解雇だと思っていたら、会社から退職勧奨だと言われたら、どうすればいいのか?【弁護士が解説】

1 解雇と退職勧奨の違い

 

 

会社から辞めてくれないかと言われ、解雇だと思っていたら、

会社から退職勧奨なので、あなたは、自己都合退職になるといわれました。

 

 

 

解雇だと思っていたのに、自己都合退職になるのは納得がいきません。

 

 

このように、解雇だと思っていたら、

会社から退職勧奨だったと主張されることはよくあります。

 

 

解雇だと思っていたら、会社から退職勧奨だったと主張された場合、

どうすればいいのでしょうか。

 

 

結論から先に言いますと、会社から、

「明日から来なくていい」などと言われた場合には、

本当に解雇なのか、会社に確認することが重要です。

 

 

今回は、解雇と退職勧奨の違いについて解説し、

退職勧奨を解雇と勘違いしないための対処法をお伝えします。

 

 

1点目に、解雇と退職勧奨の違いを解説します。

 

 

まず、解雇とは、労働者の意向にかかわらず、

労働契約を終了させる会社の一方的な意思表示をいいます。

 

 

ようするに、会社が労働者をクビにすることです。

 

 

解雇の場合、会社が一方的に労働契約を終了させるので、

労働契約を終了させるにあたって、労働者の同意は不要です。

 

 

解雇には、厳しい規制があります。

 

 

労働契約法16条において、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、

社会通念上相当であると認められない場合は、無効とすると規定されています。

 

 

大ざっぱに説明すれば、労働者によほどひどい落ち度がない限り、

会社は、労働者を解雇できない、ということです。

 

 

なぜ、解雇には、厳しい規制があるのかといいますと、解雇によって、

労働者が生活の糧である賃金を失い、労働者の生活が困窮するからです。

 

 

すなわち、解雇されると、労働者は収入を失い、

労働者の収入で生活している家族にとっても、

生活がおびやかされることになりますので、

労働者の生活困窮を防止するために、

解雇には厳しい規制がかけられているのです。

 

 

他方、退職勧奨とは、労働契約の解約の申込若しくは申込の誘引のことです。

 

 

すなわち、会社から労働者に対する、

労働契約を合意で解約しましょう、

という申し入れや誘いのことをいいます。

 

 

ようするに、退職勧奨とは、労働者に対する、

会社を辞めてくれませんかというお願いのことです。

 

 

退職勧奨は、あくまで、会社から労働者に対する辞めてくれませんか

というお願いなので、労働者は、会社からのお願いに過ぎない、

退職勧奨に応じる義務はありません。

 

 

そのため、退職勧奨の場合、労働契約を終了させるためには、

労働者の同意が必要になるのです。

 

 

退職勧奨は、辞めてくれませんかという単なるお願いですので、

会社は、退職勧奨を自由にでき、よほど酷い態様でない限り、違法にはなりません。

 

 

ここまで説明してきたとおり、解雇には厳しい規制があるので、

会社は、規制が緩い、退職勧奨だと言い張って、

解雇の主張を認めないことがあります。

 

 

解雇通知書などが交付されている場合には、解雇であることは明らかですが、

解雇が口頭でなされた場合には、解雇の意思表示があったのか、

退職勧奨だったのかが争われることがあります。

 

 

2 解雇か退職勧奨かが争われた事例

 

 

2点目に、解雇か退職勧奨かが争われた事例をいくつか紹介します。

 

 

 

①丸一商店事件・大阪地裁平成10年10月30日判決・労働判例750号29頁

 

 

「来月から残業代を支払えない。残業をつけないか、それがいなやら辞めてくれ」

という使用者の発言が、実質的に解雇の意思表示に該当すると判断されました。

 

 

②医療法人光優会事件・奈良地裁平成25年10月17日判決・労働判例1084号24頁

 

 

「看護部を解散する」という発言は、

業務命令に従わない看護師を排除することを告げたものであり、

解雇の意思表示に該当すると判断されました。

 

 

③宝城建設事件・東京地裁平成22年2月26日判決・労働判例1006号91頁

 

 

「明日から来なくてよい。別の仕事を探しなさい」という発言は、

解雇の意思表示に該当すると判断されました。

 

 

④ベストFAM事件・東京地裁平成26年1月17日判決・労働判例1092号98頁

 

 

「成績があがらないなら辞めてくれ」という発言について、

労働者が自主的に退職したものではなく、

解雇の意思表示にあたると判断されました。

 

 

⑤全国資格研修センター事件・大阪地裁平成7年1月27日判決・労働判例680号86頁

 

 

「がんばってもらわないとこのままでは30日後に解雇する」

という通告について、業績をあげなければ1ヶ月後に解雇する可能性を示すものであり、

解雇予告の意思表示ではないと判断されました。

 

 

⑥印南製作所事件・東京地裁平成17年9月30日判決・労働判例907号25頁

 

 

「社内大改革、強いてはリストラにまで、手を染めなくてはならない現況になってしまいました」、

「そこで、誠に勝手な都合ですが、平成14年12月20日を目安に区切りをつけていただくことと致します」

と記載された文書の交付は、解雇の意思表示に該当しないと判断されました。

 

 

裁判例では、解雇か退職勧奨に応じた自主退職かを判断するにあたり、

次の事情が考慮されています。

 

 

①会社側の言動

 

 

②労働者の離職の経緯

 

 

③労働者が自己の意思で退職する同期の有無

 

 

④離職後の労働者の態度

 

 

