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退職金を請求するときのポイント

先日,会社から退職金の支払いがないという法律相談を受けました。

 

 

労働者が会社にとって不都合なタイミングで退職したり,

会社と労働者と間でトラブルがある場合に,

会社が退職金を支払わないことがあります。

 

 

本日は,会社に対して,退職金を請求するには

どうすればいいかについて解説します。

 

 

 

 

まず,労働者が退職したからといって,

当然に会社に対して退職金を請求できるものではありません。

 

 

就業規則,労働契約,労働協約などで退職金を支給することや,

退職金の支給基準が定められていて,

会社に支払い義務のあるものは賃金と認められて,

賃金についての労働基準法の保護を受けることができるのです。

 

 

労働基準法には,労働者に対して退職金請求権

を認める直接的な条文がないので,

退職金請求権が認められるためには,

就業規則,労働契約,労働協約などの根拠が必要になります。

 

 

そのため,労働者が会社に対して,退職金を請求するためには,

会社の就業規則などに退職金に関する定めがあるかを

チェックする必要があります。

 

 

就業規則とは別に,退職金規程を作成している会社もありますので,

会社を辞める前に,会社に対して,退職金規程などの

退職金の根拠となる資料の開示を求めます。

 

 

会社を辞めた後に,労働者個人が,会社に対して

退職金規程の開示を求めても,会社が任意に応じない

可能性もありますので,可能な限り,会社を辞める前に,

退職金規程などの資料をコピーしておくのがいいです。

 

 

会社から退職金規程の開示を受けたなら,

退職金規程に記載されている退職金の支給基準に従い,

退職金の計算をします。

 

 

一般的には,退職金の算定基礎賃金に

勤続年数別の支給率をかけて算定されることが多いです。

 

 

退職金の計算をする際には,給料のうちのどの部分までが

退職金の算定基礎賃金に含まれるのかが,

退職金規程に記載されていることが多いので,

給料明細をなくさずにとっておき,

給料明細から退職金の算定基礎賃金を計算します。

 

 

勤続年数別の支給率については,

労働者が自分の意思で会社を退職する自己都合退職の場合には,

普通解雇や整理解雇といった会社都合退職の場合に比べて,

支給率が低く設定されていることが多いです。

 

 

大幅な給料カットを通告されて,労働者が

「一身上の都合により」などと記載した退職届

を会社に提出した場合には,

自己都合退職なのか会社都合退職なのかが争われることがあります。

 

 

次に,退職金を計算できたとして,労働者は,

いつ退職金を請求できるのでしょうか。

 

 

 

退職金規程などに退職金の支払時期が定められている場合には,

その支払時期に請求することになります。

 

 

退職金規程に支払時期が記載されていない場合には,

会社は,労働者の請求があってから7日以内に

退職金を支払わなければなりません(労働基準法23条1項)。

 

 

退職金規程に定められている支払時期や,

労働者の請求があってから7日以内に退職金が支払われなかった場合,

会社は,年6%の遅延損害金を負担しなければなりません。

 

 

労働者としては,早目に退職金の請求をしておけば,

遅延損害金を請求できる可能性があります。

 

 

また,退職金請求権の消滅時効は5年なので,

退職してから5年が経過していないのであれば,

退職金を請求できる可能性があります。

 

 

まとめますと,退職金の根拠規程を調査して,

早目に会社に対して退職金を請求することが重要となります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社を辞めるのは簡単です~退職代行サービスについての私の見解~

先日,外部の法律相談で,労働問題についての相談を受けていた時に,

相談者の方が,「退職代行サービスってどうですかね?」

というご質問をされました。

 

 

石川県でも,退職代行サービスの利用を

検討している人がいることを知り,

時代は変わったものだなぁと思いました。

 

 

この相談者の方のご質問に対する私の回答は,

退職は自分で簡単にできるので,ご自身でやった方がいいですよ。

退職代行サービスの業者に費用を支払うのはもったいないですよ

というものでした。

 

 

はい,会社を辞めるのは簡単です。

 

 

 

 

正社員であれば,会社を辞めますと伝えてから,

2週間が経過すれば,自由に会社を辞めることができます(民法627条)。

 

 

土日が休みの週休二日制の会社であれば,

2週間のうちの平日10日について,

有給休暇を取得すれば,会社に出社することなく,

会社を辞めれます。

 

 

会社を辞めるのに理由は必要なく,

会社から辞める理由を聞かれても,回答する義務はなく,

ただ単に辞めますと会社に伝えればいいのです。

 

