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会社が新型コロナウイルスの感染対策をしてくれない場合の対処法

1 会社が新型コロナウイルスの感染対策をしてくれない

 

 

新型コロナウイルスに関連する労働問題の電話相談が断続的にあります。

 

 

電話相談の中には,会社が新型コロナウイルスの感染対策

を十分にしてくれないという不満の声もありました。

 

 

 

隣の県へ研修に行くのを命じられた際,

一部の社員は社用車で行くのに,

一部の社員は公共交通機関で行くように言われ,

公共交通機関で新型コロナウイルスに感染するリスク

を考えてくれないといったことがあるようです。

 

 

本日は,会社が新型コロナウイルスの感染対策をとってくれない場合に,

労働者に何ができるのかについて検討します。

 

 

2 会社の安全配慮義務

 

 

まず,会社は,労働者に対して,労働災害を防止することに加えて,

快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて,

職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない

義務を負っています(労働安全衛生法3条)。

 

 

そして,会社は,労働者に対して,生命と身体の安全を確保しつつ

労働することができるように必要な配慮をしなければなりません

(労働契約法5条)。

 

 

これを,安全配慮義務といいます。

 

 

そのため,会社は,仕事中や通勤において,

労働者が新型コロナウイルスに感染して健康を害することがないように

配慮しなければならない義務を負っているのです。

 

 

具体的には,マスクを持っていない労働者に対して,

マスクを配布する,職場にアルコール消毒液を設置する,

職場の換気を行う,テレワークや時差出勤をさせることなどが,

安全配慮義務の内容になります。

 

 

3 衛生委員会

 

 

次に,常時50人以上の労働者を使用する事業場では,

衛生委員会が設置されなければなりません

(労働安全衛生法18条1項)。

 

 

衛生委員会では,職場の衛生について,

計画の策定,実施,評価,改善に関することについて議論されます。

 

 

衛生委員会は,毎月1回開催されなければならず,

衛生委員会の議論については,議事録として労働者に対して

公開されます(労働安全衛生規則23条)。

 

 

衛生委員会の設置を義務付けられている会社では,

衛生委員会において,職場における新型コロナウイルスの感染対策を

決めなければならないことになります。

 

 

 

4 労働組合への相談

 

 

次に,会社は労働者に対して安全配慮義務を負っていますので,

労働者は,会社に対して,新型コロナウイルスの感染対策を

実施するように求めるべきですが,会社が対応してくれない場合,

会社に労働組合があれば,労働組合に相談してみましょう。

 

 

労働組合が,団体交渉という形で,会社に対して,

新型コロナウイルスの感染対策の実施を要求すれば,

会社は,正当な理由がない限り,団体交渉を拒めないので,

対応を検討してくれる可能性があります。

 

 

会社に対する要求を実現したいときには,

労働組合の団体交渉が強力です。

 

 

仮に,労働組合がない会社であれば,

新型コロナウイルスの感染対策は,

経営者も含めた共通の懸念事項ですので,

職場の他の労働者と共同で,

会社に対して新型コロナウイルスの感染対策を実施するように

要求することをおすすめします。

 

 

労働者1人の意見だと,会社は重視しないかもしれませんが,

職場の大多数の労働者の意見であれば,会社は無視できません。

 

 

会社の外の労働組合に相談することもできます。

 

 

それでも,会社が新型コロナウイルスの

感染対策をしてくれない場合には,労働基準監督署に相談して,

会社に対して,是正の指導をしてもらいましょう。

 

 

法律上,会社に対して,新型コロナウイルスの感染対策の実施を

強制できるものがないので,上記の方法で

粘り強く会社と交渉するしかありません。

 

 

会社が新型コロナウイルスの感染対策を怠って,

労働者が職場で新型コロナウイルスに感染して損害を被ったなら,

会社に対して,損害賠償請求をすることができますが,

新型コロナウイルスの感染対策の実施を強制まではできないのです。

 

 

多くの職場で,労働者が安心して働けれるよう,

新型コロナウイルスの感染対策が実施されることを祈っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中に新型コロナウイルスに感染した場合,労災申請をしつつ傷病手当金の申請もする

1 仕事中に新型コロナウイルスに感染して会社を休むことになったら

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大がとまりません。

 

 

 

2020年4月2日の段階で全国の感染者の総数は

3450人となりました。

 

 

自分がいつ感染してもおかしくない状況になりつつあります。

 

 

もし,新型コロナウイルスに感染してしまった場合,

最低2週間ほどは会社を休まなければならなくなりますので,

治療費や会社を休んでいる期間の給料のことが気になります。

 