⑤会社が労働者の労務提供の受領を拒否する意思の表れとみられる事情の有無

 

 

3 退職勧奨を解雇と勘違いしないための対処法

 

 

3点目に、退職勧奨を解雇と勘違いしないための対処法について説明します。

 

 

 

やはり、会社に解雇か退職勧奨かを確認するのが効果的です。

 

 

そして、会社に対して、解雇か退職勧奨かを確認する際には、

会社側の言動を録音してください。

 

 

録音をしておけば、後から言った言わないのトラブルを防止でき、

解雇か退職勧奨かについて争点になることを回避できます。

 

 

その上で、会社が解雇だと回答した場合には、会社に対して、

解雇理由証明書の交付を求めて、就労意思を表明します。

 

 

会社から解雇理由証明書をださせて、解雇の理由を特定することで、

会社が後出しで解雇理由を追加することを防止できます。

 

 

また、会社に対して、未払賃金を請求するためには、

会社に対して、働く意思があることを表明する必要があります。

 

 

もし、会社が退職勧奨だと回答した場合には、

会社を退職したくないならば、明確に退職勧奨を拒否してください。

 

 

退職勧奨を受けて、その会社で働く気持ちがなくなってしまい、

退職してもよいと考えた場合には、一定の退職条件を満たすなら、

退職を検討してもよいというスタンスで会社と交渉します。

 

 

素直に退職勧奨に応じるのではなく、

自分にとって有利な条件で退職できるように、

会社と交渉してみてください。

 

 

このように、退職勧奨を解雇と勘違いしないように、

会社に解雇か退職勧奨かをよく確認するようにしてください。

 

 

解雇や退職勧奨でお悩みの場合には、弁護士にご相談ください。

 

 

弁護士は、解雇や退職勧奨について、適切なアドバイスをしてくれます。

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

看護師が能力不足を理由に解雇されて労働審判の申立をした事件

1 事件の概要

 

 

今回は、私が担当した解雇事件の解決事例を紹介させていただきます。

 

 

クライアントは、個人の医師が経営しているクリニックにおいて、

看護師として、働いていたところ、ある日突然、解雇を通告されました。

 

 

 

解雇の理由は、業務能力が不足していること、及び、勤務態度が悪いことでした。

 

 

確かに、クライアントは、経営者の医師との人間関係は、

うまくいっていませんでしたが、解雇されるほどのことではないと考えており、

今回の解雇には納得できませんでした。

 

 

解雇に納得できないクライアントは、私のもとに法律相談にこられました。

 

 

クライアントからは、経営者の医師にも、

様々な問題があるにもかかわらず、

自分だけが解雇によって不利益を被ることに納得できず、

解雇はなかったことにしてほしいという要望がありました。

 

 

また、クライアントは、解雇したクリニックに

復職することは望んでいませんでした。

 

 

そこで、労働審判の申立をして、労働審判の手続きにおいて、

クリニックに解雇を撤回させ、労働契約を合意解約し、

解決金を支払ってもらうことで、事件を解決できないかと考えました。

 

 

2 弁護活動

 

 

まず、解雇を争う事件では、解雇をした会社に対して、

働く意思があることを通知する必要があります。

 

 

これは、解雇が無効になった時に、未払賃金を請求するためには、

労働者に、働く意思があることが必要になるからなのです。

 

 

 

次に、解雇を争う事件では、会社が主張している

解雇理由を具体的に特定させていきます。

 

 

労働者としては、会社が主張している解雇理由に対して、

一つ一つに反論し、裁判所に、解雇理由はないのではないか、

この解雇理由では解雇できないのではないかと思わせればいいのです。

 

 

そのためには、会社が主張している解雇理由が抽象的な内容ですと、

反論に時間がかかりますので、

会社が主張している解雇理由を具体化させることが重要になります。

 

 

そこで、私は、相手方のクリニックに対して、

クライアントが働く意思があることを表明し、

クリニックが主張している解雇理由を具体的にするように求める

通知書を送付しました。

 

 

すると、相手方は、業務能力が不足していることについて、8つの解雇理由を、

勤務態度が悪いことについて、8つの解雇理由を主張してきました。

 

 

相手方が主張している合計16個の解雇理由について、

クライアントと打ち合わせを重ねて、反論を考え、労働審判の申立をしました。

 

 

3 結果

 

 

相手方の主張している解雇理由が多く、

反論の主張を作成するのに苦労しましたが、

クライアントが、的確に事実関係を整理してくれたおかげで、

効果的な反論ができました。

 

 

なにより、クライアントの話しを聞いていると、

クライアントは、しっかりと仕事をしているにもかかわらず、

そのことをクリニックの経営者の医師が、

適正に評価していなかったことがわかりました。

 

 

また、クライアントと経営者の医師との

コミュニケーションがうまくいっていなかったことが

根本的な原因だったのですが、そのことを、

クライアントだけの責任として、

解雇することは不当であるとわかりました。

 

 

労働審判の手続きにおいても、裁判所に対して、

コミュニケーションがうまくいっていない問題について、

経営者が真摯に向き合わず、

反省している労働者を解雇することはおかしいと主張したところ、

裁判所は、理解を示してくれました。

 

 

通常の裁判であれば、解雇が無効になり、

解雇期間中の未払賃金を全額請求できる事案でしたが、

クライアントは、既に、別のクリニックで就職しており、

この解雇事件をなるべく早く解決したいという要望がありました。

 

 

そこで、労働審判で解決するためには、

金銭的な請求については、ある程度の譲歩をすることが求められました。

 

