タクシーの客待ち時間は労働時間なのか

タクシーの運転手が客待ちをしている時間は

労働時間になるのでしょうか。

 

 

本日は,タクシー運転手の客待ち時間が労働時間にあたるか

否かが争われた中央タクシー事件

(大分地裁平成23年11月30日判決・労働判例1043号54頁)

を紹介します。

 

 

大きな駅にいくと,タクシーが順番に並んで,

お客さんを乗せて,出発していきます。

 

 

 

 

 

大きな駅のタクシーの順番に並んでいると,

お客さんを乗せるまでの待ち時間が長いので,

タクシー運転手の仲間たちとおしゃべりをしている人,

タクシーの中で弁当を食べている人,

タクシーの中でスポーツ新聞を読んでいる人,

タクシーの中で昼寝をしている人

などタクシーの運転手はさまざまな過ごし方をしています。

 

 

一見すると仕事をしていないように見えるので,

労働時間とはいえないようにも思えますが,

タクシーの客待ち時間は労働時間になります。

 

 

そもそも,労働時間とは,会社の明示または黙示の

指揮命令下に置かれている時間をいいます。

 

 

タクシーの運転手は,客待ち時間中にも,

無線で呼び出しがあれば,呼び出しのあった場所へ

お客さんを迎えにいかなくてはならないので,

会社の指揮命令下に置かれていると評価できます。

 

 

また,駅でタクシーの順番に並んでいても,

前に並んでいるタクシーが順番に進んでいくので,

それに続いて進まないと,後がつかえるので,

お客さんを乗せるために運転を継続しているのといえ,

タクシーの客待ち時間は労働時間になるのです。

 

 

 

 

中央タクシー事件では,30分を超える客待ち時間は,

一律に労働時間ではないという取扱がされていましたが,

30分を超える客待ち時間も労働時間にあたると判断されて,

タクシー運転手の未払残業代請求が認められました。

 

 

さらに,中央タクシー事件では,会社は,会社と労働組合との間で,

会社の指定する場所以外の場所で30分を超える客待ち時間は,

労働時間からカットするという内容の労働協約が締結されていた

と主張していました。

 

 

しかし,そのような労働協約があったとしても,

ある時間が労働時間にあたるか否かは当事者の約定にかからわず,

客観的に判断するべきとされ,客観的に判断すれば,

客待ち時間は会社の指揮命令下に置かれている時間であり,

労働時間にあたると判断されました。

 

 

会社の就業規則などで,ある時間が労働時間ではないと

定められていても,客観的にみて,

ある時間が会社の指揮命令下に置かれている時間であれば,

ある時間は労働時間になるのです。

 

 

以前私が担当した,タクシー運転手の賃金が最低賃金を

下回っているとして,支給された賃金と最低賃金との差額

を請求した事件において,客待ち時間が労働時間か否か

が争われましたが,裁判所は,客待ち時間を労働時間として,

最低賃金との差額を認めてくれました。

 

 

タクシー会社によっては,客待ち時間を労働時間に含めずに,

賃金を支払っている場合がありますので,

客待ち時間を労働時間として計算すれば,

タクシー運転手は残業代を請求できる場合があります。

 

 

タクシー運転手は,タコグラフやアルコールの呼気検査,

運転日報などで労働時間を証明できるので,

働いているわりに,賃金が低いと感じるのであれば,

未払残業代の請求を検討してみることをおすすめします。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

配置転換が有効かを判断するためのメルクマールとは

会社から,勤務場所を変更する転勤をすすめられましたが,

親の介護を理由に辞退したところ,同じ勤務場所において,

事務職から力仕事を必要とする業務に配置転換されました。

 

 

事務職から力仕事を必要とする業務への配置転換が

有効か否かについて解説します。

 

 

会社が労働者を配置転換するには,

次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

 

 

 ①労働契約上,配置転換の根拠があり,その範囲内であること

 ②法令違反がないこと

 ③権利濫用ではないこと

 

 

まず,①労働契約上,配置転換の根拠があり,

当該配置転換がその配置転換の範囲内であることが必要です。

 

 

通常,会社の就業規則には,

会社は業務上の必要がある場合,配置転換を命じることができる

と規定されていることが多く,この規定を根拠に

配置転換がなされるのであれば,①の要件は満たされます。

 

 

他方,会社の就業規則に,配置転換の根拠規定が全くない場合には,

そもそも配置転換について,労働契約上の

根拠がないとして無効となります。

 

