専門業務型裁量労働制におけるプロデューサーやディレクターの仕事とは?

いきものがかりが所属する芸能事務所キューブにおいて,

裁量労働制が適用されていたのですが,

業務遂行に裁量が認められておらず,

裁量労働制は無効であるとして,

渋谷労働基準監督署が是正勧告をしました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM2G5QBMM2GULFA021.html

 

 

マスコミの報道によりますと,20代男性労働者は,

音楽アーティストのアシスタントマネージャーとして,

ライブやラジオ収録に同行し,

打ち合わせの同席やSNSでの情報発信,

衣装の用意や買い出しなどの補助業務をしていたものの,

アーティストの活動方針やスケジュールは上司が決定し,

集合や解散の時間,業務の進め方も上司の指示に従っていたようです。

 

 

芸能事務所は,この20代男性労働者が

専門業務型裁量労働制の「プロデューサー」,「ディレクター」

の対象業務に従事しているとして,裁量労働制を適用していました。

 

 

 

また,6月16日のブログで紹介しましたが,

スポーツ動画配信サービス「DAZN」を運営する

Perform Investment Japanが,

動画編集担当をしていた従業員に対して,

専門業務型裁量労働制を違法に適用したとして,

三田労働基準監督署から是正勧告を受けました。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20190604/k00/00m/040/225000c

 

 

おそらく,動画編集の仕事が,

「プロデューサー」や「ディレクター」に該当するとして,

専門業務型裁量労働制が違法に適用されていたのだと思います。

 

 

本日は,専門業務型裁量労働制における

プロデューサーやディレクターの業務

について説明したいと思います。

 

 

専門業務型裁量労働制とは,

労働基準法38条の3に基づく制度であり,

業務の性質上,業務遂行の方法,時間配分等を大幅に

労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として,

法令等により定められた19業務の中から,

対象となる業務を労使協定で定めて,

労働者を実際にその業務に就かせた場合,

労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

 

 

この専門業務型裁量労働制が適用されると,

労使協定でみなし時間が8時間に設定されていれば,

実際に1日11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

8時間を超える3時間分の残業代を

請求することができなくなるのです。

 

 

専門業務型裁量労働制が適用される業務は,

労働基準法施行規則24条の2の2第2項に記載されており,

その5号に「放送番組,映画等の制作の事業における

プロデューサー又はディレクターの業務

が対象業務として記載されています。

 

 

 

この条文だけでは,どのような業務が対象となるか分からないので,

行政解釈を見てみると,次のように記載されています。

 

 

「『放送番組,映画等の制作』には,

ビデオ,レコード,音楽テープ等の制作及び

演劇,コンサート,ショー等の興行等が含まれるものであること」

 

 

「『プロデューサーの業務』とは,

制作全般について責任を持ち,

企画の決定,対外折衝,スタッフの選定,

予算の管理等を統括して行うことをいうものであること」

 

 

「『ディレクターの業務』とは,

スタッフを統率し,指揮し,

現場の制作作業の統括を行うことをいうものであること」

 

 

この行政解釈を読むと,テレビ局の放送番組や映画会社の映画の

制作の仕事が対象になることは分かるのですが,

プロデューサーやディレクターが抽象的に記載されているため,

どのような仕事が対象になるのかわかりにくいです。

 

 

 

 

私は,プロデューサーと言われて思い浮かべるのは,

小室哲哉氏や秋元康氏で,当然,

このクラスの方々が会社に勤務していたら,

専門業務型裁量労働制が適用されても納得できるのですが,

他のプロデューサーが専門業務型裁量労働制の対象になるか,

と言われると正直よくわからないです。

 

 

よくわからないということは,制度を悪用されやすいわけです。

 

 

実際に,芸能事務所キューブやDAZNの運営会社でも,

仕事内容は,若手社員が上司から指示されて,

よくやるような雑多な仕事だったにもかかわらず,

プロデューサーやディレクターと称して,

専門業務型裁量労働制を違法に適用していたのだと思います。

 

 

労働者も,会社から「君には専門業務型裁量労働制が適用されるので,

残業代はでないんだよ」と説明されても,

「ふーん,そうなんだ」と言って,

素直に受け入れている可能性があります。

 

 

そもそも,専門業務型裁量労働制は,

適用対象となる労働者に業務の遂行方法について

裁量が認められていなければ,適用できないのですが,

会社が残業代を支払いたくないために,

形式的にプロデューサーやディレクターと称して,

裁量のない仕事をさせている実態がありそうです。

 

 

もし,プロデューサーやディレクターであるとして,

専門業務型裁量労働制が適用されていた場合,

自分の仕事は,本当に裁量があるのかを見直してみて,

残業代を請求できないか検討してみるのもいいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

プログラマーに専門業務型裁量労働制が適用されるのか?