 

その結果、相手方のクリニックが、解雇を撤回した上で、

クライアントと相手方のクリニックの労働契約を合意解約し、

相手方のクリニックがクライアントに対して、

解決金100万円を支払ってもらうことで調停が成立しました。

 

 

私としましては、解決金100万円という金額に不満がありましたが、

早く事件を解決したいクライアントの意向を尊重して、調停をまとめました。

 

 

不当な解雇が撤回され、

解雇によって傷ついたクライアントの尊厳が回復されたようで、

事件が解決した後のクライアントは、

清々しい表情になっていたのが印象的でした。

 

 

 

このように、不当解雇が無効になり、

金銭的な解決ができることがありえます。

 

 

解雇されて、納得がいかないときには、弁護士にご相談ください。

 

 

弁護士は、解雇について、適切なアドバイスをしてくれます。

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

 

入社3日目で解雇されたクライアントの労働審判事件

1 事件の概要

 

 

今回は、私が担当した解雇事件の解決事例を紹介させていただきます。

 

 

40代男性のクライアントは、ハローワークの求人票を見て、

電子部品や電子機材の製造をしている会社に応募し、採用されました。

 

 

しかし、クライアントは、入社して3日目に、会社を解雇されました。

 

 

 

クライアントと会社の労働契約には、試用期間が設定されていましたので、

試用期間中に解雇されました。

 

 

解雇の理由としては、

①上司の指導に対して返事をしない、

②上司の指示に反発して従わない、

③無断でロッカーを使用した、

④会社のルールに従わずに勝手に行動をしている、

といったことがあげられていました。

 

 

クライアントとしては、会社が主張している解雇理由について、身に覚えがなく、

入社3日目で解雇されることに納得できず、私のもとへご相談にこられました。

 

 

2 弁護活動

 

 

まず、大前提として、解雇は、よほどのことがない限り、できません。

 

 

なぜならば、解雇されると、労働者は、

生活の糧である給料を失うことになり、

その労働者の給料で生活をしている家族を含めて、

生活が困窮することになるので、日本では、

解雇に対して、厳しい規制をかけています。

 

 

また、働くことは、人間にとって、自己実現の場でもあり、

解雇によって、自己実現の場を奪うことは、

抑制的であるべきということからも、

解雇に対しては、厳しい規制がかせられているのです。

 

 

そのため、解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、

社会通念上相当であると認められない場合には、無効になります。

 

 

ここで、客観的に合理的な理由については、

①解雇の理由があるのか、

②解雇の理由が将来も存続すると予測できるか、

③解雇回避措置を尽くしたといえるのか、

の3つを検討します。

 

 

社会通念上の相当性については、労働者にとって有利な、

あらゆる事情(労働者の情状、他の労働者の処分との均衡、会社側の落ち度など)

を考慮して、解雇が労働者にとって過酷ではないかを検討します。

 

 

裁判実務では、この客観的合理的な理由と、

社会通念上の相当性の要件を満たすのは、

ハードルが高く、解雇が無効になることはよくあります。

 

 

法律相談で、クライアントの話しを聞いていますと、

会社が主張している解雇理由の①については、

クライアントは、上司から指導を受けた時には、

メモをとりながら、返事をして聞いていました。

 

 

会社が主張している解雇理由②については、

クライアントは、上司の指示に反発しておらず、疑問点を尋ねただけでした。

 

 

会社が主張している解雇理由③については、クライアントは、

会社から指定されていたロッカーとは別のロッカーを使用したものの、

会社から指導を受けて、それ以降は、

別のロッカーを使っておらず、改善していました。

 

 

会社が主張している解雇理由④については、

クライアントは、会社のルールにきちんと従っていました。

 

 

このように、クライアントの話しによりますと、

会社の主張している解雇理由は存在しないことになります。

 

 

そして、クライアントは、入社して3日で解雇されたのですが、

仮に、会社の主張している解雇理由があったとしても、

その後の会社の指導によって、

クライアントの問題点が改善される可能性が十分にあるにもかかわらず、

いきなり解雇しているので、会社は、解雇回避措置を尽くしていません。

 

 

そのため、会社は、客観的合理的な理由がないにもかかわらず、

クライアントを解雇しているので、この解雇は、

無効になる可能性が高いと考えました。

 

 

そこで、3日で解雇されたクライアントの無念な思いに応え、

解雇事件の依頼を受けて、会社に対して、解雇が無効であり、

クライアントには、働く意思があることを通知しました。

 

 

解雇が無効になれば、労働者としての地位が復活し、

解雇期間中の未払賃金を、会社に対して、請求できるのですが、

未払賃金を請求するためには、

会社で働く意思があることを表明する必要があるのです。

 

 

もっとも、会社からは、誠意ある回答がなかったことから、

労働審判を申し立てました。

 

 

3 結果

 

 

労働審判とは、3回の期日で終結する、迅速な裁判手続です。

 

 

普通の裁判ですと、1年くらい時間がかかるのですが、

労働審判ですと、申立をしてから3ヶ月以内で終結することが多く、

早く事件を解決できるのが魅力です。

 

 

 

特に解雇事件では、前の会社とのトラブルを早く解決して、

すっきりしてから、次の職場で働きたいと考える労働者が多いことから、

私は、労働審判を活用することが多いです。

 

 

今回の労働審判では、裁判所も、入社して3日で解雇したのでは、

全く解雇の要件を満たしていないと考えてくれ、会社を強く説得してくれました。

 