 

労働者には,退職の自由が認められていることを

ぜひ知ってもらいたいです。

 

 

とはいえ,自分の口から,上司に「会社を辞めます」

とは言いづらいと思いまし,上司からあれやこれやと理由をつけられて,

退職をおもいとどまらせようとしてくることも予想されます。

 

 

そんなときは,退職届を会社に特定記録郵便で郵送すればいいのです。

 

 

 

 

むしろ,口頭で会社を辞めますと伝えたら,会社から,

「いや,そんなことは聞いていない」と主張されることがあり,

言った言わないという問題となり,

会社を辞めさせてもらえない可能性もでてきます。

 

 

そこで,会社を辞めるためには,

会社を辞めますという意思表示を会社に通知すればいいので,

一身上の都合により退職します」とだけ記載して,

日付と自分の名前を署名して,押印した退職届を,

特定記録郵便で会社に郵送すれば,それだけでいいのです。

 

 

特定記録郵便を利用すれば,インターネットで,

いつ郵便が届いたのかを調べることができ,

確実に相手方に届いたことを証明できるので便利です。

 

 

https://www.post.japanpost.jp/service/fuka_service/tokutei_kiroku/

 

 

 

このように,退職届を特定記録郵便で会社に郵送すれば,

簡単に会社を退職できるのですか,

退職代行サービスが拡大しているようです。

 

 

 

 

先日の朝日新聞の報道によれば,2017年ころから,

退職代行サービス業者がサービスを始めたようで,

人手不足に悩む企業が,労働者の退職を

引き留めようとしていることが背景にあるようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14021567.html

 

 

もっとも,退職代行サービス業者は,

弁護士法72条が禁止する非弁行為

該当する可能性があると思います。

 

 

弁護士法72条は,弁護士でない者が,

報酬を得る目的で,法律事務を行うことを禁止しています。

 

 

これは,弁護士資格をもっていない者が,

法律事務を行うと,適切なトラブル解決ができず,

弁護士でない者にトラブルの解決を依頼した者の利益を

害してしまうおそれがあることから,

このような非弁行為を禁止しているのです。

 

 

朝日新聞の報道によれば,退職代行サービス業者は,

あくまで,連絡の仲介をするだけで,

会社と交渉をしていないので,

非弁行為ではないと主張しているようです。

 

 

しかし,労働者が退職をする際には,

離職票の発行を求めたり,

有給休暇分の賃金を請求したり,

退職金の請求をしたりと,

会社と交渉をすることがほとんどです。

 

 

このような交渉を退職代行サービス業者が行えば,

非弁行為の禁止に該当すると考えます。

 

 

仮にこのような交渉をしないで,

単なる連絡の仲介だけで正社員だと退職代行サービスに

5万円の費用がかかるのには,違和感をおぼえます。

 

 

退職代行サービス業者は,

非弁行為の禁止に違反している可能性があるので,

利用はおすすめできません。

 

 

そもそも,退職代行サービス業者に

お金を払うのはもったいないので,

単に会社を辞めるだけであれば,

自分で退職届を書いて特定記録郵便で郵送すればよく,

有給休暇分の賃金を請求するなど会社との交渉を

第三者に依頼したいのであれば,

弁護士に依頼するのがいいと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職代行事件

最近,マスコミの報道をみていますと,人手不足が深刻なようです。

 

 

以前ブログで紹介しましたが,セブンイレブンの店主が,

人手不足から24時間営業を短縮したところ,

セブンイレブン本部から違約金約1700万円の支払いを求められました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903087673.html

 

 

また,3月下旬から4月上旬は引っ越しのシーズンですが,

引越業者も人手不足のため,引越しの仕事を断っているようで,

今年は,引越難民が多数生じる可能性があるようです。

 

 

このように,人手不足が深刻になると,労働者が,

会社を退職しようとしても,会社は,

あの手この手を使って,会社を辞めさせてくれません。

 

 

 

 

会社を辞めるには会社の許可が必要である,

辞めたことによって会社に損害が生じたら損害賠償請求をする

などと言いながら,会社は,労働者が辞めることを阻止してきます。

 

 

このような場合,労働者は,どうすれば辞められるのでしょうか。

 

 

最近,私が担当した退職代行事件を紹介します。

 

 

私のクライアントは,会社を退職しようとしたところ,

社長から,どななられて辞めさせてくれませんでした。

 