昨日,建築士の資格を持たずに,

建築士の仕事の補助をしている労働者には,

専門業務型裁量労働制が適用されないことの解説をしました。

 

 

本日は,プログラマーに専門業務型裁量労働制が

適用されるのかが争われたエーディーディー事件を紹介します

(京都地裁平成23年10月31日判決・労働判例1041号49頁)。

 

 

この事件は,2019年6月4日のブログで紹介した,

会社の労働者に対する損害賠償請求が否定された事件と同じです。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201906048131.html

 

 

専門業務型裁量労働制の対象業務は,

労働基準法38条の3第1項1号で,

「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する

労働者の裁量にゆだねる必要があるため,

当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し

使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして

厚生労働省令で定める業務」と規定されています。

 

 

 

 

そして,この「厚生労働省令で定める業務」が

労働基準法施行規則24条の2の2の第2項で規定されています。

 

 

労働基準法施行規則24条の2の2の第2項には,

専門業務型裁量労働制の対象業務が記載されており,

その2号において,「情報システム

(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として

複数の要素が組み合わされた体系であって

プログラムの設計の基本となるものをいう。)

の分析又は設計の業務」が挙げられています。

 

 

ただ,この条文を読んだだけでは,

情報システムの分析又は設計の業務」とは,

具体的にどのような業務なのかがよくわかりません。

 

 

東京労働局が作成した「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために

というパンフレットに,「情報システムの分析又は設計の業務」

の具体的な内容が記載されています。

 

 

 

 

まず,「情報システム」とは,

「情報の整理,加工,蓄積,検索等の処理を目的として,

コンピュータのハードウェア,ソフトウェア,

通信ネットワーク,データを処理するプログラム等が

構成要素として組み合わされた体系をいうものであること」,

と記載されています。

 

 

次に,「情報処理システムの分析又は設計の業務」は,

「①ニーズの把握,ユーザーの業務分析等に基づいた

最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定,

②入出力設計,処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計,

機械構成の細部の決定,ソフトウェアの決定等,

③システム稼働後のシステムの評価,問題点の発見,

その解決のための改善等の業務をいうものであること」,

と記載されています。

 

 

そして,「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは

含まれないものであること」と記載されています。

 

 

正直,この定義を読んだだけでは,どのような業務が

「情報処理システムの分析又は設計の業務」

に該当するのかよくわかりませんが,単なるプログラマーには,

専門業務型裁量労働制が適用されないことだけはわかります。

 

 

 

 

さて,この事件の判決では,「情報処理システムの分析又は設計の業務」

が専門業務型裁量労働制の対象業務となっている趣旨として,

システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,

どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき

裁量性が認められるからであることを挙げています。

 

 

ところが,この事件の労働者は,

下請会社でシステム設計の一部を担当し,

かなりタイトな納期を設定されていたことから,

専門業務型裁量労働制が適用されるべき

業務遂行の裁量性がかなりなくなっていたとして,

この事件の労働者の業務は,

「情報処理システムの分析又は設計の業務」とはいえず,

専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないと判断されて,

約567万円もの未払残業代の請求が認められたのです。

 

 

そもそも,プログラミングについては,

その性質上,裁量性の高い業務ではないので,

専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解されています。

 

 

このように,専門業務型裁量労働制の対象業務ではない

業務に従事しているにもかかわらず,

違法に専門業務型裁量労働制が適用されているケースがありますので,

専門業務型裁量労働制が適用されている場合には,

自分の業務が本当に対象業務なのかを

チェックすることが重要だと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

専門業務型裁量労働制における定額働かせ放題の危険性

昨日の続きで,本日は,専門業務型裁量労働制について解説します。

 

