菅野弁護士のインタビュー記事が毎日新聞に掲載されました

菅野弁護士のインタビュー記事が毎日新聞に掲載されました。

福島商業高校時代のエピソードが記載されています。

 

https://mainichi.jp/articles/20200422/ddl/k13/100/018000c

雇用調整助成金のさらなる拡充と整理解雇における解雇回避努力

1 雇用調整助成金のさらなる拡充

 

 

4月25日,加藤厚生労働大臣は,全国の中小企業のうち,

緊急事態宣言後に都道府県知事からの休業要請に応じた企業が,

前年の賃金の100%の水準の休業手当を支払う場合に,

国が休業手当の全額を補助することを明らかにしました。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200426/k10012405961000.html

 

 

また,都道府県知事からの休業要請の対象ではない中小企業が,

平均賃金の60%以上の休業手当を支払った場合,

国が60%を超える分について,

全額を補助することになるようです。

 

 

緊急事態宣言後に都道府県知事からの休業要請に応じた会社が,

労働者に対して,休業手当を支払わないリスクを最小限にするために,

国が会社と労働者を守るために,

雇用調整助成金の金額を拡充したようです。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11603000/000625165.pdf

 

 

雇用調整助成金とは,経済上の理由により

事業活動の縮小を余儀なくされた会社が,

労働者に対して,一時的に休業などを行い,

労働者の雇用の維持を図った場合に,

休業手当などの一部を助成するものです。

 

 

コロナ禍の現状においては,会社は,

労働者の雇用を維持するために,会社を休業する場合には,

雇用調整助成金を活用して,労働者に対して,

なるべく多くの休業手当を支払うように努力する必要があります。

 

 

 

2 ロイヤルリムジングループ事件

 

 

他方,この雇用調整助成金を活用せずに,

整理解雇が実施された事件が注目されています。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で業績が悪化したとして,

タクシー運転手約600人が解雇された

ロイヤルリムジングループ事件です。

 

 

ロイヤルリムジングループの代表者は,

労働組合との団体交渉において,

雇用調整助成金を申請しなかったことを認めたようです。

 

 

https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020042001002469.html

 

3 整理解雇における解雇回避努力とは

 

 

コロナ禍における整理解雇では,

雇用調整助成金を活用したかがポイントになると考えます。

 

 

整理解雇は,労働者には落ち度がなく,

会社側の事情による解雇になりますので,

次の4つの要件(要素)を満たす必要があります。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力を尽くすこと

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④手続の相当性

 

 

従前,②解雇回避努力として挙げられていたのは,

広告費・交通費・交際費等の経費削減,

役員報酬の削減,

残業規制,

従業員に対する昇給停止や賞与の減額・不支給,

ワークシェアリングのによる労働時間の短縮や一時帰休,

中途採用・再雇用の停止,

新規採用の停止・縮小,

配転・出向・転籍の実施,

非正規雇用労働者との間の労働契約の解消,

希望退職の募集などです。

 

 

 

とくに希望退職の募集が解雇回避努力として重視されていました。

 

 

コロナ禍の現状においては,上記のように,国は,

労働者の雇用を維持するために,雇用調整助成金を拡充しています。

 

 

雇用調整助成金については,準備が大変,

時間がかかるなどの不満はありますが,

解雇は最後の手段であることには変わりなく,

会社は,整理解雇の前に,解雇回避努力として,

雇用調整助成金の活用を検討しなければなりません。

 

 

雇用調整助成金を活用しないでした整理解雇は,現状においては,

解雇回避努力を尽くしていないとして無効になる可能性が高いです。

 

 

そのため,労働者は,会社が雇用調整助成金を活用しているかを,

よくチェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

読売新聞の大手小町に徳田弁護士のインタビュー記事が掲載されました

読売新聞の大手小町というサイトに,徳田弁護士のインタビュー記事が掲載されました。

 

こちらのURLをご参照ください。

 

https://otekomachi.yomiuri.co.jp/news/20200420-OKT8T215932/?fbclid=IwAR09QKa-3_u5IMuNHy9SQnRVCEaGHEGRZfdQ5ZVdjA7d519uMRy-1nc9lpo