 

会社を退職しようとすると,社長からどなられるので,

私のクライアントは,社長と会いたくなく,

声も聞きたくない状態になり,

自分で辞めることができない状況に追い込まれてしまいました。

 

 

そこで,私に退職手続の代行を依頼されました。

 

 

 

労働者には,退職の自由が保障されていますので,

会社の許可を得ることなく,いつでも会社を辞めることができます。

 

 

正社員であれば,民法627条1項により,

退職を申出て2週間が経過すれば,自由に退職できます。

 

 

もっとも,会社によっては,就業規則で,

退職までの期間を2週間よりも長い期間に

設定しているところがあります。

 

 

この点,労働基準法は,労働者が労働契約から離脱したいときに,

これを制限する手段となりうるものを極力排除して,

労働者の解約の自由を保障しようとしているので,

民法627条1項の予告期間は,

会社のためにはこれを延長できないと判断した裁判例があります

(高野メリヤス事件・東京地裁昭和51年10月29日判決・

労働判例264号35頁)。

 

 

そのため,会社が,就業規則において,

退職までの期間を2週間よりも長い期間に設定していたとしても,

労働者は,退職を申出てから2週間が経過すれば,

自由に退職できるのです。

 

 

 

 

 

さらに,たまっている年次有給休暇を消化すれば,

退職を申出た後,会社に出勤することなく,退職できて,

消化した年次有給休暇分の賃金を会社に請求することができます。

 

 

労働者が,退職時に未消化の年次有給休暇を一括で取得した場合,

会社は,これを拒否することができません。

 

 

まとめますと,会社を今すぐに辞めたいのであれば,

会社に退職届を提出し,未消化の年次有給休暇を

平日10日分取得すれば,週休二日制の会社であれば,

土日が2回あるので,会社に出勤することなく2週間が経過して,

会社を辞めることができます。

 

 

退職の申出は,口頭でもできますが,会社から,

聞いていないと言われるおそれがありますので,退職届を作成して,

特定記録郵便で会社に送付することをおすすめします

 

 

これらの手続は,労働者がご自身で行うことが十分に可能ですが,

私のクライアントのように,自分で辞めることができない

状況に追い込まれている場合には,

弁護士に退職手続の代行を依頼することを検討してみてください。

 

 

 

 

私のクライアントの事件では,私が,相手方の会社に対し,

私のクライアントが退職すること,

未消化の年次有給休暇を取得すること,

年次有給休暇を取得した期間について賃金を支払うこと,

離職票や源泉徴収票を私のクライアントへ交付すること

を配達証明付内容証明郵便で通知しました。

 

 

すると,相手方の会社は,特段何も言わず,

私のクライアントの要求に素直に応じてきて,

私のクライアントは,無事に退職でき,

年次有給休暇を取得した分の賃金を受け取ることができました。

 

 

会社を退職したいけれども,自分では対処が難しい場合には,

弁護士にご相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職強要の対処法2

昨日のブログに引き続き,退職強要の対処法

について解説していきます。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903037645.html

 

 

昨日のブログにも記載しましたが,

退職勧奨の手段・方法が社会通念上相当性を欠く場合に,

退職強要として違法になります。

 

 

 

そこで,録音や日記・メモ,精神科医のカルテの記載などから,

当該労働者が,会社側から,どのような退職強要をされたのかを特定して,

それが社会通念上相当か否かを検討します。

 

 

例えば,エターナルキャスト事件では,

次のような退職強要が問題となりました

(東京地裁平成29年3月13日判決・労働判例1189号129頁)。

 

 

経理の仕事をしていた原告の労働者が,代表取締役から,

「経理の仕事はない。自分で何ができるか考えろ」などと言われ,

労働局のあっせんの申立てをしたり,弁護士に交渉を依頼しました。

 

 

すると,代表取締役は,原告の労働者に対して,

次のことを言いました。

 

 

「弁護士通じて言いやがってよ。何でてめえの口で言わないんだよ。」

「俺はあんたを許さない。別に経理の仕事をしたいならすればいい。

絶対にミスるな失敗したら損害請求する。」

「みんなおまえを最悪って言ってたぞ。みんなを敵に回したんだぞ。

ばかなことをしたな。それで人生駄目にするんだ。」

「こんなレベルでは,小学生の方がまし。」

 

 

