名ばかりのパワハラ相談窓口ではパワハラ防止措置義務を守ったことにはなりません
1 名ばかりのパワハラ相談窓口の実態
先日,朝日新聞に興味深い記事が記載されていましたので,紹介します。
https://www.asahi.com/articles/DA3S14394852.html
大手の企業におけるパワハラ被害の相談窓口の対応が
ずさんであるという問題です。
例えば,仕事が与えられずに同僚から隔離されていることを,
パワハラの相談窓口に相談したところ,担当者から,
「仕事がない状態はありえます」,「何ヶ月も待機した人もいる」
と回答されたようです。
また,別の会社では,「上司から過剰なノルマを与えられ,
残業時間の過少申告も指示された」と,
パワハラの相談窓口で相談したところ,担当者から,
「個人的な職場への不満と受け止めました」と言われ,
上司とよく話すように促されたようです。
さらには,残業代の未払が社内で横行していることを指摘した
報復として降格されたことを,パワハラの相談窓口で相談したところ,
「この窓口では法的見解を回答するためのものではありません」
と回答されたようです。
2 企業のパワハラ防止措置義務とは
これらのパワハラ窓口の対応は,今年の6月から大企業に施行される
(中小企業には2022年4月から施行)改正労働施策総合推進法
で定められた,企業のパワハラ防止措置義務に違反する可能性があります。
もう少し,具体的にみていきましょう。
大企業は,今年の6月から,次のような
パワハラ防止措置義務を履行しなければなりません。
①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発
(就業規則などにパワハラを行ってはならない方針や
パワハラに対する懲戒処分の規定を明記して,
職場で広く知らしめることなどです)
②相談に応じ,適切に対応するために必要な体制の整備
(パワハラの相談窓口を設置して,労働者に広く知らしめることなどです)
③職場におけるパワハラに係る事後の迅速かつ適切な対応
(事実関係を正確に確認して,パワハラの加害者に対して,
適切な処分をすることなどです)
このうち①は,就業規則などに記載すればいいので,
容易に実行できますが,②と③はなかなか大変です。
3 名ばかりのパワハラ相談窓口を設置していたのでは
パワハラ防止措置義務違反になる
名ばかりのパワハラ相談窓口を設置して,
不適切な事後対応をすれば,
上記の朝日新聞の記事のように不安をためた労働者が,
労働局に通報したり,会社に対して,
パワハラ防止措置義務を怠ったとして,
損害賠償請求をしてくる可能性があるのです。
とくに,②については,名ばかりのパワハラ相談窓口ではだめで,
パワハラ指針では,「相談窓口の担当者が,相談に対して,
その内容や状況に応じ適切に対応できるようにすること」
と定められています。
パワハラ相談窓口の担当者が適切な対応をしなければならないのです。
弁護士でもパワハラの判断に迷うことが多いのに,
パワハラの相談窓口の担当者が適切に相談を聞き取って,
適切な事後対応につなげるのは,なかなか難しいと思います。
企業としては,弁護士などの外部の機関に
パワハラ相談の対応を委託するのがいいと考えます。
さて,労働者が会社のパワハラ相談窓口の対応が不適切だと感じたら,
労働局にそのことを通報すれば,労働局が,会社に対して,
助言,指導,勧告をする可能性があります。
そして,労働局が,会社がパワハラ防止措置義
を履行していないとして,勧告をしたのに,
会社が勧告に従わない場合は,労働局は,そのことを公表できます。
勧告に従わないことを公表されると,
ブラック企業という風評被害が生じるリスクがあるので,
企業は,勧告に応じることが期待されます。
パワハラ防止措置義務を守る企業が増えて,
一日でも早く,職場からパワハラがなくなることを祈っています。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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