 

もっとも、労働審判では、迅速に解決するために、

労働者に有利な事案でも、金銭的な解決における金額を決定する際に、

譲歩を求められます。

 

 

最終的には、クライアントの給料の6ヶ月分の108万円を、

会社に支払ってもらうことで調停が成立しました。

 

 

入社して3日で解雇され、やるせない思いを抱いていたクライアントでしたが、

労働審判をして、会社から、解決金が支払われることで、

傷ついた尊厳を回復することができて、この解決に満足されました。

 

 

解雇は、よほどの理由がない限りできませんので、

解雇が無効になることはありえます。

 

 

解雇されて、納得がいかないときには、弁護士にご相談ください。

 

 

弁護士は、解雇について、適切なアドバイスをしてくれます。

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございます。

労災事故による怪我の治療が終了した後の解雇が許されるのか

1 仕事中の怪我の治療終了後の解雇の有効性

 

 

仕事中にけがをしてしまい、治療を続けたものの、

もとの仕事ができるまでには回復できないことがあります。

 

 

このようなときに、会社は、精神または身体の障害により、

業務に耐えられないとして、労働者を解雇することがあります。

 

 

このような解雇は有効なのでしょうか。

 

 

治療が終了して1ヶ月後の解雇の効力が争われた

東京キタイチ事件の札幌高裁令和2年4月15日判決

(労働判例1226号5頁)を紹介します。

 

 

この事件では、原告の労働者は、仕事中に右の小指を負傷し、

何度か手術をしました。

 

 

 

負傷前の原告の仕事は、冷たいタラコをパック詰めするというものであり、

何度も手を入念に洗い、包丁を使うなど、

負傷した右の小指に負担がかかるものでした。

 

 

もっとも、負傷した右の小指に無理をかけないように注意をはらえば、

慣れた仕事は可能であり、仕事量を減らすなどの配慮をすればよい

との主治医の意見がありました。

 

 

被告の会社は、原告に対して、製造部から清掃部への配置転換を打診しましたが、

原告は、製造部での復職を求めました。

 

 

しかし、治療終了後1ヶ月後に解雇を通告されました。

 

 

原告は、解雇が無効であるとして、労働者としての地位の確認と、

未払賃金を請求する裁判を起こしました。

 

 

2 慣らし勤務をさせる必要がある

 

 

裁判所は、しばらくの間業務軽減を行うなどすれば、

原告が製造部へ復職することが可能であったと判断しました。

 

 

そして、本件事故が労災と認定されていることから、

慣らし勤務が必要であることを理由として、

解雇することはできないとしました。

 

 

プライベートな活動で負傷したならまだしも、

仕事中の活動で負傷した場合に、慣らし勤務を経ることで、

もともとの仕事ができる可能性があることを考慮しないことは、

労働者にとって酷であるという価値判断が背景にあると考えられます。

 

 

また、会社は、製造部から清掃部への配置転換を拒否すれば、

解雇がありえることや、製造部での仕事ができない理由を原告に説明しておらず、

原告は、解雇を回避する選択の機会が与えられていませんでした。

 

 

そのため、解雇の手続における、会社の説明が不十分であり、

会社は解雇回避の努力をしていないと判断されました。

 

 

 

解雇の過程を検討することも重要です。

 

 

その結果、解雇は無効となりました。

 

 

労災事故による怪我の影響で、すぐにはもとの仕事に復帰できなくても、

比較的短期間で復職が可能な場合には、会社は、

短期間の復帰準備時間を提供すべきであり、

それをしないでした解雇は無効になる傾向があります。

 

 

仕事中にけがをして、すぐにもとの仕事ができなくても、

慣らし勤務をすれば、もとの仕事ができる見込みがあるのであれば、

慣らし勤務をさせないで解雇することは無効になるわけです。

 

 

労災事故の治療後に解雇された場合、なっとくがいかないのであれば、

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただき、ありがとうございます。

コロナ便乗解雇の争い方

1 コロナ便乗解雇とは

 

 

新型コロナウイルスの感染が再び猛威を奮っています。

 

 

連日、2000人を超える感染者が続出し、第3波が到来しています。

 

 

 

感染が拡大してる大阪市や札幌市では、

GOTOトラベルの利用中断がされる見通しとなってきています。

 

 

厚生労働省が公表している解雇等見込み労働者数も

増加の一途をたどっており、11月13日時点で、

71,121人となっています。

 

 

新型コロナウイルスの感染が拡大していくと、

経営難を理由とする解雇が増えてきます。

 

 

さらには、新型コロナウイルスを隠れ蓑にした

便乗解雇も増えてくることが予想されます。

 

 

建前は、新型コロナウイルスの感染拡大による

経営悪化を理由としているものの、本音は、

会社にもの言う労働者を排除する解雇のことを、

コロナ便乗解雇と呼ばれるようです。

 

 

このようなコロナ便乗解雇は認められるのでしょうか。

 

 

結論としては、コロナ便乗解雇においても、

整理解雇の4要件(4要素)を満たさない限り、

無効となります。

 

 

2 整理解雇の4要件(4要素)

 

 

解雇を争う事件では、会社が主張している解雇理由に

客観的合理性があるのかが争点となり、

コロナ便乗解雇では、会社側は、

新型コロナウイルス感染拡大による経営悪化を

解雇理由として挙げてくるので、

以下の整理解雇の4要件(4要素)を満たすかが問題となります。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

②解雇回避努力

 

 

③人選の合理性

 

 

④労働者に対する事前の説明・協議

 