 

専門業務型裁量労働制とは,

労働基準法38条の3に基づく制度であり,

業務の性質上,業務遂行の方法,時間配分等を大幅に

労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として,

法令等により定められた19業務の中から,

対象となる業務を労使協定で定めて,

労働者を実際にその業務に就かせた場合,

労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

 

 

 

 

具体例で説明しますと,専門業務型裁量労働制が適用されると,

労使協定でみなし時間が8時間に設定されていれば,

実際に1日11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

8時間を超える3時間分の残業代を

請求することができなくなるのです。

 

 

昨日紹介した朝日新聞の記事に掲載されていた,

建築設計事務所で働いていた女性労働者も,

一定額の時間外手当が支給されているだけで,

定額で働かされ放題にされてしまったようです。

 

 

しかし,専門業務型裁量労働制を適用するためには,

法律で定められている厳格な要件を満たす必要があるのですが,

この女性労働者が勤務していた建築設計事務所は,

専門業務型裁量労働制の要件を満たしていませんでした。

 

 

まず,専門業務型裁量労働制が適用される労働者は,

法令で定められた19の対象業務に限定されます。

 

 

この女性労働者の場合,

建築士(一級建築士,二級建築士及び木造建築士)の業務

に該当するとして,専門業務型裁量労働制が適用されていましたが,

「建築士の業務」とは資格を持った建築士に適用されるものであり,

建築士の指示に基づいて専ら製図を行うなど

補助的業務を行う者は含まれませんので,

建築士の資格がないこの女性労働者には,

専門業務型裁量労働制を適用できないのです。

 

 

 

 

次に,労働基準法38条の3第1項1号に

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する

労働者の裁量にゆだねる必要があるため,

当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し

使用者が具体的な指示をすることが困難なもの

が対象業務になると規定されているのですが,

この女性労働者は新入社員であり,

上司との打ち合わせや意見をもとに動くしかないので,

裁量が認められておらず,この要件を満たさないことになります。

 

 

結果として,この女性労働者は,裁量労働制ユニオンに加入し,

会社と団体交渉を行い,未払残業代の支払いをしてもらったようです。

 

 

http://bku.jp/sairyo/(裁量労働制ユニオンのホームページ)

 

 

 

このように,専門業務型裁量労働制は,

定額働かせ放題になる危険をはらんだ制度なのです。

 

 

そのような危険な制度であるがゆえに,

専門業務型裁量労働制を適用するためには,

労働基準法で定められた厳格な要件を全て満たす必要があるのですが,

大企業であっても,要件を満たさずに,

専門業務型裁量労働制を適用していることがあります。

 

 

もし,専門業務型裁量労働制が適用されている場合,

労働基準法の要件を全て満たしているのかをよくチェックして,

不当に残業代が支払われていない状態になっていないか

について検討することをおすすめします。

 

 

専門業務型裁量労働制が労働基準法の要件を満たしていない場合,

専門業務型裁量労働制は無効となり,

労働基準法で計算した未払残業代を請求することができます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

企画業務型裁量労働制の争い方3~労働者の同意を活用する~

昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の

手続的要件を争うポイントとして,

労使委員会の設置や決議について解説しました。

 

 

本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,

手続的要件を争う方法の続きについて説明します。

 

 

 

 

昨日も述べましたが,労使委員会は,

次の7つの項目について決議します。

 

 

①対象業務

 ②対象労働者の範囲

 ③1日のみなし労働時間

 ④健康及び福祉確保措置

 ⑤苦情処理措置

 ⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止

 ⑦決議有効期間,記録保存期間

 

 

このうち,特に重要なのが,③1日のみなし労働時間です。

 

 

例えば,毎日11時間ほど残業しているにもかかわらず,

1日のみなし労働時間が8時間とされてしまえば,

企画業務型裁量労働制が導入されていないのであれば,

8時間を超える3時間分の残業代を請求できるのですが,

この3時間分の残業代を請求できなくなってしまいます。

 

 

そのため,労働者が長時間労働をしているのに,

みなし労働時間が実態の労働時間よりも短く設定されてしまうと,

労働者は,残業代を減額されてしまうのです。

 

 