 

本日は,仕事中に新型コロナウイルスに感染してしまった場合の

労災申請や傷病手当金について解説します。

 

 

2 新型コロナウイルス感染症と労災申請

 

医療機関で働いている医師や看護師が,

新型コロナウイルスに感染した患者の診療をして

新型コロナウイルスに感染したり,海外渡航が禁止される前に,

中国,アメリカ,ヨーロッパなどに海外出張へいき,

日本に帰国後に新型コロナウイルス感染症を発症した場合には,

労災申請をすることを検討します。

 

 

仕事をしていたときに新型コロナウイルスに感染したのであれば,

労災保険を利用すれば,治療費を労災保険から全額支給してもらい,

仕事を休んでいる期間の給料の8割を補償してもらうことができます。

 

 

労災と認定されるためには,業務が原因となって

新型コロナウイルス感染症が発症したといえなけばなりません。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

新型コロナウイルス感染症の場合,

仕事中における感染機会や感染経路が明確に特定され,

感染から発症までの潜伏期間や症状などに医学的な矛盾がなく,

仕事以外の感染源や感染機会が認められない場合に,

業務起因性が認められて,労災と認定されます。

 

 

医療機関で働いている医師や看護師の場合であれば,

プライベートな活動で新型コロナウイルスに感染する機会がなかったなら,

業務起因性は肯定されやすいと考えます。

 

 

 

海外出張の場合は,新型コロナウイルスが流行している地域に出張して,

商談などで新型コロナウイルスの感染者と接触し,

プライベートな活動中に感染機会がなかったなら,

業務起因性が認められると考えます。

 

 

しかし,海外出張先の商談相手が新型コロナウイルスの

感染者だったと証明できないかもしれず,また,

海外出張中に立ち寄ったレストランで感染した可能性もあるなど,

業務起因性が認められるか不明です。

 

 

また,国内において,接客などの対人業務において,

新型コロナウイルスの感染者と濃厚接触し,

仕事以外に感染者との接触や感染機会が認められないときには,

業務起因性が認められると考えます。

 

 

この場合も,仕事中に新型コロナウイルスの感染者と

濃厚接触したという感染経路を証明できるのかという問題がでてきます。

 

 

このように,仕事が原因で新型コロナウイルスに感染したとして

労災申請をする場合,自身の感染経路を証明することが

ハードルになる可能性があります。

 

 

また,調査する労働基準監督署も,時間と労力がかかりますので,

労災と認定されるまでに時間がかかることがあります。

 

 

3 傷病手当金の申請

 

 

そこで,労災の認定までに時間がかかり,

その間に仕事を休んでいる給料の補償が欲しい場合には,

健康保険の傷病手当金の受給をします。

 

 

傷病手当金は,仕事とは関係ない傷病で休業した労働者が

会社から十分な報酬が受けられない場合に

健康保険協会などから受けることができる手当金です。

 

 

傷病手当金は,最大1年6ヶ月間,

おおむね給料の3分の2(70%弱)の支給がされます。

 

 

傷病手当金は,会社と主治医の証明をもらって申請書を提出すれば,

労災よりも早く受給できます。

 

 

もっとも,労災保険の休業補償給付と

傷病手当金の両方を受給することはできません。

 

 

そこで,労災申請と,傷病手当金の申請をして,

傷病手当金の受給後に労災認定されれば,

労災保険から休業補償給付が支給されるので,

それですでに支払われた傷病手当金を返還すればいいのです。

 

 

労災の休業補償給付は給料の80%で,

傷病手当金は給料の70%弱なので,

労災認定されれば,傷病手当金を十分に返還できます。

 

 

そのため,仕事中に新型コロナウイルスに感染したものの,

感染経路の調査に時間がかかりそうであれば,労災申請をしつつ,

傷病手当金を受給するのがいいと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスに感染してしまって仕事を休むときには労災保険の休業補償給付か健康保険の傷病手当金の受給を検討する

1 万が一新型コロナウイルスに感染してしまい仕事を休まないといけなくなったら

 

 

連日,新型コロナウイルスの感染拡大のニュースが報道されています。

 

 

 

本日は,新型コロナウイルスに感染してしまって,

会社を休むことになったときの補償について解説します。

 

 

2 仕事をしていて新型コロナウイルスに感染したなら労災保険の申請を検討する

 

 

まず,仕事をしていて新型コロナウイルスに感染してしまった場合に,

どのような補償がされるのかを解説します。

 

 

