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中退共の退職金減額認識申請を会社からされた場合の対処法

1 中退共の制度概要

 

 

中小企業退職金共済(以下、「中退共」といいます)について、次のような質問をいただきました。

 

 

会社の人間関係が嫌になり、自己都合退職をしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社で中退共に加入していたので、退職後に、中退共に対して、退職金の請求をしました。

 

 

すると、会社は、私の在職中の問題行動を理由に、退職金減額認定申請をしたため、厚生労働省で審査をすることになり、しばらくの間、退職金が入金されません。

 

 

確かに、私には、在職中に問題行動はありましたが、退職金を減額されることはしていません。

 

 

このように、会社が、中退共の退職金減額認定申請をしてきた場合、どうすればいいのでしょうか?

 

 

結論から先にいいますと、労働者の問題行動が、中退共の退職金減額の認定基準に該当しなければ、退職金は減額されません。

 

 

今回は、①中退共の制度概要、②退職金減額認定申請、③対処法の順番で、中退共の退職金減額について、わかりやく解説しますので、ぜひ最後までお読みください。

 

 

まずは、①中退共の制度概要について解説します。

 

 

中退共とは、中小企業を対象とした、社外積立型の退職金制度です。

 

 

中退共の制度は、独立行政法人勤労者退職金共済機構(以下、「機構」といいます)によって、運営されています。

 

 

中退共に加入することを希望する会社は、機構との間で、退職金共済契約を締結し、掛金を機構に納付します。

 

 

ちなみに、掛金は非課税で、全額を会社が負担します。

 

 

労働者が退職した場合、労働者は、機構に対して、退職金の請求をして、機構から、直接、退職金の支払いを受けます。

 

 

通常、労働者の退職金の請求から、4週間程度で、機構から、労働者の預金口座に直接退職金が支払われます。

 

 

2 中退共の退職金減額認定申請

 

 

次に、②退職金減額認定申請について解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退職する労働者に問題行動があり、会社がその労働者に対して、中退共からの退職金を支払わせたくないと考えた場合、会社は、退職金減額認定申請をすることがあります。

 

 

会社が、機構に対して、退職金減額認定申請をして、厚生労働大臣が退職金減額の認定をした場合、労働者の退職金は減額されて、支給されることになります。

 

 

なお、会社の退職金減額認定申請が認められて、労働者への退職金が減額されたとしても、会社には、減額された退職金が返還されることはありません。

 

 

会社の退職金減額認定申請が認められるためには、労働者が、次の⑴~⑶のどれかに該当する必要があります。

 

 

⑴ 窃取、横領、傷害その他刑罰法規に触れる行為により、当該企業に重大な損害を加え、その名誉若しくは信用を著しくき損し、又は職場規律を著しく乱したこと

 

 

 ⑵ 秘密の漏えいその他の行為により職務上の義務に著しく違反したこと

 

 

 ⑶ 正当な理由がない欠勤その他の行為により職場規律を乱したこと又は雇用契約に関し著しく信義に反する行為があつたこと

 

 

労働者の問題行動が、この⑴~⑶のどれかに該当すれば、中退共から支給される退職金が減額されるリスクがあります。

 

 

ちなみに、会社は、労働者が退職した日の翌日から起算して20日以内に、退職金減額認定申請書を厚生労働省に送付する必要があります。

 

 

3 退職金減額認定申請の対処法

 

 

最後に、③退職金減額認定申請の対処法について解説します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会社が、退職金減額認定申請をした場合、厚生労働省から、労働者のもとに、照会文が届きます。

 

 

その照会文に記載されている、会社が主張している、退職金の減額の理由となる、労働者の問題行動をよく確認します。

 

 

会社が主張している問題行動の事実関係をよく確認して、事実と異なる記載があるかをチェックします。

 

 

事実と異なる記載があれば、労働者が把握している事実を主張して、会社が主張している事実が誤っていることを、厚生労働省に理解してもらう必要があります。

 

 

そして、会社が主張している事実が正しかったとしても、上記⑴~⑶に該当しないという主張をします。

 

 

例えば、労働者の問題行動は、刑罰法規に触れる行為ではなく、会社に対して、重大な損害を与えていない、というように、労働者の問題行動は、それほど悪質ではなかったと主張します。

 

 

すなわち、労働者の問題行動の評価を争うのです。

 

 

このように、事実レベルと評価レベルの2つで、労働者の問題行動は、⑴~⑶の退職金減額の認定基準に該当しないと主張すべきです。

 

 

仮に、労働者に問題行動があったとしても、⑴~⑶の退職金減額の認定基準に該当しないことはありえますので、きちんと、自分の主張を、厚生労働省に伝えるべきです。

 

 

もっとも、厚生労働省にどのように回答すればよいのか迷うことがありますので、その際には、弁護士に法律相談をすることをおすすめします。

 

 

今回の記事をまとめますと、会社が中退共の退職金減額認定申請をしてきた場合には、労働者の問題行動は、⑴~⑶の退職金減額の認定基準に該当しないことを、厚生労働省に回答するべきなのです。

 

 

また、You Tubeでも、労働問題に関する役立つ動画を投稿しているので、ご参照ください。

 

 

https://www.youtube.com/@user-oe2oi7pt2p

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

会社からの損害賠償請求を理由に退職できなかった労働者が、残業代請求で対抗して無事に会社を退職できた事例

1 会社を退職するのは簡単?