 

また,労働契約において,仕事内容が限定されていたり,

働く場所が限定されている場合(職種・勤務地限定契約といいます),

その限定された仕事内容や働く場所が配置転換の範囲となり,

会社は,限定された仕事内容や働く場所の範囲を超えて,

労働者を配置転換できないことになります。

 

 

 

 

労働者としては,まずは会社の就業規則をチェックして,

配置転換についての規定がないか,

配置転換の規定があっても,

労働契約で職種・勤務地が限定されていないかをチェックするべきです。

 

 

会社の就業規則に配置転換の規定があり,

職種・勤務地限定がない場合,

次に②当該配置転換が法令に違反していないかを検討します。

 

 

法令違反の配置転換とは,具体的に,

配置転換が組合活動の妨害を目的としていたり,

男女差別に基づく配置転換などの場合です。

 

 

もっとも,このような露骨な法令違反の配置転換はあまりありません。

 

 

最後に,③当該配置転換が権利濫用ではないことが必要となります。

 

 

権利の濫用となる配置転換は無効となります(労働契約法3条5項)。

 

 

どのような場合に,配置転換が権利の濫用になるかは,

次の5つのメルクマールを総合判断して決められます。

 

 

 ア 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性

 イ 人員選択の合理性

 ウ 配置転換が他の不当な動機・目的をもってなされているか否か

 エ 当該配置転換が労働者に通常甘受すべき程度を

    著しく超える不利益を負わせるものか否か

 オ 配置転換についての説明や誠実な対応がなされたか

 

 

裁判例では,アの業務上の必要性は容易に認められる傾向にあり,

業務上の必要性が認められれば,

イの人員選択の合理性も認められやすいです。

 

 

ウの他の不当な動機・目的については,

それほど露骨な嫌がらせ目的で配置転換がされることは多くありません。

 

 

そこで,裁判で主戦場になるのは,エとオになります。

 

 

最近は,介護離職が社会問題になっていることもあり,

ワークライフバランスの観点から,

転居を伴う遠隔地への転勤などは,厳しく判断されます

 

 

 

 

また,最近の裁判例では,配置転換の理由の説明や

配置転換に伴う利害得失を判断するために,

会社が労働者に必要な情報を提供するなど

適正な手続きをとることを求めています。

 

 

さて,介護を理由に転勤がなくなり,

同じ職場で事務職から力仕事に配置転換された場合,

職種限定がないのであれば,

その配置転換に応じざるをえないと考えられます。

 

 

そして,力仕事の人員が不足しているなどの業務上の必要性があり,

嫌がらせ目的がなく,同じ職場内で労働者に不利益があまりない

のであれば,配置転換は有効と判断される可能性が高いです。

 

 

本日も,ブログをお読みいただき,ありがとうございます。

労働条件の通知がメールでも可能になる

厚生労働省は,平成30年8月27日,現在は,会社が労働者に

書面で交付することが定められている労働条件の通知方法を,

ファックスや電子メールの送信でも可能とする,

労働基準法施行規則の改正案を示しました。

 

 

 

 

労働者がメールなどで,労働条件の通知を希望するのであれば,

労働者にとっても,会社にとっても便利になります。

 

 

このトピックスに関連して,本日は,

労働条件の通知について説明します。

 

 

労働基準法15条1項には,会社は,労働契約の締結に際して,

労働者に対して,賃金・労働時間その他の労働条件を

明示する義務があると規定されています。

 

 

さらに,次の5つについては,会社は,

労働者に対して,書面による明示が義務付けられています。

 

 

①労働契約の期間に関する事項

②働く場所・仕事の業務内容

③労働時間に関する事項

(始業・終業の時刻,所定労働時間を超える労働の有無,

休憩時間,休日,休暇)

④賃金に関する事項(賃金の決定,計算・支払の方法,締日と支払日)

⑤退職に関する事項(解雇の事由を含む)

 

 

会社が労働条件を明示しなければならない対象労働者は,

正社員だけでなく,契約社員や派遣社員などの種別を問わず,

全ての労働者です。

 

 

また,会社が労働条件を明示しなければならない場面は,

当該労働者と初めて労働契約を締結するときだけでなく,

有期労働契約の期間満了後の契約更新のときや,

定年後の再雇用のときも含まれます。

 

 