具体的には,新型コロナウイルスに感染した患者の処置を担当した

医師や看護師が新型コロナウイルスに感染したケースが考えられます。

 

 

また,私の地元石川県では,小松マテーレ株式会社の労働者3名が,

パリに出張していた際に新型コロナウイルスに感染したようです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200302/k10012310211000.html

 

 

このように,仕事をしていて新型コロナウイルスに感染した場合,

症状が軽かったとしても,接触した人に感染させてしまう

リスクがあるので,仕事を休まなくてはなりません。

 

 

そこで,仕事をしていて新型コロナウイルスに感染して,

仕事を休むことになったときには,

労災保険の休業補償給付の申請をすることを検討します。

 

 

労災と認定されれば,コロナウイルスで治療を受けている労働者で

休業していれば,休業4日目から,おおむね,

給料の8割分が労災保険から支給されますし,

治療費も労災保険から支給されます。

 

 

ただ,仕事をしていて新型コロナウイルスに感染したという

因果関係を証明できるのかという問題はあります。

 

 

3 プライベートな活動をして新型コロナウイルスに感染したなら健康保険の傷病手当金の申請を検討する

 

 

次に,仕事とは関係なく,プライベートな活動をしていて

新型コロナウイルスに感染してしまった場合に

どのような補償がされるのかを解説します。

 

 

 

大阪のライブに参加した人が新型コロナウイルスに感染したようです。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20200303/k00/00m/040/318000c

 

 

ライブのように仕事とは無関係のプライベートな活動をして,

新型コロナウイルスに感染してしまい,

治療のために,仕事を休むことになったときには,

健康保険の傷病手当金の受給を受けられないかを検討します。

 

 

傷病手当金とは,仕事以外の傷病で欠勤し,

給料が支給されない場合に,安心して療養に専念できるように,

健康保険の保険者から賃金の一部に相当する現金が給付される制度です。

 

 

仕事以外の傷病による療養のため仕事ができず,

欠勤が3日連続であり,給料の支給がない場合に,

欠勤4日目から傷病手当金が支給されます。

 

 

傷病手当金の支給金額は,

直近12ヶ月平均の標準報酬日額の3分の2の金額が支給されます。

 

 

傷病手当金の申請をするためには,

協会けんぽに傷病手当金の申請書を提出します。

 

 

こちらのサイトから傷病手当金の申請書をダウンロードできます。

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/

 

 

なお,仕事とは無関係のプライベートな活動をして,

新型コロナウイルスに感染した場合,治療費は自己負担になります。

 

 

4 年次有給休暇を利用するのが最も簡便

 

 

さて,新型コロナウイルスに感染して,

仕事を休むことになったときには,

労災保険の休業補償給付や健康保険の傷病手当金の受給を検討しますが,

いずれも,医師の診断が必要になり,

認定されるまでに時間がかかります。

 

 

そう考えると,新型コロナウイルスに感染して仕事を休むときには,

年次有給休暇を利用するのが,労働者にとって最も簡便だと考えます。

 

 

年次有給休暇であれば,会社に年次有給休暇の申請をするだけで

手続は簡単であり,仕事を休んだ期間の給料が全額支給されるからです。

 

 

潜伏期間が2週間であれば,土日を除く平日10日間を

年次有給休暇を利用して休めば,10日間の給料が補償されて,

安心して休めます(年次有給休暇が10日残っていればの話しですが)。

 

 

新型コロナウイルス関連で仕事を休まざるをえないとき,

年次有給休暇が残っているのであれば,

年次有給休暇を取得してみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスに感染したバス運転手とツアーガイドは労災と認定されるのか

1 新型コロナウイルスの感染が拡大しています

 

 

中国湖北省武漢を中心に,新型コロナウイルスによる

肺炎が拡大しており,2020年2月3日現在で,

感染者の数は1万人を超え,中国における死者が300人を超えました。

 

 

日本では,武漢からのツアー客を乗せたバスの運転手と,

そのバスに同乗していたツアーガイドの女性が,

新型コロナウイルスに感染していたことが明らかになっています。

 

 

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye3892005.htm?1580686339337

 

 

このバス運転手とツアーガイドは,武漢への渡航歴がなかったようです。

 

 

そのため,バスツアーの仕事をしていたときに,

新型コロナウイルスに感染したと言えそうです。

 

 

 

2 仕事中にウイルスに感染したら労災と認定されるのか

 

 

このように,仕事中にウイルスに感染した場合,

労災と認定されるのでしょうか。

 

 

