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定年後再雇用の労働条件で賃金が約75%減少されることは違法か

惣菜を製造する会社に勤務していた労働者が,定年後に再雇用の希望をしたところ,会社から,定年前の賃金から約75%減額する労働条件を提示されたことから,労働者は,会社から提示された労働条件での再雇用には応じませんでした。

 

労働者は,定年後も会社との間の雇用契約関係が存在し,その賃金については定年前の賃金の8割相当であると主張し,予備的に,会社が再雇用に際して賃金が著しく低い不合理な労働条件しか提示しなかったことは,労働者の再雇用の機会を侵害する不法行為に該当するとして,損害賠償を請求しました。

 

一審の福岡地裁小倉支部平成28年10月27日判決は,原告労働者の2つの請求を棄却しました。しかし,福岡高裁平成29年9月7日判決(九州惣菜事件・労働判例1167号49頁)は,雇用契約の地位確認は認めませんでしたが,不法行為の成立を認めて,被告会社に対して,慰謝料100万円の支払いを命じました。

 

福岡高裁が不法行為を認めた根拠に,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)9条1項2号があげられます。高年法9条1項2号は,会社に対して,65歳未満の定年の定めがある場合には,65歳までの継続雇用制度を導入することを義務付けています。

 

この継続雇用制度における労働条件の決定は,原則として会社の合理的裁量に委ねられています。もっとも,継続雇用制度における会社が提示する労働条件が高年齢労働者の希望・期待に著しく反し,到底受け入れられないものである場合,労働者の65歳までの安定的雇用を享受できる利益を侵害するものとして不法行為になりえると判断されました。

 

さらに,継続雇用制度においては,定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されることが必要であり,そうでない場合には,会社が,定年前後の労働条件の継続性・連続性が一定程度確保されないことを正当化する合理的な理由が存在することが必要があると判断されました。

 

本件では,被告会社が定年後再雇用の労働条件として提示した賃金が,定年前の賃金から75%も大幅に減少されるという,労働者が到底受け入れられないものであり,75%の賃金減少を正当化する合理的な理由がないことから,不法行為が成立することになりました。

 

地位確認の請求は認められませんでしたが,定年後再雇用の労働条件が不合理である場合に,損害賠償請求ができる道があることを明示した点で重要な判例です。定年後再雇用の労働条件として不合理な提案をされた場合には,労働問題に詳しい弁護士に相談しましょう。

郵政グループにおける同一労働同一賃金の問題点

郵政グループは,転居を伴う転勤がない正社員に対して,これまで住居手当を支給しており,非正規社員には,住居手当を支給していませんでしたが,この住居手当を廃止することに決めました。

 

https://www.asahi.com/articles/ASL4C3SMJL4CULFA00B.html

 

郵政グループは,東京と大阪で,各種手当の格差是正について,裁判が行われており,同一労働同一賃金の機運が高まっていることから,住居手当を削減することで,正社員と非正規社員との待遇格差を縮めようとしているようです。しかし,住居手当が廃止されることによって,正社員の年収が最大で32万4000円も減額されることになるようです。

 

もともと,同一労働同一賃金は,非正規社員の労働条件を改善して,非正規社員と正社員の労働条件の格差を縮小することを狙いとしていますが,正社員の労働条件を引き下げて,正社員を非正規社員の低い労働条件に合わせるのでは,労働者全体の賃金が下がり,消費意欲が衰えて,商品が売れなくなり,会社の業績が悪化して,景気が悪化するリスクがあります。

 

同一労働同一賃金を名目に,正社員の労働条件を切り下げるのでは,正社員と非正規社員の分断をますます助長することになるので,同一労働同一賃金を実現するのであれば,人件費の問題はありますが,非正規社員の労働条件を正社員の労働条件の水準にまで,徐々に向上させていく必要があります。

 

労働者全体の労働条件を向上させていくためにも,郵政グループの住居手当廃止が悪しき前例にならないことを願います。

解雇と専門業務型裁量労働制の適用を争い,解雇撤回と未払残業代600万円を勝ち取った事件

クライアントは,テレビ番組やコマーシャルの企画制作,結婚式における映像を制作する会社の課長として働いていましたが,会社から「業務上の指示,命令にしばしば従わず,チームワークを乱すなど組織不適応と認められるため。」という理由で解雇されました。

 