一般的には,労働契約を締結するときに,会社が労働者に対して,

下記URLにあるような労働条件通知書を交付することがほとんどです。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/keiyaku/kaisei/dl/youshiki_01a.pdf#search=%27%E5%8A%B4%E5%83%8D%E6%9D%A1%E4%BB%B6%E9%80%9A%E7%9F%A5%E6%9B%B8+%E5%8E%9A%E7%94%9F%E5%8A%B4%E5%83%8D%E7%9C%81%27

 

 

もっとも,私が労働者から,労働事件の法律相談を受けていると,

石川県の中小企業では,労働条件通知書を労働者に

交付していないことがちらほらとみかけられます。

 

 

 

 

会社が,労働条件の明示義務に違反した場合,

30万円以下の罰金という罰則がありますので,

会社は気をつける必要があります。

 

 

労働者としては,勤務する会社の労働条件が明確になっていないと,

賃金はいくらもらえるのか,

残業をしなければならないのかが分からず,

不安になります。

 

 

そこで,労働者は,会社に就職する際に,

労働条件通知書の交付を受けるようにしてください

 

 

法令の改正後に,労働条件の通知をメールで受け取る場合には,

メールの文書を保存するか,プリントアウトして,

大切に保管しててください。

 

 

もし,労働条件通知書に記載されている労働条件と,

実際に勤務した後の労働条件が異なっている場合,

労働者は,即時に労働契約を解除することが可能です

(労働基準法15条2項)。

 

 

そのため,労働者は,労働条件通知書と異なる労働条件があれば,

会社に対して,その改善を求め,それでも改善されず,

そのような会社で働き続けるのが嫌な場合には,

労働契約を解除すればいいのです。

 

 

労働条件通知書は,労働者を守るために重要なものですので,

当たり前のように,全ての会社で交付されるようにしてもらいたいです。

 

 

本日も,ブログをお読みいただき,ありがとうございます。

セクハラの同意は厳しく判断されます

セクハラの被害者が,セクハラにNoと言わなかった場合,

セクハラについて同意したと判断されてしまうのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラにおける同意について判断された

重要な最高裁判例を紹介します(海遊館事件・

最高裁平成27年2月26日判決・労働判例1109号5頁)。

 

 

大阪の海遊館という水族館で管理職をしていた男性労働者2名は,

複数の女性従業員に対して,セクハラ発言を繰り返したとして,

出勤停止の懲戒処分(一人は30日間,もう一人は10日間)

を受け,その結果,降格となり,給料が減額となりました。

 

 

1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

自分の不倫相手に関することや,自分の性欲について,

次のような発言をしました。

 

 

 

「俺のでかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」

「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」

「でも,俺の性欲は年々ますねん。なんでやろうな。」

 

 

もう1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

次のような発言をしました。

 

 

「いくつになったん。」

「もうそんな歳になったん。

結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」

「30歳は,22~23歳の子からみたら,おばさんやで。」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」

 

 

このようなセクハラが1年ほど続いた結果,

ある女性従業員は,会社を退職しました。

 

 

2名の男性労働者は,出勤停止の懲戒処分は

無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

セクハラを理由とする出勤停止処分について,

一審の大阪地裁は有効と判断し,

二審の大阪高裁は無効と判断し,

最高裁は有効と判断しました。

 

 

二審の大阪高裁は,女性従業員から明確な

拒否の姿勢が示されておらず,加害者である男性労働者は,

上記のセクハラ発言が女性従業員から許されている

誤信していたことなどを理由に,

出勤停止処分は重すぎるとして無効と判断しました。

 

 

 

 

これに対して,最高裁は,加害者である男性労働者は,

管理職としてセクハラ防止のために部下を指導すべき立場

にあるにもかかわらず,1年ほどにわたり繰り返した

セクハラ発言は,女性従業員に対して,

強い不快感・嫌悪感・屈辱感を与えて,

女性従業員の職場環境を著しく害するものであり,

女性従業員の就業意欲の低下や

能力発揮の阻害をまねく行為であると,

厳しく批難しました。

 

 

そして,職場におけるセクハラは,

被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感などを抱きながらも,

職場の人間関係の悪化などを懸念して,

加害者に対する抗議や抵抗,会社に対する被害の申告を

躊躇することが少なくないので,加害者である男性労働者が,

被害者である女性従業員から明確な拒否の姿勢が示されておらず,

上記の言動が許されていると誤信したとしても,

そのことを加害者に有利に扱うべきではないと判断して,

出勤停止処分は有効と判断しました。

 