代表取締役は,このような暴言を浴びせながら,

壁に向かってペットボトルを投げつけたりして,

今後仕事で重大なミスをしたときは責任をとって

退職するという承諾書を作成するように強要しました。

 

 

 

 

また,会社側は,原告の労働者に対して,

労働条件を正社員からパート社員に変更した上で,

経理担当から清掃スタッフとして勤務するように,

言葉巧みに迫り,これに同意できない場合には

辞職するほかないように仕向けてきました。

 

 

労働局のあっせんや弁護士への依頼など,

労働者が法律で認められた当然の権利を行使したら,

このようなひどい仕返しをしてきたのです。

 

 

原告の労働者は,仕事のミスが多かったり,

仕事のおぼえが悪かった点があるのですが,

だからといって,上記の被告の会社の対応は,

「それをやったらだめだよね」というレベルのものであり,

裁判所は,上記の一連の会社側の退職強要は違法と判断しました。

 

 

そして,被告会社と代表取締役に対して,

30万円の慰謝料の損害賠償請求が認められました。

 

 

これだけひどいことをされたのに,

認められた慰謝料の金額は30万円だったのです。

 

 

残念ながら,パワハラや退職強要の裁判で

慰謝料の損害賠償請求をしても,

それほど高額な慰謝料が認められないのが,

今の日本の裁判の現状なのです。

 

 

そのため,録音などの手堅い証拠があったとしても,

最終的に認められる損害賠償の金額が,

それほど大きくならない可能性もありますので,

裁判を起こすか否かについては,

慎重に判断をすることになります。

 

 

なお,この事件では,会社側からの退職強要によって,

原告の労働者のうつ病が悪化し,

働くことができなくなったことから,

労働基準法19条の「業務上の負傷」に該当することから,

休職期間満了による当然退職扱いは許されないと判断されました。

 

 

 

 

このように,退職強要事件では,

会社側の言動を録音などで記録した上で,

会社側の言動が社会通念上相当か否かを検討し,

損害賠償の金額がいくらくらいになるかの見通しをつけて,

裁判を起こすかを慎重に判断していくことになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職強要の対処法

会社から辞めてくれないかと言われることを退職勧奨といいます。

 

 

こちらのブログ記事に記載していますが,労働者は,

退職勧奨に応じる必要はなく,会社を辞めたくないのであれば,

はっきりと断ればいいのです。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201812107196.html

 

 

ところが,労働者が退職勧奨を受けても,退職に応じない場合,

会社は,あの手この手で労働者を退職に追い込んでくることがあります。

 

 

 

 

 

例えば,数人で当該労働者を取り囲んで,

退職届を書くまではその場を離れることができないような状況で

退職届を書かせたり,当該労働者の人格を否定する暴言をはいたり,

当該労働者を無視して,職場に居づらくして退職に追い込む

といった手口があります。

 

 

このように,労働者が退職を拒否しているのに,

むりやり辞めさせようとすることを退職強要といいます。

 

 

退職強要とは,手段・方法が社会通念上相当ではない

違法な退職勧奨のことなのです。

 

 

それでは,労働者は,会社から退職強要をされた場合,

どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

まずは,会社からされたことを正確に記録しましょう。

 

 

会社からどのようなことをされたのかがわからなければ,

手段・方法が社会通念上相当か否かについて判断ができないからです。

 

 

記録をする方法で最も効果的なのが録音です。

 

 

 

 

退職強要の場合,たいてい,雇用主や上司が当該労働者に対して,

人格を否定するようなひどいことを発言しています。

 

 

そのひどい発言が録音されていれば,

こんなこと言ったらだめだよね,というように,

社会通念上相当か否かを判断しやすくなり,

会社に対して慰謝料の損害賠償請求をするかについて,

決断しやすくなります。

 

 

逆に,録音がなかった場合,労働者が,

人格を否定するような発言をされたと主張したとしても,

会社側は,そんなことは言っていませんとしらを切る

ことが往々にしてあります。

 

 

そうなると,言った言わないという状況となり,

労働者が圧倒的に不利になります。

 

 

なぜかといいますと,労働者が退職強要を受けたことを理由に,

会社に対して損害賠償請求をする場合,

人格を否定するような発言をされたことについて,

労働者が証明しなければならないからです。

 

 

どういうことかといいますと,民事裁判では,当事者が,

自分に有利な主張をして,その主張を裏付ける証拠を提出し,

裁判所は,当事者の主張と証拠を検討して,

どのような事実があったのかを認定して,判決をくだします。

 