労使委員会では,対象業務の内容を十分検討するとともに,

対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度について,

会社から十分な説明を受け,みなし労働時間が,

実態に見合った水準になるように決議する必要があります。

 

 

裁量労働制は,実際の労働時間のいかんにかかわらず,

一定の時間労働したものとみなされるので,

会社が残業代削減,残業隠しのために濫用する危険があります。

 

 

労働者が過大な目標を背負わされてしまい,

目標を達成するために,長時間労働を強いられてしまい,

肉体的・精神的ストレスによる身体の不調が生じ,

最悪の場合には,過労死や過労自殺に追い込まれる危険があります。

 

 

 

 

会社には,裁量労働制のもとでも,

労働者に対する安全配慮義務を負っていることから,

タイムカードなどによって実際の労働時間を把握し,

業務の目標などの基本的事項を適切に設定することが求められます。

 

 

次に,⑥労働者の同意を要すること,

不同意労働者への不利益取扱の禁止について,説明します。

 

 

労働者の同意は,労働者にとって強力な武器です。

 

 

労働者は,企画業務型裁量労働制の適用について,

個別具体的な同意をしなければ,

企画業務型裁量労働制を適用されないのです。

 

 

すなわち,労働者は,企画業務型裁量労働制の適用に対して,

自由に諾否を選択・決定できるのです。

 

 

この同意は,就業規則や入社時の労働契約書の条項などの

事前の包括的な同意ではだめで,

企画業務型裁量労働制を適用するタイミングで,

労働者から個別に取得する必要があります。

 

 

労働者が,企画業務型裁量労働制の適用に同意しなかったとしても,

会社は,そのことを理由に,同意をしなかった労働者に対して,

解雇・配転・降格などの不利益な取扱をすることが禁止されています。

 

 

さらに,労働者が,一度,企画業務型裁量労働制の適用に

同意しても,後から撤回することができます。

 

 

 

 

そのため,労働者としては,残業代が少なくなる上に,

長時間労働をさせられるのは嫌だと思えば,

企画業務型裁量労働制の適用に同意しなければよく,

一度,同意しても,後から同意を撤回すれば,

企画業務型裁量労働制が適用されない,

普通の働き方に戻ることができるのです。

 

 

以上,3回にわたって企画業務型裁量労働制について

解説してきましたが,企画業務型裁量労働制は,

労働基準法において要件が厳格に制限されていて,

大企業でも違法に適用していることもあるので,

労働者は,企画業務型裁量労働制が労働基準法の

要件をちゃんと満たしているのかをチェックし,また,

企画業務型裁量労働制の適用について,同意しなかったり,

同意を撤回することで,適用を免れることができます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方2~労使委員会~

昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の争い方として,

対象業務や対象労働者の要件が厳格に規定されているので,

対象業務や対象労働者に該当するかを

しっかりとチェックしましょうと記載しました。

 

 

 

 

本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,

手続的要件を争う方法について解説します。

 

 

企画業務型裁量労働制を導入するためには,会社に,

労使委員会を設置して,法律で定められた7つの項目について,

労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決で決議し,

かつ,そのその決議内容を労働基準監督署へ届け出る必要があります

(労働基準法38条の4)。

 

 

労使委員会とは,賃金,労働時間その他の当該事業場における

労働条件に関する事項を調査審議し,事業主に対し

当該事項について意見を述べることを目的とする機関です。

 

 

労使委員会は,労働者側の委員と会社側の委員で

構成されているのですが,労働者側の委員は,

労働組合か労働者代表者から任期を定めて指名を受けた者

である必要があり,労使委員会の委員の半数以上を占める必要があります。

 

 

労使委員会の労働者側の委員が適正に選出されていなければ,

労使委員会の決議が無効となり,

企画業務型裁量労働制が無効になる可能性があるのです。

 

 

 

 

労使委員会の開催の都度,議事録が作成されなければならず,

議事録は3年間保存されなければならず,

その議事録は,労働者に周知されなければなりません。

 

 

議事録の労働者に対する周知がされていなければ,

労使委員会の決議が無効になる可能性があります。

 

 

そして,企画業務型裁量労働制の対象労働者に不利益にならないように,

労使委員会において決議を適切に行うためには,

労働者側委員に対して,その判断の基礎となる

十分な情報提供がされなければなりません。

 