 

①人員削減の必要性については、

リストラ計画があるのか、

業績の回復の見込みはあるのか、

経営の見通しはどのようなものかについて検討します。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の状況においては、

人員削減の必要性は認められやすいのですが、

雇用調整助成金や持続化給付金などの支援策を活用してもなお

人員削減の必要性があるのかを検討することが重要です。

 

3 雇用調整助成金を活用しているのかをチェックする

 

 

コロナ便乗解雇においては、②解雇回避努力義務として、

会社が雇用調整助成金を活用したかがポイントになります。

 

 

 

雇用調整助成金とは、経済上の理由により

事業活動の縮小を余儀なくされた会社が、

労働者に対して、休業手当を支払って一時的に休業させて、

労働者の雇用を守った場合に、

休業手当が助成される制度です。

 

 

そして、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、

雇用調整助成金が拡充されており、中小企業では、

会社が労働者に支払う休業手当のうち最大10/10が助成されます。

 

 

国は、労働者の雇用を守るために対策をうっているので、

会社が、雇用調整助成金を活用することなく、

労働者を安易に解雇した場合には、

解雇回避措置を尽くしていないとして無効となるのです。

 

 

センバ流通事件の仙台地裁の仮処分の決定では、

解雇に先立ち、雇用調整助成金の申請をしていないことから、

解雇回避措置の相当性は低いと判断されました。

 

 

また、④会社は、労働者に対して、

解雇を行う必要性や解雇を避けるために会社として

どのようなことをしてきたのかなどについて、

説明や協議をすることが必須です。

 

 

この会社の労働者の説明においても、

雇用調整助成金などの支援策の検討状況を伝える必要があります。

 

 

まとめますと、コロナ便乗解雇においては、

雇用調整助成金が活用されていなかったり、

労働者に対して、雇用調整助成金などの支援策の検討状況をふまえた

説明をしていなかった場合には、解雇は無効となるのです。

 

 

解雇が無効になれば、会社に対して、

未払賃金の請求をすることができます。

 

 

コロナ便乗解雇にあっても、納得がいかなかったら、

弁護士に相談して、解雇が有効になるのかの

アドバイスを求めるようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社内での不倫を理由に解雇されてしまうのか

1 会社内での不倫を理由とする解雇の問題

 

 

近藤真彦氏が25歳年下の女性社長と不倫をした

ということが話題になっています。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/12f2ac499088809a9efb3a3c5ba344be42859751

 

 

テレビのワイドショーをみていますと、

有名人の不倫に関する報道がよく流れてきます。

 

 

また、弁護士の仕事をしていますと、

妻または夫が不倫をしているので、

損害賠償請求をしたいという法律相談を受けることは多いです。

 

 

 

こういった不倫について、労働問題になることもあります。

 

 

会社内での不倫が発覚して、解雇されたという労働問題です。

 

 

本日は、会社内の不倫を理由に解雇されることが

認めらるのかについて検討します。

 

 

結論としては、よほどの特殊事情がない限り、

会社内の不倫を理由とする解雇は無効となります。

 

 

具体的な事例で見てみましょう。

 

 

2 会社内の不倫を理由とする解雇が無効とされた事例

 

 

まず、1つ目の事例は、繁機工設備事件の

旭川地裁平成元年12月27日判決です(労働判例554号17頁)。

 

 

この事件では、バツイチ子持ちの女性社員が、

妻子ある男性従業員と不倫関係になったことが、

「素行不良で職場の風紀・秩序を乱した」

という懲戒事由に該当するとして、懲戒解雇されました。

 

 

この事件の男女の恋愛関係は、会社内の従業員だけでなく、

取引先でも取り沙汰されるようになっていたようです。

 

 

とはいえ、「職場の風紀・秩序を乱した」とは、

会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限定されるとして、

裁判所は、この事件では、会社の企業運営に

具体的な影響を与えていないとして、懲戒解雇は無効としました。

 

 

会社内外で男女の恋愛関係が取り沙汰されるという程度では、

会社に何も影響がないので、

「職場の風紀・秩序を乱した」ことにならないわけです。

 

 

ましてや、不倫関係は、通常、隠密に行われることが多いので、

会社内外の人に気づかれることがほとんどなく、

ひょんなことで会社に発覚しても、

会社の企業運営に具体的な影響を与えていないので、

解雇できないことになります。

 

 

 

3 会社内の不倫を理由とする解雇が有効とされた事例

 

 

次に、2つ目の事例は、長野電鉄事件の

東京高裁昭和41年7月30日判決です(労働判例25号6頁)。

 

 

この事件は、妻子あるバス運転手が、

18歳の女子車掌と不倫をして、

その女子車掌を妊娠させてしまい、

女子車掌は、中絶手術をして、退職したことについて、

著しく風紀・秩序を乱したとして、解雇されました。

 

 

この事件では、次の事情が考慮されて、解雇が有効とされました。

 

 

①バス運転手と車掌は、長時間一緒に勤務し、

宿泊を共にする特殊な職場環境のため、

女子従業員に対する不安動揺が生じたこと。

 

 

②当該女子車掌が退職したこと。

 

 

③当時、この会社では、地元の中学校や高校から

求人を募集していたところ、地元の中学校や高校の関係職員に

会社従業員の風紀に対する不信感を与え、

会社の求人に支障を及ぼすことになったこと。

 

 

その結果、会社の業務の正常な運営を阻害して、

会社に損害を与えたとして、解雇が有効となりました。

 

 