 

このように,最高裁は,そもそもなぜ被害者である女性が,

職場において男性上司からセクハラを受けてもNoと言えないのか,

というセクハラの本質を的確にとらえ,

加害者がよく主張する被害者の同意をそう簡単には採用しない

と示したものであり,実務に与えるインパクトは大きいです。

 

 

セクハラの被害者は,会社での勤務を継続したい,

セクハラの被害をなるべく少なくしたいと考えて,

やむを得ず,加害者に迎合することがありますが,

それらの事実から,被害者の同意があったと

安易に判断すべきではないのです。

 

 

セクハラに対する世間の目も厳しくなってきていますので,

被害者から好意をもたれているという加害者の勘違いは,

もはや通用しない世の中になってきています。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

夢の国での過酷な労働

朝日新聞の報道によれば,東京ディズニーランドにおいて,

ディズニーのキャラクターの着ぐるみを着用して

ショーに出演していた2名の労働者が,

運営会社に対して裁判を起こしたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL7M41Y1L7MULFA00F.html

 

 

1名の原告は,キャラクターの着ぐるみを着用して,

客にあいさつをして回っているときに,

男性客に右手の薬指を無理やり曲げられて

けがをしてしまったようです。

 

 

 

 

この原告の労働者が,上司に労災申請をしたいと相談した際に,

上司からは「それくらい我慢しなきゃ」,「君は心が弱い」

と言われて,つきかえされたようです。

 

 

上司の言動を証明できるかという問題はありますが,

上司の言動が真実であれば,「労災隠し」の問題があります。

 

 

会社は,労災事故が発生した場合,遅れることがないように,

労働基準監督署へ報告する義務を負っています。

 

 

それでも,会社は,労働基準監督署の調査や行政指導

を受けたくなかったり,労災保険料が増額されることを避けたいがために,

労災隠しをすることがありますが,労災隠しは違法な行為です。

 

 

さらに,会社は,労働者が労災申請をする際には,

協力する義務があるのですが,

この協力義務にも違反することになります。

 

 

また,もう1名の原告の労働者は,

着ぐるみでショーに出演して働いていたところ,

左腕が重く感じ,手の震えが止まらなくなったようです。

 

 

しかし,休みがとりにくく,仕事を続けた結果,

症状が悪化し,腕をあげると激痛が走り,

手の感覚がなくなり,胸郭出口症候群と診断されて,

労災認定を受けたようです。

 

 

胸郭出口症候群とは,首と腕の間にある胸郭出口

と呼ばれるところで,筋肉や骨により神経や血管が圧迫されて,

腕のしびれが生じる病気のことです。

 

 

 

 

胸郭出口症候群で首,肩,上肢から手指にかけて

しびれや痛みが残った場合,局部の神経系統の後遺障害として,

労災では12級13号か14級9号の等級認定がされる可能性があります。

 

 

労災で後遺障害の等級認定が受けられれば,

労災から障害給付として障害一時金が支給されます。

 

 

さて,私も,大学生だったころに,着ぐるみを装着して

アルバイトをしたことがありますので,

着ぐるみの大変さはよくわかります。

 

 

着ぐるみの大変なのは,①着ぐるみが重くて臭い,

②視界が狭いので自分で動きにくく,ストレスがかかる,

③着ぐるみの中は蒸し風呂状態で暑くて不快であるといった点にあります。

 

 

最近は,着ぐるみを装着したまま,

アクロバットな動きをするキャラクターがいますが,

着ぐるみ自体が重く,視界も悪いので,相当危険だと思います。

 

 

さらに,今年のような猛暑の中,

屋外で着ぐるみを装着することは,まさに地獄だと思います。

 

 

このような過酷な労働をしていると,

怪我をしたり,病気になるのは当然なのでしょう。

 

 

会社は,着ぐるみを装着して働くことの過酷さを理解し,

着ぐるみを装着して働く回数を制限したり,

十分な休憩をとらせるなどの対策をとるべきです。

 

 

子供たちに夢を与える場所で働く労働者が,

仕事が原因で体を壊すのでは,

せっかくの夢の国が台無しです。

 

 

 

早急に,夢の国での労働環境が改善されることを期待したいです。

親会社に対してセクハラの損害賠償請求できる場合とは

勤務先の子会社においてセクハラを受けた場合,

セクハラの被害者は,その子会社のグループ企業内の親会社に対して

損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 

本日は,子会社におけるセクハラの被害者が,

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求をしたイビデン事件

(最高裁平成30年2月15日判決・労働判例1181号5頁)

