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懲戒解雇が有効になる要件とは

会社の携帯電話を利用して,従業員同士で上司のぐちや悪口を

ラインなどでやりとりしていたところ,会社に発覚し,

職場の秩序を乱しているとして普通解雇されてしまいました。

 

 

 

 

その後,会社から送られてきた離職票には,

懲戒解雇と記載されていました。

 

 

会社の就業規則には,懲戒解雇の規定はなく,

職場の秩序を乱した場合には普通解雇とする旨の記載があります。

 

 

このような場合,懲戒解雇は有効なのでしょうか。

 

 

結論からいうと,就業規則に懲戒解雇の規定がないのであれば,

懲戒解雇は無効となります

 

 

会社は,懲戒解雇された労働者を雇いたくないので,

労働者は,次の就職先を探すのは困難になります。

 

 

また,懲戒解雇の場合には,退職金を不支給にする,

または,減額することが就業規則で規定されていることが多く,

退職金を満額で取得することが困難になります。

 

 

このように,懲戒解雇は,最も重たい処分であるため,

懲戒解雇が有効か無効かは厳格に審査されます

 

 

 

 

そして,懲戒解雇が有効になるための要件として,

懲戒事由と懲戒の種類が就業規則に明記されており,

その就業規則が労働者に周知されていることがあげられます。

 

 

懲戒事由と懲戒の種類が就業規則に明記されていないと,

懲戒処分が労働契約の内容になっていないことになり,

会社は,労働者に対して,懲戒処分ができないのです。

 

 

また,就業規則に懲戒事由と懲戒の種類を明記しただけでは足りず,

その就業規則を,労働者がいつでも見られる場所に置いておいたり,

会社のサイトからダウンロードできる状態にしておくなどして,

労働者に周知しなければなりません(労働契約法7条)。

 

 

加えて,労働者が過去に懲戒処分されたことがないのに,

上司のぐちや悪口を言っただけで,

いきなり懲戒解雇されたのであれば,

懲戒解雇は処分として重すぎるので,

無効となる可能性があります。

 

 

懲戒解雇は,最も重い処分ですので,

労働者の非難されるべき行為が懲戒解雇に値する行為なのかが

厳格に審査されなければならないのです。

 

 

労働者の行為からすると,

停職や降格といった懲戒処分が相当で,

懲戒解雇が重すぎる場合は,懲戒解雇は無効になります。

 

 

懲戒解雇を争う場合,処分として重すぎるという理由で

懲戒解雇が無効になることが多く,労働者としては,

この点を裁判で強調して主張していくポイントになります。

 

 

さらに,他の人も同じように上司のぐちや悪口を言っていたのに,

自分だけ懲戒解雇されたのであれば,

平等取扱の原則に違反して,懲戒解雇が無効になる可能性があります。

 

 

このように,懲戒解雇は,厳格に審査されますので,

無効になる可能性もあります。

 

 

万が一,懲戒解雇されてしまったら,

一度,弁護士に相談することをおすすめします。

職場のパソコンにわいせつ動画を保存すると懲戒解雇されてしまうのか

職場のパソコンにわいせつな動画を保存

していることが会社にバレてしまった場合,

労働者は懲戒解雇されてしまうのでしょうか。

 

 

大学教授が研究室のパソコンにわいせつな動画

を保存していたことなどを理由に懲戒解雇されてしまい,

その懲戒解雇の効力が争われた裁判例がありますので,

紹介します(東京地裁平成29年9月14日判決・

判例時報2366号39頁)。

 

 

原告の大学教授は,大学から教育研究目的で貸与され,

研究室に置かれていたパソコンの中に,

原告の大学教授が妻以外の複数の女性との

性交の場面を自分で撮影した動画を保存していました。

 

 

 

 

ひょんなことから,このわいせつな動画が

原告の研究室のパソコンに保存されていることが

大学にばれてしまいました。

 

 

大学は,職場において,使用目的を教育研究に

限定して貸与されていたパソコンにわいせつな動画

を数多く保存するというハレンチきわまりない行為

であるのみならず,その動画を自分で撮影して

自分で出演しているという教育者としてあるまじき行為

であるとして,原告の大学教授を懲戒解雇しました。

 

 

なお,原告の大学教授は,2年前に戒告の懲戒処分を受けていました。

 

 

さて,ここで,懲戒処分がどのような場合に

無効になるのかについて説明します。

 

 

労働契約法15条には,

「当該懲戒に係る労働者の行為の

性質及び態様その他の事情に照らして,

客観的に合理的な理由を欠き,

社会通念上相当であると認められない場合

に懲戒処分が無効となると定められています。

 

 

ようするに,労働者の行為が就業規則などに

定められている懲戒事由に該当して,

労働者の行為と懲戒処分のバランスが保たれていないと

懲戒処分が無効になります。

 

 

特に,懲戒解雇の場合,労働者は,職を失い,

退職金も支給されず,次の就職で不利になるなど,

労働者の被る不利益が非常に大きいので,

労働者の行為が,本当に懲戒解雇に値するほど

ひどいものなのかが慎重に判断されます

 

 

さて,本件の場合,原告が出演したわいせつ動画を

大学に持ち込むことが大学の品位を損なう行為にあたり,

原告には,懲戒事由が認められました。

 

 

しかし,このわいせつ動画の内容は原告の私生活上

の領域の問題であり,わいせつ動画が外部に流出していないので,

大学の社会的名誉や信用が侵害されているわけではありません。

 

 

また,わいせつ動画を研究室のパソコンに保存することは,

原告の以前の戒告処分とは別の種類のものであり,

わいせつ動画のデータ削除は容易でした。

 

 

そのため,原告は,わいせつ動画を研究室のパソコン

に保存していましたが,このことを理由に懲戒解雇とするのは,

処分として重すぎ,労働者の行為と懲戒処分のバランスが

保たれていないので,懲戒解雇は無効になりました。

 

 

原告に対する懲戒処分が減給や停職であれば,

懲戒処分が有効になっていたかもしれません。

 

 

本件は,労働者が過去に戒告の懲戒処分を

受けていたにもかからわず,懲戒解雇が無効

になった点で労働者にとって有利な判決だと思います。

 

 

懲戒解雇は,労働者にとって死刑を宣告

されることに匹敵することですので,

かなり慎重に判断されることが分かります。

 

 

 

 

もし,労働者が懲戒解雇されてしまい,

その処分に納得がいかないのであれば,

専門家に相談することをおすすめします。