もっとも、長野電鉄事件は、昭和41年の判決ですので、

当時の貞操観念も考慮されていたり、

上記のような特殊事情があることは少なくなってきているので、

長野電鉄事件のように、会社内の不倫を理由とする解雇が

有効になる余地は少ないと考えます。

 

 

プライベートな領域の男女関係に、

会社が解雇や懲戒というかたちで介入するのではなく、

会社は、当事者の問題であるとして、介入せず、

遠くから見守るのがよいのではないかと思います。

 

 

まとめますと、会社内の不倫を理由とする解雇は、

会社の風紀や秩序が具体的に乱された事実があり、

会社に損害が発生しているといった特殊事情がない限り、

無効となると考えられます。

 

 

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不当解雇を争うときに別の会社に再就職していても問題はないのか

1 クルーズ船会社における整理解雇事件

 

 

新型コロナウイルスの集団感染が発生した

クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の運行会社の

日本法人カーニバル・ジャパンの従業員が整理解雇されたのですが、

元従業員3名が、解雇は無効であるとして、訴訟を提起しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN876D7PN87ULFA033.html

 

 

報道によりますと、原告らは、カーニバル・ジャパンが

雇用調整助成金を活用しておらず、

解雇回避努力を尽くしていないとして、

整理解雇は無効であると主張しているようです。

 

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする整理解雇の事件では、

会社が雇用調整助成金を活用したかがポイントになりますので、

原告らの勝訴判決を期待したいです。

 

 

2 解雇を争うときには就労の意思を明確にする

 

新型コロナウイルスの問題が勃発してから、

解雇に関する法律相談が増えています。

 

 

不当解雇を争うときには、労働者は、会社に対して、

解雇が無効であるので、会社で働かせるように求めていきます。

 

 

解雇が無効になると、労働者は、会社に対して、

解雇されていた期間の未払賃金を請求できます。

 

 

この未払賃金を請求する前提として、労働者には、

就労の意思と能力が必要になります。

 

 

労働者の就労の意思を明確にするために、労働者は、

不当解雇を争う際には、会社に対して、

働かせるように請求するのです。

 

 

3 再就職しても就労の意思は認められる

 

 

とはいえ、解雇された労働者は、収入がなくなりますので、

通常でしたら、別の会社に再就職することがほとんどです。

 

 

 

すると、別の会社に再就職しているのに、

解雇された会社に対して、働かせるように請求するのは

矛盾するのではないかという問題が生じます。

 

 

ようするに、別の会社に再就職すると、

解雇された会社に対する就労の意思が失われてしまい、

解雇された会社に対して、

未払賃金を請求できないのではないかという問題です。

 

 

結論から言うと、労働者が解雇後に別の会社で働いてるというだけでは、

就労の意思を失ったことにはなりません。

 

 

すなわち、労働者が別の会社で働いていても、

解雇が無効であるとして、労働者の地位の確認を求めて交渉したり、

裁判をしている場合には、就労の意思があることが明らかとなるからです。

 

 

また、解雇されて賃金の支払を受けられなくなった

労働者が生活のために、別の会社で働いて

賃金を得るのはやむを得ないことだからです。

 

 

別の会社への再就職と就労の意思について、

参考になる裁判例を紹介します。

 

 

みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる事件の

名古屋高裁令和元年10月25日判決(労働判例1222号71頁)です。

 

 

この事件では、解雇された原告が新たに就労して

収入を得ていたのですが、新しい就職先での収入は、

解雇された会社における賃金額には及んでおらず、

新しい就労形態も、解雇された会社との間の

労働契約上の地位が確認された場合には、

離職して就労に復帰することが可能なので、

就労の意思が認められると判断されました。

 

 

この事件の原告らは、解雇された会社に勤務していたときの住居から

転居していましたが、それは新しい就労の都合上のものなので、

転居しているからといって、

就労の意思がなくなることにはならないと判断されました。

 

 

このように、不当解雇を争う場合には、

未払賃金を請求するために、

就労の意思を明確にする必要があるのですが、

別の会社に就職しても、

就労の意思が否定されることはないことになります。

 

 

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業務命令違反による解雇の有効性

1 解雇の効力はケースバイケースで判断するしかない

 

 

解雇を争う事件では、解雇が有効になるか無効になるかの

判断の見通しがたてにくいことがあります。

 

 

解雇は、労働契約法16条で、客観的合理的な理由を欠き、

社会通念上相当であると認められない場合には、

無効となると規定されています。

 

 

この要件が抽象的であり、

どのような場合に客観的合理的な理由があると言えるのか、

どのような場合に社会通念上相当であると言えるのか、

についてケースバイケースで判断していくしかないので、

解雇が有効か無効かの見通しがたてにくいのです。

 

 

 

解雇事件で見通しをたてるためには、

具体的な事件で裁判所はどのような判断をしたのかを

検討するのが効果的です。

 

 

2 業務命令違反による解雇の事件

 

そこで、本日は、業務命令違反による解雇が争われた、

東芝総合人材開発事件の東京高裁令和元年10月2日判決

(労働判例1219号21頁)を検討します。

 

 

この事件では、原告が、会社内部における自分の意見や不満を、

外部の派遣元関係者に対して、ぶちまける内容のメールを

送信したことについて、会社が、原告に対して、

反省文の作成を指示し、研修業務から部品の仕訳業務をするように

指示したものの、原告は会社の業務命令に従いませんでした。

 

 

