば,

その分は政府に対して返還すべきものであり,

被告との間で未払賃金からの控除によって

調整すべきものではないとされました。

 

 

そのため,失業給付を受給しても,未払賃金から,

失業給付の分が控除されることはないのです。

 

 

解雇事件を処理するにあたり,

労働者に役立つ裁判例ですので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。