まず,仕事が原因で疾病が発症した場合,

その疾病が労働基準法施行規則別表第1の2に記載されていれば,

仕事が原因で疾病が発症したといいやすくなります。

 

 

この別表第1の2の6号に

細菌,ウイルス等の病原体による次に掲げる疾病

が記載されています。

 

 

基本的には,医師や看護師が患者の診察や治療の機会に

病原体を取り扱う仕事をしているため,

病原体に感染するリスクが高いことから,規定されています。

 

 

C型肝炎,エイズ,MRSA感染症については,

通達で労災の認定基準が定められています。

 

 

http://labor.tank.jp/hoken/nintei/kansensyou-ckanen-etc.html

 

 

この別表第1の2の6号には,医師や看護師が

病原体に感染する場合以外に,5として,

これらの疾病に付随する疾病その他細菌,ウイルス等の病原体

にさらされる業務に起因することの明らかな疾病」が規定されています。

 

 

バスツアーの仕事をしていて新型コロナウイルスに感染した場合,

この別表第1の2の6号の5に該当するとして,

労災と認定される可能性が高いと考えます。

 

 

 

3 業務遂行性と業務起因性

 

 

また,労災と認定されるためには,業務遂行性を前提に

業務起因性が認められる必要があります。

 

 

業務遂行性とは,労働者が労働契約に基づき

事業主の支配下にある状態をいい,

仕事をしているときに労災事故にまきこまれれば,

業務遂行性が認められます。

 

 

業務起因性とは,相当因果関係があることをいい,

業務に内在する危険が現実化したものによる,とも言われます。

 

 

ようするに,仕事が原因で,疾病を発症したといえればいいのです。

 

 

武漢から来たツアー客を乗せたバスを運転していたり,

ツアーガイドをしていれば,ツアー客の中に

新型コロナウイルスに感染している人がいれば,

バスの運転手やツアーガイドも

新型コロナウイルスに感染するといえそうです。

 

 

そのため,バスの運転手やツアーガイドの業務に内在する

危険が現実化したといえ,労災と認定される可能性があります。

 

 

労災と認定されれば,治療費は全額労災保険から支給されますし,

病気で仕事を休んでいる期間の給料の8割が支給されますので,

安心して,治療に専念することができるのです。

 

 

早急に,新型コロナウイルスの感染が終息に向かうことを祈っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中に犯罪行為にまきこまれた場合に労災が適用されるのか

1 京都アニメーション事件で労災認定

 

36人が死亡し,33人が重軽傷を負った

京都アニメーション放火殺人事件において,

労災の認定がされたようです。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO54402660V10C20A1AC1000/

 

 

労災と認定されたことで,

お怪我をされた方に対しては,

治療費が労災保険から支払われ,

治療のために会社を休んでいる期間について,

給料の8割が補償されますので,

安心して治療に専念できます。

 

 

 

被災労働者がお亡くなりになった場合には,

ご遺族に対して,遺族補償給付として,

年金や一時金が支給され,葬儀費用も支給されます。

 

 

京都アニメーション事件のような重大犯罪が発生した場合,

被害者に対して,損害賠償責任を負うのは,加害者なのですが,

残念ながら,このような犯罪をする加害者は,

お金を持っていないことがほとんどで,被害者が加害者から,

損害賠償請求を受けるのは極めて困難です。

 

 

また,このような重大犯罪の場合,加害者は,

突発的に犯罪を実行することが多く,会社としては,

犯罪に備えて対策をとることも難しく,被害者が会社に対して,

安全配慮義務(労働者の生命・健康を危険から保護するよう配慮する義務)

違反を理由に,損害賠償請求するのも困難です。

 

 

とくに,京都アニメーション事件のような場合,

会社も被害者なので,被災労働者も,会社に対して,

責任追及をしたくないと考えると思いまし,

仮に,会社が被災労働者のために補償したいと考えても,

会社にお金がないと補償は実現できません。

 

 

2 仕事中に犯罪行為にまきこまれたときに労災を利用できないか

 

 

そのため,加害者でもなく,会社でもなく,

国に補償してもらえないかについて検討してみるのです。

 

 

すなわち,仕事中に犯罪行為にまきこまれてしまった場合,

労災保険が適用されないかを検討するのです。

 

 

労災保険は,仕事をしているときに(業務遂行性),

仕事が原因で(業務起因性),負傷したときに適用されます。

 

 

仕事中に犯罪行為にまきこまれた場合,

業務遂行性は認められますが,

業務起因性が認められるかが争点になります。

 

 

3 仕事中に犯罪行為にまきこまれたときに労災が適用される場合とは

 

 