原告が会社の業務命令に従わないでいたところ、会社から、

譴責の懲戒処分と、出勤停止1日の懲戒処分を受けたのですが、

それでも、原告は、会社の業務命令に従わなかったために、

解雇されました。

 

 

原告としては、懲罰目的またはいじめ・嫌がらせ目的の業務指示に

従わなかっただけであると主張して、解雇を争いました。

 

 

業務命令違反の解雇の場合、

まず業務命令の効力が判断され、

業務命令が有効とされた場合でも、

労働者に業務命令に服しないことにつき

やむを得ない事由があるかどうかが審査されます。

 

 

 そして、労働者に対して、注意・指導や懲戒処分を行っても

勤務態度を改めず、反抗的姿勢を取り続けるなど、

業務命令拒否が固執的・反復継続的で改善の見込みがなく、

会社において、労働契約の継続を期待しがたい事情が認められて初めて、

解雇の有効性が認められるのです。

 

 

 

まず,会社の業務命令が有効か無効かについて、裁判所は、

原告は、外部に問題メールを送信して、会社の信用を揺るがした上に、

反省文を作成せずに、会社を批判し続けたことから、

元の業務に戻さずに、代わりに必要な業務指示をし、

部品の仕訳業務は、精神的苦痛を生じさせない相当なものであることから、

業務命令は有効と判断されました。

 

 

次に、原告は、1年以上も業務命令に従っていないので、

会社における企業秩序が乱されており、

会社は、解雇の前に譴責と出勤停止の2回の懲戒処分をして

解雇回避努力を尽くしていることから、

有効な業務命令に従わないことを理由になされた

解雇は有効と判断されました。

 

 

業務命令が、原告を退職に追い込むことを目的としたものとは

判断されなかったので、1年以上も業務命令違反をしたなら、

解雇が有効になるのはやむを得ないことです。

 

 

また、解雇の前に軽微な懲戒処分がなされて、

労働者の改善を求めていることも、

解雇を有効にする方向にはたらきました。

 

 

解雇の効力を検討する上で参考になる裁判例として紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

整理解雇の事件で労働審判前に解決金302万円を支払ってもらうことで示談が成立したケース

1 不倫を理由に解雇?

 

 

最近、私が担当した事件で、

うまく解決できたケースがありますので、紹介します。

 

 

そのケースは、整理解雇の事案だったので、

今、新型コロナウイルスの感染拡大による

業績悪化を理由とする整理解雇が増えている状況において、

参考になると思います。

 

 

私のクライアントは、石川県内の葬儀会社に勤務していたところ、

代表者から、あらぬ疑いをかけられて、突然解雇させられてしまいました。

 

 

あらぬ疑いとは、クライアントが不倫をしているというものでした。

 

 

 

クライアントは、不倫をしておらず、抗議しましたが、

代表者は、クライアントの言い分に耳を傾けることなく、

解雇を断行したのでした。

 

 

この解雇に納得のいかないクライアントは、会社に対して、

解雇理由を明らかにするために、解雇理由証明書の交付を求めました。

 

 

2 解雇理由証明書の交付を求める

 

 

会社は、労働者から、解雇理由証明書の交付を求められた場合、

遅滞なくこれを交付しなければならず(労働基準法22条1項)、

往々にして、会社は解雇理由を明らかにしていないことが多いので、

労働者が解雇された場合には、会社に対して、

解雇理由証明書の交付を求めていきます。

 

 

解雇の裁判では、会社が主張している解雇理由について、

労働者が、一つ一つ反論していくことになり、

反論の対象を限定されるためにも、

解雇理由証明書を交付させることは重要です。

 

 

相手方の会社から交付された解雇理由証明書には、

「会社業績不振のため、人件費削減の措置のため」と記載されており、

クライアントが会社から口頭で聞かされた、

不倫をしているという解雇理由とは異なるものでした。

 

 

会社から、口頭で聞いていたのとは異なる解雇理由が主張され、

クライアントは、ますます納得がいかなくなり、

私に法律相談をされました。

 

 

このように、会社の真の解雇理由と、

実際に解雇理由証明書に記載される解雇理由が異なることは、

実務上よくあります。

 

 

すなわち、会社が真の解雇理由を正直に記載すれば、

解雇が無効になるケースでは、会社は真の解雇理由を隠して、

もっともらしい解雇理由をとりつくろうとするのです。

 

 

このようなケースでは、会社が主張する解雇理由が争点になるのですが、

労働者としては、会社が主張する解雇理由が無効であると主張しつつ、

真の解雇理由についても主張していきます。

 

3 整理解雇の4要件(要素)を検討する

 

 

さて、クライアントが不倫をしていたことを理由とする解雇は

当然に無効になりますが、会社が主張してきた、

業績不振を理由とする解雇は、

簡単に無効になるとは限りません。

 

 

業績不振を理由とする解雇は、整理解雇といい、

整理解雇は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、

③人選の合理性、④手続の相当性の4つの要件(要素)を総合考慮して、

無効となるかが判断されます。

 

 

クライアントが解雇された時期が、ちょうど、

新型コロナウイルスの感染が拡大していた時期なので、

三密を避けるために葬儀が減り、

葬儀会社の売上が減少していることが予想されました。

 

 

 

また、会社から開示された決算書を見ると、

新型コロナウイルスの感染拡大の前から、

会社の売上が落ちており、さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が、

売上の減少に追い打ちをかける状況でした。

 

 

そのため、①人員削減の必要性は認められそうでした。

 

 