について解説します。

 

 

 

セクハラの被害者の女性労働者は,

イビデンキャリア・テクノという会社の契約社員でした。

 

 

被害者は,イビデンキャリア・テクノの親会社である

イビデンの事業場で働いていました。

 

 

被害者が親会社のイビデンの事業場で働いているときに,

同じ事業場で働いていた他の子会社であるイビデン建装の

正社員である加害者の男性労働者と交際をしていました。

 

 

しかし,被害者が加害者に対して,交際を解消したいと

申し出ましたが,加害者は交際を諦めきれず,

被害者に対して,繰り返し交際を要求し,

被害者の自宅に押しかけるなどのセクハラ行為をしました。

 

 

 

 

被害者は,勤務先の上司に,加害者の行為をやめるように

注意してほしいと相談しましたが,その上司は,朝礼の際に,

「ストーカーやつきまといをしているやつがいるようだが,やめるように」

などと発言しただけで,それ以上の対応はしませんでした。

 

 

その後も,加害者のセクハラ行為は止まらなかったため,

被害者は,イビデンキャリア・テクノを退職し,

イビデンの別の事業場で働きました。

 

 

被害者が退職した後も,加害者は,被害者の自宅付近で

自動車を停車させていたことがあり,

被害者から相談を受けていた同僚が心配して,

イビデンの相談窓口に対して,

事実確認をしてほしいという申し出をしました。

 

 

イビデンは,加害者などから聞き取り調査をしましたが,

イビデンキャリア・テクノから,申し出に関する事実は存在しない

という報告を受けて,被害者に対して事実確認を行わずに,

被害者の同僚に対して,申し出にかかる事実は

確認できなかったことを伝えました。

 

 

なお,イビデンのグループ企業では,

法令を遵守する体制を整備し,

グループ企業で働く労働者が法令遵守に関して

相談するための相談窓口を設けていました。

 

 

以上の事実関係において,加害者に対するセクハラの

損害賠償請求が認められ,被害者の勤務先である

イビデンキャリア・テクノに対して,

就業環境に関して労働者からの相談に応じて

適切に対応すべき義務を怠ったとして,

損害賠償請求が認められました。

 

 

これに対し,親会社であるイビデンの損害賠償請求については,

控訴審の名古屋高裁は,法令遵守についての相談窓口を

整備していたことから,グループ企業の全従業員に対して,

直接またはその所属する各会社をつうじて

相応の措置を講ずべき義務を負うとして,

損害賠償請求を認めましたが,

最高裁は,イビデンに対する損害賠償請求を認めませんでした。

 

 

最高裁は,親会社であるイビデンは,

被害者に対して指揮監督権を行使する立場になく,

被害者から労働の提供を受ける立場にもなかったことから,

子会社であるイビデンキャリア・テクノが

義務違反をしたからといって,そのことだけで

イビデンの義務違反があったことにはならないと判断しました。

 

 

また,被害者がイビデンの相談窓口に直接申し出をしたなら,

適切に対応すべき義務がありますが,本件事実関係のもとにおいて,

被害者の同僚が相談窓口へ申し出をした場合にまで,

イビデンが,被害者に事実確認をしなかったとしても,

損害賠償責任を負うものではないと判断しました。

 

 

本件では,親会社の責任は否定されましたが,

被害者が直接,親会社の相談窓口へ相談したのに,

親会社が何もしなかった場合,

親会社もセクハラの損害賠償責任を負う可能性があります

 

 

 

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求ができるのは

どのような場合かについて,検討をする際に

参考になる裁判例として紹介させていただきました。

コンフォートゾーンを抜ける

昨日,私が所属しているKCG(金沢コンサルティンググループ)

において,「弁護士が語る社会人のための勉強法

という演題で講演させていただきました。

 

 

 

 

弁護士という仕事をしているので,

労働,離婚,相続,交通事故といった法律問題について,

講演やセミナーをすることは多いのですが,

法律ネタ以外で講演することは初めての経験でした。

 

 

KCGの石井会長から,社会人のスキルアップのための

講演をしてほしいというご依頼をいただき,

どのような講演をしようかいろいろ考えました。

 

 

(石井会長とのツーショット)

 