 

当事者から,主張と証拠が出されたけれども,

裁判所としては,原告と被告の主張を聞いても,

どのような事実があったのか判断できないことがあります。

 

 

例えば,原告の労働者は,上司から人格を否定する暴言をはかれた

と主張し,被告の会社は,上司は人格を否定する暴言をはいていない

と主張し,証人尋問でも,そのような証言がされて,

録音などの記録がない場合,裁判所は,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたか否かとについて判断ができません。

 

 

 

 

このような状況を,真偽不明といいます。

 

 

とはいっても,裁判で,どちらかわかりませんという判決を書いても,

トラブルは解決しないので,裁判所は,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたのか,はいていないのかについて,

判断しなければなりません。

 

 

このときの判断が,裁判官の個人的な価値基準に基づいて

決められたのでは,裁判の公平さが保てないことになるので,

統一的な判断基準が確立されています。

 

 

この判断基準が立証責任(証明責任ともいいます)というもので,

裁判所は,立証責任を負っている当事者の主張を

認めないという判断をするのです。

 

 

立証責任は,その事実が認められると,

自分に有利な効果が発生する側が負うことになります。

 

 

先の例でいうと,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をはいたという事実が認められると,

原告の労働者は,慰謝料の損害賠償請求が認めれられるという

有利な効果が発生するので,原告の労働者に立証責任があるのです。

 

 

そのため,録音などの記録がなく,真偽不明となれば,

立証責任を負っている原告の労働者が敗訴することになるので,

録音などの記録を証拠として,上司が原告の労働者に対して,

人格を否定する暴言をしたという事実を証明する必要があるのです。

 

 

このように,立証責任という観点から,

録音などの記録が重要になるのです。

 

 

裁判は,証拠が全てと言っても過言ではないと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自己都合退職か会社都合退職かの判断基準とは?

会社を退職する場合,自己都合退職か会社都合退職か

が問題となることがあります。

 

 

 

 

雇用保険の基本手当を受給する際,会社都合退職ですと,

給付制限がなく,自己都合退職の場合よりも,

基本手当の給付日数において優遇されています。

 

 

また,退職金についても,自己都合退職の場合には,

会社都合退職の場合よりも,退職金の支給額を減額する

という退職金規定をもうけている会社も多いです。

 

 

ところが,退職金規定に,自己都合退職については

退職金を減額するという条項があったとしても,

どのような場合に自己都合退職になるのかについて

明確な基準を定めている会社は少ないです。

 

 

とくに,給与の大幅な切り下げを通告されたり,

遠隔地配転を命じられて退職するに至った場合,

労働者としては,会社の都合によって退職を余儀なくされた

と考えるのですが,退職に際して,「一身上の都合により」

などと記載された退職届を提出させられるケースも多く,

退職届を形式的にみると自己都合退職となっているときに

トラブルに発展することがあります。

 

 

それでは,どのような基準をもって

自己都合退職と会社都合退職とを

区別するべきなのでしょうか。

 

 

結論としては,退職に至る具体的事情を

総合的に判断して決することになります。

 

 

すなわち,労働者が勤務を継続することに障害があったか否か,

その障害が使用者,労働者のいずれの責任に帰せられるか,

退職の理由が使用者,労働者いずれの支配領域内で

起きた事情によるものか,労働者の自由な判断を困難にする事情が

使用者側に認められるか,といった諸要素を勘案して,

総合的に判断することになります。

 

 

具体的な事件で検討してみましょう。

 

 

労働者が会社に対して,自己都合退職の退職金と

会社都合退職の退職金との差額,及び,

自己都合退職の雇用保険の基本手当と

会社都合退職の雇用保険の基本手当との差額について,

損害賠償請求して,これが認められたゴムノイナキ事件を紹介します

(大阪地裁平成19年6月15日判決・労働判例957号78頁)。

 

 

この事件の労働者は,顧客からのクレームが多いことから,

会社から退職勧奨を受けて,退職願の届出を催促されて,

会社から言われるがまま,一身上の都合により退職するとの

退職願を作成して,提出しました。

 

 

 

会社が,自己都合退職として退職金を支給し,

雇用保険の手続をしたことから,労働者は,

会社都合退職であるとして争いました。

 

 