もっとも、相手方の会社の決算書を税理士に分析してもらったところ、

外注費と接待交際費を削減できる余地があることがわかりました。

 

 

また、相手方の会社では、希望退職の募集がされておらず、

雇用調整助成金を利用していませんでした。

 

 

これまでのブログに記載していますが、

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、

雇用調整助成金が拡充されており、業績が悪化しても、

会社は、労働者を解雇するのではなく、休業手当を支払って、

休業させて、雇用を維持することが求められているのです。

 

 

そのため、相手方の会社は、

②解雇回避努力を尽くしていなかったのです。

 

 

また、クライアントは、相手方の会社が資金繰りに苦しんでいた時に、

一時的に自分の預金をおろして、会社に貸付をして、

会社の資金ショートを防ぐなどの貢献をしており、

クライアントを人員削減の対象とすることに

合理な理由はありませんでした(③の要件を満たさない)。

 

 

そして、解雇理由が途中で変わるなど、相手方会社は、

解雇の理由について、充分な説明をしていませんでした

(④の要件を満たさない)。

 

 

そのため、相手方の会社は、①の要件を満たすものの、

②~④の要件を満たさないので、整理解雇は無効になると考えました。

 

 

そこで、労働審判を申し立てたところ、相手方は、

期日の1週間前に解決金を支払うので、

裁判を終わりにしたいと白旗を挙げてきました。

 

 

クライアントの1年分の賃金から、退職金と解雇予告手当をひいた、

302万円を相手方会社に支払ってもらうことで示談が成立しました。

 

 

整理解雇の事案では、会社の決算書をていねいに分析して、

労働者に有利に使えるところを

ピックアップしていくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ解雇を争うときは会社が雇用調整助成金を活用したかをチェックする

1 コロナ解雇が無効と判断された仙台地裁の決定

 

 

昨日のブログで紹介した、整理解雇の仮処分の続きを記載します。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由に

整理解雇されたタクシー会社の運転手が、

労働者としての仮の地位の確認と賃金の仮払いを請求した、

仮処分の手続において、仙台地裁は、2020年8月21日、

整理解雇は無効であるとして、

休業手当相当額の一部の支払いを会社に命じる決定をだしました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/771b4ea2d7714f4ab2fd38067732d7d67ab05a13

 

 

整理解雇が無効となった理由の一つに、会社は、

雇用調整助成金を申請すれば、タクシー運転手を

休ませた際に支払う休業手当の大半を補填できたと指摘して、

解雇回避努力を尽くしていなかったということが挙げられます。

 

 

すなわち、新型コロナウイルスの感染拡大による

業績悪化を理由とする整理解雇では、

雇用調整助成金を活用して、休業手当を支払って休業させて

雇用を維持したかが重要なポイントになるのです。

 

 

 

本日は、整理解雇の4要件(4要素)の1つである

解雇回避努力について解説します。

 

 

2 整理解雇の4要件(4要素)

 

 

まず、整理解雇とは、会社の業績悪化を理由とする解雇のことで、

いわゆるリストラのことです。

 

 

会社の業績が悪化するのは、経営者の経営手法に問題があったり、

新型コロナウイルスのように会社の外部要因に原因があったりするもので、

労働者に会社の業績悪化の責任があることは、基本的にありません。

 

 

労働者に責任がないのに、解雇されるわけですから、

整理解雇は、厳格に審査される必要があり、

以下の4つの要件(要素)を満たす必要があるのです。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④手続の相当性

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由とする

整理解雇の場合、会社の売上が減り、

利益も減少していることがほとんどですので、

①の人員削減の必要性が認められることが多く、

労働者は、この点は争いにくいです。

 

 

 

3 解雇回避努力

 

 

次に、会社は、解雇を回避するための努力を

尽くさなければならないところ、具体的な措置としては、

以下のものがあります。

 

 

・広告費,交通費、交際費等の経費削減

 

 

・役員報酬の削減

 

 

・残業の削減

 

 

・中途採用、再雇用の停止

 

 

・新規採用の停止、縮小

 

 

・配転、出向、転籍の実施

 

 

・非正規雇用労働者との労働契約の解消

 

 

・希望退職の募集

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の前であれば、これらの中で、

希望退職の募集が、解雇回避努力として重視されていました。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の後では、

仙台地裁の決定でも指摘されているように、

解雇回避努力として、雇用調整助成金を活用して、

労働者を休業させて休業手当を支払って雇用を維持したかが、

重視されます。

 

 

現時点において、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、

人の動きが鈍くなっている関係で、仕事がないため、

休業する場合、雇用調整助成金を活用すれば、

労働者に支払う休業手当の大半が国から支給されます。

 

 

政府は、雇用を守ることを最優先に考えており、

雇用調整助成金を拡充して、会社が労働者を解雇せずに、

休業しても、休業手当を支払って雇用を維持させようとしています。

 

 

雇用調整助成金は、やや手続が煩雑な点は否めませんが、

厚生労働省のホームページを参考にして申請すれば、国から支給されます。

 

 

このように、国が解雇回避のための政策を実施していて、

それが活用できるのに、雇用調整助成金を活用せすに、

解雇した場合には、解雇回避努力を尽くしていないと判断されるわけです。

 

 

そのため、コロナ解雇された労働者は、

会社が雇用調整助成金を活用したのかを

チェックするようにしてください。

 

 

なお、仙台地裁の決定では、休業手当相当額の一部を支払う形で

賃金の仮払いを認めたようですが、これは、

会社の業績が悪化しているので、

会社の支払能力が考慮されたのかもしれません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。