整理解雇における手続の相当性

1 嬉しいニュース

 

 

私のブログ仲間で,お墓クリーニングの専門家である高見義裕さんが,

私のブログを紹介してくれました。

 

 

https://ameblo.jp/yoshihirotakami/entry-12591724622.html?fbclid=IwAR0HDfkCpVkq588S-8GCd1YZ_0gTBZAIfYWuFmR-uA9C11pEWNyU3wqeQpg

 

 

ブログ仲間からの紹介は,本当に嬉しいです。

 

 

私の情報発信が,新型コロナウイルスの影響で困っている

労働者の方々のお役に立てているとわかり,勇気をもらいました。

 

 

今後とも,有益な情報を発信していきますので,

読者の皆様,今後とも,よろしくお願い致します。

 

 

2 ロイヤルリムジングループの整理解雇事件

 

 

さて,新型コロナウイルスの影響による業績悪化を理由に

タクシー運転手約600人が解雇されたロイヤルリムジングループ事件で,

労働組合の組合員81人が,東京地裁に

地位確認の仮処分の申立てをしました。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58382630T20C20A4CE0000/

 

 

組合員は,会社が雇用調整助成金を利用するなどして

解雇を回避する努力をしなかったこと,

労働組合や労働者に対して説明を尽くしていないことを理由に,

整理解雇は無効であると主張しているようです。

 

 

整理解雇とは,会社の業績悪化を理由とする解雇のことで,

いわゆるリストラです。

 

 

 

まず,解雇は,労働者やその収入に依存して生活を維持している

家族らの生活の基盤を剥奪するものなので,

よほどのことがない限り,認められません。

 

 

そして,不況のときにおける整理解雇は,

労働者側に何らの責められる理由がないのに,

会社側の理由により一方的に行われるものであり,

不況であればあるほど再就職が困難となり,

再就職しても以前の会社よりも賃金が低くなる場合があります。

 

 

そのため,整理解雇の場合,会社は次の4つの要件(要素)

を満たさないと整理解雇は無効になります。

 

 

①人員削減の必要性があること

 

 

 ②解雇回避努力義務が尽くされたこと

 

 

 ③人選基準とその適用が合理的であること

 

 

 ④労働組合や労働者に対して説明・協議を尽くしたこと(手続の相当性)

 

 

本日は,このうちの④手続の相当性について,解説します。

 

 

3 手続の相当性

 

 

会社は,整理解雇に先立ち,労働組合や労働者に対して,

整理解雇の必要性とその内容(時期・規模・方法),

人選基準などについて,十分な説明を行い,

誠意をもって協議しなければならないのです。

 

 

会社が経営状況などの説明をする際に,単に,

「○億円の赤字だから解雇せざるを得ない」などと

概括的な数字を掲げるだけでは,

説明義務を尽くしたことにはなりません。

 

 

 

会社がより多くの情報を労働者に対して提供し,

より多くの点について協議するほど,

整理解雇の手続が相当であったと評価され,逆に,

会社から事前に開示された情報が少なく,

ほとんど協議する事項がなかったような場合には,

整理解雇の手続が不相当であったと評価されます。

 

 

具体的なケースで見てみましょう。

 

 

北斗音響事件の盛岡地裁昭和54年10月25日判決

(労働判例333号55頁)は,

整理解雇における手続の相当性について,

次のように判断しました。

 

 

会社は,工場閉鎖の理由や解雇の必要性などについて,

会社の決算報告書などの資料を開示して

十分な説明をすべきだったのに,

単に不況を乗り切るためのやむを得ない措置であるとか,

工場閉鎖と解雇は既定の方針であるなどの

抽象的な説明に終始していたとして,

説明義務を尽くしておらず,整理解雇は無効となりました。

 

 

そのため,新型コロナウイルスの影響で会社の業績が悪化したとして,

会社から整理解雇された場合には,会社に対して,

なぜ解雇なのか,他に手段を尽くしたのかについて,

説明を求めるべきです。

 