 

そのため,会社は,労働者側委員に対し,

対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度の内容を十分に説明し,

対象業務の具体的内容,実施状況に関する情報として

対象労働者の勤務状況,健康福祉確保措置の実施状況,

対象労働者からの苦情の内容及び処理状況など,

労働基準監督署への報告の内容を開示すべきなのです。

 

 

 

 

その上で,労使委員会は,次の7つの項目について決議します。

 

 

①対象業務

②対象労働者の範囲

③1日のみなし労働時間

④健康及び福祉確保措置

⑤苦情処理措置

⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止

⑦決議有効期間,記録保存期間

 

 

そもそも,労働者には,労使委員会の設置に

応じなければならない義務はありませんので,

企画業務型裁量労働制の導入に反対する場合には,

労使委員会の設置に応じなければよいのです。

 

 

また,労使委員会が設置されたとしても,

労使委員会の委員の5分の4の多数による議決が必要なので,

労働者側の委員は,会社からの説明を聞いて,

労働者にとってデメリットが大きいと判断すれば,

遠慮なく,ノーと言えばいいのです。

 

 

 

 

そうすれば,労使委員会の委員の5分の4以上の議決は得られず,

企画業務型裁量労働制の導入を阻止することができるのです。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制は,

労働者がはっきりとノーと言えば,

導入を防止することが十分可能な制度なのです。

 

 

長くなりましたので,続きは,また明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方

企画の仕事をしている労働者が裁量労働制を適用されていて,

業務量が多く,毎日遅くまで残業をさせられていたとします。

 

 

 

 

そのうえ,休日もとれず,労働者としては,

裁量が与えられているとはとても思えず,

裁量労働制が適法に運用されているのか疑問に思えます。

 

 

裁量労働制を適用された労働者は,

このような疑問を抱くことが多いと思います。

 

 

そこで,本日は,企画業務型裁量労働制の

争い方について解説します。

 

 

労働基準法38条の4で定められている企画業務型裁量労働制とは,

事業運営上の重要な決定が行われる企業の

本社・本店等の中枢部門における,

企画,立案,調査及び分析の業務を行う事務系労働者であって,

業務の遂行手段や時間配分などを自らの裁量で決定し,

会社から具体的な指示を受けない者を対象とした裁量労働制です。

 

 

企画業務型裁量労働制が適法に適用されれば,

労働者が実際にどれだけ働いても,

労使協定で定められたみなし時間しか働いていないことになります。

 

 

例えば,労使協定で定められたみなし時間が8時間の場合,

実際には11時間働いたとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

法定労働時間である8時間を超える

3時間分の残業代は支払われないことになるのです。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制は,どれだけ働いても,

労使協定で定められたみなし時間しか働いていないことになり,

労働者の残業代請求が制限され,

長時間労働を招くリスクがあることから,

要件が厳格に定められています。

 

 

企画業務型裁量労働制の対象業務は,

次の3つの要件を備える必要があります。

 

 

まずは,①事業の運営に関する事項についての

企画,立案,調査及び分析の業務という要件です。

 

 

 

 

これは,企業経営の動向や業績に

大きな影響を及ぼす事項に限定され,

実態の把握,問題点の発見,課題の設定,

情報・資料の収集・分析,解決のための

企画,解決案の策定などを一体・一連の

ものとして行う業務のことです。

 

 

ようするに,社長室など社長や役員直属の

中枢的な企画セクションなどに限られ,

「企画」や「調査」という名称がついた

部署の業務のすべてが該当するわけではなく,

補助的・定型的な業務や単なる書類作成業務は

対象業務に含まれません。

 

 

次に,②当該業務の性質上これを適切に遂行するには

その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に

ゆだねる必要がある業務という要件です。

 

 

これは,業務の客観的性質として,

当該労働者にあれこれ指示を出すことがかえってマイナスであり,

本人の自律性や創意工夫に任せた方が良いことが

常識的に見て誰にも明らかな業務のことです。

 

 

最後に,③当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定などに関し

会社が具体的な指示をしないこととする業務という要件です。

 

 

いつ,どのように行うかなどについての

広い裁量が労働者に認められている業務のことです。

 

