夫のトリセツ

1 妻とけんかをしました

 

 

恥ずかしい話ですが,仕事始めの日に妻とひどいけんかをしました。

 

 

 

以前ブログでも紹介しましたが,私は,妻との間で,

19時30分までに仕事を終えれば,

次の日ブログを更新してもいいという約束をしました。

 

 

仕事始めの日ですが,長い休み明けということもあり,

仕事がたまっており,体が慣れていないせいもあったのか,

19時36分に仕事が終わりました。

 

 

仕事が終わってから家に帰ると,妻から

「6分遅いよね」と言われました。

 

 

この言葉に,私は,仕事でがんばってきた夫に対して

ねぎらいはないのかと,カチンときてしまい,

「そんな言い方はないだろう」と言ってしまい,

けんかになりました。

 

 

それから3日ほど,妻の機嫌がすこぶる悪く,

家に帰るのが苦痛になりました。

 

 

このけんかは話し合いで決着がついたのですが,

またいつなんどき,どのようなきっかけで,

妻の機嫌が悪くなるかわかりませんので,

これはなんとかしなければならないと思い,

一冊の本を読みました。

 

 

それが,黒川伊保子先生の「夫のトリセツ」です。

 

 

 

2 妻が出産後に夫に厳しくなる理由

 

 

この本の第一章のタイトルが

神は,夫婦を別れさせようとしている」というものです。

 

 

黒川先生の見解によりますと,夫と妻は,

脳の仕組みが異なることから,衝突が起きるのです。

 

 

そして,その衝突は,子供ができてから頻発するようです。

 

 

妻は,子供を無事に育て上げるために,

搾取すべき相手からは徹底して搾取するようです。

 

 

子を持つ妻は,夫の労力,意識,時間,お金のすべてを

すみやかに提供してほしいという本能に駆られるようで,

子供には徹底して優しいが,夫には厳しくなります。

 

 

これは子供を無事に育て上げるための女性脳の本能なので,

いかんともしがたいことなのでしょう。

 

 

私の妻も,子供ができてから,理不尽な言動が多くなり,

私に厳しくなったのは,この女性脳の本能の作用によるもの

なのだとよく理解できました。

 

 

 

3 女性の浮気の原因は?

 

 

もう一つ,女性脳には罠があります。

 

 

それは,子供が大きくなると,女性脳は,

「次の生殖相手」を探すようになることです。

 

 

生物は繁殖するために,できるだけ免疫力の高い相手をつかまえて,

できるだけたくさんの遺伝子を残す必要があるので,

女性脳は,子育てが一段落すると,

「もっと免疫力の高い男を探そうよ,この目の前の男はだめだよ」

とささやきだすようです。

 

 

その結果,女性は,「悪いのはこの人。私じゃない」と思い込んで,

浮気に至るようです。

 

 

私は弁護士として,浮気の事件をよく担当するのですが,

女性の浮気が,この脳の罠から生じているという見解に,

非常になっとくできました。

 

 

4 男は問題解決をしたがる

 

 

一方,男性は,問題解決に脳を使います。

 

 

そして,守ってあげたい相手に対して,問題解決を急ぐので,

妻の話に共感するよりも,問題解決のために,

「君もここが悪いから直しなさい」と言ってしまうのです。

 

 

男性は,問題解決を急ぐので,プロセス解析をしないため,

危機回避能力が女性に比べて低いので,

同じ危険に,懲りずに身を晒してしまいます。

 

 

私は,「妻のトリセツ」を読んだのに,

あいかわらず妻の地雷を踏んでいるのは,

この危機回避能力が家庭の中では,

あまり機能していないからなのだと,なっとくできました。

 

 

問題解決をしたい夫と,共感を求める妻とでは,

発想や見方が全く異なるので,衝突は避けられません。

 

 

この大前提を互いに理解して,相手へのアプローチを変えない限り,

結婚生活は地獄になります。

 

 

逆に言えば,このことを理解して,実践すれば,

家庭が天国に変わる可能性もあるのです。

 

 

結婚式で,神の前で,永遠の愛を誓うのは,男女の脳の違いから,

結婚を維持することがそれだけ難しいからなのでしょうね。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が倒産したときに未払賃金分を取締役に対して損害賠償請求できるのか