通達では,「他人の故意に基づく暴行によるものについては,

当該故意が私的怨恨に基づくもの,

自招行為によるものその他明らかに業務に起因しないものを除き」,

業務起因性が認められるとされています。

 

 

 

被災労働者が自分で加害者を挑発して,

加害者から暴行を受けたような場合には,

自業自得ということで,業務起因性が認められなくても納得できます。

 

 

やっかいなのは,仕事中に加害者の私的怨恨による

犯罪行為にまきこまれた場合です。

 

 

古い裁判例ですが,呉労基署長事件の

広島高裁昭和49年3月27日判決では,

農協の窓口業務をしていた女性労働者が,

一方的に恋愛感情を抱いていた顧客に,

職場で刺殺された事件について,

業務起因性が否定されました。

 

 

他方,尼崎労基署長事件の

大阪高裁平成24年12月25日判決では,

競馬場のマークレディが,一方的に恋愛感情を抱かれていた

警備員から殺害された事件について,業務起因性が肯定されました。

 

 

加害者の私的怨恨による犯罪行為の場合に

業務起因性が認められるかは,なかなか判断が難しいです。

 

 

京都アニメーション事件の場合,多くの方が犠牲になり,

被害も甚大であったため,京都の労働基準監督署や労働局は,

被害者を救済するために政策的に労災と認定したのかもしれません。

 

 

なお,地下鉄サリン事件では通勤中や仕事中にまきこまれた

被害者に対して労災が適用されていたようです。

 

 

このように,仕事中に犯罪行為にまきこまれた場合には,

労災が適用されて,被害者が少しでも救済されるようになってほしいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災隠しは犯罪なので労災隠しに加担せずに労災申請をしましょう

1 労災隠しの犯罪で逮捕のニュース

 

 

報道によりますと,石川県宝達志水町の家屋解体現場において,

日雇労働者がダンプカーの荷台から転落して

右鎖骨を折る全治6ヶ月の怪我を負ったにもかかわらず,

雇用主が労災事故のことを,労働基準監督署へ報告しなかった

という労災隠しの犯罪がありました。

 

 

 

雇用主が労災事故のことを労働基準監督署に報告しないだけでなく,

日雇労働者は,市役所には,労災事故ではなかったと虚偽の事実を伝えて,

生活保護の医療扶助を受給したようです。

 

 

その結果,関係者4人が労働安全衛生法違反と

詐欺の疑いで逮捕されました。

 

 

石川県で労災隠しの犯罪で逮捕までいくのは珍しいと思います。

 

 

本件事件では,報道によりますと,

労災事故にあった日雇労働者も労災隠しに加担しているようですが,

労働者は,労災隠しに加担してはいけません。

 

 

雇用主からの労災隠しに応じてしまうと,

労働者には色々なデメリットが生じてくるのです。

 

 

2 労災隠しは犯罪です

 

 

まず,労災事故が発生した場合,会社は,

労働基準監督署に対して,労働者死傷病報告書を提出して,

労災事故が発生したことを報告しなければなりません

(労働安全衛生法100条,労働安全衛生規則97条)。

 

 

会社がこの労働基準監督署への報告をしないことを,

労災隠しといい,労災隠しをした会社に対して,

50万円以下の罰金が科せられることがあります。

 

(厚生労働省のポスター)

 

 

会社は,労災事故を契機に労働基準監督署の調査を受けることで,

労働法令を守っていなかったことが発覚することをおそれたり,

労災保険料が増額されることをおそれたりして,

労災隠しをしてしまうことがあるのです。

 

 

3 労災隠しによる労働者のデメリット

 

 

会社が労災隠しをすると,労災事故にあった労働者は,

労災保険を利用できません。

 

 

労災保険を利用できれば,労働者は,治療費を負担することなく,

会社を休んでも給料の8割が休業補償給付として支給されるので,

安心して,治療に専念することができます。

 

 

また,労災事故にあった労働者が治療の結果,

後遺障害が残ったとしても,労災保険から障害補償給付が支給されます。

 

 

これに対して,労災隠しをされて,労災保険が利用できない場合,

治療費は自己負担となり,後遺障害が残っても補償はありません。

 

 

労災保険が利用できなくても,会社を休んだときには,

傷病手当金を受給できますが,

給料の3分の2が最長1年6ヶ月補償されるものの,

労災保険の休業補償給付の方が,補償が手厚いです。

 

 

また,労災隠しをされて,労働基準監督署が調査をしないまま,

証拠がなくなってしまい,後日,会社に対して,

損害賠償請求をしようとしても,証拠がないために,

損害賠償請求が認められないリスクがあります。

 