 

時間配分の決定について,労働者が裁量を有し,

現にこれを発揮できる業務でなければならないので,

業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には,

時間配分の決定に関する労働者の裁量が事実上失われることになるので,

この要件を満たさないことになります。

 

 

 

 

また,対象業務を行う労働者は,

対象業務を適切に遂行するための知識,

経験などを有する労働者であり,

対象業務に常態として従事している者でなければなりません。

 

 

そのため,大学の学部を卒業した労働者であって

全く職務経験がない者は,対象労働者とはいえず,

少なくとも3年ないし5年程度の

職務経験を得た者である必要があります。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制の対象業務と対象労働者については,

厳格な要件が定められているので,自分の行っている仕事が本当に,

これらの要件を全て満たしているのかをチェックしてみてください。

 

 

おそらく,これらの要件のうちのどこかに

ひっかかることが多いのではないかと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

裁量労働制の違法適用の社名公表制度

朝日新聞の報道によりますと,厚生労働省は,

裁量労働制を労働者に違法に適用した企業の社名を

公表する制度を新設する方針を固めたようです。

 

https://www.asahi.com/articles/ASLDZ059VLDYULFA009.html

 

 

なぜかといいますと,裁量労働制については

違法に適用されていることが多く,

長時間労働を助長しているという批判が多いため,

厚生労働省は,社名公表制度を新設することで,

企業の裁量労働制の違法適用を抑止しようとしているからです。

 

 

厚生労働省が,裁量労働制を違法適用している

企業の名前を公表し,マスコミで大々的に報道されれば,

あの会社は,長時間労働をさせられても,

残業代が支払われないブラック企業であるという

レッテルをはられてしまいます。

 

 

 

そうなれば,労働者を大切にしない企業であるとの

イメージが定着してしまい,若者が就職しなくなり,

人手不足に陥り,経営が悪化するリスクが高まります。

 

 

そのため,裁量労働制を違法適用している企業があれば,

厚生労働省は,しっかりと調査した上で,

注意喚起を含めて,どんどん公表するべきだと思います。

 

 

では,裁量労働制が違法に適用されるとは,

どのような場合なのでしょうか。

 

 

そもそも,裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を

大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるものについて,

実労働時間とは関係なく,労使協定や労使委員会の決議

で定めた時間を労働時間としてみなす制度のことです。

 

 

 

 

ようするに,どれだけ働いても,事前に定められた時間しか

働いていないことになり,残業代が支払われないか,若しくは,

少ない金額の残業代に抑えられてしまう制度なのです。

 

 

このように,裁量労働制は,労働者にとって

不利益な制度であることから,労働基準法で

適用要件が厳格に定められているのです。

 

 

例えば,裁量労働制の対象となる業務は,

客観的にみて労働者の裁量性が認められる業務である

必要があるにもかかわらず,仕事の段取りや時間配分について,

会社からの指示が多く,労働者に裁量性がないのに,

裁量労働制が違法に適用されている場合があります。

 

 

その他にも,裁量労働制は労使協定を締結する

必要があるのですが,その労使協定の有効期限が切れていたり

労使協定を締結した労働者が,

労働者の過半数代表者ではなかったために,

労使協定が無効である場合もあります。

 

 

このように,裁量労働制は,要件が厳しいので,

違法に適用されていることが多いと思います。

 

 

裁量労働制が違法に適用されていたのであれば,労働者は,

労働基準法で計算した残業代を請求することができます。

 

 

今回の,厚生労働省の社名公表の新制度ですが,

複数の事業場を持つ大企業が対象であり,

次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

①裁量労働制を適用する労働者のおおむね3分の2以上が,

制度を適用できない仕事をしていた

 

 

②違法適用した労働者のおおむね半数以上が,

違法な時間外労働をしていた

 

 

③そのうち1人以上が一ヶ月100時間以上の残業をしていた

 

 

社名公表のハードルがとても高く,

ほとんどの違法適用の会社は公表されない可能性が高いです。

 

 

