移動時間は労働時間なのか
未払残業代請求の事件では,ある時間が労働時間か否か
が争われることがよくあります。
ある時間が労働時間に該当すれば,会社は,その時間分の賃金を,
労働者に支払わなければならなくなります。
また,会社が労働時間ではないと主張していた時間が
労働時間になれば,労働者は,会社が想定していたよりも
長く働いていたことになり,残業していたことになるので,
未払残業代が発生するのです。
そこで,本日は,労働時間か否かが争いになる
移動時間について解説します。
まず,通勤時間について検討します。
そもそも,労働時間とは,労働契約に基づき,
労働者が会社に対して,労働を提供している時間です。
これに対し,通勤とは,労働者が会社に労働を提供する
前の準備行為と位置づけられています。
また,電車やバスの通勤であれば,通勤時間中は寝ていても,
本を読んでいても,スマホをしていても,労働者の自由です。
そのため,通勤時間は労働時間とはいえません。
会社へ通勤するのではなく,会社の外の仕事現場へ
直行直帰する場合の移動時間も,
通勤時間と同じで労働時間とはいえません。
次に,外回りの営業マンが営業先から営業先へ
移動する時間について検討します。
通常,営業マンは,営業先から営業先へ寄り道をせず,
まっすぐに移動するように指示されております。
そのため,営業先から営業先への移動は,
会社からの指揮命令下に置かれている時間
といえますので,労働時間となります。
最後に,出張中の移動時間について検討します。
出張中の移動時間も,就労場所へ移動するという,
労働を提供するための準備時間といえます。
また,電車で長距離移動しても,電車の中で,
寝ていようが,スマホをしていようが,
労働者の自由であることがほとんどです。
そのため,原則として,出張の移動時間も労働時間にはなりません。
もっとも,移動時間中に,出張先の会議で使用する資料を
パソコンで作成していたり,出張の目的が物品を運ぶことであり,
移動中その物品を監視しなければならない場合には,
出張の移動時間であっても労働時間といえることがあります。
なお,出張先への移動が休日に行われたとしても,
休日労働として取り扱われないことになります。
このように,通勤時間や出張先への移動時間は
労働時間とはいえませんので,未払残業代を計算するときに,
何時から何時まで働いたのかを算出する際,注意する必要があります。