私は,弁護士として,これまで様々な勉強をしてきたので,

その経験をもとに,社会人にとって役立つ勉強法をお伝えすれば,

講演を聞いていただいた方々のお役に立てるのではないかと考え,

勉強法について講演することにしました。

 

 

まず,最初に「なぜ勉強する必要があるのか」についてお話しました。

 

 

このパートについては,田坂広志先生の

知的プロフェッショナルへの戦略」の著書をもとにしました。

 

 

 

 

インターネットの発展により,誰でも,

手間とコストをかけなくても,欲しい知識を手に入れて,

それを自由に使うことができます。

 

 

一般の人でも,Googleで検索すれば,

専門的な知識を簡単に入手できる時代です。

 

 

弁護士の分野でいえば,どうすれば離婚できるのか,

離婚のときに相手方に対して,どのような請求ができるのか,

といった知識については,Googleで検索すれば,

そのことについて丁寧に解説したサイトにたどり着き,

そのサイトを見れば,だいたいの知識を得ることができます。

 

 

最近では,法律相談をしていると,

ご自身の相談内容について,インターネットで検索して

事前に知識を得て,法律相談に臨んでいるクライアントがほとんどです。

 

 

このような時代に,単に専門的な知識を

伝えるだけの専門家は生き残れません

 

 

専門的な知識だけをクライアントに提供すれば,

クライアントは,「そんなことはGoogle先生に聞けばわかります」

と思うはずです。

 

 

このような時代に,専門家は,

職業的な智恵」を身につけなければなりません。

 

 

職業的な智恵とは,スキル・センス・ノウハウなど

仕事や職場での体験を通じてしか身につけることができない,

言葉では表せない知識のことです。

 

 

弁護士の場合ですと,いくつもの裁判を体験してわかる事件の見通しや,

先輩弁護士から学ぶクライアントへの対応の仕方などのことです。

 

 

このような職業的な智恵を身につければ,

人工知能革命が起きても,活躍し続けることができます。

 

 

これら職業的な智恵を身につけるために,

様々な経験を積んで学ばなければならないのです。

 

 

そのためにも,多くの人は,勉強をしなければならないのです。

 

 

 

 

そして,勉強する上で,インプットよりも

アウトプットを重視しましょうとお伝えしました。

 

 

これは,精神科医の樺沢紫苑先生が提唱しているお考えです。

 

 

インプットした情報を2週間以内に

3回アウトプットしないと記憶に残りません。

 

 

講演することもアウトプットです。

 

 

 

講演するためには,自分の体験や知識を整理し,

それを人にわかりやすいように再構成して,

伝える必要があります。

 

 

この過程で,自分の理解があいまいなところがわかり,

そこを補うために勉強するので,圧倒的に自己成長できます。

 

 

セミナーで一番得をするのは講師なのです。

 

 

そして,今回,私は,法律以外の分野で講演したことで,

自己成長したことを実感しています。

 

 

それは,コンフォートゾーンを抜けたからだと考えています。

 

 

コンフォートゾーンとは,自分の快適空間のことです。

 

 

コンフォートゾーンにいると安心して生活できるので,

人はなかなかコンフォートゾーンから抜けれません。

 

 

しかし,コンフォートゾーンに安住していたのでは,

自己成長できません。

 

 

コンフォートゾーンを抜けて挑戦するからこそ,

人間は成長できるのです。

 

 

コンフォートゾーンからぬけるには,

勇気と根性さえあれば誰でも可能です。

 

 

法律以外の分野で講演するという,

コンフォートゾーンをぬけて挑戦したことで,

自己成長を実感できた講演会でした。

 

 

 

 

昨日の講演を聞いていただいた方々が,

学ぶことの大切さを理解していただき,

コンフォートゾーンをぬけて挑戦する意義

を感じていただけたのであれば,幸いです。

会社は給料から親睦会費を勝手に天引きしてもいいのか

会社の給料から親睦会費として毎月3,000円が

天引きされているにもかかわらず,親睦会が多くあるわけでもなく,

親睦会費の残高が多くなっています。

 

 

 

 

また,労働者は,入社時点で親睦会費が給料から

天引きされることに合意したことはなく,退職時に,

親睦会費は1円も返還されない運用になっています。

 

 

このような親睦会費が給料から天引きされることは,

労働基準法に違反していないのでしょうか。

 

 

結論としては,労働基準法24条1項に違反しています。

 

 

労働基準法24条1項には,

賃金は,通貨で,直接労働者に,その全額を支払わなければならない。

と規定されています。

 