 

このように,労災隠しは,労働者にとって,

デメリットしかありませんので,会社が労災を隠そうとしても,

労働者は,毅然として,労働基準監督署に対して,

労災の申請をするべきなのです。

 

 

会社が労災申請に反対しても,

労働基準監督署にそのことを説明すれば,

労働者個人で労災申請できます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労死した飲食店の店長の労災保険給付金の算定と固定残業代

1 給付基礎日額とは

 

 

労災保険から支給される保険給付金は,

給付基礎日額をもとに算定されます。

 

 

後遺障害が残ったときに支給される障害補償給付や,

被災労働者が死亡したときにご遺族に支給される遺族補償給付は,

給付基礎日額の何日分として支給されるのです。

 

 

 

この給付基礎日額は,労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の

賃金の総支給額を日割り計算したものをいいます。

 

 

2 給付基礎日額の計算には未払残業代も含まれる

 

 

給付基礎日額を計算するうえで,

残業代が含まれているのかをチェックする必要があります。

 

 

給付基礎日額を計算するための賃金の総支給額を算出するにあたり,

現実に支払われた賃金だけではなく,実際には支払われていなくても,

労働基準法の適用上支払われるべき賃金債権も含まれるのです。

 

 

そのため,会社が残業代を支払っていなくても,

給付基礎日額の計算においては,

未払残業代を含めて給付基礎日額を計算するのです。

 

 

労災認定されたけれども,直前3ヶ月間に長時間労働をしていたのに,

未払残業代が給付基礎日額に反映されていない場合には,

審査請求などの不服申立をして,是正を求める必要があります。

 

 

3 給付基礎日額の計算に固定残業代も含まれるのか

 

 

さて,この給付基礎日額の計算にあたり,

固定残業代を賃金の総支給額に算入してもよいのかについて,

労働者に有利な判決がありました。

 

 

国・茂原労基署長(株式会社まつり)事件の

東京地裁平成31年4月26日判決です(労働判例1207号56頁)。

 

 

この事件では,過労死した飲食店の店長のご遺族が労災申請して,

労災認定されたのですが,遺族補償給付の給付基礎日額の計算にあたり,

超過勤務手当10万円,深夜業手当5000円の固定残業代が

算入されていなかったため,ご遺族が審査請求したのですが,

認められなかったため,取消訴訟を提起しました。

 

 

固定残業代が有効になるためには,

固定残業代が時間外労働の対価として支払われている必要があります。

 

 

 

この対価性の要件を検討するには,

労働契約書の記載内容のほか,

会社による当該手当の説明の内容,

労働者の実際の労働時間の勤務状況を考慮して決めます。

 

 

この事件では,労働契約が口頭でなされており,

契約書が作成されていないこと,

会社が労働契約締結時に固定残業代と割増賃金の

関係について説明していないことから,

固定残業代が時間外労働の対価として

支払われているものとはされていないと判断されました。

 

 

その結果,給付基礎日額の計算において,

固定残業代を賃金の総支給額に算入すべきこととなり,

遺族補償給付の金額が増額されました。

 

 

過労死事件でも,固定残業代を無効として争うことで,

給付基礎日額が増えて,ご遺族に支給される

遺族補償給付の金額が増える可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災民事訴訟では安易に素因減額が認められるべきではない

1 素因減額とは

 

 

先日ブログで,パチンコ店において,

上司からパワハラを受けて,うつ病を発症したことについて,

損害賠償請求をした松原興産事件の

大阪高裁平成31年1月31日判決

(労働審判1210号32頁)を紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201912258870.html

 

 

この事件では,上司の部下に対するパワハラの存在以外にも,

もう一つ大きな争点がありました。

 

 

それが素因減額です。

 

 

素因とは,損害の発生や拡大に寄与する

被害者の肉体的・精神的要因のことです。

 

 

被害者の心因的要因や既往症が損害の発生や拡大に

寄与している場合には,損害の公平な分担という考え方から,

この素因を斟酌して,損害額を減額できるというものです。

 

 

労災事故における損害賠償請求の訴訟では,

既往症,被災労働者の性格,通院歴や投薬歴といった事情が素因として,

損害賠償請求の減額事由になるかが,争われることがあります。

 

 

松原興産事件では,原告の労働者は,

パワハラを受けてからうつ病を発症し,5年6ヶ月経過しても,

うつ病による就労不能状態が続いていました。

 

 

 