判決では,労働者が子供の学費や住宅ローンの状況からすれば,

全く自発的に退職を申し出るとは考えがたいこと,

労働者は自分から退職願を作成して持参したのではなく,

会社主導で作成されたこと,会社が退職願を直ちに受理して,

翻意を促すことも引き留めることも一切していなかったこと,

といった事情を考慮して,労働者の退職は

会社都合退職にあたるとされました。

 

 

その上で,会社都合退職として処理すべきところを,

自己都合退職によるものとして退職金を計算し,

離職票を作成するなどの事務手続を行ったとうい限度で,

会社に過失があったとして,会社の行為は不法行為にあたるとされました。

 

 

結果として,労働者には,退職金の差額116万円と

雇用保険の基本手当の差額159万12000円

の請求が認められたのです。

 

 

このように,一身上の都合により退職するという

退職届を会社に提出していたとしても,

退職に至る経緯を検討すれば,会社都合退職になる可能性があり,

そうなれば,会社都合退職と自己都合退職における退職金と

雇用保険の基本手当の差額を請求できる可能性があるのです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社の承諾がないと退職金を請求できないのか?

パワハラを受けたり,長時間労働が原因で,

これ以上会社で働くことはしんどいと思い,

退職届を提出して,会社を退職しました。

 

 

 

 

会社を退職した後,退職金を請求したところ,

会社から,退職金規定には,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないと記載されているので,

退職金を支払わないと言われたとします。

 

 

労働者としては,会社に対して,きちんと理由を説明して,

退職届を提出しており,会社の承諾をもらって退職しないと

退職金をもらえないのでは,パワハラを受けたり,

長時間労働を強いられる職場に拘束させられてしまうので,

納得できません。

 

 

退職金規定に,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないという記載がある場合,

会社から退職について承諾していないと言われたら,

労働者は,退職金を請求できないのでしょうか。

 

 

 

 

まず,会社に退職金規定があり,

退職金の支給基準が明確に定められている場合,

労働者は,会社に対して,退職金を請求することができます。

 

 

逆に言えば,会社に退職金規定などの退職金の根拠となる規定が

なにもない場合には,労働者は,会社に対して,

退職金を請求することはできません。

 

 

退職金規定に退職金の支払時期が定められていない場合,

会社は,労働者の退職金の請求から7日以内に

退職金を支払わなければなりません(労働基準法23条1項)。

 

 

会社が労働者の請求から7日以内に退職金を支払わない場合,

労働者は,退職金の請求から7日経過後に,

会社に対し,遅延損害金を請求できます。

 

 

次に,正社員の労働者は,退職届を提出して2週間経過すれば,

いつでも辞めれますし,2週間について,

年次有給休暇を取得すれば,会社に出勤することなく,

会社を辞めることができるのです。

 

 

すなわち,労働者には退職の自由が認められているのです。

 

 

そうであれば,会社が退職を承諾しない限り,

労働者が退職金を全く受領できないという制度では,

労働者は,労働契約の継続を望まないのであれば,

退職金受給を全て断念しなければらないということになり,

退職金の受給を望むのであれば,不本意にも労働契約を

継続しなければならないという不合理な結果になります。

 

 

 

そのため,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないという規定は,

労働者の退職の自由を不当に制限しており,無効となります

(東花園事件・東京地裁昭和52年12月21日判決・

労働判例290号35頁参照)。

 

 

よって,労働者は,会社から,会社の承諾なく退職しているので

退職金を支払わないと言われても,ひるむことなく,

会社に対して,退職金の全額と遅延損害金を請求するべきです。

 

 

退職金を請求する際には,会社の退職金規定を入手して,

計算根拠や,不支給や減額の条項があるかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自己都合か会社都合か

労働者が退職するときに,自己都合ではなく

会社都合にしてほしいという法律相談を受けることがあります。

 

 

本日は,労働者が退職する場合,自己都合と会社都合で

どのような違いが生じるのかについて解説します。

 

 

まず,労働者が会社を辞める場合,

解雇なのか(会社都合の中に解雇は含まれます),

自己都合退職なのかが問題となるときがあります。

 

 

これが問題になるのは,労働者が会社を辞めることに

納得がいっておらず,会社に対して,

職場復帰したい,または,金銭請求したいという場合です。

 

 

 

 

解雇であれば,会社は,よほどの理由がない限り

解雇ができないので,解雇を争った結果,

労働者の会社に対する金銭請求などが認められる可能性が高いです。

 

 