 

 

「会社の対応は理不尽だ。会社辞めたい。でも、辞めさせてくれない」

 

 

このように、会社を辞めたいにもかかわらず、

会社から何かと理由をつけられて、

会社を退職できない方は多いです。

 

 

 

今回は、会社から損害賠償請求をされていて、

自分では会社を退職することができなかったクライアントが、

残業代請求で対抗して、無事に会社を退職した事例を紹介します。

 

 

クライアントは、石川県内の企業で、

労働者兼取締役として、勤務していました。

 

 

クライアントは、ある時、社長から、

取引先から会社に損害賠償請求がされており、

会社がその損害賠償をすることになったので、会社の損害賠償金を、

クライアントの給料から、毎月天引きしていくことを告げられました。

 

 

クライアントは、社長に逆らうことができず、毎月の給料から、

会社の損害賠償金を天引きすることに同意してしまいました。

 

 

クライアントは、自身の責任ではないにもかかわらず、

会社の損害賠償金を給料から天引きするという理不尽な対応に納得できず、

会社を退職したかったのですが、社長から、退職したならば、

追加の損害賠償請求をすると脅され、退職できませんでした。

 

 

会社からの損害賠償請求を恐れていたクライアントは、

退職できずに、追い込まれた状況で、私のもとへ相談にこられました。

 

 

まず、クライアントの相談を受けた私は、

クライアント自身で退職の手続をすることは難しいと判断し、

私がクライアントの代わりに、退職の手続をすることにしました。

 

 

すなわち、会社に対して、退職届を提出して、

2週間が経過すれば、自由に退職することが可能です。

 

 

さらに、年次有給休暇が残っていれば、

2週間のうちの出勤日に年次有給休暇を利用すれば、

会社に出社することなく、会社を退職できます。

 

 

会社を退職するのは、意外と簡単なのです。

 

 

クライアントには、年次有給休暇が多く残っていたので、

年次有給休暇を全て消化した最後の日を退職日に設定して、

会社に対して、退職届を提出しました。

 

 

2 給料から損害賠償金を天引きすることは無効?

 

 

次に、クライアントは、会社からの損害賠償請求に対して、

給料からの天引きという形式で支払いをすることに合意していました。

 

 

労働者と会社との間で、会社からの損害賠償請求を

給料から天引きすることについて、真に合意が成立していた場合には、

有効になる場合はありえます。

 

 

 

もっとも、労働者は、会社の指揮命令に従って働くという立場にある関係で、

どうしても、会社の言いなりになってしまい、

自身にとって不利益な条件をのんでしまう傾向にあります。

 

 

さらに、労働基準法24条1項において、

給料は、全額が労働者に支払われなければならないという、

賃金全額払いの原則が定められていますので、

給料から、会社の損害賠償金を天引きすることの合意は、

慎重に判断する必要があります。

 

 

そのため、労働者の自由な意思に基づく同意がない限り、

給料から、会社の損害賠償金を天引きするという合意は、無効になります。

 

 

本件において、会社が取引先から損害賠償請求されたことについて、

クライアントに責任はありませんでした。

 

 

それにもかかわらず、会社から十分な説明がないまま、

合計約85万円の損害賠償金を支払うように言われ、

クライアントは、やむなく、給料から、

会社の損害賠償金を天引きするという合意をしてしまいました。

 

 

そのため、クライアントの給料から、

会社の損害賠償金を天引きすることについての同意は無効であると主張しました。

 

 

3 名目的な取締役の未払残業代請求

 

 

そして、クライアントは、会社から、残業代の支払いを受けていましたが、

支払いを受けていた残業代以上に、長時間労働をしていたことから、

未払の残業代があるとして、残業代請求をしました。

 

 

 

会社からは、クライアントは、取締役であり、

管理監督者であることから、残業代を支払わなくてよいと反論がありました。

 

 

労働基準法の管理監督者に該当すれば、会社は、管理監督者に対して、

残業代を支払わなくても違法ではないことになりますが、

管理監督者の要件は厳しく、管理監督者の要件を満たさないとして、

残業代請求が認められることはよくあります。

 

 

本件においても、クライアントは、名目的な取締役であって、

会社の経営に関与しておらず、労働時間の管理がされており、

同年代の平均的な賃金よりも低い給料しか受け取っていなかったので、

管理監督者の要件を満たしていませんでした。

 

 

そこで、私は、クライアントが管理監督者に該当しないとして、

未払残業代について、会社と交渉をしました。

 

 

