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正社員と非正規雇用労働者の間における基本給と賞与の待遇差を不合理と判断した判決

1 名古屋自動車学校事件

 

 

今年の10月中旬に、日本郵便事件、大阪医科薬科大学事件、

メトロコマース事件の最高裁判決がでて、

労働契約法20条に関する重要な判断が示されました。

 

 

この最高裁判決がでてからは、手当については、

労働契約法20条に違反して不合理であるといえる場合はあるものの、

基本給・賞与・退職金については、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差が不合理であるというのは

難しくなると考えられてきました。

 

 

ところが、この最高裁判決がでた後に、

基本給と賞与における、正社員と非正規雇用労働者の待遇差が

不合理であると判断した裁判例がでました。

 

 

名古屋自動車学校事件の名古屋地裁令和2年10月28日判決です。

 

 

この事件では、自動車学校で教習指導員として働いていた原告らが、

定年退職後、1年更新の嘱託職員となったことに伴い、

賃金が大幅に引き下げられたことが、

労働契約法20条に違反するとして、

会社に対して、損害賠償請求をしました。

 

 

 

労働契約法20条では、正社員と非正規雇用労働者の

労働条件の相違について、

①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、

②当該職務の内容及び配置の変更の範囲、

③その他の事情、を考慮して、

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

本件事件では、原告らは、定年退職して嘱託職員になった後も、

従前と同じように、自動車学校の教習指導員として勤務していたので、

①と②には相違はありませんでした。

 

 

他方、原告らは、定年退職後に有期労働契約を締結したので、

定年退職までは、正社員として賃金の支給を受け、

一定の要件を満たせば、老齢厚生年金の支給を受けることが

予定されているといった事情が、③その他の事情として考慮されました。

 

 

2 基本給と賞与の待遇差が不合理となる場合

 

 

その上で、この事件では、基本給について、

原告らに有利な事情として、次のことが検討されました。

 

 

・基本給が定年退職時の50%以下に減額されてしまい、

原告らに比べて職務上の経験に劣る若年正社員の基本給を下回ったこと。

 

 

・原告らの正社員定年退職時の賃金は、

同年代の賃金センサス(賃金の統計のことです)

の平均賃金を下回るものであったこと。

 

 

・労働者と会社との間で、嘱託職員の賃金に係る

労働条件一般について合意がされたとか、

その交渉結果が制度に反映されたという事情がないこと。

 

 

・基本給は、一般に労働契約に基づく労働の対償の中核であること。

 

 

他方、原告らに不利な事情として、次のことが検討されました。

 

 

・嘱託職員の基本給は、長期雇用を前提とせず、年功的性格がないこと。

 

 

・原告らが、退職金を受給しており、要件を満たせば、

高年齢雇用継続基本給付金及び老齢厚生年金

の支給を受けることができたこと。

 

 

もっとも、これら、原告らに不利なことを踏まえたとしても、

原告らの基本給の減額については、

労働者の生活保障の観点から看過し難い水準

達していると判断されました。

 

 

 

その結果、基本給の60%を下回る限度で、

基本給の待遇差が不合理であると判断されました。

 

 

また、賞与について、慎重な検討が求められるとしながらも、

上記の基本給と同じことが検討され、賞与の待遇差についても、

不合理であると判断されました。

 

 

定年退職の前後で、仕事内容が変わっていないのに、

もともとの賃金が低かった上に、嘱託職員になったことで、

さらに賃金が引き下げられてしまったことから、

基本給や賞与の待遇差が不合理と判断されました。

 

 

大阪医科薬科大学事件やメトロコマース事件で、

賞与や退職金の待遇差で労働者側が敗訴した後だっただけに、

非正規雇用労働者に希望を与える画期的な判決です。

 

 

控訴審でも、この判断が維持されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

正社員の労働条件を引き下げることで正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正すべきではない

1 正社員の労働条件の引き下げが懸念される

 

 

10月13日と10月15日に、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差に関する最高裁判決がでて、

正社員と非正規雇用の待遇差に注目が集まっています。

 

