ワタミにおける175時間の残業と精神障害の労災申請
1 ワタミにおける長時間労働
外食大手のワタミ株式会社の弁当宅配事業「ワタミの宅食」の
営業所長に対する残業代の未払いがあったとして、
高崎労働基準監督署が、ワタミに対して、是正勧告をしたようです。
https://www.asahi.com/articles/ASN9Y6WKMN9YULFA047.html
報道によりますと、この営業所長は、
長時間労働が原因で精神疾患を発症したようで、
発症前1ヶ月の残業時間は175.5時間もあり、
27日連続勤務だったようです。
ワタミについては、2008年に女性社員が過労自殺をして、
過酷な労働実態が明らかとなり、ブラック企業というバッシングを受けて、
大問題になりました。
そのワタミについて、再び、
過酷な長時間労働の実態が明らかとなったのであり、
非常に残念です。
なお、今回のワタミの長時間労働と残業代の未払いについては、
こちらの記事が詳しいです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200928-00200433/
この営業所長は、現在、精神疾患が原因で、休職しているようで、
精神疾患を発症したのは、長時間労働が原因であるとして、
労災申請をしているようです。
本日は、この営業所長の労災申請について検討します。
2 精神障害の労災認定基準
長時間労働やパワハラによって、
労働者に強い心理的負荷(ストレス)がかかり、
精神疾患を発症した場合、労災保険を利用できないかを検討します。
うつ病などの精神疾患を発症した場合、
回復するのに長期間かかることが多いので、
その間の治療費や会社を休んでいる期間の休業補償が、
労災保険から支給されるので、安心して治療に専念できるのです。
仕事による心理的負荷によって精神疾患を発症したとして、
労災と認定されるためには、厚生労働省が公表している、
精神障害の労災認定基準に記載されている要件を満たす必要があります。
精神障害の労災認定基準の要件とは次の3つです。
①対象疾病である精神障害を発病していること
②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、
業務による強い心理的負荷か認められること
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により
対象疾病を発病したとは認められないこと
実務でよく問題になるのは②でして、
労働者が体験した出来事の心理的負荷が
「強」といえるのかが問題となります。
3 精神障害の労災認定基準における長時間労働の評価
精神障害の労災認定基準では、
1週間で40時間を超える時間外労働の数で、
長時間労働の心理的負荷が評価されます。
まず、精神疾患の発症前1ヶ月間におおむね160時間を超える
長時間労働がある場合、極度の長時間労働として、
心理的負荷は「強」と判断されます。
次に、精神疾患の発症前の連続した2ヶ月間に、
1ヶ月あたりおおむね120時間以上の時間外労働や、
精神疾患の発症前の連続した3ヶ月間に、
1ヶ月あたり100時間以上の時間外労働を行い、
業務内容が通常その程度の労働時間が必要であった場合には、
心理的負荷は「強」と判断されます。
また、精神疾患の発症前6ヶ月間のどこかに
1ヶ月あたりおおむね100時間以上の時間外労働があり、
心理的負荷の強度が「中」の出来事が1つあれば、
総合評価で心理的負荷が「強」と判断されます。
例えば、2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った場合には、
心理的負荷の強度が「中」となり、それに加えて、
精神疾患の発症前6ヶ月間のどこかに、
1ヶ月あたり100時間以上の時間外労働があれば、
心理的負荷は「強」と判断されるのです。
以上を今回のワタミの事件にあてはめますと、この営業所長は、
精神疾患の発症前1ヶ月間に175.5時間の時間外労働をしていたので、
1ヶ月160時間を超える極度の長時間労働をしていたとして、
心理的負荷は「強」と判断されると考えます。
また、この営業所長は、27日連続で勤務しており、
2週間以上にわたって連続勤務を行ったので、
この出来事の心理的負荷の強度は「中」となり、その他に1ヶ月あたり、
100時間以上の時間外労働が認められるので、
総合評価として心理的負荷は「強」と判断されると考えます。
結果として、この営業所長の労災申請については、
労災と認定されて、治療費や休業補償が支給されると考えます。
労災保険からは、慰謝料が支給されませんので、今後、
この営業所長は、労災保険では支給されない損害について、
ワタミに対して、損害賠償請求をすることが考えられます。
本日もお読みいただきありがとうございます。