 

これに対して,会社があいまいな説明しかできず,

労働者が納得できないならば,整理解雇が無効であるとして,

会社に対して,地位確認と未払賃金の請求をすることをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働基準法26条の休業手当と不可抗力

1 都道府県知事による休業要請

 

 

緊急事態宣言の対象区域が全国に拡大され,

石川県は特定警戒都道府県に指定されました。

 

 

石川県は,4月19日に休業養成する業種や施設を公表し,

4月21日から休業期間が始まりました。

 

 

https://www.pref.ishikawa.lg.jp/kikaku/documents/kyuugyouitiran1.pdf

 

 

4月22日現在の石川県の休業要請は,

いわゆる新型コロナ特措法24条9項に基づく

「必要な協力の要請」であり,この休業要請に応じるか否かは,

各業者の判断に委ねられています。

 

 

 

24条9項に基づく休業要請に応じなくても,

事業者には法的な不利益はありません。

 

 

他方,大阪府では,休業要請に応じない事業者に対して,

事業者名を公表していく方向で動いているようです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200421/k10012399571000.html

 

 

新型コロナ特措法45条には,都道府県知事が休業要請をし,

または休業の指示をした場合には,

その旨を公表しなければならないと規定されています。

 

 

大阪府は,この45条による休業の要請や指示をして,

休業に応じない事業者名を公表することを検討しているのでしょう。

 

 

もともと同調圧力が強い日本社会で,さらに,

コロナ禍で人々のうっぷんがたまっている今,

休業要請に応じない事業者名が公表されれば,

世間からバッシングを受けて,

多大な風評被害を被るリスクがあります。

 

 

そのため,新型コロナ特措法45条の休業要請の手前の

24条9項の休業要請の段階で,

多くの対象企業は休業に応じると考えられます。

 

 

2 休業要請に応じた場合に休業手当はどうなるのか

 

 

では,都道府県知事の要請に応じて休業した場合,

会社は労働者に対して休業手当を支払わなければならないのか

が問題となります。

 

 

労働基準法26条には,使用者の責めに帰すべき事由

による休業の場合には,使用者は,休業期間中,

労働者に対して,平均賃金の6割以上の休業手当

を支払わなければならないと規定されています。

 

 

ここで,都道府県知事の休業要請に応じて休業する場合,

使用者の責めに帰すべき事由に該当するのかが難しい問題となります。

 

 

労働基準法26条の「使用者の責めに帰すべき事由」について,

経営者として不可抗力を主張しえない一切の場合が含まれる

と解されています。

 

 

 

要するに,不可抗力以外で休業する場合には,

会社は労働者に休業手当を支払わなければならないのです。

 

 

3 不可抗力とは

 

 

では,不可抗力とはどのような場合でしょうか。

 

 

不可抗力とは,①事業の外部より発生した事故であること,

②事業主が通常の経営者として最大の注意を尽くしてなお

避けることのできない事故であること,

の2つの要件を備えたものをいいます。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大を受けてなされる

都道府県知事の休業要請は,①の要件を満たすので,

問題は②の要件を満たすかです。

 

 

②の要件については,厚生労働省のQ&Aには,具体例として,

「自宅勤務などの方法により労働者を業務に従事させることが

可能な場合において,これを十分に検討しているか」,

「労働者に他に就かせることができる業務があるにもかかわらず,

休業させていないか」といった事情から判断されますと記載されています。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/dengue_fever_qa_00007.html#Q4-2

 

 

例えば,バーであれば,バーテンダーがお店ではない

自宅で勤務する意味はありませんし,お客が来店しないので,

他に仕事がないので,上記の事情を満たすと考えられます。

 

 

 

緊急事態宣言が出されて,都道府県知事からの休業要請を受けて,

これに抗って,営業を続けるのは,現状厳しいと考えられ,

不可抗力に該当する可能性があります。

 

 

4 労働者は会社と休業手当の支給について協議すべき

 

