妊娠などと近接して行われた解雇は有効か?

育児休業を取得後に,職場復帰しようとしたところ,

会社から退職勧奨をされて,さらには解雇されてしまった場合,

労働者はどうすればいいのでしょうか。

 

 

本日は,妊娠などと近接して行われた解雇の効力が争われた

シュプリンガー・ジャパン事件

(東京地方裁判所平成29年7月3日判決

労働判例1178号70頁)を紹介します。

 

 

原告の労働者は,第二子出産後に育児休業を取得し,

育児休業が終了する前に,会社に対して,

職場復帰の時期についての調整を伝えました。

 

 

 

 

すると,会社は,原告労働者に対して,

原告労働者が所属しているチームは原告労働者

がいなくても業務を賄えており,

前の部署に復帰するのは困難であり,

復帰を希望するのであれば,インドの子会社に転籍するか,

収入が大幅に減る総務部へ異動するしかないと説明して,

退職を勧奨しました。

 

 

原告労働者は,この会社の提案に納得できるはずがなく,

労働局の雇用均等室に原職復帰の調停を申し立てましたが,

会社が調停案を受け入れず,残念ながら調停は不成立になりました。

 

 

その後,会社は,原告労働者に対して,

協調性不十分や職務上の指揮命令違反

などを理由に解雇を通告しました。

 

 

 

 

原告労働者は,本件解雇は無効であることを主張して,

裁判を起こしました。

 

 

雇用機会均等法9条3項には,

妊娠や出産したことを理由に,労働者を解雇したり,

不利益な取扱いをしてはならないと定められています。

 

 

また,育児休業法10条には,

育児休業をしたことを理由に,労働者を解雇したり,

不利益な取扱いをしてはならないと定められています。

 

 

本件事件の裁判では,会社が形式的に

協調性不十分や職務上の指揮命令違反などの

解雇理由を主張したとしても,

会社がその解雇理由が認められないことを当然に認識すべき場合

妊娠などと近接してなされた解雇は,

雇用機会均等法9条3項と育児休業法10条に

実質的に違反した違法な解雇になると判断されました。

 

 

そして,原告労働者は,能力や成績に問題がなく,

これまでに懲戒処分を受けたことがありませんでした。

 

 

裁判所は,労働者に何らかも問題行動があって,

職場の上司や同僚に一定の負担が生じても,

会社は,これを甘んじて受け入れ,労働者を復職させて,

必要な指導をして,改善の機会を与える必要があると判断しました。

 

 

結論として,会社が主張する解雇に理由がなく,

妊娠などと近接して行われた本件解雇は無効とされました。

 

 

さらに,本件では,解雇無効による解雇期間の

未払賃金請求が認められた以外に,

被告会社の対応があまりに酷く,

原告労働者の被った精神的苦痛が大きいことから,

慰謝料50万円が認められました。

 

 

解雇が無効になって,解雇期間の未払賃金請求が認められれば,

経済的損失が補填されたとして,

慰謝料請求が認められることはめったにないので,

画期的な判断がなされたのです。

 

 

当然ですが,妊娠や育児休業を理由に

不利益な取扱いがされることがあってはなりませんが,

実際に,このようなトラブルがあるのが現実です。

 

 

 

会社が形式的に能力不足などの解雇理由を主張していても,

実質的に妊娠などを解雇理由としていることがありますので,

労働者は,妊娠などを解雇理由としているを疑いもち,

納得いかないのであれば,専門家へ相談することをおすすめします。

会社を解雇された時,労働者は何をするべきか その3(雇用保険の基本手当を受給する)

労働者が,会社を解雇された場合,「明日からの生活費どうしよう・・・。家族をどうやって養っていこう・・・。」と頭をかかえるでしょう。そのような時は,雇用保険の基本手当を受給しましょう。

 

会社を解雇されると,会社から離職票が送られてきます。離職票が送られてこない場合は,会社に離職票の交付を請求します。会社が離職票を交付しない場合には,ハローワークに相談して,ハローワークから会社に連絡してもらいます。

 

会社から離職票が届いたら,離職票の内容をよくチェックします。解雇されたはずなのに,自己都合退職と記載されている等,事実と異なる記載がされていることがあるので,よくチェックしてください。

 

離職票に,事実と異なる記載がされていた場合,ハローワークに相談して,訂正を求めます。また,離職者の記入欄に真実を記載し,「離職者の判断」の欄には「異議有り」に○をつけます。

 

解雇されたはずなのに,離職票に自己都合退職と記載されていて,そのまま離職票をハローワークに提出した場合,自己都合退職と扱われてしまい,労働者には,次のような不利益が生じます。

 

①給付日数に差が生じる。自己都合退職の場合,雇用保険加入期間が10年未満で90日分支給されますが,解雇の場合,雇用保険加入期間が1年以上であれば,45歳未満の労働者であれば300日分,45歳以上60歳未満であれば360日分支給されるので,解雇の方が労働者にとって有利です。