1 取締役の第三者に対する責任

 

 

昨日のブログでは,会社が倒産して,給料が支払われないときには,

未払賃金の立替払制度を利用することが効果的であると解説しました。

 

 

もう一つ,会社の社長などの取締役に対して,

未払賃金分の損害賠償請求をするという方法があります。

 

 

前提として,労働者に対して,労働契約に基づいて

賃金の支払義務を負っているのは会社なので,労働者は,

直接には,社長個人に対して,未払賃金を支払えとは言えないのです。

 

 

しかし,給料を支払う意思がないのに働かせた上での

賃金不払いといった悪質性の特に強い事案においては,

社長個人に対して,未払賃金分の損害賠償請求ができないかを検討します。

 

 

 

この社長個人に対する損害賠償請求をするときの法律根拠が,

会社法429条に基づく取締役の第三者に対する責任というものです。

 

 

会社の社長などの取締役が,会社の管理や運営を

適正に行うことを確保するために,取締役は,

善良な管理者の注意義務をもって,

会社から委任を受けた事務を処理する義務を負っています。

 

 

これを取締役の善管注意義務といいます。

 

 

取締役がこの善管注意義務に違反すると,

会社の任務を怠ったと評価され,

それによって第三者に損害が発生した場合に,

取締役は,第三者に対して,損害賠償責任を負います。

 

 

第三者には,会社の労働者も含まれます。

 

 

2 取締役に対して未払賃金分の損害賠償請求が認められた裁判例

 

この取締役の第三者に対する責任追及を根拠に,

取締役に対する,未払賃金分の損害賠償請求が認められたケースとして,

ブライダル関連会社元経営者ら事件の

鳥取地裁平成28年2月19日判決があります

(労働判例1147号83頁)。

 

 

この事件では,会社が事実上の倒産状態となり,

給料が未払とされた労働者が,代表取締役と取締役に対して,

未払賃金分の損害賠償請求をしました。

 

 

取締役は,会社をして使用者の労働者に対する基本的義務である

給与の支払日における全額支払の履行に漏れがないようにするために,

その時点における最善の努力を尽くすべきであり,そのことは,

取締役の善管注意義務の内容になっているので,この努力を怠ることは,

取締役の任務懈怠と評価されると判断されました。

 

 

そして,取締役は,会社経営が困難な状況にこそ,

事態を放置することは会社の財務状況をますます悪化させ,

労働者の損害をさらに拡大するのであるから,

損害の拡大を阻止するために,可能な限り,

最善の方法を選択,実行すべき善管注意義務を負っているのです。

 

 

 

本件の代表取締役は,給料が未払であることを認識しており,

そのような意図的な給料未払という事態は,すでにそれ自体として,

取締役に期待される最善の努力を尽くしていないとして,

代表取締役に対する損害賠償請求か認められました。

 

 

また,本件の取締役は,代表取締役の行為を監視し,

会社経営に関して適切な意見を具申すべき義務があるのに,

これを怠ったとして,取締役に対する損害賠償請求も認められました。

 

 

このように,意図的に給料を未払にして放置しているような

事案であれば,まだ十分に資力がありそうな取締役に対して,

未払賃金分の損害賠償請求をすることを検討してみる必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が倒産して給料が支払われない時の対処法

1 会社が倒産して給料が支払われない

 

 

会社が倒産したので,給料が支払われなくて困っています,

という法律相談を受けることがあります。

 

 

会社の社長が行方をくらまして連絡がとれない,

社長と連絡はとれるけれども未払の給料を支払うと言っているのに

全然支払ってくれない,といった問題があります。

 

 

 

労働者は,働けば,当然に,会社に対して,

給料の支払を請求できるのですが,会社に,

労働者に給料を支払うだけの資力がなければ,

無い袖は振れないということで,

会社から給料の回収をするのは困難です。

 

 

会社の社長に給料の請求ができないのかも考えるのですが,

会社と社長は別人格であり,労働者に対して

給料の支払義務を負っているのは,

労働契約を締結している会社であって,社長ではないのです。

 

 