 

この賃金の全額を労働者に支払わなければならないことを,

賃金全額払いの原則といいます。

 

 

労働者は,働いて賃金を取得することで

生活を成り立たせているため,

会社からもらう賃金が勝手に控除されてしまえば,

手元に残る賃金が減ってしまい,生活が苦しくなることから,

賃金は全額支払われなければならないのです。

 

 

もっとも,この賃金全額払いの原則には例外があります。

 

 

例外の1つは,法律で賃金からの控除が認められているものです。

 

 

具体的には,所得税法で認められている給与所得税の源泉徴収

厚生年金保険法・健康保険法,労働保険徴収法

で認められている社会保険料の控除

勤労者財産形成促進法で認められている財形貯蓄金の控除です。

 

 

 

 

もう一つの例外は,過半数労働組合

(それがない場合は労働者の過半数代表者)

との書面による協定がある場合です。

 

 

具体的には,チェックオフ協定

(労働組合と会社間の協定に基づき,

会社が組合員である労働者の賃金から組合費を控除し,

これを一括して労働組合に引き渡すこと)があります。

 

 

このように,法律や労使協定がないのであれば,

賃金から何かの名目で控除することはできないのです。

 

 

また,労働基準法18条には,会社は,労働者に対して,

労働契約と一緒に貯蓄の契約をさせたり,

貯蓄金を管理する契約をしてはならないことが規定されています。

 

 

会社が,労働者の貯蓄金を,労働者の委託を受けて

管理する場合には,労使協定を締結して,

労働基準監督署へ届出なければなりません。

 

 

労働者が貯蓄金の返還を会社に請求した場合,

会社は,貯蓄金を返還しなければならず,

会社が貯蓄金を返還しなかった場合,

労働基準監督署が会社に対して,

貯蓄金の管理の中止を命ずることがあります。

 

 

このように,労使協定がないのに,

賃金から親睦会費を天引きすることは,

労働基準法18条,24条に違反して無効です。

 

 

 

労働者は,会社に対して,

親睦会費の返還を求めることができますし,

会社が親睦会費の返還に応じてくれないのであれば,

労働基準監督署に行政指導してもらうべきです。

解雇されたら失業給付を受給する

会社を解雇されてしまったら,

次の仕事がみつかるまで,

収入がゼロになってしまいます。

 

 

次の仕事が早く見つかればいいのですが,そうでない場合,

労働者は,今後どうやって生活をしていくか悩みます。

 

 

そこで,解雇された労働者は,ハローワークへ行き,

失業給付(雇用保険の基本手当といいます)を受給するべきです。

 

 

 

 

失業給付を受給できれば,当面の生活を

維持することができますので,その間に再就職したり,

会社と争う準備をすることができます。

 

 

さて,この失業給付を受給するには,受給資格が必要です。

 

 

失業給付の受給資格とは,基本的には,

離職した日以前2年間に,

雇用保険の対象者であった期間が

通算12ヶ月以上であることです。

 

 

そのため,働いていた期間が1年未満であれば,

失業給付を受給できない可能性があります。

 

 

会社から解雇された場合,会社から離職票を送ってくることが多いです。

 

 

会社から離職票が送られてこない場合には,

ハローワークから,会社に離職票を発行してもらうように

連絡をしてもらう必要があります。

 

 

解雇を争う場合であっても,

解雇後の生活を安定させなければならないので,

労働者が離職票を要求しても,

解雇を容認することにはなりません。

 

 

会社から離職票が届いたら,まず,離職票の内容をよくチェックします。

 

 

 

 

離職票のチェックポイントは,

離職票の左の欄の賃金額と,右の欄の離職理由です。

 

 

まず,離職票の賃金額が正確に記載されているかを,

自分の給料明細と照らし合わせながらチェックします。

 

 

離職票の賃金額が不正確ですと,

もらえるはずの失業給付の金額が減るおそれがあるからです。

 

 

次に,離職票の離職理由が,

実際の離職理由と一致しているのかをチェックします。

 

 

解雇の場合,会社がこっそりと離職票の離職理由に

自己都合退職と記載してくることがあります。

 

 

これを訂正せずに,そのまま提出してしまうと,

後から裁判になって,会社は,

解雇ではなく自己都合退職だったと主張してきて,

解雇を争えなくなるおそれがあります。

 

 