 

②給付制限の有無。正当な理由のない自己都合退職の場合,3ヶ月の給付制限があります。すなわち,退職しても,3ヶ月間は雇用保険の基本手当を受給できないのです。それに対して,解雇の場合,給付制限がないので,7日間の待期期間が経過すれば,雇用保険の基本手当を受給できます。給付制限がない点においても解雇の方が労働者にとって有利です。

 

このように,自己都合退職と解雇とでは,雇用保険の基本手当の受給において差が生じてしまうので,離職票を入念にチェックする必要があります。

 

また,会社への復職を希望する場合には,雇用保険の本給付ではなく,仮給付をするべきです。解雇が無効になり,復職した場合,仮給付を受けていた基本手当を返還することになります。他方,解雇を争いたいが,復職までは求めていない場合には,雇用保険の本給付を受ければ問題ありません。

 

会社を解雇されたら,雇用保険の基本手当を受給すべきですが,その際には離職票の内容をよく確認してください。

 

解雇についてのご相談は,金沢合同法律事務所へお問い合わせください。

会社を解雇された時,労働者は何をするべきか その2(就労の意思を明確にする)

会社を解雇されると,「クビと言われたけど,明日から本当に会社にいかなくてもいいのかな?・・・解雇理由には全く納得いかないし。」と悩むことがよくあります。前回のブログ記事に引き続き,会社を解雇されたときに,労働者がどのような行動にでるべきかについて解説します。

 

会社から解雇理由証明書が届きましたら,解雇理由証明書に記載されている解雇理由を吟味し,反論を考えます。そして,会社に対して,会社が主張している解雇理由は認められず,本件解雇は社会通念上相当ではないので無効であるという内容の文書を配達証明付内容証明郵便で送付します。

 

この内容証明郵便には,解雇無効のみならず,就労の意思があることも記載するべきです。解雇は無効なので,会社で引き続き働きますと主張するのです。

 

解雇された労働者としては,解雇してきた会社に引き続き働きたいなんて思いませんが,就労の意思を明確にしておかないと,後から,会社から,労働者が勝手に辞めたと主張されて,解雇ではないと争ってくる可能性があります。

 

解雇されても,会社へ出勤して,働き続けますと主張して,会社からもう来なくていいという言質をとり,そのやりとりを録音するという方法もあります。しかし,解雇されてメンタルが落ち込んでいる労働者がここまでやるのは困難ですので,就労の意思を内容証明郵便で通知することが多いです。

 

要は,自分から退職を前提とした行動をとるべきではないのです。解雇されても,労働者は,自分から,会社に対して,退職金や解雇予告手当を請求すべきではありません。

 

もっとも,会社から,退職金や解雇予告手当が勝手に振り込まれてきた場合には,労働者は,これを預かり保管して,以後発生する賃金の一部に順次充当していくことを内容証明郵便で会社に通知すれば問題ないです。

 

労働者は,解雇されても,退職を前提とした行動をとらずに,就労の意思を明確にしましょう。

 

解雇についてのご相談は,金沢合同法律事務所へお問い合わせください。

 

会社を解雇された時,労働者は何をするべきか(解雇理由を明確にする)

「ある日,突然,会社をクビにされました」という労働相談はよくあります。労働者には,「会社が言う解雇理由に納得がいかない!」,「会社のためにがんばってきたのに,なんで自分がクビになるのか!」という怒りや,「会社をクビになって,これからどうしよう・・・」という不安が生じます。

 

それでは,会社を解雇されたときに,労働者がどのような行動にでるべきかについてこれから解説します。

 

まずやるべきことは,「会社に対して解雇理由を問い合わせる」ということです。労働基準法22条1項により,労働者が会社に対して解雇理由証明書の交付を請求した場合,会社は,遅滞なく,解雇理由証明書を労働者に交付しなければなりません。

 

解雇理由が明確でないと,労働者は,会社の主張している解雇理由のこの点がおかしいと言えないので,解雇を争うべきか否かの判断がつかなくなります。会社が主張している解雇理由を明らかにした上で,その解雇理由に対して,このように反論できるのではないかと検討していきます。

 

この解雇理由証明書の交付を求める際に,注意すべき点があります。それは,解雇理由証明書の交付の請求は,弁護士に依頼するのではなく,労働者が自分で行うべきということです

 

労働者としては,会社を解雇されたので,自分で会社と関わるのは嫌なはずです。しかし,解雇理由証明書の交付の請求を弁護士に依頼した場合,会社は,顧問弁護士に相談して,本件は解雇ではなく,労働者が自己都合退職したものであるという主張をしてくることが多いです。

 