 

とはいえ,休業手当も支払われないのであれば,

労働者は,収入が途絶えて,生活できなくなります。

 

 

そこで,都道府県知事の休業要請に応じて休業する場合でも,

労働者と使用者でよく協議して,

せめて給料の6割の休業手当を支払ってもらうように

交渉してみてください。

 

 

厚生労働省も,休業手当について,

労働者と使用者が話し合いをすることを推奨しています。

 

 

休業要請に応じた場合,都道府県から協力金が支給されますし,

雇用調整助成金を活用して,

労働者に休業手当を支払うという方法もあります。

 

 

労働者は,職場のメンバーと一致団結して,

せめて給料の6割の休業手当を支払ってもらうように会社と協議し,

会社も,雇用を維持するために,

なんとか休業手当を支給してもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者が新型コロナウイルスに感染した場合に会社から損害賠償請求されるのか

1 会社から損害賠償請求されるのかという相談

 

 

昨日に引き続き,新型コロナウイルス関連の

労働問題について,解説します。

 

 

昨日の懲戒処分に関連して,

本日は労働者の損害賠償責任について取り上げます。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない現状において,

誰もが新型コロナウイルスに感染するリスクを負っています。

 

 

マスクを着用して,消毒液で手を洗っていても,

新型コロナウイルスの感染を防ぎきれるものではなさそうです。

 

 

 

労働者が自身で新型コロナウイルスの感染対策を

実施していたにもかかわらず,不幸にも新型コロナウイルスに

感染してしまい,会社が2週間ほど休業せざるを得なくなった場合に,

労働者は,会社に対して,損害賠償義務を負うのでしょうか。

 

 

連日,新型コロナウイルスの感染によって

会社が休業に追い込まれるニュースが流れてきます。

 

 

おおむね2週間の休業を余儀なくされるため,会社としては,

売上がなくなる一方,賃料や人件費などの固定費を支払わなければならず,

利益がなくなるので,かなりの痛手です。

 

 

さらに,マスコミで報道されることで,風評被害も発生します。

 

 

考えただけでもゾッとします。

 

 

そのため,4月18日に実施した電話相談でも,

自分が新型コロナウイルスに感染して,会社が休業した場合に,

会社から損害賠償請求されるのかという相談がありました。

 

 

2 会社の労働者に対する損害賠償請求は安易に認められない

 

 

しかし,労働者が新型コロナウイルスに感染したことで,

会社が休業して損害を被っても,会社は,労働者に対して,

損害賠償請求をできないと考えます。

 

 

まず,労働者が職務を遂行するにあたり,

必要な注意を怠って労働義務など労働契約上の義務に違反して

会社に損害を与えた場合,債務不履行に基づく

損害賠償責任を負うことがあります(民法415条)。

 

 

また,労働者の行為が民法709条の不法行為に該当すれば,

労働者が損害賠償責任を負うことがあります。

 

 

もっとも,労働者は,会社の指揮命令の下で働いており,

その分,会社も危険の発生について責任を負っていると言えます

危険責任の原理)。

 

 

そして,労働者が会社の指揮命令の下で働いている中で

生じる危険は,事業活動から利益を得ている会社が負うべきと言えます

報償責任の原理)。

 

 

そのため,会社は,労働者に故意または重過失がある場合にのみ

損害賠償を請求しうるとされています。

 

 

すなわち,労働者の職務遂行における軽過失または通常の過失によって

生じた損害については,労働者ではなく会社が負担すべきなのです。

 

 

上記のように,普段からマスクを着用していて,

入念に消毒液で手を洗うなど,労働者が新型コロナウイルスの感染対策

をしていたのにもかかわらず,労働者が不幸にも

新型コロナウイルスに感染してしまった場合,

労働者には,少なくとも重過失がないので,会社に対して,

損害賠償責任を負わないことになると考えます。

 

 

 

もし,労働者が新型コロナウイルスに感染してしまって,

会社が休業して,会社から損害賠償請求をされた場合には,

会社の損害賠償請求が認められない可能性が十分ありますので,

早目に弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者が新型コロナウイルスに感染して会社が休業した場合に懲戒処分されるのか