最終的には、裁判で認められる場合の金額や、

解決までにかかる時間や手間を考慮して、

互いの請求を0円にする、ゼロ和解で事件を解決しました。

 

 

会社からの損害賠償請求を恐れて退職できなかったクライアントは、

会社からの損害賠償請求がなくなり、無事に退職することができて、

新しい一歩を踏み出すことができ、大変満足されていました。

 

 

このように、会社からの損害賠償請求を排除し、会社を退職することは可能です。

 

 

会社から損害賠償請求されていたり、

会社を退職できずに悩んでいる方は、弁護士にご相談してみてください。

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

マカフィーの労働審判から退職勧奨や退職強要の対処方法を検討する

1 マカフィーの労働審判

 

 

外資系セキュリティー大手のマカフィーにおいて、

退職強要をされたと主張する労働者が、

労働審判を申し立てて、調停が成立しました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/08f0be34ab6a13b8b993be0d08541d023f5406c8

 

 

報道によりますと、申立人の労働者は、

「サインをしなければ解雇通知します」等と言われて、

その場で、退職確認書に署名することを迫られ、

2時間ほど退職強要されて、署名させられたようです。

 

 

会社は、労働者をそう簡単に解雇できないので、

労働者が自分から会社を辞めた形にもっていくために、

退職勧奨や、ひどいときには退職強要をしてきます。

 

 

本日は、退職勧奨や退職強要の対処方法について解説します。

 

 

2 退職勧奨や退職強要の対処方法

 

 

まず、会社が労働者に対して、

会社を辞めてほしいとお願いすることを退職勧奨といい、

退職勧奨が、退職を強要するように違法になされることを

退職強要といいます。

 

 

退職勧奨は、単なるお願いなので、

労働者は、退職勧奨に応じる義務はなく、

会社を辞めたくないのであれば、

辞めませんときっぱりと断ればいいのです。

 

 

 

退職勧奨を受けている労働者の代理人として、

弁護士が会社に対して、内容証明郵便で退職勧奨を辞めるように

通知を出すことで、退職勧奨が止まることもあります。

 

 

会社が労働者の自由な意思を尊重しつつ、

退職勧奨を行う限りでは、退職勧奨は、違法になりません。

 

 

もっとも、労働者が、退職勧奨に応じない態度を示しても、

退職勧奨が止まらないことはよくあります。

 

 

このような場合、働者が退職勧奨に応じる意思がないことを

明確にしているのに、執拗に退職勧奨を繰り返したり、

多人数で取り囲んだり、威圧的な言動を繰り返すなどした場合には、

違法な退職勧奨、すなわち、退職強要となり、

労働者は、会社に対して、損害賠償請求できます。

 

 

労働者が、会社に対して、違法な退職強要があったとして、

損害賠償請求をするためには、会社からどのような態様で、

退職を強要されたのかを証明する必要があります。

 

 

退職強要の実態を証明するためには、録音が重要になります。

 

 

録音がなければ、会社は、退職強要をする言動はしていない

と主張してきて、言った言わないの水掛け論となり、

退職強要の実態を証明することができなくなってしまいます。

 

 

そのため、会社から、退職勧奨をされた場合には、

録音をするようにしましょう。

 

 

録音をする際に、会社に録音することの許可を得る必要はなく、

こっそり録音すればいいのです。

 

 

3 退職合意書に署名した場合の対処方法

 

 

次に、会社から退職強要をされて、

退職合意書にサインをしてしまったら、

どうすればいいのでしょうか。

 

 

その際には、会社から強迫を受けて、

自由な意思に基づかないで署名したことを主張して、

退職の意思表示の取り消しを求めます。

 

 

 

損害保険リサーチ事件の旭川地裁平成6年5月10日決定

(労働判例675号72頁)では、

会社側の、転勤に承諾しなけれ懲戒解雇するという発言によって、

労働者が退職の意思表示をしたことについて、

強迫に基づく意思表示であるとして、

その取消が認められました。

 

 

また、退職の意思表示が、自由な意思に基づくものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない場合には、

退職の意思表示が無効になります。

 

 

とはいえ、退職の意思表示を強迫を理由に取り消したり、

自由な意思に基づかないとして無効とするには、

会社との退職のやりとりを証明する必要があり、

やはり、録音が必要になります。

 

 

まとめますと、退職勧奨や退職強要を受けても、

会社を辞めたくないなら、退職しませんと回答し、

会社とのやりとりを録音し、もし、退職の意思表示をしてしまったら、

会社からの強迫や、自由な意思に基づかないものであったと

主張立証できないかを検討することになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

一度してしまった退職合意を後から争う方法

1 加賀温泉郷のホテルにおける合意退職の事件

 

 

今年の6月に加賀温泉郷のホテル北陸古賀乃井とホテル大のやにおいて、

従業員全員に解雇通告がされたニュースがありました。

 

 

https://www.chunichi.co.jp/article/68748

 

 

この事件について、現在、労働組合と会社とが

団体交渉をしているようで、記者から、

法律的なコメントを求められましたので、私なりに調べてみました。

 