被告会社としては,ここまで治療が長引くのは

原告労働者の脆弱性や生活態度が寄与しているとして,

素因減額を主張しました。

 

 

2 素因減額が認められるのはどのような場合か

 

 

このように,労働者の個性や性格を理由に

素因減額ができるのかについては,

電通事件の最高裁平成12年3月24日判決が

判断基準を示しています。

 

 

すなわち,人間の性格や個性はそもそも多種多様であり,会社は,

そういった個人のそれぞれの多様性を前提に労働者を雇用し,

配置先や仕事内容を決めます。

 

 

そのため,労働者の性格が同じ仕事に従事する労働者の

個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではない場合には,

労働者の性格や業務遂行の態様を,

心因的要因として考慮することはできないとしました。

 

 

 

ようするに,よほど変わった性格でない限り,

性格を理由に素因減額はされないというわけです。

 

 

とくに,労働者がパワハラなどの強いストレスが生じる以前には,

特に支障なく仕事をしていたのであれば,

このことがよりいっそう,あてはまるわけです。

 

 

松原興産事件でも,労働者が5年6ヶ月治療しても

うつ病が治らないことについて,労働者の個性の多様さとして

通常想定される範囲を外れるものではないとして,

素因減額は認められませんでした。

 

 

そして,被告会社がパワハラを放置して

原告労働者を退職に追い込んだこと,

裁判で事実に反することを主張して反省していないことから,

慰謝料として500万円という高額が認められました。

 

 

労災民事訴訟では,労働者の性格を理由に,

安易に損害賠償額が減額されるべきではないのです。

 

 

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労災申請をするときに会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたときの対処法

1 楽天のパワハラ労災事件

 

 

ここ2日間,楽天における上司の部下に対する暴行の

パワハラ労災事件について,記載してきました。

 

 

もう一つ,楽天のパワハラ労災事件で気になったことがあります。

 

 

それは,マスコミ報道によりますと,被災労働者が楽天に対して,

労災申請書の事業主の欄の署名押印を求めたところ,

楽天がこれを拒否したということです。

 

 

本日は,会社から労災申請書の事業主の欄の

署名押印を拒絶されたときの対処法について解説します。

 

 

 

2 労災保険の請求をするのは誰か

 

 

まず,労災保険の請求人は,被災労働者またはそのご遺族です。

 

 

そのため,被災労働者またはそのご遺族が,

被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署に,

労災申請書を提出することになります。

 

 

ただ,実際には,会社や会社と契約している社会保険労務士が,

労災申請の手続を代行することが多いです。

 

 

労災申請書には,労働保険番号を記入したり,

事業主の証明欄に署名押印する必要があることから,

会社が代行したほうが,スムーズに手続が進むことから,

会社が代行することが多いのです。

 

 

3 会社が労災申請手続を代行するときの注意点

 

 

もっとも,会社に労災申請手続を代行してもらう場合に

注意する点があります。

 

 

それは,労災申請書の「災害の原因及び発生状況」の欄に,

被災労働者が納得できる労災事故原因が記載されているかです。

 

 

会社は,労働基準監督署からの調査や

被災労働者からの損害賠償請求をおそれて,

会社に有利なように「災害の原因及び発生状況」

の欄を記載することがあります。

 

 

そのため,被災労働者としては,

会社に労災申請手続を代行してもらう場合には,

会社に任せきりにするのではなくて,

会社が労働基準監督署に対して,労災申請書を提出する前に,

「災害の原因及び発生状況」の欄を自分でチェックするべきです。

 

 

 

被災労働者が,「災害の原因及び発生状況」の欄をチェックした結果,

事実と異なる記載がされていた場合には,会社に,訂正を求めるべきです。

 

 

もし,被災労働者が,会社との関係が悪化するのをおそれて,

会社に訂正を求めるのが困難な場合には,

労災申請書とは別に,労災事故が発生した原因をまとめた文書を

労働基準監督署に提出する方法があります。

 

 

4 事業主の証明欄が空白でも労災申請はできる

 

 

次に,会社に労災申請手続を代行してもらうのではなく,

被災労働者が自分で労災申請をしようとして,

会社に,事業主の証明欄に署名押印を求めたところ,拒否された場合,

拒否されたことを労働基準監督署に説明して,

事業主の証明欄を空白のまま提出すればいいのです。

 

 

労災保険法施行規則23条により,会社は,

被災労働者から労災申請書の事業主の証明欄に署名押印を求められた場合,

すみやかに証明しなければならないという

労災申請に助力する義務を負っています。

 

 

