職場のパソコンにわいせつ動画を保存すると懲戒解雇されてしまうのか
職場のパソコンにわいせつな動画を保存
していることが会社にバレてしまった場合,
労働者は懲戒解雇されてしまうのでしょうか。
大学教授が研究室のパソコンにわいせつな動画
を保存していたことなどを理由に懲戒解雇されてしまい,
その懲戒解雇の効力が争われた裁判例がありますので,
紹介します(東京地裁平成29年9月14日判決・
判例時報2366号39頁)。
原告の大学教授は,大学から教育研究目的で貸与され,
研究室に置かれていたパソコンの中に,
原告の大学教授が妻以外の複数の女性との
性交の場面を自分で撮影した動画を保存していました。
ひょんなことから,このわいせつな動画が
原告の研究室のパソコンに保存されていることが
大学にばれてしまいました。
大学は,職場において,使用目的を教育研究に
限定して貸与されていたパソコンにわいせつな動画
を数多く保存するというハレンチきわまりない行為
であるのみならず,その動画を自分で撮影して
自分で出演しているという教育者としてあるまじき行為
であるとして,原告の大学教授を懲戒解雇しました。
なお,原告の大学教授は,2年前に戒告の懲戒処分を受けていました。
さて,ここで,懲戒処分がどのような場合に
無効になるのかについて説明します。
労働契約法15条には,
「当該懲戒に係る労働者の行為の
性質及び態様その他の事情に照らして,
客観的に合理的な理由を欠き,
社会通念上相当であると認められない場合」
に懲戒処分が無効となると定められています。
ようするに,労働者の行為が就業規則などに
定められている懲戒事由に該当して,
労働者の行為と懲戒処分のバランスが保たれていないと,
懲戒処分が無効になります。
特に,懲戒解雇の場合,労働者は,職を失い,
退職金も支給されず,次の就職で不利になるなど,
労働者の被る不利益が非常に大きいので,
労働者の行為が,本当に懲戒解雇に値するほど
ひどいものなのかが慎重に判断されます。
さて,本件の場合,原告が出演したわいせつ動画を
大学に持ち込むことが大学の品位を損なう行為にあたり,
原告には,懲戒事由が認められました。
しかし,このわいせつ動画の内容は原告の私生活上
の領域の問題であり,わいせつ動画が外部に流出していないので,
大学の社会的名誉や信用が侵害されているわけではありません。
また,わいせつ動画を研究室のパソコンに保存することは,
原告の以前の戒告処分とは別の種類のものであり,
わいせつ動画のデータ削除は容易でした。
そのため,原告は,わいせつ動画を研究室のパソコン
に保存していましたが,このことを理由に懲戒解雇とするのは,
処分として重すぎ,労働者の行為と懲戒処分のバランスが
保たれていないので,懲戒解雇は無効になりました。
原告に対する懲戒処分が減給や停職であれば,
懲戒処分が有効になっていたかもしれません。
本件は,労働者が過去に戒告の懲戒処分を
受けていたにもかからわず,懲戒解雇が無効
になった点で労働者にとって有利な判決だと思います。
懲戒解雇は,労働者にとって死刑を宣告
されることに匹敵することですので,
かなり慎重に判断されることが分かります。
もし,労働者が懲戒解雇されてしまい,
その処分に納得がいかないのであれば,
専門家に相談することをおすすめします。
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