 

https://www.rouhyo.org/news/1720/

 

 

すると、この事件では、会社は、労働者に対して、

退職合意書に署名を求めて、

多くの労働者が退職合意書に署名してしまったようです。

 

 

すなわち、本質的には、解雇なのですが、

労働者が退職合意書に署名しているので、

労働者が自己都合退職した形になっているのです。

 

 

 

解雇であれば、法律で厳しい規制がされているので、

労働者が解雇を争えば、解雇が無効となって、

未払賃金を請求できる可能性があります。

 

 

他方、労働者が自己都合退職の形をとってしまうと、

後から争うことが困難になります。

 

 

本日は、労働者が真意とは異なる自己都合退職をしてしまった場合の

対処法を説明します。

 

 

2 意思表示についての民法の規定(錯誤・詐欺・強迫)

 

 

労働者が、一度、自己都合退職の意思表示をしてしまったものの、

その意思表示が間違いがあったとして、

取り消すことができる場合について、

民法に規定があります。

 

 

例えば、自己都合退職をしなければ、

退職金が支払われない懲戒解雇になると通告されて、

懲戒解雇だけは回避したいと考えて、

自己都合退職の意思表示をした場合、

労働者は、誤信に基づいて、

自己都合退職の意思表示をしているので、

民法95条の錯誤を理由に、

自己都合退職の意思表示を取り消すことができます。

 

 

この他にも、会社から騙されて、

自己都合退職の意思表示をした場合には、

詐欺による意思表示として取り消せますし、

会社から脅されて、自己都合退職の意思表示をした場合には、

強迫による意思表示として取り消せます(民法96条)。

 

 

3 自由な意思論

 

 

従来は、自己都合退職が錯誤、詐欺、強迫に

該当するかだけが検討されていましたが、最近では、

自己都合退職の意思表示が自由な意思に基づくものではない場合に、

効力が生じないという主張が効果的です。

 

 

山梨県民信用組合事件の最高裁平成28年2月19日判決において、

労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様、

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否か、という判断基準が示されました。

 

 

この判断基準が、合意退職の場合にもあてはまるとしたのが、

TRUST事件の東京地裁立川支部平成29年1月31日判決

(労働判例1156号11頁)です。

 

 

この事件では、退職は、一般的に、

労働者に不利な影響をもたらすので、

退職の合意があったか否かについては、

特に労働者につき自由な意思でこれを合意したものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか慎重に判断する必要があるとして、

退職合意の存在が否定されました。

 

 

 

そこで、加賀温泉郷のホテルの事件にあてはめると、

労働者は、退職同意書に署名したものの、

退職することによって仕事を失うという大きな不利益を被ることになり、

会社からの説明は5分ほどしかなかったようで、

十分な情報提供や説明はなかったといえるので、

労働者の同意が自由な意思に基づいてなされたとはいえないと

判断される可能性があると考えます。

 

 

この事件では、会社側とのやりとりが録音されていたり、

多くの労働者が、会社側の説明が不十分であると証言しているので、

会社側とのやりとりを証明できる可能性があります。

 

 

もっとも、会社側がどのような言動をもって

労働者に退職の意思表示をさせたかについては、

労働者が証明しなければならず、個室で、

労働者と社長が一対一でやりとりをしていて、

録音がない場合には、言った言わないの水掛け論になって、

証明することが困難になります。

 

 

自己都合退職の場合は、解雇の場合と比べて、

証明のハードルが高いので、争いにくいのです。

 

 

自己都合退職を争う場合には、

会社側とのやりとりを録音するのが重要になります。

 

 

また、安易に、退職合意書に署名しないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自己都合退職の失業手当の給付制限が2ヶ月に短縮されます

1 雇用保険の失業手当

 

 

労働者が会社を退職したときには、

雇用保険から基本手当を受給することができます。

 

 

この基本手当は、一般的に失業手当と言われています。

 

 

 

この失業手当について、今年の10月1日から

重要な改正がありましたので、紹介します。

 

 

まず、失業手当は、離職理由に関係なく、

労働者が離職後最初にハローワークに求職の申し込みをした

日以後において、失業している日が通算7日に満たない間は

支給されません。

 

 

ようするに、失業した労働者がハローワークに失業手当の申請をして、

1週間が経たないと失業手当は支給されないのです。

 

 

これを待機期間といいます。

 

 

この待機期間については、今回は改正されていません。

 

 

2 失業手当の給付制限

 

 

次に、解雇などの会社都合による退職の場合には、

待機期間が経過すれば、失業手当が支給されるのですが、

自分から会社を辞めた自己都合退職の場合には、正当な理由がない限り、

待機期間が終了した後に、さらに3ヶ月間の給付制限がかかります。

 

 

この3ヶ月間の給付制限が、今年の10月1日から、

2ヶ月間に短縮されました。

 

 

https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/content/contents/LL020617-H01.pdf

 

 