それにもかかわらず,労災申請書に被災労働者が記載した

「災害の原因及び発生状況」の内容に,会社が納得しない場合には,

会社は,事業主の証明欄の署名押印を拒否することはよくあります。

 

 

労災申請において,事業主の証明は必須ではないので,

会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたことを説明すれば,

労働基準監督署は労災申請を受理してくれるのです。

 

 

もっとも,一度も,会社に事業主の証明を求めることなく,

事業主の証明欄を空欄のまま労災申請書を提出すると,

労働基準監督署から補正の指示があります。

 

 

そこで,会社に対して,文書で

労災申請書の事業主の証明欄に署名押印をすることを求めます。

 

 

この文書には,いつまでに返答することと,

事業主の証明欄に署名押印ができない場合には,

送った労災申請書を返却してほしいことを記載します。

 

 

このように,会社から,事業主の証明欄に署名押印してもらえなくても,

労災申請をすることができますので,被災労働者は,

会社からの協力がえられなくても,

労災申請をあきらめる必要はないのです。

 

 

なお,労災保険とは異なり,

健康保険の傷病手当金の申請をする場合には,

会社の証明が必要になりますので,注意が必要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

楽天の上司による暴行事件から職場における暴行の労災認定を解説します

1 楽天における上司の暴行が労災と認定されました

 

 

楽天に勤務していた労働者が,

仕事中に上司から暴行を受けて,

頚椎不全損傷とうつ病を発症し,

渋谷労働基準監督署から労災認定を受けたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMD55228MD5ULFA01F.html

 

 

マスコミ報道によりますと,会社内のチーム会議において,

会議参加者の発言について,被災労働者が意見を述べたところ,

上司が突然激高して,被災労働者の首付近をつかんで持ち上げて,

壁際に押さえつけるという暴行をしたようです。

 

 

 

被災労働者と上司との関係がよくなかったといった事情はないようです。

 

 

2 職場における暴行で労災認定される場合とは

 

 

このように職場において暴行が行われた場合に,

労災と認定されるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

まず,労災と認定されるためには,

仕事が原因となって負傷したことが必要となります。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

別の言い方をすれば,業務に内在する危険が

現実化したものによると認められることです。

 

 

職場で上司や同僚から暴行を受けた場合,

業務に内在する危険が現実化したといえるのかが

争われることがあります。

 

 

例えば,工事現場の監督者が作業員に対して,

きつい口調で注意したところ,

作業員から足で背中を蹴られるという暴行を受けたことについて,

業務起因性が争われた新潟労基署長(中野建設工業)事件の

新潟地裁平成15年7月25日判決(労働判例858号170頁)

を紹介します。

 

 

この事件では,監督者は,作業員に対して,

「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。

親がバカならお前もバカだ」と言っていたようです。

 

 

裁判所は,労働者が業務遂行中に同僚や部下から

暴行という災害によって負傷した場合には,

当該暴行が職場での業務遂行中に生じたものである限り,

当該暴行は労働者の業務に内在する危険が現実化したものと

評価できるのが通常であると判断しました。

 

 

原則として,仕事中に暴行を受けた場合には,

業務起因性が認められるということです。

 

 

もっとも,例外として,当該暴行が被災労働者との私的怨恨

または被災労働者による業務上の限度を超えた

挑発的行為若しくは侮辱的行為によって生じたものであれば,

業務起因性が否定されます。

 

 

 

この判断にあたっては,暴行が発生した経緯,

被災労働者と加害者との間の私的怨恨の有無,

被災労働者の職務の内容や性質(他人の反発や恨みをかいやすいものか),

暴行の原因となった業務上の事実と暴行との時間的・場所的関係

などが考慮されます。

 

 

この事件では,監督者には作業員に対する挑発的行為,

侮辱的行為があったのですが,監督者の指示に対して

反抗的な態度をとったことに対する戒めの意味も込められた発言

と評価され,監督者の仕事上の指示,注意という業務に関連して,

暴行が発生したと判断されたのです。

 

 

3 楽天事件へのあてはめ

 

 

楽天の事件では,もともと被災労働者と上司の関係は問題なく,

会議中の被災労働者の発言をきっかけに,

上司が激高して暴行したようなので,

業務起因性が認められたのだと思います。

 

 

そして,当該暴行によって,被災労働者は頚椎不全損傷となったので,

精神障害の労災認定基準の別表1の心理的負荷評価表によれば,

「治療を要する程度の暴行を受けた」に該当し,

心理的負荷は強と判断されたと考えられます。

 

 

職場で暴行が行われるのは悲しいことなので,

このようなことがおこらないことを願います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。