裁量労働制の違法適用を抑止するためにも,

厚生労働省は,社名公表の要件を緩和し,

労働者に注意喚起するために,

積極的に社名を公表していってもらいたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

裁量労働制の問題点

朝日新聞の報道によれば,三菱電機において,

2014年から2017年の間に,

5人のシステム開発の技術者や研究職が,

長時間労働が原因で精神疾患や脳疾患を発症して

労災認定されていたことが明らかとなりました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASL9V7L2LL9VULFA02B.html

 

 

5人のうち2人が過労自殺しており,

5人のうち3人に裁量労働制が適用されていました。

 

 

本日は,裁量労働制の問題点について説明します。

 

 

 

 

裁量労働制とは,実際に働いた時間ではなく,

あらかじめ定められた労働時間に基づいて

残業代込みの賃金を支払う制度です。

 

 

裁量労働制では,労働者と会社が

労使協定を締結して,みなし労働時間を定めます。

 

 

例えば,労使協定でみなし労働時間を9時間としている場合,

実際には11時間働いたとしても,9時間だけ労働したものとみなされて,

8時間を超えた1時間分の残業代しか支払われず,

残り2時間分の残業代は支払われなくなります。

 

 

会社は,労働時間に応じて残業代が決まるのであれば,

人件費を削減するために,残業代を支払いたくないので,

労働時間の管理をしっかりして,なるべく残業が生じないようにします。

 

 

ところが,裁量労働制の場合,どれだけ働いても,

みなし労働時間しか働いていないことになりますので,

会社は,厳密な労働時間管理をしなくても,

みなし労働時間分の残業代を支払えばいいので,

労働時間管理が甘くなるのです。

 

 

その結果,裁量労働制が適用されると,労働時間が長くなり,

長時間労働によって,過労死や過労自殺が生じてしまうのです。

 

 

また,裁量労働制が適用されるのは,仕事の性質上,

仕事の進め方を大幅に労働者に委ねる必要がある場合

に限定されているのですが,仕事の量や期限は,

会社が決定するので,会社から命じられた仕事が過大であれば,

労働者は,事実上,長時間労働を強いられ,

長時間労働に見合った残業代は支払われないことになります。

 

 

 

 

実際に,裁量労働制が適用されている職場であっても,

適法に裁量労働制が適用されていない場合もあります。

 

 

私が担当した事件では,結婚式のプロフィール映像や

エンドロールの映像を撮影,編集する労働者が

裁量労働制を適用されていました。

 

 

裁量労働制が適用される業務の一つに

放送番組,映画等の制作の事業における

プロデューサー・ディレクターの業務」があります。

 

 

結婚式のプロフィール映像やエンドロールの映像が

「放送番組,映画等」に含まれるとは考えにくく,

単に映像を撮影して編集することが,

「プロデューサーやディレクターの業務」とはいえないはずです。

 

 

このように,裁量労働制を適用できない労働者に対しても,

違法に裁量労働制が適用されている濫用事例が多くあると考えられます。

 

 

会社から「うちは裁量労働制で,労基署も受理しているから,

残業代は出さなくても問題ない」と説明されれば,

労働者は「そうなんだ」と納得してしまい,

違法に裁量労働制が適用されていることに

気づかないことが多いのだと思います。

 

 

三菱電機の労災事件で,裁量労働制の問題点が明らかになりましたので,

これ以上の裁量労働制の拡大は行われるべきではありません。

 

 

裁量労働制が適用されている労働者は,

本当に自分の会社の裁量労働制は適法なのかを

一度疑ってみるべきだと思います。

 

 

本日もお読みいただき,ありがとうございます。

裁量労働制の厳格化

以前にブログで紹介した立憲民主党の「人間らしい質の高い働き方を実現するための法律案」のうち,今回は,裁量労働制適用の厳格化について説明します。

 

https://cdp-japan.jp/news/20180508_0436

 

裁量労働制とは,業務の性質上,業務遂行方法をおおはばに労働者に委ねる必要がある場合に,実際に働いた労働時間とは関係なく,労使協定や労使委員会の決議で予め定めた時間を労働時間とみなす制度のことです。

 

ようするに,仕事の遂行方法や勤務時間について労働者が自由に決めることができる状況において,労働者がどれだけ働いても,会社との間で取り決めた時間(みなし労働時間)しか働いていないこととなり,みなし労働時間以上働いても,残業代が支払われないという制度です。

