解雇事件で未払賃金を請求するために必要なこと
1 解雇事件では労務提供の意思と能力が必要
あけましておめでとうございます。
今年も,働く方々にとって役立つ情報を発信していきますので,
このブログをよろしくお願い致します。
さて,本日は解雇に関して,労働者にとって
有意義な判断をした裁判例を紹介します。
横浜A皮膚科経営者事件の横浜地裁平成30年8月23日判決
(労働判例1201号68頁)です。
この事件は,個人病院を経営する被告から,
口頭で懲戒解雇を告げられて,
それ以後出勤しなくなった原告労働者が,
未払賃金を請求したというものです。
労働者が賃金を請求するためには,労務を提供し,
会社がその労務を受け取ることが必要になります。
解雇の場合,会社が労働者の労務の提供を拒否していますので,
労働者としては,現実的な労務の提供は不要なのですが,
労務提供の意思と能力が必要になります。
労働者が労務提供の意思と能力を表明しているにもかかわらず,
会社が労務の提供を拒否したのであれば,
会社には民法536条2項の帰責事由があるとして,
労働者は,会社に対して,未払賃金を請求できるのです。
そこで,解雇事件においては,労働者は,
会社に対して,働く意思があることを通知します。
この通知を出すことで,労働者の労務提供の意思と能力が明確になり,
労働者は,会社に対して,未払賃金を請求できるのです。
本件事件では,被告に,民法536条2項の
帰責事由があるのかが争われました。
この点,被告は,原告に対して,病院への出勤を要請した事実はなく,
懲戒解雇を撤回し,原告の労務提供を受け取ることを
積極的かつ明確に表示していないことから,
民法536条2項の帰責事由は解消されていないと判断されました。
要するに,会社は,解雇を撤回して,
出勤を促すなどをしないと,労働者から解雇を争われて,
解雇が無効になれば,未払賃金を支払わなければならなくなるのです。
2 未払賃金から失業給付を控除できるのか
また,本件事件では,原告は,
雇用保険の基本手当(いわゆる失業給付です)を受給していたところ,
被告は,未払賃金の請求から,
この失業給付が控除されるべきであるとして争いました。
しかし,結果として失業していない期間に
失業給付を受給したのであれば,
その分は政府に対して返還すべきものであり,
被告との間で未払賃金からの控除によって
調整すべきものではないとされました。
そのため,失業給付を受給しても,未払賃金から,
失業給付の分が控除されることはないのです。
解雇事件を処理するにあたり,
労働者に役立つ裁判例ですので,紹介しました。
本日もお読みいただきありがとうございます。