これまでは、1週間の待機期間に加えて、

3ヶ月間の給付制限の期間を待たないと

失業手当を受給できなかったのですが、これが2ヶ月間に短縮されて、

失業手当を受給しやすくなるので、労働者にとって有利な改正です。

 

 

もともと、給付制限は、安易な退職を防ぐために設定されたのですが、

転職が多くなり、失業手当の給付をこれまでよりも早く始めて、

安心して再就職活動や資格取得をできるように環境を整備する目的で、

給付制限の期間が短縮されたのです。

 

 

3 自己都合退職における正当な理由とは

 

 

ところで、給付制限がかかるのは、

正当な理由がなく自己都合退職した場合であって、

正当な理由がある自己都合退職の場合には、給付制限がかかりません。

 

 

この正当な理由とは、以下の理由が挙げられています。

 

 

①事業所の倒産

 

 

②大量・相当数の人員整理

 

 

③適用事業所の廃止

 

 

④採用条件と労働条件の著しい相違

 

 

⑤賃金の未払い、遅払いの継続

 

 

⑥賃金額の低下

 

 

⑦過重な時間外労働、

生命身体に関し障害が生じるおそれのある法令違反に対する不改善

 

 

⑧労働者の職種転換に対して、

事業主が当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていない

 

 

⑨上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせ

 

 

⑩退職勧奨、希望退職の募集

 

 

⑪全日休業による休業手当の3ヶ月以上の継続的支払い

 

 

⑫事業主の事業内容の法令違反

 

 

⑬被保険者の身体的条件の減退

 

 

⑭妊娠、出産、育児等により退職し、

受給期間延長措置を90日以上受けた

 

 

⑮家庭の事情の急変

 

 

⑯配偶者等との別居生活の継続の困難

 

 

⑰一定の理由による通勤不可能または困難

 

 

実務でよく問題になるのが、⑨のいわゆるパワハラを受けて、

会社にいるのが嫌になって自己都合退職する場合です。

 

 

上記①~⑰の正当な理由があるかについては、

ハローワークが認定しますので、

会社がパワハラはなかったと主張した場合、

労働者がパワハラの事実があったことを証明できなければ、

正当な理由がなかっとされて、給付制限がかかってしまうのです。

 

 

 

パワハラについては、録音がないとパワハラの事実を

証明するのが困難ですので、パワハラを苦に自己都合退職をしても、

正当な理由がないとして、

給付制限がかかってしまうということがあるのです。

 

 

証拠がないために、失業手当について

給付制限がかかるのは酷な話なので、今回の改正で、

給付制限が1ヶ月短縮されたのは、よかったと考えます。

 

 

なお、給付制限が2ヶ月になるのは、

離職から5年間のうち2回までなので、3回目になると、

給付制限は3ヶ月になるので、気をつける必要があります。

 

 

自己都合退職の場合であっても、

上記①~⑰の正当な理由がある場合には、

給付制限がかかりませんので、

給付制限がかからないかについては、

ハローワークに相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスの感染拡大で増加してくる退職勧奨の対処法

1 退職勧奨が増加してくることが予想されます

 

 

昨日のブログで紹介したとおり,

希望退職の募集をする会社が増えてきており,

人減らしの波が押し寄せてきています。

 

 

会社は,従業員を削減するために,希望退職の募集をする以外にも,

個別の従業員に対して,退職勧奨をしてくることがあり,

新型コロナウイルスの感染拡大が再び始まったことから,

今後,退職勧奨が増えてくることが予想されます。

 

 

 

本日は,退職勧奨への対処法について説明します。

 

 

2 労働契約を終了するには

 

 

会社と労働者との労働契約を終了させるためには,

解雇,合意退職,辞職の3つの方法があります。

 

 

解雇は,会社の一方的な意思に基づくもの,

合意退職は,会社と労働者の合意に基づくもの,

辞職は,労働者の一方的な意思に基づくもの,

というように分けられています。

 

 

解雇や合意退職に至る前段階で,

退職勧奨が行われることが多いのですが,

退職勧奨は,合意退職の会社からの申入れや,

その申込みの誘引にすぎず,退職勧奨によって,

労働契約が終了することはありません。

 

 

3 退職勧奨の対処法

 

 

労働者には,退職勧奨に応じる義務はありませんので,

会社を辞める意思がないのであれば,会社から退職勧奨を受けても,

きっぱりと断ればいいのです。

 

 

とはいえ,退職勧奨を断れば,会社が解雇をしてくる場合があります。

 

 

労働者側に落ち度があり,解雇されたら,

解雇が有効になる場合には,労働者に少しでも有利な条件を獲得して,

退職勧奨を受け入れて辞職するのも一つの道です。

 

 

会社としても,労働者から解雇を争う裁判手続をとられて,

紛争解決に時間と労力をかけることを嫌がり,

退職勧奨に応じるのであれば,

労働者に有利な条件をのんでくれることもあります。

 

 