1 正確な知識と情報があれば不安は解消できる

 

 

4月18日土曜日に,

「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守るなんでも相談会」

という,電話相談が開催され,

私は石川県で90分の電話相談の対応をしました。

 

 

 

90分の時間帯で合計7件の電話相談があり,

相談が終わるとすぐに次の相談の電話がかかってくるという感じで,

大変多くの相談がありました。

 

 

もっとも,電話相談の内容としては,

まだ切迫した状況ではないけれども,このまま,

新型コロナウイルスの感染拡大が長期化して,

もしものことがあったらと考えたら不安なので電話しました

というものが多かったです。

 

 

これらの相談から分かったことは,正確な知識や情報がなく,

漠然と不安に思っている方が多く,正確な知識や情報を取得すれば,

不安は解消されるということです。

 

 

そのため,私は,新型コロナウイルスに関連する

労働問題の情報を発信して,労働問題で不安に感じている方々の

不安を解消していきたいと考えます。

 

 

2 就業規則に懲戒処分の根拠規定はあるか

 

 

ということで,本日は,先日の電話相談であった,

もし自分が新型コロナウイルスに感染してしまって,

会社が休業することになってしまったら,会社から,

懲戒処分を受けるのか,という相談に対する回答をします。

 

 

結論は,そのような懲戒処分は無効になると考えます。

 

 

同居の家族が新型コロナウイルスに感染してしまい,

その結果,同居していた労働者も一緒に感染してしまい,

労働者が働いていた会社が2週間休業することになった

ケースで考えてみましょう。

 

 

まず,会社が労働者に対して,懲戒処分をくだすためには,

就業規則に懲戒処分の根拠規定が存在する必要があります。

 

 

そのため,自分の会社の就業規則に,

感染症に罹患して,会社が休業したときに

懲戒処分されるという根拠規定があるのかを確認しましょう。

 

 

労働判例別冊の「改訂5版就業規則ハンドブック」には,

「故意,過失,怠慢もしくは監督不行届によって災害,傷害,

その他の事故を発生させ,または会社の設備,器具を破損したとき」には,

減給または出勤停止とする規定が記載されています。

 

 

また,「故意または重大なる過失によって会社の設備,器物

その他の財産を破損または滅失し,会社に甚大な損害を与えた場合」には,

懲戒解雇とする規定が記載されています。

 

 

そもそも,このような就業規則の条項が存在しない会社は,

労働者が新型コロナウイルスに感染して,

会社が休業することになっても,労働者に対して,

懲戒処分をすることができません。

 

 

3 懲戒事由があるのか

 

 

上記のような就業規則の条項があれば,

次に,これらの規定に該当するかが問題になります。

 

 

例えば,新型コロナウイルスに感染した労働者が,

外出を自粛していて,新型コロナウイルスに感染しないように

マスクを着用して,消毒液で手洗いをして,対策をしていたのに,

たまたま家族が感染して濃厚接触して,

新型コロナウイルスに感染したのであれば,

上記の条項の過失,重大な過失,怠慢がないことになります。

 

 

 

もっとも,外出自粛が要請されている現状において,

労働者が風俗店にいき,濃厚接触したために,

新型コロナウイルスに感染した場合には,

上記の条項の重大な過失に該当する可能性はでてきます。

 

 

外出自粛要請の中,風俗店にいったようなケース以外であれば,

上記の条項に該当しないと考えます。

 

 

そのため,労働者が新型コロナウイルスに感染して,

会社が休業になったことを理由とする懲戒処分は,

会社の就業規則に懲戒処分の根拠規定が存在しない,または,

労働者には懲戒事由がないとして,無効になると考えます。

 

 

ですので,労働者が新型コロナウイルスに感染して,

会社が休業になっても,懲戒処分されるリスクは極めて低いので,

この点については,ご安心ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ解雇を争うために東京地裁で仮処分の申立てがされました