クライアントの話を聞くに,クライアントは,社長や上司の指示に従っており,組織不適応とはいえないことから,解雇を争うことにしました。また,クライアントは,長時間労働していたのですが,裁量労働手当として毎月23,000円の支払を受けていただけで,適法に残業代が支払われていなかったことから,未払残業代を計算して,合計約716万円の未払残業代を請求しました。

 

裁判では,被告会社は,クライアントが放送番組の制作におけるプロデューサーであると主張して,クライアントには,専門業務型裁量労働制が適用されるとして争ってきました。

 

しかし,クライアントが行っていた仕事は,結婚式場への営業と結婚式当日における映像の撮影・編集等であり,クライアントは,プロデューサーではないと主張しました。

 

また,専門業務型裁量労働制の要件として,「対象業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し,当該対象業務に従事する労働者に対し使用者が具体的な指示をしないこと」という要件がありますが,クライアントの上司は,クライアントに対し,新規の営業や報告書の提出を求めるといった具体的な指示をしていたので,この要件を満たしていませんでした。

 

さらに,専門業務型裁量労働制の労使協定を締結するには,労使協定を締結する労働者の過半数代表を投票や挙手で選出しなければなりませんが,被告会社では,労働者の過半数代表を選出する手続が何も実施されていませんでした。

 

このように,被告会社の専門業務型裁量労働制は労働基準法の要件を満たしていないため,クライアントには専門業務型裁量労働制が適用されず,クライアントの未払残業代請求が認められることになり,最終的には,被告会社がクライアントに対して600万円の未払残業代を支払い,さらに,被告会社の解雇を撤回させて,和解が成立しました。

 

専門業務型裁量労働制は,労働基準法の要件が厳しく,適法に専門業務型裁量労働制を運用している会社は少ないと考えられます。裁量労働だからという理由で,会社から残業代が支払われていない場合,未払残業代が請求できる可能性がありますので,弁護士へ一度ご相談することをおすすめします。

会社の懇親会後の交通事故は労災になるのか?

会社の歓送迎会に参加した後の送迎中に交通事故にあった労働者について,労災が認められた最高裁判例を紹介します(最高裁平成28年7月8日判決・行橋労基署長(テイクロ九州)事件・労働判例1145号6頁)。

 

被災労働者は,部長から,中国人研修生の歓送迎会に参加するよう言われましたが,翌日までに提出しなければならない資料作成があるため,一度は,歓送迎会に参加することを断りましたが,部長から,「今日が最後だから,顔を出せるなら,出してくれないか。」と説得されて,参加することになりました。

 

被災労働者は,資料作成を一時中断して,会社の車に乗って,歓送迎会に参加し,アルコール飲料は飲まずに,飲食をしました。被災労働者は,酩酊している中国人研修生をアパートに送迎してから,会社に戻るために運転していたところ,交通事故にあい,死亡しました。

 

被災労働者の遺族が,遺族補償給付の請求をしましたが,不支給の決定を受けたので,不支給決定の取消を求めて,提訴しました。1審と2審では,労災とは認められず,遺族が敗訴しましたが,最高裁で逆転勝訴となり,労災と認められました。

 

最高裁は,次の事実をもとに,労災と認めました。まず,被災労働者は,部長から歓送迎会に参加してほしいと強く求められたため,歓送迎会に参加しないわけにはいかない状況となり,歓送迎会終了後に会社に戻ることを余儀なくされました。

 

次に,本件歓送迎会は,研修の目的を達成するために会社で企画された行事の一環であり,会社の事業活動に密接に関連して行われたものでした。

 

これらのことから,交通事故の際,被災労働者は,会社の支配下にある状態であったと認定されて,労災と認められました。

 

通常,歓送迎会が会社外で行われて,アルコール飲料が提供されていれば,歓送迎会後の交通事故は,労災と認められにくいのですが,本件は,上司から歓送迎会への参加を強引に誘われて断れず,歓送迎会後に仕事に戻らなければならなかった事情を考慮して,労災と認められた貴重な判例です。

 

懇親会参加後の交通事故であっても,懇親会参加への強制や,懇親会後に仕事を再開することが予定されていたことを立証することで労災と認定される場合がありますので,労災に詳しい弁護士へご相談することをおすすめします。

 

労災でお困りの方は,金沢合同法律事務所へご相談ください。

 

高度プロフェッショナル制度の危険性

平成30年4月6日,働き方改革関連法案が閣議決定されて,国会に提出されました。今後,国会で,働き方改革関連法案が審議されていきます。

 