そのため,離職票の離職理由をよくチェックし,

間違いがあれば,ハローワークに相談して,

会社に訂正を求めるべきです。

 

 

会社が訂正に応じない場合には,

「離職者記入欄」と「具体的事情記載欄(離職者用)」に

実際の離職理由を記載し,「離職者本人の判断」の欄に

「異議あり」に○をつけます。

 

 

自己都合退職の場合は,失業給付を受給するまで

3ヶ月の給付制限がありますが,解雇の場合は,

このような給付制限はありません。

 

 

 

また,解雇されたけれども,どうしても復職したい場合には,

失業給付の仮給付(条件付給付)という手続きをとります。

 

 

仮給付を受けるためには,ハローワークに,

裁判所の受付印のある訴状や労働審判申立書を

提出しなければなりませんので,手続きに時間がかかります。

 

 

仮給付の場合,復職が認められれば,

受給した仮給付を返還しなければなりません。

 

 

解雇されて復職を求めるのではなく,

金銭解決を求める場合には,

失業給付の本給付(通常の失業給付の受給のことです)を受給します。

 

 

本給付であれば,返還する必要はありません。

 

 

労働者は,解雇された場合,

失業給付を受給して,生活を安定させるべきです。

 

 

その際,離職票をよくチェックしてください。

解雇を争う労働者は解雇予告手当と退職金を請求してはいけない

昨日に引き続き,解雇された労働者が,

解雇に納得できず,会社に一矢報いるために争うための,

解雇の対処法について説明します。

 

 

解雇された労働者が,解雇を争う場合,

解雇を前提とした行動をとってはいけません。

 

 

この解雇を前提とした行動をとらない具体例として,

解雇された労働者は,自分から解雇予告手当を

請求してはいけないということがあります。

 

 

会社は,労働者を解雇するためには,

解雇から少なくとも30日前に解雇の予告をしなければいけません

 

 

30日前に解雇の予告をしない場合,会社は,

労働者に対して,30日分以上の平均賃金

を支払わなければなりません(労働基準法20条1項)。

 

 

 

 

この解雇予告をしない場合に会社が

労働者に対して支払わなければならない,

30日分以上の平均賃金を解雇予告手当といいます。

 

 

例えば,なんの前ぶれもなしにいきなり解雇される即時解雇の場合,

労働者は,会社に対して,解雇予告手当を請求することができるのです。

 

 

この解雇予告手当ですが,労働基準法20条1項に

労働者の責めに帰すべき事由」がある場合には,

支払わなくてもよいと規定されています。

 

 

この「労働者の責めに帰すべき事由」とは,典型的には,

労働者に会社のお金を着服したなどの懲戒事由が認められて,

懲戒解雇されたような場合のことをいいます。

 

 

 

 

会社が,「労働者の責めに帰すべき事由」があるので,

解雇予告手当を支払わないようにするためには,

労働基準監督署の認定を受けなければなりません(労働基準法20条3項)。

 

 

この認定を除外認定といいます。

 

 

もっとも,除外認定事由があるのに除外認定を受けないで行った

即時解雇について,除外認定事由が客観的に存在すれば,

その即時解雇は有効とされてしまいます。。

 

 

また,除外認定事実が客観的に存在すれば,

除外認定を受けていなくても,会社は,労働者に対して,

解雇予告手当を支払わなくてもよいことになっています。

 

 

そのため,除外認定を受けることなく,

解雇予告手当を支払っていない会社が多いのが実情です。

 

 

労働者が,解雇に納得して,解雇を受け入れるのであれば,

解雇予告手当を請求すればいいのですが,

解雇に納得しておらず,解雇を争うのであれば,

労働者は,自分から解雇予告手当を請求してはいけません

 

 

解雇予告手当を請求することは,

解雇が有効であることを自分から認めれることに等しく,

解雇を争えなくなるおそれがあります。

 

 

さらに,解雇予告手当と同様に,

退職金を労働者が自分から請求すれば,

解雇を容認したことになり,

解雇を争えなくなるおそれがありますので,

解雇を争う労働者は,自分から退職金を請求してはいけません

 

 

会社が,解雇予告手当や退職金を労働者の預金口座へ

勝手に振り込んできた場合,労働者は,

この金銭を預かり保管して,今後発生する未払賃金に充当することを

会社に通知しておけばいいのです。

 

 

このように,解雇を争う労働者は,

自分から解雇予告手当と退職金を請求してはいけないのです。