社長に対して,取締役の責任追及として,

未払給料分の損害賠償請求をすることも考えられますが,

未払給料の金額が小さいと,弁護士に依頼しても

費用倒れになってしまうリスクがあります。

 

 

2 未払賃金の立替払制度

 

 

そこで,このようなときには,

未払賃金の立替払制度を利用できないかを検討します。

 

 

未払賃金の立替払制度とは,会社が倒産して

賃金や退職金の未払が生じたときに,

国(独立行政法人労働者健康福祉機構)が

会社に代わって立替払をする制度です。

 

 

立替払の対象となる未払賃金は,

退職日の6ヶ月前の日から立替払請求日の前日までの間に

支払期日が到来している定期賃金

(毎月1回以上一定の期日を定めて支払われる賃金)及び退職手当です。

 

 

賞与,解雇予告手当,遅延損害金,旅費などは

立替払の対象にはなりません。

 

 

未払賃金が2万円以上あることが必要で,

立替払の対象となる賃金額は,

未払賃金総額の8割とされています。

 

 

もっとも,未払賃金総額には,

退職日の年齢に応じた限度額が設定されています。

 

 

退職日における年齢 未払賃金総額の限度額 立替払の総額
30歳未満 110万円 88万円
30歳以上45歳未満 220万円 176万円
45歳以上 370万円 296万円

 

 

立替払制度を利用するには,

倒産した事業主(会社,個人を含みます)が

労災保険の適用事業を1年以上行ってることが必要です。

 

 

労災保険は,一人でも労働者を雇用すれば強制的に適用されるので,

ほとんど全ての事業が対象となります。

 

 

事業主が労災保険の保険料を支払っていなくても,

この要件を満たします。

 

 

対象となる倒産ですが,破産,民事再生,会社更生,特別清算

といった法的手続をとった倒産は全て適用されます。

 

 

法的な倒産手続の場合,裁判所や破産管財人などから,

破産などの事由と未払賃金額などについて証明書をもらい,

これを添付して労働者健康福祉機構に

未払賃金の立替払請求書を提出します。

 

 

また,中小企業の場合,法的な倒産手続をとっていなくても,

事実上の倒産として労働基準監督署が認定すれば,

立替払制度を利用できます。

 

 

 

事実上の倒産とは,事業活動が停止し,再開する見込みがなく,

賃金の支払能力がない状態をいいます。

 

 

事実上の倒産の場合は,労働基準監督署に

事実上の倒産の認定申請書を提出し,認定をうけてから,

労働者健康福祉機構に未払賃金の立替払請求書を提出します。

 

 

立替払制度の対象者となる労働者は,

破産などの申立日または労働基準監督署に対する認定申請日の

6ヶ月前から2年の間に退職した方です。

 

 

立替払請求は,破産手続開始の決定があった日の翌日から2年以内に,

労働基準監督署から事実上の倒産の認定があった日の翌日から2年以内に

する必要があります。

 

 

法的な倒産手続の場合は,申立代理人や管財人が対応してくれますが,

全ての事業主が法的な倒産手続をとるわけでなく,

何もしないまま放置されていることもあるので,

そのようなときは,労働基準監督署へいって,

未払賃金の立替払制度を利用できないか相談してみてください。

 

 

立替払制度を利用して,8割でもいいので未払賃金を回収した方が,

費用対効果を考えればいいと思います。

 

 

なお,未払賃金の立替払制度については,

こちらのUELにあるパンフレットに詳しい説明が記載されていますので,

ご参照ください。

 

 

https://www.johas.go.jp/Portals/0/data0/kinrosyashien/pdf/tatekae_seido_Pamphlet.pdf

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

大学の准教授に対する雇止め事件

1 雇止めとは

 

 

有期労働契約の契約期間が満了して,労働契約が更新されず,

労働契約が終了することを雇止めといいます。

 

 

正社員は,契約期間の定めのない無期労働契約を締結しているので,

解雇されるか,自分から退職しない限り,

労働契約が継続するので,雇用が安定してます。

 

 

他方,有期雇用労働者は,労働契約の契約期間が定められているので,

契約期間が満了したら,労働契約が終了してしまうリスクがあるので,

雇用が不安定です。

 