他方,会社からの退職勧奨などに応じて,

労働者が辞めて,労働契約が合意で解約された場合

(自分から辞めているので自己都合退職になります),

労働者の退職の意思表示に勘違い(錯誤といいます)があったり,

会社からだまされたり,強迫されたりしたときに限り,

退職の意思表示を取り消すことができます。

 

 

この場合,勘違いがあったり,だまされたり,強迫されたことを,

労働者が証明しなければならないため,

労働者の請求が認められる可能性は低くなります。

 

 

そのため,労働者が会社を辞めることに納得していない場合,

解雇だと争いやすく,自己都合退職だと争いにくいのです。

 

 

次に,労働者が会社を辞めることに納得している場合,

雇用保険の基本手当(失業給付のことです)の受給が問題になります。

 

 

解雇されたり,退職勧奨に応じて退職する場合,

雇用保険では,特定受給資格者となります。

 

 

 

 

特定受給資格者は,一般の離職者よりも給付日数が優遇されます。

 

 

他方,退職勧奨に応じたのではなく,

純粋に自分の意思で辞めた自己都合退職や

定年退職で退職した人は,一般の離職者といいます。

 

 

正当な理由がなく自己都合退職した場合,または,

自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇(重責解雇といいます)

された場合は,3ヶ月間の給付制限がかかります。

 

 

会社を辞めた後3ヶ月間,

雇用保険の基本手当が受給できなくなるのです。

 

 

ここでいう正当な理由とは,家庭の事情の急変や

配偶者や子供との別居生活の継続の困難などの事情のことをいいます。

 

 

条件のいい会社に転職するために辞める場合や,

会社の雰囲気があわないから辞める場合などには,

正当な理由がない自己都合退職になります。

 

 

重責解雇は,懲戒解雇の中でも,悪質な場合に限定されています。

 

 

このように,解雇でも退職勧奨に応じて自己都合退職した場合でも,

雇用保険の基本手当を受給する際には,あまり差はありませんので,

自己都合か会社都合かにこだわる必要はないと考えます。

 

 

 

 

会社を辞めることに納得した上で,

雇用保険の基本手当を受給する際には,

特定受給資格者に該当するか否か,

正当な理由がない自己都合退職として

3ヶ月間の給付制度を受けるのか否か,

という点を気にすればいいのです。

 

 

なお,会社から離職票が届いた場合,

離職票の内容をよくチェックして,

離職理由が自分が想定していたものと異なっていた場合には,

会社に訂正を求め,ハローワークにも相談するようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から退職勧奨を受けたらどうするか

会社は,時として,労働者に対して,

次のような言動をすることがあります。

 

 

「あなたはこの仕事に向いていない」,

「転職した方があなたの将来のためになる」,

「今辞めれば,退職金を上乗せする」

 

 

 

 

労働者としては,会社からこのようなことを言われると,

会社から必要とされていないと感じ,とてもショックを受けます。

 

 

会社のこのような言動は,退職勧奨とよばれています。

 

 

退職勧奨とは,会社が労働者に対して,

労働契約を合意で解約するために,

希望退職者を募集したり,

個別に退職を勧めることをいいます。

 

 

本日は,労働者が退職勧奨を受けた場合の

対処法について説明します。

 

 

まず,退職勧奨は,会社から労働者に対する,

労働契約を合意解約する申込みまたは誘引にすぎないので,

労働者には,これに応じる義務はありません。

 

 

そのため,労働者に退職の意思がないのであれば,

きっぱりと断ればいいのです。

 

 

 

労働者が,会社に対して,退職勧奨に応じないことを伝えても,

会社からの退職勧奨がやまない場合には,

弁護士が労働者の代理人として,退職する意思はないので,

退職勧奨を辞めるようにと内容証明郵便で通知すれば,

ほとんどのケースでは,退職勧奨が止まることが多いです。

 

 

次に,退職勧奨は,どのような場合に違法になるのでしょうか。

 

 

退職勧奨の裁判例によれば,

退職勧奨の手段・方法が社会通念上の相当性を欠くものは,

違法な退職勧奨,すなわち退職強要になります。

 

 

社会通念上相当性を欠く退職勧奨とは,具体的に,

労働者が退職を拒否しているにもかかわらず,

何回も呼び出し,数人で取り囲んで退職勧奨をしたり,

労働者の名誉感情を不当に害するような言動で

退職勧奨をするような場合です。

 

 

退職勧奨が違法と判断されれば,労働者は,

会社に対して,慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。

 

 

もっとも,違法な退職勧奨か否かの線引は難しいところがあります。

 

