1ヶ月60時間を超える残業の割増率と代替休暇制度
8月2日金曜日に石川県女性センターで開催される,
「トラブルのない明るい職場を目指す労働判例・政策セミナーin金沢」
で講師をさせていただくことになりましたので,
2018年6月に成立し,2019年4月から逐次施行されている,
働き方改革関連法について,今一度勉強をしております。
本日は,その勉強のアウトプットとして,
働き方改革のうちの1ヶ月60時間を超える
残業に対する割増率について解説します。
労働基準法37条1項但書には,
「当該延長して労働させた時間が1ヶ月について
60時間を超えた場合においては,
その超えた時間の労働については,
通常の労働時間の賃金の計算額の
五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。」
と規定されています。
労働者が1ヶ月60時間を超える残業をした場合,
会社から50%以上の残業代が支払われなければならないのです。
もっとも,この60時間超の残業の割増率は,
中小企業については,当分の間,適用が猶予されてきました。
残業代の割増率が50%以上になれば,
人件費が高騰して,中小企業の経営が苦しくなるからだと思います。
ところが,今回の働き方改革によって,
中小企業の1ヶ月60時間を超える残業の
割増率の適用猶予が廃止され,2023年4月1日から,
中小企業にも,1ヶ月60時間を超える残業に対して,
50%以上の割増率が適用されます。
これは,長時間労働に対しては,残業代の割増率を増加させて,
会社に対して,高額な残業代を支払わせることで,
長時間労働を抑制していこうという趣旨なのだと思います。
中小企業にも1ヶ月60時間を超える残業の割増率が
50%以上になれば,労働基準法37条3項に規定されている
代替休暇制度を導入する会社が現れてくることが予想されます。
代替休暇制度とは,1ヶ月60時間超の残業代の支払いに代えて,
年次有給休暇とは別に有給休暇を付与することで,
従来からの25%増しの残業代を超える部分についての
残業代を支払う必要がなくなるという制度です。
もともと,1日8時間,1週間40時間を超えて働いた場合には,
25%増しの残業代が支払われるのですが,
代替休暇制度が適用されれば,
1ヶ月60時間を超える残業の場合,
50%増しのうち,60時間を超えた追加の25%増しについて,
代替休暇を付与し,従来の25%増しについて,
残業代を支払わなければなりません。
ここでのポイントは,代替休暇制度を利用しても,
従来からの25%部分については,
必ず残業代を支払わなければならないことです。
例えば,1ヶ月60時間を超える残業の割増率が50%で,
代替休暇を取得した場合に支払われる残業代の割増率が25%で,
1ヶ月80時間の残業をした場合,次のように,
代替休暇の時間数を計算します。
(80時間-60時間)×(50%-25%)=5時間
代替休暇制度を導入すれば,会社は,
労働者に1ヶ月80時間残業させても,
60時間を超える20時間分について,
5時間の有給休暇を付与すれば,
20時間分の25%増しの残業代を支払わなくてもよくなり,
80時間分の25%増しの残業代を支払えばよいことになります。
80時間という過労死ラインで働いても,
5時間分の有給休暇しかもらえないのでは,
1日休むことができないので,労働者としては,
80時間のうち,60時間を超える20時間分について,
50%増しの残業代を受け取った方が得かもしれません。
この代替休暇制度を導入するためには,会社は,
過半数労働組合若しくは過半数の労働者の代表者との間で,
労使協定を締結しなければなりませんので,労働者としては,
代替休暇制度の導入には,慎重に対処したほうがいいかもしれません。
本日もお読みいただきありがとうございます。
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!