 

退職金と賞与については、待遇差は不合理ではないとされましたが、

手当や休暇については、待遇差は不合理と判断されました。

 

 

この最高裁判決を受けて、企業は、手当や休暇における、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差を見直す可能性があります。

 

 

ここで、気をつけるべき点があります。

 

 

それは、正社員の労働条件を引き下げて、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正することです。

 

 

 

すなわち、正社員に対してだけ

扶養手当や特別な休暇が与えられている場合に、

正社員の扶養手当を削除し、特別な休暇を廃止して、

正社員の労働条件を引き下げて、

非正規雇用労働者の労働条件に合わせるということです。

 

 

これでは、正社員の労働条件が引き下げられることで、

モチベーションが下がりますし、非正規雇用労働者にとっては、

何も労働条件が改善されないままとなり、

全ての労働者に不満が残る結果になります。

 

 

もともと、正社員と非正規雇用労働者の待遇差を解消することによって、

非正規雇用労働者の処遇を改善し、賃金の上昇、需要の拡大を通じて、

経済成長を図ることが目的とされていたので、

非正規雇用労働者の低い労働条件に合わせるように、

正社員の労働条件を引き下げたのでは、

この目的の意味がなくなってしまいます。

 

 

そのため、会社は、不利益を受けている非正規雇用労働者の

待遇を引き上げることで、待遇差を改善すべきなのです。

 

 

2 労働条件の引き下げについて同意しない

 

 

とはいえ、会社の経営が厳しい場合には、会社は、

正社員にだけ支給している手当などを廃止して、

正社員の労働条件を非正規雇用労働者の低い水準に

引き下げてくることが考えられます。

 

 

この場合、正社員としては、手当の廃止などの

労働条件の不利益な変更に同意してはいけません。

 

 

労働者の個別の合意がない限り、原則として、

労働条件を不利益に変更することはできないのです。

 

 

仮に、労働者が不利益な労働条件の変更に同意してしまった場合、

その同意が、労働者の自由な意思に基づくものでない場合には、

その同意が無効になる可能性があります。

 

3 就業規則の不利益変更

 

 

次に、正社員が手当の廃止などの労働条件の不利益な変更に同意せずに、

反対していると、会社は、賃金規程などの就業規則を変更して、

手当を廃止するなどの対応をしてくる可能性があります。

 

 

 

このように、会社が労働者にとって不利益となる

就業規則の変更を行う場合には、労働契約法10条に規定されている、

以下の事情が総合判断されます。

 

 

①労働者の受ける不利益の程度

 

 

②労働条件の変更の必要性

 

 

③変更後の就業規則の内容の相当性

 

 

④労働組合等との交渉の状況

 

 

⑤その他の就業規則の変更に係る事情

 

 

正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正するために、

正社員の労働条件を就業規則の不利益変更で引き下げることは、

③や⑤の事情として、マイナスに考慮されます。

 

 

さらに、正社員に支給されている手当を廃止する場合、

正社員の賃金が減額されますので、

②労働条件の変更の必要性については、

高度のものが求められます。

 

 

そのため、正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正するために、

正社員の手当などを廃止することを、

就業規則の変更で実施する場合には、

労働契約法10条の事情に照らして、不合理であるとして、

無効になる可能性があります。

 

 

今後、正社員の労働条件の引き下げによって、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差の是正がなされる

動きがでてくるかもしれませんが、労働者としては、

断固反対して、非正規雇用労働者の処遇の改善を求めていくべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

正社員と非正規雇用労働者の待遇格差が不合理といえるかの検討手順とパート有期法14条2項の説明義務

1 労働契約法20条についての最高裁判決

 

 

10月13日と10月15日に

労働契約法20条に関する最高裁判決がでて、

正社員と非正規雇用労働者の待遇格差が注目を集めています。

 

 

賞与と退職金については、待遇格差を不合理とするのは

難しくなる傾向にありますが、

手当や福利厚生などの待遇格差を不合理としやすくなる傾向にあります。

 