会社が,労働者の自己都合退職を主張してきた場合,本件が解雇なのか自己都合退職なのかがまず争点となり,いらぬ争点を1つ増やしてしまいます。また,自己都合退職と認定されてしまえば,失業給付の受給が遅くなったり,解雇が無効になった場合に得られる賃金(バックペイ)が請求できなくなる等,労働者にとって不利益なことが多いです。解雇を争うのであれば,労働者としては,解雇の方がメリットが多いのです。

 

そこで,労働者が自ら解雇理由証明書の交付を請求すれば,会社は,油断して正直に解雇理由証明書を交付してくることが多いので,私は,解雇の相談を受けた場合には,相談者である労働者に対して,まずはご自身で解雇理由証明書の交付を請求してみてくださいとアドバイスしています。

 

会社を解雇された場合,労働者はまず,会社に対して解雇理由証明書の交付を請求して,解雇理由を明確にするべきです。

 

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入社後1年未満にもかかわらず,勤務態度不良の解雇が有効とされた事例

入社後1年未満にもかかわらず,会社から勤務成績と勤務態度不良等を理由に解雇された労働者が,解雇無効を争った裁判で,解雇が有効とされた日本クレコア事件(東京地裁平成29年4月19日判決・労働判例1166号82頁)を紹介します。

 

会社から解雇されると,労働者は,給料という生活の糧を失い,家族を養うことが困難になる等の多大な不利益を被ることから,労働契約法16条において,解雇は厳格に規制されています。会社は,簡単に労働者をくびにできないのです。

 

解雇事件で実務上多いのが,能力不足,適性欠如,勤務成績不良等を理由とする解雇です。就業規則にはよく,「業務能力が著しく劣り,または勤務成績が著しく不良のとき」には解雇できると記載されています。このような能力不足の解雇の場合,対象となる労働者が本当に,「勤務成績が著しく不良」だったのかが争われますが,労働者の能力は個人によって異なりますし,会社が労働者に求める水準もまちまちですので,統一的な判断基準を作成するのが困難で,事案に応じてケースバイケースで判断するしかありません。

 

能力不足の解雇が有効になるのは,能力不足の程度が著しい場合に限られ,教育訓練や本人の能力に見合った配置転換をして解雇を回避するための措置が尽くされた場合です。もっとも,特定のポストや職務のために上級管理職などとして中途採用され,賃金等の労働条件が優遇されている場合には,能力不足の程度は,労働契約で合意された能力や地位にふさわしいものであったかの観点から緩やかに判断される傾向にあります。

 

結局,どのような場合に,能力不足の解雇が有効になるのかについて,労働者も会社も予測が立てにくいのが現状で,労働者としては,争うべきかどうかで迷うことがあります。

 

本件事件では,原告が年間基本給850万円,変動セールスコミッション127万5000円という高額な給料を受けていたのですが,上司を無視して反抗的な態度をとり続け,会社から反抗的な態度を改善するように何度も警告を受けていたのですが,それでも改善しなかったことから,解雇は有効と判断されました。

 

労働者としては,上司の指示・指導には素直に耳を傾けて,会社から警告を受けた場合には,自己の勤務態度を振り返り,改善の意欲を示す方が,解雇されるリスクを軽減できると言えそうです。

懲戒解雇のタイミング

病院で医療事務に従事していた原告が,病院を自己都合退職した後に退職金を請求したところ,被告病院は,原告が診療情報を改ざんしたとして,原告が自己都合退職した後に懲戒解雇して,退職金の全額を支払いませんでした。そこで,原告は,被告病院に対して,退職金請求の裁判を提起しました。

 

大阪地裁平成28年12月9日判決(医療法人貴医会事件・労働判例1162号・84頁)は,まず,懲戒解雇の効力について,原告の退職届が被告病院に提出された日の1ヶ月後に,原告と被告の労働契約が終了しており,労働契約終了後になされた懲戒解雇は効力を有しないと判示しました。

 

もっとも,懲戒解雇をすることができない場合であっても,退職金に功労報償的性格がある場合には,労働者がそれまでの勤続の功労を抹消又は減殺する程度にまで著しく信義に反する行為をしたとき,労働者の会社に対する退職金請求の全部又は一部が権利の濫用に当たり,会社は,労働者からの退職金請求の全部又は一部を拒むことができると判示しました。

 

そして,本件において,原告の診療情報の改ざん行為は,懲戒解雇事由に該当する悪質な行為であり,原告が19年間積み上げてきた功労を減殺するものであるが,原告の功労を全部抹消するほどに重大な事由とはいえず,原告の退職金請求の2分の1が認容されました。

 

労働者が,懲戒解雇事由に該当する行為をしてしまった場合,早々に自己都合退職をすれば,場合によっては,本件判例のように,懲戒解雇を避けられることができるかもしれません。また,懲戒解雇事由がある場合でも,労働者の情状によっては,退職金請求の一部が認められる場合があります。懲戒解雇のタイミングを考える上で,興味深い判断がされたことから,紹介させていただきます。