 

日本アイ・ビー・エム事件(東京地裁平成23年12月28日判決)

では,労働者がさらなる説明や説得活動を受けても

退職勧奨に応じない意思が固く,変更の余地がなく,

退職勧奨のための面談には応じられないことを

はっきりと明確に表明し,かつ,会社に対してその旨を

確実に認識させた段階で初めて,

会社によるそれ以降の退職勧奨のための説明や説得活動は,

社会通念上相当性を欠く退職勧奨と

評価されることがあり得ると判断されました。

 

 

 

 

退職勧奨は,どこまでいけば違法となるのかの

線引がしにくいので,この判決では,

労働者が退職勧奨に応じられないことを明確に表明して,

会社に確実に認識させることが必要であると判断されたようです。

 

 

そのため,労働者としては,退職勧奨に応じられないのであれば,

その意思を内容証明郵便や特定記録郵便で会社に通知して,

退職しないことを確実に会社に分からせる必要があるのです。

 

 

また,違法な退職勧奨について,

損害賠償請求するのであれば,

会社からどのような退職勧奨を受けたのかを

証明する必要がありますので,

会社からされた退職勧奨を録音するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社が勝手に退職扱いしてきたときの対処法

最近は,人手不足の影響で,会社を辞めたくても

辞められないという法律相談が増えています。

 

 

その一方で,会社から,解雇ではないものの,

勝手に退職手続きをさせられるというトラブルも発生しています。

 

 

 

 

 

労働者が自分から辞めますとは言っていないにもかかわらず,

会社が「あなたは自分から辞めますと言いましたよね。」

などと言って,勝手に退職手続きをしてきた場合,

労働者はどのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

本日は,このような会社の理不尽な

やり方に対処する方法を説明します。

 

 

会社が勝手に退職扱いしてきた場合に,

参考になるのが,東京地裁平成29年12月22日判決です

(判例時報2380号100頁)

 

 

この事件では,出産のため休業中であった女性労働者が,

会社から勝手に退職扱いされて育児休業の取得を妨げられた

と主張して,会社に損害賠償請求をしました。

 

 

いわゆるマタハラの事件です。

 

 

 

 

この判決では,労働者の退職の意思表示は,

その重要性にかんがみて,慎重に判断

しなければならないと判断されました。

 

 

なぜならば,退職の意思表示は,

労働者にとって生活の原資となる賃金の源である職

を失うという重大な効果をもらたす意思表示だからなのです。

 

 

日本の雇用社会では,労働者が自分の意思で退職する時には,

会社に退職届などの文書を提出することが一般的です。

 

 

口頭で退職の意思表示をすると,

言った言わないという問題になったり,

意味や趣旨が曖昧になるので,

退職という重大な意思表示を,

文書で明確にすることで,

円滑な退職手続きをすすめることができるのです。

 

 

そのため,退職届などの文書がない場合には,

退職の意思表示の認定はより慎重にする必要があるのです。

 

 

 

 

さらに,男女雇用機会均等法9条3項において,

女性労働者に対して,妊娠や出産,産前・産後休業,

育児休業の取得などを理由として,

不利益な取扱をしてはならないと規定されています。

 

 

妊娠や出産した女性労働者,

産前・産後休業や育児休業を取得している女性労働者

の退職の意思表示は,さらに慎重に判断しなければならないのです。

 

 

本件事件では,原告の女性労働者は,

退職の意思もそれを表示する言動もなく,

育児休業後に職場復帰する意思を表示していたことから,

会社が強引に退職扱いにしようとしたとして,

会社が主張する退職は認められませんでした。

 

 

そして,会社は,原告の女性労働者を違法に退職扱いにして,

育児休業取得に伴う育児休業給付金の受給を妨げたとして,

原告の女性労働者の育児休業給付金相当分

の損害賠償請求が認められました。

 

 

育児休業を取得する労働者が雇用保険の一般被保険者で,

育児休業開始日前2年間に賃金支払基礎日数が

11日以上ある月が12ヶ月以上ある場合,

会社を通じてハローワークに申請することで,

育児休業給付金が支給されるのです。

 

 

 

 

以上のように,会社が勝手に退職扱いしてきても,

労働者の退職の意思表示は慎重に判断されますので,

会社の対応に納得いかない場合には,あきらめずに,

会社に対して,働き続けることを主張していきます。

 

 

それでも,会社が素直に応じてくれない時には,

弁護士にご相談ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。