パワハラ6類型の1つの過小な要求とはどのようなことなのか
1 すすむパワハラ防止対策
三菱電機は,社員の過労自殺や精神疾患による
労災認定が相次いだことを受けて,
パワハラ防止策を強化したようです。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200110/k10012241441000.html
また,人事院は,中央省庁のパワハラ防止対策を強化するために,
人事院規則を見直して,パワハラをすれば
懲戒処分を受ける可能性があると明記する方向になるようです。
https://www.jinji.go.jp/kenkyukai/pawahara-kentoukai/pawahara-kentoukai.html
今年の6月から,大企業において,
パワハラ防止措置が義務付けられることから,
民間企業でも中央省庁でもパワハラ対策が進んでいます。
2 過小な要求とは
さて,パワハラの6累計の中に,
過小な要求というものがあります。
過小な要求とは,業務上の合理性なく能力や経験と
かけ離れた程度の低い仕事を命じることや
仕事を与えないことをいいます。
会社を辞めさせるために,草むしりをさせて
精神的に追い込むような場合です。
この過小な要求のパワハラについて,
判断された裁判例を紹介します。
食品会社A社(障害者雇用枠採用社員)事件の
札幌地裁令和元年6月19日判決です(労働判例1209号64頁)。
この事件では,うつ病で障害等級3級の認定を受けていた労働者が
自殺したことについて,会社が自殺した労働者の要望に応じて
業務量を増加させなかったことが原因であるかが争われました。
裁判所は,過小な要求の判断基準について,次のように判断しました。
まず,会社は,労働者の配置や業務の割当について,
業務上の合理性に基づく裁量権を有しています。
しかし,労働者に労働者に労務提供の意思と能力があるのに,
業務を与えず,または,その地位,能力,経験からして,
これらとかけ離れた程度の低い仕事しかさせない状態を継続させることは,
業務上の合理性があるのでなければ許されません。
会社には,労働者に業務の指示をするにあたり,
裁量権があるのですが,仕事を与えなかったり,
程度の低い仕事をさせる場合には,業務上の合理性が必要で,
業務上の合理性がなければ,違法なパワハラとなるのです。
そして,この過小な要求は,労働者に対して,
会社から必要とされていないという無力感を与え,
他の労働者との関係において,劣等感や恥辱感を生じさせる危険性が高く,
労働者に対して心理的負荷を与えることにつながるのです。
この事件では,被災労働者から,業務量が少ないという
申し出があった後,会社は,速やかに具体的な解決策を
検討して実行に移していたことから,会社には,
注意義務違反は認められませんでした。
3 うつ病に罹患している労働者に対する会社の注意義務
また,この事件では,うつ病に罹患している労働者に対する
会社の注意義務について,注目すべき判断をしました。
すなわち,うつ病に罹患している者は,心理的脆弱性が高まっており,
ささいな心理的負荷にも過大に反応する傾向にあることから,会社は,
うつ病に罹患している労働者に対して心理的負荷を与える言動を
しないようにすべき注意義務を負っていると判断されました。
この事件では,上司の障害者雇用枠を達成するために採用した
という発言は,うつ病を患っている被災労働者に対する
配慮に欠けたものであり,注意義務違反が認められました。
もっとも,この発言は一回だけでのものであり,
会社は被災労働者の対応を適切にしていたことから,
心理的負荷の状態は継続していないとして,
因果関係が否定され,遺族の損害賠償請求は認められませんでした。
労災民事訴訟において,うつ病に罹患していた労働者に対する
配慮を考える上で参考になる裁判例です。
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