また,退職勧奨を断って解雇されても,

解雇が無効になる場合には,退職勧奨を拒否して,

そのまま働き続けるのもいいですが,退職勧奨をされたことで,

このままこの会社で働き続ける意欲を失うこともあります。

 

 

そのような場合にも,一定の金銭的な補償をしてくれるのであれば,

退職を検討しても良いというスタンスで,会社と交渉して,

労働者に有利な条件で退職するのも一つの道です。

 

 

ポイントとしては,労働者には退職勧奨に応じる義務はない

ことを理解した上で,このままこの会社で働き続けるのか,

良い条件であれば退職に応じてもよいのかを,ご自身で決断すべきです。

 

 

4 違法な退職強要に対して損害賠償請求できる

 

 

この退職勧奨ですが,社会通念上の相当性を逸脱し,

労働者が退職勧奨に応じる意思がないことを明確にしているのに,

執拗に退職勧奨を繰り返したり,大人数で取り囲んだり,

威圧的な言動を繰り返すなどした場合には,

違法な退職強要となり,労働者は,会社に対して,

損害賠償請求をすることができます。

 

 

会社を辞めないあなたは頭がおかしいなどと,

労働者の人格を否定したり,退職に追い込むために,

嫌がらせや監視をさせたりした場合には,

違法な退職強要になる可能性があります。

 

 

退職強要は,密室で行われることがほとんどですので,

退職強要の実態をリアルに描き出すためには,

録音することが最も効果的です。

 

 

そのため,会社から退職勧奨を受けた場合には,

録音するようにすることが自身の身を守る方法として効果的です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスの感染拡大で増加している希望退職の募集への対処の仕方

1 希望退職の募集が急増しています

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,

上場企業で希望退職を募集するケースが増えているようです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/5e964800d79363a8e833695246fc8b7bb148bad4

 

 

希望退職の募集人数は7,000人を超えているようで,

人減らしの波は,非正規雇用労働者だけでなく,

正社員に対しても広がってきています。

 

 

 

希望退職を募集している企業は,

外食,小売,アパレルといった業種の企業でして,

新型コロナウイルス感染拡大の影響が大きかった業種で,

人減らしの動きが加速しているといえます。

 

 

自分が勤務している会社が希望退職を募集した場合,

これに応じるべきか否かは悩ましい問題です。

 

 

本日は,希望退職について解説します。

 

 

2 希望退職の募集は整理解雇の前段階で実施されることが多い

 

 

希望退職の募集は,整理解雇の前段階として実施されることが多いです。

 

 

整理解雇は,会社の業績悪化を理由とする解雇のことで,

解雇される労働者に落ち度がないことがほとんどなので,

整理解雇が有効になるためには,

以下の整理解雇の4要件(4要素)を満たさなければなりません。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力を尽くすこと

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④労働者に対する説明を尽くすこと

 

 

このうち,②解雇回避努力として,会社は,

希望退職の募集をすることが多いです。

 

 

希望退職の募集は,労働者の意思を尊重しつつ,

人員削減を図るものなので,合理性の高い方法といえます。

 

 

そのため,希望退職の募集をせずに,いきなり,

特定の個人を指名して解雇した場合には,

②解雇回避努力をしていないとして,

解雇が無効になる可能性があるのです。

 

 

また,希望退職に応じなければ,

対象者全員を解雇するとして行われた希望退職の募集について,

希望退職の募集は,労働者の自主的な決定を尊重しうる点に

意味があるところ,このような希望退職の募集では,

労働者に退職しない自由がないとして,

希望退職の募集の趣旨に沿わないとして,

解雇回避努力義務を怠ったと判断された裁判例があります

(株式会社よしとよ事件・京都地裁平成8年2月27日判決・

労働判例713号86頁)。

 

 

あくまで,希望退職に応じるか否かの判断を,

労働者の自由な意思決定に委ねなければならないのです。

 

 

そして,希望退職の募集に際しては,

労働者の任意の退職を促進するような条件をつけていないと,

解雇回避努力として評価されないことが多いです。

 

 

そのため,希望退職に応じた場合には,

退職金を上乗せすることが多く行われています。

 

 

3 希望退職の募集に応じるべきか

 

 

以上をまとめますと,希望退職の募集は,

整理解雇の前段階として行われるもので,

会社が真摯な態度で実施しないと,

②解雇回避努力として不十分と評価されることになります。

 

 

労働者としては,希望退職の募集については,

自主的な決定が尊重されていますので,これに応じるか否かは,

ご自身の損得勘定をもとに合理的に判断してください。

 

 

希望退職が募集されたということは,整理解雇の予兆なので,

会社の業種が悪化している指標とも言えますので,

この会社に勤務し続けても未来はないとして,

上乗せされた退職金をもらって退職するのも一つの道です。

 

 

 

他方,今退職したら,次の就職先が見つからないと

考える方もいますので,そのときには,希望退職に応じずに,

そのまま勤務し続ければいいのです。

 

 

ご自身の損得勘定をはたらかせて,合理的に決断してください。

 