 

 

有期雇用労働者は,雇止めされると,明日からの仕事がなくなり,

生活が不安定になることから,雇止めが無効であるとして,

裁判になることがよくあります。

 

 

本日は,雇止めについて,学校法人梅光学院ほか事件の

広島高裁平成31年4月18日判決を紹介します

(労働判例1204号5頁)。

 

 

この事件は,大学の特任准教授である原告が,

1年間で労働契約を終了させられたのは,無効であるとして,

労働者の地位にあることの確認を求めて,裁判を起こしました。

 

 

2 雇止めが無効になるには

 

 

雇止めが無効になるためには,

労働契約法19条の要件を満たす必要があります。

 

 

すなわち,第1の要件として,有期労働契約が

更新されるものと期待することについて合理的な理由があること。

 

 

第1の要件が満たされれば,第2の要件として,

雇止めに客観的合理的理由がなく,社会通念上相当でない場合に,

雇止めが無効になるのです。

 

 

多くの雇止めの事件では,

第1の要件が中心的な争点になることが多いです。

 

 

第1の要件については,以下の事情を総合考慮して判断されます。

 

 

 ①雇用の臨時性(仕事の内容が臨時的・補助的か,基幹的か)

 ②更新の回数

 ③雇用の通算期間

 ④契約期間管理の状況(契約書を毎回締結しているか,

手続が形式的となっていないか)

 ⑤雇用継続の期待をもたせる会社の言動の有無

 

 

本件事件では,契約期間1年で雇止めにあったので,

②③の事情は原告にとって不利でしたが,以下の事情から,

当然に有期労働契約が更新されることを前提に契約を締結していたとして,

第1の要件を満たすとされました。

 

 

・被告では,1年で雇止めにあった例が原告以外にないこと。

 

 

・原告は,学生の授業アンケートで高い評価を受けており,

1年で3つの論文を執筆し,学外の講演の講師をするなど

豊富な業務量をこなしていたこと。

 

 

・被告の代表者が雇止めをしないと繰り返し原告に発言していたこと。

 

 

そのため,原告には,有期労働契約が更新されると

期待することについて,合理的な理由があると判断されました。

 

 

そして,被告の募集要項には,更新は最大2回,

最長3年と記載されていましたが,就業規則には,

通算した契約期間が5年を超えるときには更新しないとされていて,

5年までは更新しえることと,

実際に契約更新が最大3年として運用されていないことから,

5年間契約が更新されると期待することについて,

合理的な理由があると判断されました。

 

 

その結果,原告は,第1と第2の要件を満たしていたので,

雇止めは無効となりました。

 

 

一度も更新されていなくても,格別の意思表示や特段の支障が無い限り,

当然に更新されることを前提に契約を締結していた場合には,

契約更新への合理的期待が生じているとして,

雇止めが無効になる可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労死した飲食店の店長の労災保険給付金の算定と固定残業代

1 給付基礎日額とは

 

 

労災保険から支給される保険給付金は,

給付基礎日額をもとに算定されます。

 

 

後遺障害が残ったときに支給される障害補償給付や,

被災労働者が死亡したときにご遺族に支給される遺族補償給付は,

給付基礎日額の何日分として支給されるのです。

 

 

 

この給付基礎日額は,労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の

賃金の総支給額を日割り計算したものをいいます。

 

 

2 給付基礎日額の計算には未払残業代も含まれる

 

 

給付基礎日額を計算するうえで,

残業代が含まれているのかをチェックする必要があります。

 

 

給付基礎日額を計算するための賃金の総支給額を算出するにあたり,

現実に支払われた賃金だけではなく,実際には支払われていなくても,

労働基準法の適用上支払われるべき賃金債権も含まれるのです。

 

 

そのため,会社が残業代を支払っていなくても,

給付基礎日額の計算においては,

未払残業代を含めて給付基礎日額を計算するのです。

 

 

労災認定されたけれども,直前3ヶ月間に長時間労働をしていたのに,

未払残業代が給付基礎日額に反映されていない場合には,

審査請求などの不服申立をして,是正を求める必要があります。

 

 

