産婦人科医の残業代請求

あけましておめでとうございます。労働問題について情報発信していきますので,今年もブログをよろしくお願い致します。

 

産婦人科医である原告が,勤務していた産婦人科診療所を経営する医療法人社団に対して,未払残業代約1761万円を請求した事件で,約1525万円の未払残業代が認められた判例を紹介します(東京地裁平成29年6月30日判決・労働判例1166号・23頁)。

 

被告の産婦人科診療所では,当直の際に1回当たり7万円が支給されていました。被告は,当直は,常勤契約とは別個の非常勤契約であり,時間外労働には該当しないと主張しました。しかし,当直が,労働基準法41条3号の「断続的労働」に該当し,かつ,労働基準監督署の許可を得ない限り,労働時間の規制が及ぶことから,当直だからといって,残業代を支払わなくてよいことにはなりません。そのため,原告の年俸1820万円を基礎賃金として残業代を計算し,支給済みの当直手当合計を控除しても,未払の残業代があるとされました。

 

また,本件では,手待時間が労働時間か休憩時間かが争われました。休憩時間といえるには,当該時間に労働から離れることが保障されて,労働者がその時間を自由に利用できて,使用者の指揮命令下から離脱できていなければなりません。被告の産婦人科診療所では,休憩時間を午後何時までや何分間といった形で確定的に定めておらず,「別途指示するまで」や「新たな仕事の必要が生じる時まで」と曖昧に定めていたので,当該時間に労働から離れることが保障されていないとして,手待時間は休憩時間ではなく労働時間と認定されました。

 

原告は,年俸1820万円という高額な給料とは別に,当直をした場合に1回7万円の当直手当の支給を受けていたので,経営者側としては,これ以上の人件費の高騰を抑止しようとして,労働基準法に基づかずに対応してきたのですが,結果として,約1525万円の高額な未払残業代の支払を命じられてしまいました。いくら高額な給料を支給しているからといって,労働基準法を無視して残業代を全く支払わないのでは,痛い目をみることになります。

 

もっとも,医師の未払残業代請求の事案では,残業代が高額になり,医療機関の経営にかなりのダメージを与えることになります。医師の労働環境の改善と病院経営の両立を模索する必要があるように感じます。残業代の計算や労働時間の認定で参考になる判例ですので紹介します。