1 ロイヤルリムジングループ事件の仮処分の申立て

 

 

東京のタクシー会社であるロイヤルリムジングループが,

新型コロナウイルスの感染拡大による売上減少を受けて,

タクシー運転手が約600人解雇された事件で,

70代のタクシー運転手が,東京地裁に仮の地位を定める仮処分と

賃金仮払いの仮処分の申立てをしたようです。

 

 

 https://mainichi.jp/articles/20200416/ddm/041/020/064000c

 

 

新型コロナウイルス関係の労働問題が裁判手続に移行するのは

初めてのようで,注目が集まっています。

 

 

 

私と司法修習で同期だった,東京合同法律事務所の

弁護士馬奈木厳太郎先生が代理人をされているので

がんばってもらいたいです。

 

 

さて,本日は仮処分という裁判手続について解説します。

 

 

2 仮処分とは

 

 

通常の裁判手続(通常訴訟または本訴といいます)ですと,

判決がでるまでに最低1年くらいはかかります。

 

 

解雇された労働者は,給料という生活の糧を失ったわけですから,

生活に困窮することになりますので,

1年もの長期間待っていられないわけです。

 

 

なんとか早く事件を解決したい。

 

 

そのようなときに利用するのが仮処分という裁判手続です。

 

 

仮処分の最大のメリットは,手続が早いことです。

 

 

通常訴訟ですと,提訴してから第1回の裁判が始まるまでに

1ヶ月ほどかかりますが,仮処分ですと,

申立てをしてから2週間後くらいに第1回の裁判が始まります。

 

 

仮処分では,2~3週間程度の期間をおいて,

裁判の期日(審尋期日といいます)が繰り返されて,

3~6ヶ月程度で結論(仮処分決定)が出されます。

 

 

そんなに早く進む裁判手続であれば,

どんどん利用すればいいじゃないかと思うかもしれませんが,

仮処分には大きなデメリットがあります。

 

3 保全の必要性

 

 

それは,保全の必要性というものです。

 

 

仮処分では,通常訴訟と同じように,解雇が無効であるとして,

労働者としての地位があることを明らかにすることは共通なのですが,

これに加えて,保全の必要性があることを明らかにしなければなりません。

 

 

保全の必要性とは,労働者に生ずる著しい損害または

急迫の危険を避けるために仮処分が必要であることを言います

(民事保全法23条2項)。

 

 

具体的には,解雇されて会社からの賃金の支払が途絶えるために,

労働者の生計が成り立たなくなる,ということです。

 

 

そのため,仮処分の手続では,労働者が毎月の生活を維持するのに

どの程度の支出があるのか,貯蓄はどれくらいあるのかを,

資料に基づいて明らかにしなければならないのです。

 

 

解雇された労働者に配偶者がいて,

配偶者の収入で生活が維持できたり,貯蓄が十分にあれば,

保全の必要性が否定されることがあります。

 

 

裁判所は,保全の必要性を厳格に判断する傾向にあり,

賃金仮払いは認められても,仮の地位を定める仮処分が

認められることはあまりないようです。

 

 

また,賃金仮払いが認められても,その金額は,

解雇前にもらっていた給料全額ではなく,減額されることもあり,

支払が認められる期間も通常訴訟の一審判決が

言い渡されるまでと制限されます。

 

 

このように,保全の必要性のハードルが高いので,

私は,あまり,仮処分の手続を利用することは少ないです。

 

 

若い労働者ですと,解雇されても次の仕事を見つけて,

当面の生活を維持できるので,

そこまで逼迫した案件が少ないからかもしれません。

 

 

もっとも,ロイヤルリムジングループ事件の場合,申立人は,

70代なので,解雇されると,次の仕事を見つけるのが大変です。

 

 

年金収入だけでは,生活を維持していくのは厳しいかもしれません。

 

 

そして,今は,新型コロナウイルスの感染拡大が続いていて,

どこも人手を減らしているので,仕事を見つけるのが困難ですし,

そもそも,裁判所も裁判の期日を早急に入れてくれません。

 