3 給付基礎日額の計算に固定残業代も含まれるのか

 

 

さて,この給付基礎日額の計算にあたり,

固定残業代を賃金の総支給額に算入してもよいのかについて,

労働者に有利な判決がありました。

 

 

国・茂原労基署長(株式会社まつり)事件の

東京地裁平成31年4月26日判決です(労働判例1207号56頁)。

 

 

この事件では,過労死した飲食店の店長のご遺族が労災申請して,

労災認定されたのですが,遺族補償給付の給付基礎日額の計算にあたり,

超過勤務手当10万円,深夜業手当5000円の固定残業代が

算入されていなかったため,ご遺族が審査請求したのですが,

認められなかったため,取消訴訟を提起しました。

 

 

固定残業代が有効になるためには,

固定残業代が時間外労働の対価として支払われている必要があります。

 

 

 

この対価性の要件を検討するには,

労働契約書の記載内容のほか,

会社による当該手当の説明の内容,

労働者の実際の労働時間の勤務状況を考慮して決めます。

 

 

この事件では,労働契約が口頭でなされており,

契約書が作成されていないこと,

会社が労働契約締結時に固定残業代と割増賃金の

関係について説明していないことから,

固定残業代が時間外労働の対価として

支払われているものとはされていないと判断されました。

 

 

その結果,給付基礎日額の計算において,

固定残業代を賃金の総支給額に算入すべきこととなり,

遺族補償給付の金額が増額されました。

 

 

過労死事件でも,固定残業代を無効として争うことで,

給付基礎日額が増えて,ご遺族に支給される

遺族補償給付の金額が増える可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

即戦力として採用された管理職に対する試用期間満了後の本採用拒否が争われた事例

1 試用期間と本採用拒否

 

 

労働契約を締結する際に,試用期間が設定されることがよくあります。

 

 

入社後一定期間に実際に働いてもらい,

その中で適性を評価して本採用するかを決めることが多いです。

 

 

そのため,試用期間中には,会社に

労働契約を解約する権利が留保されているのです。

 

 

試用期間中とはいえ,すでに労働契約は成立しているので,

会社がこの留保されている解約権を行使できるのは,

解雇と同様に,客観的合理的理由があり,

社会通念上相当である場合に限られます。

 

 

もっとも,試用期間満了による本採用拒否は,

通常の解雇よりも緩やかに判断される傾向にあります。

 

 

2 即戦力として採用された管理職に対する解雇は緩やかに判断される

 

 

さて,本日は,即戦力として採用された管理職に対する

本採用拒否の適法性が争われた社会福祉法人どろんこ会事件の

東京地裁平成31年1月11日判決を紹介します

(労働判例1204号62頁)。

 

 

この事件では,被告の社会福祉法人に

事業部長として中途採用された原告が,

3ヶ月の試用期間満了で本採用を拒否されたことから,

本採用拒否は無効であるとして,訴訟を提起しました。

 

 

原告は,年収1000万円に相当する

月額83万4000円の高額な賃金待遇のもと,

即戦力の管理職として中途採用されたため,

職員管理も含めて,被告において高いマネジメント能力を

発揮することが期待されていたという事情があります。

 

 

しかしながら,原告には,以下の本採用拒否

の事由があると認定されました。

 

 

・原告が重要な会議にしばしば欠席することがあった。

 

 

・原告の部下に対する言動が高圧的・威圧的で,

部下からパワハラであるとして内部通報・外部通報をされる事態になり,

協調性がなく,管理職としての適合性がない。

 

 

・原告が被告に提出した履歴書に記載された職歴のうち,

事実に反する不適切な記載が確認された。

 

 

原告は,これらの指摘を受けて,改善する意向を示しましたが,

原告が高いマネジメント能力を買われて高待遇のもと,

即戦力として中途採用されたことから,原告に対する改善指導は,

当然の前提ではないとして,被告が原告に対して,

改善指導をしなかったことは問題ではないと判断されました。

 

 

結果として,被告による本採用拒否は有効となり,

原告の請求は認められませんでした。

 

 

 

