労災申請をするときに会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたときの対処法
1 楽天のパワハラ労災事件
ここ2日間,楽天における上司の部下に対する暴行の
パワハラ労災事件について,記載してきました。
もう一つ,楽天のパワハラ労災事件で気になったことがあります。
それは,マスコミ報道によりますと,被災労働者が楽天に対して,
労災申請書の事業主の欄の署名押印を求めたところ,
楽天がこれを拒否したということです。
本日は,会社から労災申請書の事業主の欄の
署名押印を拒絶されたときの対処法について解説します。
2 労災保険の請求をするのは誰か
まず,労災保険の請求人は,被災労働者またはそのご遺族です。
そのため,被災労働者またはそのご遺族が,
被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署に,
労災申請書を提出することになります。
ただ,実際には,会社や会社と契約している社会保険労務士が,
労災申請の手続を代行することが多いです。
労災申請書には,労働保険番号を記入したり,
事業主の証明欄に署名押印する必要があることから,
会社が代行したほうが,スムーズに手続が進むことから,
会社が代行することが多いのです。
3 会社が労災申請手続を代行するときの注意点
もっとも,会社に労災申請手続を代行してもらう場合に
注意する点があります。
それは,労災申請書の「災害の原因及び発生状況」の欄に,
被災労働者が納得できる労災事故原因が記載されているかです。
会社は,労働基準監督署からの調査や
被災労働者からの損害賠償請求をおそれて,
会社に有利なように「災害の原因及び発生状況」
の欄を記載することがあります。
そのため,被災労働者としては,
会社に労災申請手続を代行してもらう場合には,
会社に任せきりにするのではなくて,
会社が労働基準監督署に対して,労災申請書を提出する前に,
「災害の原因及び発生状況」の欄を自分でチェックするべきです。
被災労働者が,「災害の原因及び発生状況」の欄をチェックした結果,
事実と異なる記載がされていた場合には,会社に,訂正を求めるべきです。
もし,被災労働者が,会社との関係が悪化するのをおそれて,
会社に訂正を求めるのが困難な場合には,
労災申請書とは別に,労災事故が発生した原因をまとめた文書を
労働基準監督署に提出する方法があります。
4 事業主の証明欄が空白でも労災申請はできる
次に,会社に労災申請手続を代行してもらうのではなく,
被災労働者が自分で労災申請をしようとして,
会社に,事業主の証明欄に署名押印を求めたところ,拒否された場合,
拒否されたことを労働基準監督署に説明して,
事業主の証明欄を空白のまま提出すればいいのです。
労災保険法施行規則23条により,会社は,
被災労働者から労災申請書の事業主の証明欄に署名押印を求められた場合,
すみやかに証明しなければならないという
労災申請に助力する義務を負っています。
それにもかかわらず,労災申請書に被災労働者が記載した
「災害の原因及び発生状況」の内容に,会社が納得しない場合には,
会社は,事業主の証明欄の署名押印を拒否することはよくあります。
労災申請において,事業主の証明は必須ではないので,
会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたことを説明すれば,
労働基準監督署は労災申請を受理してくれるのです。
もっとも,一度も,会社に事業主の証明を求めることなく,
事業主の証明欄を空欄のまま労災申請書を提出すると,
労働基準監督署から補正の指示があります。
そこで,会社に対して,文書で
労災申請書の事業主の証明欄に署名押印をすることを求めます。
この文書には,いつまでに返答することと,
事業主の証明欄に署名押印ができない場合には,
送った労災申請書を返却してほしいことを記載します。
このように,会社から,事業主の証明欄に署名押印してもらえなくても,
労災申請をすることができますので,被災労働者は,
会社からの協力がえられなくても,
労災申請をあきらめる必要はないのです。
なお,労災保険とは異なり,
健康保険の傷病手当金の申請をする場合には,
会社の証明が必要になりますので,注意が必要です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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