 

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就業規則に退職届を退職の90日前までに提出しなければならない規定があっても,退職届を提出してから2週間で退職できます

1 自己都合退職に関する労働相談

 

 

ここ2年ほど前から,会社を辞めさせてもらえないという

労働相談が増えているように感じています。

 

 

人手が不足している会社では,労働力を確保するために,

勝手に仕事を投げ出すのは逃げだ,などと言って,

退職を認めてくれないことがあります。

 

 

 

また,就業規則で,自己都合退職をするには,

90日前までに会社に退職届を提出しなければならなかったり,

退職をするには,会社の承認が必要としている場合があります。

 

 

このような就業規則がある場合,

就業規則の規定を守らないと退職できないのでしょうか。

 

 

本日は,自己都合退職について解説します。

 

 

2 自己都合退職をするには

 

 

まず,労働者には,憲法22条で職業選択の自由が保障されており,

憲法18条と労働基準法5条によって,

奴隷的拘束や強制労働も禁止されています。

 

 

そのため,労働者による労働契約の一方的解約である自己都合退職は,

原則として自由であり,会社を辞めるにあたって,

会社の承諾を必要としません。

 

 

労働者は,退職届を会社に提出して,

2週間が経過すれば会社を辞めれるのです(民法627条1項)。

 

 

そして,土日が休みの週休二日制の会社であれば,

平日の10日間,年次有給休暇を取得することで,退職届を提出してから,

会社に出社することなく会社を退職できるのです。

 

 

3 民法の規制よりも厳しい就業規則の規制がある場合

 

 

ここで問題になるのが,就業規則で民法の規制である

2週間よりも長い期間,退職を制限している場合です。

 

 

この点について,問題となったプロシード元従業員事件の

横浜地裁平成29年3月30日判決を紹介します

(労働判例1159号5頁)。

 

 

この事件では,労働者が虚偽の事実を捏造して退職し,

就業規則に違反して業務の引き継ぎをしなかったことが違法であるとして,

会社が労働者に対して,1270万円もの損害賠償請求をしました。

 

 

この事件の会社では,冒頭のように,退職をするためには,

90日前までに退職届を提出しなければならないと,

就業規則に記載されていました。

 

 

裁判所は,退職届を提出してから2週間経過後においては,

労働契約は終了しているので,会社が主張している損害と

労働者の行為との間には何も因果関係はないとして,

会社の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

むしろ,会社の訴訟の提起が不当訴訟にあたるとして,

労働者からの損害賠償請求が認められたのです。

 

 

 

このように,裁判所は,就業規則で退職届を退職前の90日前までに

提出しなければならないとしていても,

退職届を提出してから2週間経過後に退職できると判断したのです。

 

 

そのため,就業規則に退職するにあたり,

民法627条1項の規定よりも厳しい規制があったとしても,

すぐに会社を辞めたいのであれば,退職届を提出して,

年次有給休暇を取得して,2週間経過後に辞めれはいいのです。

 

 

とくに,うつ病などの心の病気を患っていて,

早く会社を辞めたい場合には,ご自身の健康を第一に考えて,

引き継ぎとかも考えずに,早く退職届を提出したほうがいいと考えます。

 

 

引き継ぎがあるから,なかなか退職届を出せず,

そのまま仕事をしていると,体調がさらに悪化するおそれがありますので,

そのようなことは避けるべきです。

 

 

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会社からだまされて退職してしまったときの対処法

1 詐欺取消

 

 

昨日は,心裡留保による退職の意思表示が無効になる

ことについて解説しました。

 

 

本日は,退職の意思表示を争うときに労働者が主張できる,

詐欺による取り消しについて,解説します。

 

 

詐欺とは,人をだまして勘違いさせることです。

 

 

 

法律的な定義は,人を欺罔して錯誤に陥らせる行為といいます。

 

 

例えば,社長から懲戒解雇の理由がないのにもかかわらず,

「自分から退職しなければ,懲戒解雇にする」と言われたために,

労働者が自分から退職しないと懲戒解雇されてしまうと思い込んで,

退職した場合に,詐欺に該当すると考えられます。

 

 

退職の意思表示が詐欺によってされたものであると認定された場合,

退職の意思表示を取り消すことができます。

 

 

取り消しをすると,退職の意思表示は最初から

無効だったことになりますので,

元どおり働くことができるようになります。

 

 

2 退職の意思表示が詐欺で取り消された事例

 

 

ここで,退職の意思表示が詐欺で取り消されると判断された

ジョナサンほか1社事件の大阪地裁平成18年10月26日判決

を紹介します(労働判例932号39頁)。

 

 

この事件では,パチンコ店が閉鎖されて

労働者が全員解雇されたのですが,その後,会社は,

閉鎖された店舗の跡地に新しいパチンコ店を開店しました。

 

 

新店舗の労働者のほとんどがパート労働者になった関係で,

会社の人件費が1500万円から1000万円に減少しました。

 

 