 

裁量労働制が適用されると,労働者は,どれだけ残業しても,みなし労働時間以上の残業代が支払われなくなってしまうのです。

 

裁量労働制のうち,企画業務型裁量労働制の適用範囲を拡大することがもともと検討されていましたが,裁量労働制についての厚生労働省のアンケート調査がずさんであったこともあり,今回の働き方改革関連法案では,企画業務型裁量労働制の適用範囲の拡大はみおくられました。

 

それでも,裁量労働制は,労働者にとって,みなし労働時間以上の残業代が支払われなくなるというデメリットがある上に,知らない間に,裁量労働制が導入されて,残業代がほとんど支払われなくなることがあるので,立憲民主党は,労働者を保護するために,裁量労働制の規制を強化しようとしていると考えられます。

 

立憲民主党の法案では,裁量労働制を導入するためには,まず労働者への事前説明を会社に義務付けています。具体的には,①会社が導入を予定している裁量労働制の概要,②人事評価及び賃金決定の方法,③同意しなかった場合の待遇について,書面で労働者に説明しなければなりません。

 

そして,裁量労働制を導入するためには,①裁量労働制の適用を受けることについて,労働者から書面による同意を得なければならず,②同意をしなかった労働者に対して,同意をしなかったことを理由として不利益な取扱をしてはならず,③仮に,労働者が同意をしたとしても,労働者は,30日の予告期間をもうけて,同意を撤回できるようにしなければならないというものです。

 

私が担当した裁量労働制の事件では,会社が労働基準法に定められている手続に違反したまま,労働者がよく分からないうちに裁量労働制を導入して,残業代が非常に少ない金額におさえられていました。

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/2018/04/14/news20180414/

 

裁量労働制は,労働者の残業代を少なくするために導入されることが多く,残業代が少ないまま,どれだけでも働かされるリスクがある制度です。そのため,長時間労働を是正して,労働者の健康を守り,ワークライフバランスを充実させる観点から,裁量労働制適用の厳格化を目指す立憲民主党の法案に賛成します。

 

なお,現在の労働基準法のもとでも,裁量労働制の導入には厳しいハードルが設定されているので,今導入されている裁量労働制が労働基準法に違反している可能性がありますので,裁量労働制に疑問をもった労働者は,弁護士に相談することをおすすめします。

野村不動産の企画業務型裁量労働制に対する是正勧告

報道によると,東京労働局が野村不動産に対し,企画業務型裁量労働制を社員に違法に適用して,残業代の一部を支払っていないとして,是正勧告をしました。

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20171226/k10011272001000.html

 

裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある場合に,実際の労働時間とは関係なく,あらかじめ決められた労働時間に基いて残業代込の賃金を支払う制度です。そのため,あらかじめ決められた労働時間以上働いたとしても,追加の残業代が支払われなくなります。

 

裁量労働制には2つあり,専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制です。今回の野村不動産で問題になったのは,企画業務型裁量労働制です。企画業務型裁量労働制の対象業務は,①「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務であって」,②「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり」,③「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をないこととする業務」とされています(労働基準法38条の3)。

 

しかし,労働基準法の条文の定義を読んでも,どのような業務が対象になるのかがよく分かりません。厚生労働省のパンフレット等を読むと(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-8a.pdf),本社において企業全体の事業戦略の策定をする業務は対象になりそうで,個別の営業活動は対象にならないようですが,実際にどこまでが対象業務になるのかは不明確です。

 

このように,労働者にとって不利益を及ぼすことになる制度の要件が不明確であると,対象業務をしていない労働者にも対象業務に就いているとして,適用が拡大される等の悪用されるリスクが高まります。

 

野村不動産では,マンションの個人向け営業の労働者に対しても,企画業務型裁量労働制が違法に適用されており,適切な残業代が支払われていなかったようです。

 

企画業務型裁量労働制の要件に,労働者の個別合意を得ることがあげられています。労働者としては,合意をしなければ,企画業務型裁量労働制の適用を回避できますし,同意をしなかったことで不利益な取扱をうけることはありません。労働者は,ワークルールを学び,自分の身を守るために,与えられている権利を行使して,適切に働く環境を実現していくべきだと思います。