この働き方改革関連法案の中で一番問題なのは,高度プロフェッショナル制度,通称高プロと呼ばれるものです。高プロとは,年収が一定以上の労働者の労働時間規制を除外するものです。簡単に言うなら,高プロが適用される労働者は,どれだけ働いても,残業代がゼロになってしまいます。そのため,高プロは,残業代ゼロ法案として,批判されています。

 

なぜ高プロがこれほど批判されているのかといいますと,長時間労働を原因とする過労死や過労自殺が後を絶たず,長時間労働の規制が叫ばれている中,労働時間の規制を撤廃すれば,より長時間労働が助長されて,過労死や過労自殺が蔓延する危険性があるからです。

 

高プロでは,上司がノルマを課したり,仕事の仕方を指示することが可能なので,仕事の量の決定権がない労働者は,際限のないノルマを課せられて,より過酷な長時間労働に陥ってしまう危険があります。

 

高プロは,今のところ,金融商品の開発,ディーリング業務,アナリスト,コンサルタント,研究開発業務の5種類で,年収1075万円以上の労働者が対象とされています。

 

しかし,これらの5種類の対象業務は,厚生労働省令で定められるので,国会の議論を経ずに,拡大される危険があります。また,年収要件も,1075万円以上から,段階的に引き下げられて,対象労働者が拡大する危険もあります。

 

高プロが適用されて,得をする労働者はいないと思いますので,労働者の方々には,高プロに反対してもらいたいです。

 

なお,高プロの問題点については,日本労働弁護団の解説パンフレット(http://roudou-bengodan.org/topics/5055/)に,分かりやすい説明が掲載されていますので,ぜひ参考にしてみてください。

 

また,今回のブログは,朝日新聞に掲載されていた南山大学法学部の緒方桂子教授のインタビュー記事を参考にさせていただきました。

上司の言動が配転命令と一体となってパワハラになり,慰謝料が認められた事件

上司の言動が,配転命令と一体として考えれば,不法行為に該当し,原告労働者に対して,慰謝料100万円が認められたパワハラの事件を紹介します(東京高裁平成29年4月26日判決・ホンダ開発事件・労働判例1170号・53頁)。

 

原告労働者は,大学院を卒業後,被告会社に就職し,総務課に配属されましたが,ミスが続き,担当をはずされました。原告労働者は,個人面談の際に,上司から,「あなたのやっていることは仕事ではなく,考えなくても出来る作業だ。」と言われました。

 

また,会社の懇親会の二次会の席で,原告労働者は,上司から,「多くの人がお前をバカにしている。」と言われました。その後,原告労働者は,ミスや処理の遅れがあったり,他部門からクレームを受けたりしました。

 

原告労働者は,しばらくしてランドリー班に配置転換となりました。ランドリー班とは,クリーニング機械の操作や洗濯物の運搬,事務的な業務を行う部署であり,これまでの原告労働者の業務とは全く関係のない部署でした。

 

原告労働者は,上司の言動により,精神的苦痛を受けた上,合理的な理由なく,不当な動機・目的によってランドリー班に配置転換させられたと主張して,損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

判決では,ランドリー班への配置転換は,ランドリー班の業務量の増大と人員補充の必要性から有効とされました。もっとも,大学院卒業後に採用された新入社員である原告労働者に対する上司の言動は,配慮を欠き,原告労働者に屈辱感を与えるものであり,これらの言動と,総務係からそれまでの業務と関係がなく周囲から問題のある人とみられるようなランドリー班に配置転換させられたことは一体として考えれば,原告労働者に対し,通常甘受すべき程度を著しく越える不利益を課すといえ,不法行為に該当すると判断されて,100万円の慰謝料が認められました。

 

上司の言動だけではなく,これまでの業務と関係なく,あきらかに労働者を窓際に追いやるような配置転換とを一体と評価して,違法なパワハラであると判断した点に本判決の特徴があります。パワハラを争う場合には,不当な配置転換がなかったかを検討することが必要です。

 

パワハラでお悩みの労働者は,金沢合同法律事務所へご相談ください。

 

 

過労事故死において安全配慮義務が認められる

当時24歳であった労働者が,長時間不規則労働の末に帰宅途中に電柱にぶつかるという単独バイク事故を起こして死亡しました。遺族は,被告会社に対して,安全配慮義務違反があったとして,損害賠償請求訴訟を提起しました。

 

今年2月8日,横浜地裁川崎支部は,通勤途中の過労運転事故を防ぐ安全配慮義務を認定したうえで,約7600万円の損害賠償と謝罪及び再発防止を約束させる和解決定をし,これが受託されました。