そのため,旧店舗を一気にリニューアルして,

人件費の削減を実施するために,新店舗の開店計画を秘密にしたまま,

全ての労働者を解雇した上で,旧店舗を閉鎖したものなので,

本件解雇は,解雇権を濫用したものとして無効となりました。

 

 

そして,被告会社は,解雇ではなく,

合意退職だったと主張していたのですが,

仮に合意退職であったとしても,

新店舗の開店計画を秘密にしたまま,

旧店舗の閉店を告げているので,退職の意思表示は,

詐欺による取り消しで無効になると判断された。

 

 

 

さらに,本件解雇のやり方が,長年働いてきた労働者に対して,

虚偽の事実を告げて,一方的に解雇するというもので,悪質であり,

後日,新店舗の開店を知った労働者の驚きと怒りは大きいことから,

慰謝料50万円が認められました。

 

 

これだけ悪質な解雇の場合は慰謝料請求が認められるわけです。

 

 

このように,会社からだまされて

退職の意思表示をしてしまった場合には,

詐欺による取り消しができないかを検討してみてください。

 

 

もっとも,会社からだまされたことを労働者が

立証しなければならないのが,困難になります。

 

 

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退職届を提出した後に退職が無効だったと争うことができるのか?

1 真意ではない退職の意思表示を争う場合

 

 

労働者が退職することを会社に伝えたのですが,

この退職の意思表示には問題があったとして,

退職の効力が争われることがあります。

 

 

例えば,労働者には退職する意思がなかったにもかかわらず,

退職届を提出して,会社が退職届を受理しまった場合に,

労働者が,後から退職の意思表示は無効だったと争う場合です。

 

 

 

それでは,本当は退職する意思がないのに,

労働者が退職すると意思表示した場合,労働者はどのようにして,

退職をなかったことにできるのでしょうか。

 

 

2 心裡留保とは?

 

 

民法93条に,心裡留保という規定があります。

 

 

意思表示をした人が,表示した行為に対応する真意がないことを

知りながらする単独の意思表示のことをいいます。

 

 

わかりやすく説明すると,相手方がお金を持っていなさそうなので,

買えないだろうと思って,売る気もないのに,

10万円なら売ってもいいよ,と言ったところ,

相手方が10万円なら買いますと言った場合に,

売買契約が成立するのかという問題です。

 

 

ようするに,売主は,売るという真意がないのに,

売ると意思表示をしているのです。

 

 

この場合,売主には売る意思がないので,

売買契約が無効になりそうですが,

売主の売りますという意思表示を信頼して

10万円を集めた買主を保護すべきです。

 

 

そのため,このような心裡留保の場合,

原則として,意思表示は有効になります。

 

 

しかし,上記の売買契約のケースで,買主が,

売主は買主のことをからかうつもりで,

本当は売るつもりがないことを知っていた場合はどうでしょうか。

 

 

売主が売るつもりがないことを知っている

買主を保護する必要はなくなります。

 

 

そこで,心裡留保の相手方が,意思表示をした人に

真意がないことを知っていたり,知ることができていた場合には,

例外的に,意思表示が無効になるのです。

 

 

3 心裡留保で退職の意思表示が無効になった裁判例

 

 

ここで,退職の意思表示が心裡留保として無効になった,

昭和女子大学事件の東京地裁平成4年2月6日決定を紹介します

(労働判例610号72頁)。

 

 

この事件では,大学教授が問題をおこしたため,

学長から教授の地位を剥奪すると言われ,

本気で謝罪している姿勢を見せるために

反省の色が最も強くでる文書を提出したほうがよいと考えて,

退職届を大学に提出しました。

 

 

 

この教授は,実際には退職する意思はなく,

引き続き教授として勤務する意思を有しており,

学部長から,本当にこのまま退職するのかと聞かれたときには,

「汚名を挽回するために勤務の機会を与えてほしい」と述べました。

 

 

しかし,大学は,退職扱いとしたので,この教授は,

教授としての地位にあることの確認を求めて,提訴しました。

 

 

裁判所は,本件の退職届は,勤務継続の意思があるならば

それなりの文書を用意せよとの学長の指示に従い提出されたものであり,

この教授は,学部長に対して,勤務継続の意思を表明しているので,

大学は,この教授には退職の意思がないのに

反省の意思を強調するために退職届を提出したと

知っていたと推認できると判断しました。

 

 

そのため,大学教授の退職の意思表示は心裡留保で無効であるとして,

大学教授の地位確認の請求が認められました。

 

 

このように,退職届を提出したものの,

真意では退職する意思がなかった場合には,

心裡留保を理由に退職は無効であると主張できます。

 

 

もっとも,心裡留保で退職を無効にするためには,

会社も,労働者が真意では退職する意思がないことを知っていたか,

または,知ることができたことを,

労働者が立証しなければなりませんので,

この立証が大変になります。

 

 

そのため,真意では退職する意思がないのであれば,

退職届を提出しないようにしなければなりません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。