教員に対する1年単位の変形労働時間制導入の問題点

1 教員に対する1年単位の変形労働時間制の導入

 

 

政府は,教員の勤務時間を年単位で調整する変形労働時間制について,

自治体の判断で導入できるようにするために,

教職員給与特別措置法(給特法)の改正案を閣議決定しました。

 

 

入学式や新学期で忙しい4月の労働時間を長くして,

夏休みなどで業務量が減る8月の労働時間を短くして,

教員がまとまった休みをとれるようにすることを目的としているようです。

 

 

しかし,教員に対して1年単位の変形労働時間制を

導入することについて,現場の教員や野党から反対の声があがっています。

 

 

https://dot.asahi.com/aera/2019101800108.html?page=1

 

 

本日は,教員に対する1年単位の変形労働時間制の

問題点について解説します。

 

 

2 地方公務員に適用される労働基準法

 

 

まず,教員は,地方公務員ですので,

地方公務員法が適用されます。

 

 

地方公務員法58条3項には,労働基準法の中で

地方公務員に適用されない条文が記載されています。

 

 

ということは,地方公務員法58条3項に記載されていない,

労働基準法の条文は,地方公務員にも適用されるというわけです。

 

 

労働時間に関する労働時基準法32条や,

残業代に関する労働基準法37条は,

地方公務員にも適用されるので,

地方公務員が1日8時間を超えて残業した場合,

残業代を請求できるのです。

 

 

 

ちなみに,1年単位の変形労働時間制は,

地方公務員法58条3項に記載されているので,

特別な法律がなければ,

地方公務員に1年単位の変形労働時間制は適用されません。

 

 

3 給特法の問題点

 

 

ところが,地方公務員の中で,教員だけは,

残業代について特殊な法制度によって規律されています。

 

 

それが,給特法というものです。

 

 

教員には,修学旅行や遠足での学校外の教育活動や,

家庭訪問や学校外研修など教員個人での活動

といった勤務態様の特殊性があり,

一般の地方公務員と同じ勤務時間管理はなじまないという理由で,

労働時間が長い短いに関わりなく,

残業代を支給しない代わりに,

給料月額の4%に相当する教職調整額が支給されているのです。

 

 

この給特法については,どれだけ働いても,

4%の残業代相当分しか支給されないため,

雇用する側としては,長時間労働に目をつぶることになり,

教員の長時間労働を助長していると批判されています。

 

 

4 1年単位の変形労働時間制とは

 

 

さて,今回,導入が検討されている1年単位の変形労働時間制とは,

1ヶ月を超え1年以内の一定期間を,

平均して1週間の労働時間が40時間以内の範囲内において,

特定の日または週において,1日8時間または1週40時間を超えて

所定労働時間を定めることができる制度です(労働基準法32条の4)。

 

 

本来,1日8時間を超えて労働した場合には,

残業代が支払われなければならないのですが,

ある時期は忙しいので1日8時間以上労働させて,

ある時期は暇なので1日8時間未満で労働させて,

一定期間を平均して1週間の労働時間が40時間以内の範囲におさまれば,

忙しい時期に1日8時間以上労働させても,

残業代を支払わなくてもよくなるのです。

 

 

結局のところ,変形労働時間制とは,労働時間を長くしても,

残業代を支払わなくてもよい状況をつくりたい

会社が導入する制度ですので,

労働者の労働時間の削減につながるわけではないのです。

 

 

そのため,教員の長時間労働が深刻で,

教員のなり手が減少しており,教員の労働時間を削減するために,

教員の働き方改革がすすめられている状況において,

1年単位の変形労働時間制の導入は,

この流れに逆行するおそれがあります。

 

 

 

教員の労働時間の削減を検討するのであれば,

給特法を廃止して,労働時間に応じた残業代を支払うこと,

教員の過大な仕事を外部の専門家にアウトソーシングすること

などの改革をすべきと考えます。

 

 

教員に1年単位の変形労働時間制を導入すれば,

むしろ長時間労働が助長されるリスクがありますので,

私は,導入に反対です。

 

 

教員のなり手が減少しているので,

教員の仕事が魅力的になるように,

教員の労働時間を削減するための改革が実行されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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