コロナ禍による休業期間中に無許可で副業したら懲戒処分を課せられるのか
1 休業手当では生活が苦しいので副業をしたい
新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない地域では,
5月末まで,休業要請が延長される方向となりました。
都道府県知事からの休業要請の多くは,
新型コロナウイルス特措法24条9項に基づくものであり,
これに応じるかどうかは,事業主の任意の判断に委ねられています。
そのため,事業主が,新型コロナウイルス特措法24条9項による
休業要請に応じたとしても,それは事業主側の経営判断
によるものであるので,休業したとしても,事業主は,
労働者に対して,賃金の全額か,若しくは,
平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません。
体力のない中小企業では,賃金の全額が支払えないとして,
賃金の6割の休業手当を支払い,休業している期間に,
副業を解禁して,残り4割の賃金分を
副業先で稼いでもらっているところもあるようです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200415/k10012388421000.html
一方で,休業手当が賃金の6割しか支払われない場合,
労働者の生活が苦しくなるので,会社が休業している期間に限定して,
労働者が会社に対して,副業の許可を求めても,
会社から許可してもらえないケースがあるようです。
コロナ禍で休業している期間であっても,
副業をしてもいけないのでしょうか。
2 無許可の副業が禁止される場合
会社の許可なく副業した場合に,
会社から懲戒処分をされるリスクがありますので,
この懲戒処分のリスクがなければ,
コロナ禍で休業している期間に副業をしても,
労働者としては不利益は生じないことになります。
そこで,どのような場合に,
無許可副業で懲戒処分されるのかをみてみましょう。
古い裁判例ですが,橋元運輸事件の
名古屋地裁昭和47年4月28日判決
(判例タイムズ280号294頁)は,
形式的に無許可副業に該当していても,
企業秩序に影響がなく,労務の提供に格別の支障がない場合には,
懲戒処分を課すことはできないと判断しました。
企業秩序に影響が生じる場合とは,同業他社への二重就職など,
会社への背信性が認められる場合をいいます。
同業他社で副業すると,本業の会社の情報やノウハウが
同業他社に横流しされたり,顧客を奪われたりして,
本業会社の収益が悪化するリスクがあります。
また,本業の仕事をした後に,
副業の仕事を夜遅くまでしていたのでは,
十分な休息がとれなくて,疲労が回復せず,
本業の仕事に支障がでてしまいます。
そのため,同業他社で副業するなど企業秩序に影響がある場合と,
夜遅くまで副業先で働くことで,本業での労務提供に支障がある場合には,
無許可副業をすれば,懲戒処分されるリスクがあります。
逆に言えば,同業他社ではない副業先で,
それほど長くない時間働くのであれば,
無許可で副業をしても,懲戒該当事由がないことになります。
加えて,会社が,労働者が副業をしていることを知っていながら,
何も注意や処分をしていなかった場合には,
黙示の副業の承認があると判断されて,
副業禁止違反を理由とする懲戒処分が認められないことがあります
(長崎県公立大学法人事件・長崎地裁平成23年11月30日判決・
労働判例1044号39頁)。
3 コロナ禍の休業期間中に同業他社以外の副業先で働いても懲戒該当事由にはあたらない
コロナ禍の休業期間にあてはめてみますと,そもそも,
本業が休業しているので,本業での労務提供の支障は生じません。
そのため,副業先を同業他社にさえしなければ,休業期間中に,
会社から支給される休業手当では生活が厳しいことを理由に,
無許可で副業をしても,問題ないと考えます。
仮に,会社から無許可副業を理由に,懲戒処分を課されたならば,
その懲戒処分は無効になる可能性があります。
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