特定のポストや役職のために上級管理職として中途採用され,

賃金などの労働条件において優遇されている場合には,

勤務成績の不良の程度は,労働契約で合意された能力,

地位にふさわしいものであったか否かの観点から緩やかに判断され,

教育訓練や配置転換も問題とされないので,注意が必要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

接待は過労死事件における労働時間といえるのか

1 接待は労働時間に該当するのか

 

 

年が明けて,明日から仕事始めのところが多いと思います。

 

 

おそらくこれからは新年会が多く開催されることでしょう。

 

 

新年会のほかに,営業の方であれば,接待も多くなるかもしれません。

 

 

くれぐれも飲み過ぎには注意してください。

 

 

さて,接待が多いと,接待も仕事のうちであると考えることがあります。

 

 

 

飲み会の席では,円滑なコミュニケーションが図れて,

仕事が有利に進むこともあります。

 

 

本日は,接待が労働時間と認められた,

国・大阪中央労基署長(ノキア・ジャパン)事件の

大阪地裁平成23年10月26日判決を紹介します

(労働判例1043号67頁)。

 

 

この事件では,居酒屋で会食していた労働者が,

くも膜下出血を発症して死亡したことから,ご遺族が,

過労死であるとして,労災申請したものの,

労災と認定されなかったことから,

労災の不支給決定の取消訴訟を提起しました。

 

 

2 接待の業務起因性

 

 

労災と認定されるためには,仕事が原因で

死亡したといえなければならず,そのためには,

仕事に内在する危険が現実化したと認められる必要があります。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

一般的には,接待は,仕事との関連性が不明であることが多く,

直ちに業務起因性を肯定することは困難です。

 

 

しかし,本件事件では,次のような事情がありました。

 

 

・接待が顧客との良好な関係を築く手段として行われており,

会社は,その業務性を承認して,被災労働者の裁量に任せていたこと。

 

 

・会社関係者が,技術に詳しい被災労働者から本音で

込み入った技術的な話を聞く場として,会合が位置づけられていたこと。

 

 

・接待に使う飲食費を会社が負担していたこと。

 

 

これらの事情から,接待のほとんどの部分が

業務の延長であると判断されました。

 

 

接待の目的や内容,費用負担などによっては,

接待の業務性が認められて,労働時間と認定されることがあります。

 

 

3 業務の質的過重性

 

 

また,この事件では,1ヶ月の時間外労働80時間という

過労死ラインを下回る時間外労働だったのですが,

業務の質的過重性が考慮されました。

 

 

すなわち,被災労働者は,24時間携帯電話の電源を

オンにすることが求められており,

24時間いつでも対応しなければならない状態に置かれており,

実際に重大事故が発生したときには出勤して対応していました。

 

 

 

そのため,寝ていたときの電話やメールで中途覚醒を強いられ,

睡眠の質が悪化していたとして,

24時間のオンコール体制の質的過重性が認められました。

 

 

その結果,業務の量的過重性と質的過重性が認められて,

裁判所で,労災の不支給決定が取り消されて,

過労死の労災認定がされたのです。

 

 

このように,過労死ラインに届かなくても,

業務の質的過重性を考慮することで,

過労死と認定されることがあるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

革命のファンファーレ~現代のお金と広告~

1 口コミが重要

 

 

立花B塾の課題図書である,西野亮廣氏の

革命のファンファーレ~現代のお金と広告~

を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

インターネットの普及により,

様々な物やサービスの内容や価格がガラス張りになった現代において,

どのように広告をすれば,売れるのか。

 

 

西野氏は,現代の宣伝力は,信用力であり,

口コミが最強であると主張しています。

 

 

利害関係のある方ですと嘘が入り込み,信用がありませんが,

利害関係の無い方がすすめるものには,信用があり,

その信用ある口コミを信頼して,人は買うのです。

 

 

そうなると,いかに口コミを発生させるかがポイントになります。

 

 

その一つは,当然ですが,売る商品やサービスの

クオリティーが高いことです。

 

 

インターネットの時代には,実力が可視化されるので,

良いものは良いと正当に評価されますので,

実力を高める必要があります。

 

 

2 他人の力を使う

 

 

もう一つが,他人の力を使うための仕掛けです。

 

 