 

 

そこで,保全の必要性が認められる見込みがあり,

早急に裁判をすすめていく必要があることから,

ロイヤルリムジングループ事件では,

仮処分を選択するのが合理的です。

 

 

この仮処分手続で,労働者が勝訴することを祈念しています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

営業時間短縮のお知らせ

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,5月6日まで,当事務所の営業時間を9時から17時までに営業時間を短縮させていただきます。

新型コロナウイルスの影響で子供の学校の休校で労働者が会社を休まなければならなくなった場合の対処法

1 休校が続いています

 

 

石川県内の多くの小学校,中学校,高校は,

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて休校となっています。

 

 

 

小さい子供をかかえる労働者は,

子供の学校が休校となったことによって,

自宅で子供の面倒をみなければならなくなり,

会社を休まざるをえなくなる場合があります。

 

 

このような子供の休校によって労働者が会社を休む場合,

会社を休んでも給料が支給されるかたちで休めるのでしょうか。

 

 

2 年次有給休暇

 

 

会社は,このような場合に,労働者に対して,

年次有給休暇を取得するように言ってくるかもしれません。

 

 

しかし,会社が労働者に対して,年次有給休暇を

一方的に取得させることはできません。

 

 

年次有給休暇は,労働者が会社に対して,

具体的な休暇の始期と終期を特定して,

会社に通知するだけで成立します。

 

 

年次有給休暇を取得する理由も言う必要はありません。

 

 

要するに,年次有給休暇は,労働者が休暇の時季を

指定することで発生するのです。

 

 

これを時季指定権といいます。

 

 

年次有給休暇の時季を指定できるのは労働者なので,

会社は指定できないのです。

 

 

もっとも,年次有給休暇は,勤続年数が6年以上になりますと,

1年間に20日利用できるのですが,

週休二日制で土日祝日が休みの会社で,

平日に1年間に20日の年次有給休暇を全て

消化できる労働者は少ないと思います。

 

 

また,年次有給休暇は使わないでいると2年の時効で消滅します。

 

 

年次有給休暇を利用して旅行にいきたくても,

新型コロナウイルスの感染拡大により,

自粛要請が強まっている今では旅行にもいけません。

 

 

万が一のために年次有給休暇を残しておきたい方もいると思いますが,

何も起きないまま,年次有給休暇が時効で消えるのはもったいないです。

 

 

そこで,新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない

現在の状況であれば,会社から,年次有給休暇を取得して

休んでほしいと言われたら,これに応じてもいいと考えます。

 

 

今は,労働者も苦しいですが,会社も苦しいので,

お互いに協力できるところは協力していったほうがいいでしょう。

 

 

3 特別有給休暇

 

 

次に,労働者が年次有給休暇を残しておきたい場合には,

特別有給休暇を利用できないか検討します。

 

 

 

この特別有給休暇は,労働基準法に規定はないのですが,

年次有給休暇以外に給料を満額支払ってもらえる休暇制度を,

労働者に対する福利厚生の一環として導入している会社があります。

 

 

労働者が結婚式や葬儀へ参加するために会社を休む際や,

災害にまきこまれて会社を休む際に利用できる場合があります。

 

 

就業規則に,労働者の子供が学校を休むために,

子供の面倒をみる必要がある場合の休暇が記載されていれば,

その休暇を利用して休めばいいです。

 

 

就業規則に,このような特別有給休暇が記載されていなくても,

労働者と会社との間で,年次有給休暇以外の特別有給休暇を取得して

休むことが合意できれば問題ありません。

 

 

なお,小学校や幼稚園,保育所が新型コロナウイルスの影響で

休校してしまい,子供の面倒をみるために労働者が

年次有給休暇以外の特別有給休暇を取得した場合には,会社は,

新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金

を利用できますので,この制度を活用すべきです。

 

 

ただ,会社の助成金の1日あたりの支給上限が

8,330円となっています。

 

 

個人的には,会社に対して,特別有給休暇分の満額

を助成してもらいたいと考えています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。