 

裁判所は,被害者が長時間労働,深夜早朝の不規則勤務による過重な業務によって,疲労が過度に蓄積し顕著な睡眠不足の状態に陥っていたことが原因で,居眠り状態に陥って,交通事故死するに至ったことと,被告会社が原付バイクによる出勤を指示,容認していたことを認定しました。

 

そして,裁判所は,「使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務やそのための通勤の方法等の業務内容及び態様を定めてこれを指揮監督するに際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積したり,極度の睡眠不足に陥るなどして,労働者の心身の健康を損ない,あるいは労働者の生命・身体を害する事故が生じないよう注意する義務(安全配慮義務)を負う」と判断しました。

 

安全配慮義務とは,労働者が生命や身体の安全を確保しつつ働けるように必要な配慮をする義務です(労働契約法5条)。これまで,通勤帰宅途中の交通事故は,会社の指揮命令の外のことであり,労働者の自己責任とされて,会社の安全配慮義務違反の責任を問うのは難しいとされていました。

 

また,労災認定上,通勤災害は,通勤経路上の交通事故であれば労災認定されるのですが,交通事故の背景にある長時間労働等の過労実態については調査されることはなく,会社は過労事故の対策を怠っていました。

 

本件事件は,通勤の方法についても,会社の安全配慮義務の範囲を明確に拡張した点で重要です。また,和解では,被告会社が,再発防止策として,11時間の勤務間インターバルを就業規則に明記すること,男女別仮眠室の設置や深夜タクシーチケットを導入することを約束したようで,このことも画期的です。

 

今後,過労事故死の撲滅に向けて,実態解明と防止対策が進むことを期待したいです。

 

過労死,過労自殺,過労事故死については,金沢合同法律事務所へご相談ください

労働災害,残業代請求,解雇のページをリニューアルしました

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について,記事内容を充実させて,リニューアルしました。

プロフェッショナル進化論~「個人シンクタンク」の時代が始まる~

田坂広志先生の「知的プロフェッショナルへの戦略」を読み,私は,田坂先生のファンになりました。そして,「知的プロフェッショナルへの戦略」を紹介していただいた名古屋の弁護士北村栄先生に,次に読むべき田坂先生の著書についてお聞きしたところ,「プロフェッショナル進化論」を紹介していただいたので,早速読んでみました。

 

インターネット革命とウェブ2.0革命を経て,全てのプロフェッショナルは,個人シンクタンクへ進化していくことになります。今後,プロフェッショナルは,①情報や知識を集めて,②業界や市場の将来についての新たな知見を得て,③業界や市場でこれから何が起こるのかを予見し,④これから何を目指すのかのビジョンを提示し,⑤これから何をなすべきかのコンセプトを提案し,⑥未来予見,ビジョン,コンセプトを周囲に伝え,⑦現状変革のための動きを創り出していく,といった7つのシンクタンク機能が求められます。

 

そして,田坂先生は,個人シンクタンクへの進化のための6つの戦略を提言しています。この中から,気付いたことを3つ紹介します。

 

1点目は,世の中に自分の意見やメッセージを伝えて,世の中に良き影響を生み出すためのパーソナルメディアを持つことです。パーソナルメディアにおいて,継続的に読者に対して,役に立つ情報,知識,知恵を整理して伝えることは,大きな努力を必要とし,そのことで腕を磨くことができます。また,「批評とは,人をほめる特殊の技術である。」と言われるように,何かを批評をする場合には,必ずポジティブメッセージを語る必要があります。

 

2点目は,自分の持つ専門的な知識を,分かりやすく語り,世の中に伝えることです。高度な専門知識を素人にも分かりやすく語るためには,①知識の本質を把握し,②相手の状況を判断し,③相手の気持ちを感じ取り,④簡明な論理を展開して,⑤比喩や物語を駆使する,といった様々な力が必要になります。

 

3点目は,人々の知恵が集まるコミュニティを創り出すために,まず自らメンバーに深く共感することです。ここで,「共感」とは,「深い縁を感じること。その縁を大切にすること。」と提示されています。なるほど,ネットが進化したことで,以前であれば巡り会えなかった人と縁をいただくことが容易になったので,縁を感じて大切にすることが共感につながるのです。

 

私は,今後ともブログやフェイスブックで読者にとって役立つ情報を発信し,難しい法律の問題を分かりやすく解説して,これから巡り合う方々との縁を大切にして,個人シンクタンクへ進化していきます。専門職がキャリアアップのための最高の指南書です。