自分独りでは1日24時間の制約があり,

能力にも限りがあるので,他人の時間と能力を使えば,

広告がどんどん拡大していくのです。

 

 

 

とはいえ,まだまだ,他人は,

インターネットで簡単に口コミをしてくれるわけではないので,

口コミを自然発生させるための仕掛けを作ることが重要になります。

 

 

西野氏は,ご自身の絵本「えんとつ町のプペル」の販売の際に,

読者がインスタグラムにアップするための導線を設計し,

絵本の個展を開催する権利を売り,

そのためのクラウドファンディングが自然発生するなど,

他人の力を借りる広告の実践例を,

公表してくれているので,参考になります。

 

 

今後,弁護士の世界でも,口コミによる広告が重要になってくる

と思いますので,西野氏の具体的な実践例が,とても参考になります。

 

 

3 行動すること

 

 

そして,西野氏は,行動することの重要性を説いています。

 

 

自分の脳に仕入れた情報を編集して,

アイディアを創造するので,

アイディアの待ち合わせ場所になる人間が強いです。

 

 

アイディアの待ち合わせ場所になるためには,

とにかく行動することです。

 

 

行動することで他人の脳と多く接続でき,

自分の中に体験が蓄積されるので,情報が増え,

より多くの情報を編集して,

知識や知恵に昇華できるのだと思います。

 

 

西野氏は,華やかにみえる活躍の裏で,

圧倒的な努力を尽くしているからこそ,

あれだけ売れているのがよく分かります。

 

 

自分の信用を高めることの重要性を学べる名著ですので,

一読をおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

未払残業代請求においてメールの最終送信時刻やパソコンのログオフの時刻が終業時刻とされた事例

1 未払残業代請求では労働時間の立証が重要になります

 

 

未払残業代を請求する事件では,残業代を計算するうえで,

原告の労働者が1日に何時間働いたのかを証拠に基づいて,

証明しなければなりません。

 

 

タイムカードで労働時間の管理がされている会社であれば,

タイムカードをもとに労働時間を認定するのですが,

タイムカードなどで労働時間をしっかりと管理している会社は,

まだまだ少ないのが現状です。

 

 

会社が適切に労働時間を管理していない場合には,

様々な証拠をもとに労働時間を認定できるように,

弁護士は知恵を絞ります。

 

 

2 ウエディングプランナーの未払残業代請求事件

 

 

本日は,様々な証拠をもとに労働時間を認定した

結婚式場運営会社A事件の東京高裁平成31年3月28日判決

を紹介します(労働判例1204号31頁)。

 

 

この事件では,ウエディングプランナーが

結婚式場を運営する会社に対して,未払残業代を請求しました。

 

 

 

被告会社では,シフト表で労働時間を管理していましたが,

原告のウエディングプランナーは,

パソコンのログインやログオフの時刻,

メールの送信時刻,原告のメモの時刻などをもとに,

労働時間を主張しました。

 

 

まず,始業時刻について,裁判所は,

原告の担当する結婚式がない日は,

シフト表に記載された始業時刻,

担当する結婚式がある日は,

新郎新婦が到着する予定時刻の1時間前と認定しました。

 

 

原告は,パソコンのログインの時刻を始業時刻と主張していましたが,

原告の仕事の性質上,パソコンの起動と仕事が直結しているといえず,

業務関連性が明白ではないと判断されたのです。

 

 

本件事件のウエディングプランナーの場合,

パソコンの電源をいれてすぐにデスクワーク

にとりかかるような仕事ではなかったため,

このような判断になったのだと思います。

 

 

デスクワークの多い事務職であれば,

出社してすぐにパソコンの電源をいれて,

パソコンが立ち上がったら,すぐに仕事に取り掛かるのであれば,

パソコンのログインの時刻が始業時刻になると考えます。

 

 

パソコンのログイン時刻を始業時刻と主張するときには,

パソコンの起動と業務関連性を意識する必要があります。

 

 

3 最終送信メール時刻やパソコンのログオフ時刻が終業時刻と認定される

 

 

次に,裁判所は,終業時刻については,

最終送信メールの時刻やパソコンのログオフ時刻があれば,

その時刻を終業時刻としました。

 

 

 

被告会社では,原告のアカウントで他の社員が

ログインすることができるのですが,

他の社員が原告のアカウントで終業時刻まで

仕事をすることは考えがたいので,

原告のアカウントでログオフした時刻まで

業務の必要性があったと認定されました。

 

 

また,最終の送信メール時刻も業務上のものであると認められて,

終業時刻とされました。

 

 

ただ,原告のメモについては,事後的に作成されたものとして,

信用性がないと判断されました。

 

 

労働者の作成したメモについては,

労働したその日にその都度作成しないと,

証拠としては弱いです。

 

 

未払残業代を請求するためには,

労働時間を立証するためにどのような証拠があるか,

その証拠はどの程度証明力があるのかを吟味する必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

若年性認知症の影響による万引についての懲戒免職処分が取り消された事例

1 犯罪行為と懲戒処分

 

 

人は時として過ちをおかしてしまうことがあります。

 

 

刑事事件の弁護人をしていると,貧困が原因で万引をしたり,

精神的な病気から犯罪をしてしまったり,

という事件をよく担当することがあります。

 

 

罪を犯した人が人生のやり直しのきっかけを与えることも

弁護士の大切な仕事だと考えています。

 

 

犯罪をしたことが勤務先に発覚すると,

懲戒処分となるリスクが高まります。

 

 

 

本日は,犯罪行為と懲戒処分について,

検討された裁判例を紹介します。

 

 

海上自衛隊厚木航空基地自衛官事件の

東京地裁平成30年10月25日判決です(労働判例1201号84頁)。

 

 

この事件では,自衛官がコンビニで栄養ドリンクを万引したとして,

懲戒免職処分を受けましたが,この懲戒免職処分の

取り消しを求めて訴訟を提起しました。

 

 

2 懲戒処分の要件

 

 

懲戒処分が有効となるためには,

①懲戒処分の根拠規定の存在,

②懲戒事由への該当性,

③懲戒処分の相当性

の3つの要件が満たされなければなりません。

 

 

本件事件では,②と③の要件が争点となりました。

 

 

まず,原告の自衛官がどのような万引をしたのかが争いとなりました。

 

 

原告は,万引をして,コンビニの店長に捕まったときに,

許してもらいたくて,店長から言われるがままの事実を認めてしまいました。

 

 

しかし,防犯カメラの映像といった客観的な証拠からは,

原告が2日間にわたり,栄養ドリンクを各1本ずつ

万引したことしか認定できませんでした。

 

 

民事事件においても,懲戒処分の該当行為については,

客観的な証拠の裏付けをもとに厳格に認定される傾向があります。

 

 

3 懲戒処分の相当性

 

 

次に,コンビニで栄養ドリンクを2回万引したことで,

懲戒免職処分ができるのかが争われました。

 

 

 

この点,公務員に対する懲戒処分について,

懲戒事由該当行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響の他,

公務員の懲戒事由該当行為の前後における態度,

懲戒処分などの処分歴,選択する処分が他の公務員に与える影響など,

諸般の事情を考慮して,懲戒権者の裁量の逸脱・濫用がないかを検討します。

 

 

本件事件では,以下の事情が考慮されました。

 

 

・2回にわたり2本の栄養ドリンクを万引したものであり,

被害の程度は軽微であること。

 

 

・原告は,被害店舗に謝罪して被害弁書をして示談が成立していること。

 

 

・原告は,過去に停職1日の懲戒処分を受けているものの,

14年前のことであり,本件とは事案が異なること。

 

 

・原告は,若年性認知症によって認知機能が低下していて,

これが犯罪行為に影響を与えた可能性があること。

 

 

以上の事実を総合考慮すれば,懲戒免職処分は重すぎ

停職処分が相当であるので,懲戒免職処分が取り消されたのです。

 

 

最近では,万引をしたのに記憶がないと主張する方がおり,

若年性認知症が影響しているのではないかと疑うケースがあるので,

若年性認知症のことが,労働者に有利に判断されたことが評価できます。

 

 

懲戒処分を争うときには,③懲戒処分の相当性で

労働者が勝つことがあるので,

懲戒処分が重すぎないかを検討することが重要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。