 

私の個人的見解ですが、賞与や退職金の待遇格差を不合理とすると、

会社が負担しなければならない人件費が増大しすぎて、

影響が大きすぎるのですが、手当や福利厚生であれば、

そこまで人件費が増大することはなく、

待遇格差の是正に取り組みやすい、

という側面が考慮されたのではないかと思います。

 

 

 

労働契約法20条は、現在、パート有期法8条となりました。

 

 

2 待遇格差が不合理といえるかの検討手順

 

 

ここで、非正規雇用労働者と正社員の待遇の相違が

パート有期法8条違反にあたり

不合理と認められるかどうかの検討手順を説明します。

 

 

①非正規雇用労働者の個別の待遇に対応する正社員の待遇を特定し、

どのような労働条件の相違があるのかを明確にします。

 

 

②当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的を確定します。

 

 

③確定した当該待遇の性質及び当該待遇の目的に照らして、

業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度、

当該職務の内容及び配置の変更の範囲、

その他の事情、の3つの考慮要素の中から

適切と認められるものを抽出します。

 

 

④比較対象として特定した正社員と非正規雇用労働者との間で

考慮要素に関する事実に違いがあるかを検討します。

 

 

⑤考慮要素に関する事実に違いがなければ

均等待遇でなければ当該待遇の相違は不合理となり、

考慮要素に関する事実に違いがあっても

違いに応じた均衡待遇でなければ当該待遇の相違は不合理となります。

 

 

3 パート有期法14条2項の説明義務

 

 

以上の①から⑤の検討手順をふんで、

待遇の相違が不合理か否かを検討するのですが、

その前提として、非正規雇用労働者は、

正社員との間に待遇の相違があることの情報を

知っている必要があります。

 

 

非正規雇用労働者には、正社員との間に待遇格差があるのか、

格差があるとしてもその理由が何なのかが分からなければ、

会社に対して、待遇改善を求めることができないからです。

 

 

そこで、パート有期法14条2項において、

非正規雇用労働者と正社員との間の待遇の相違の内容及び理由について、

会社の説明義務が新設されました。

 

 

 

会社は、非正規雇用労働者から、

待遇の相違についての説明を求められた場合には、

比較対象となる正社員の賃金額や賃金の平均額や上限・下限など

を説明しなければならないのです。

 

 

また、非正規雇用労働者は、会社に対して、

同一の基準で違いが生じている理由、

基準が異なる場合には、待遇の性質や目的を踏まえ、

基準に違いを設けている理由、

それぞれの基準をどのように適用しているのか、

その適用の結果としてどのように賃金額に相違が生じているか

などについて、説明を求めていきます。

 

 

非正規雇用労働者は、会社の説明から得られた情報をもとに、

正社員との待遇格差が不合理と判断できれば、

会社に対して待遇の改善を求めていきます。

 

 

もし、会社が、パート有期法14条2項の説明義務に違反した場合には、

非正規雇用労働者と正社員との待遇差が不合理であることを

基礎づける一つの重要な事情になります。

 

 

また、会社が、この説明義務に違反する対応をしてきたのであれば、

パート有期法18条をもとに、労働局に相談して、労働局から、

会社に対して、助言、指導、勧告などをしてもらうのがいいです。

 

 

最高裁判決がでたことで、

正社員と非正規雇用労働者の待遇格差が注目されていますので、

これを機会に、パート有期法14条2項を活用して、

会社に対して待遇格差の説明を求めて、

待遇格差の改善が実現されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

契約社員に対して病気休暇や夏期冬期休暇を与えないことは不合理な待遇格差といえるのか?~日本郵便東京・佐賀事件最高裁判決~

1 日本郵便の労働契約法20条裁判

 

 

10月15日に、日本郵便の労働契約法20条の裁判において、

最高裁判決がでました。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201015/k10012664601000.html

 

 

この事件は、東京地裁、大阪地裁、佐賀地裁で始まり、

同じ日に最高裁判決がでたのです。

 

 

先日のブログでは、日本郵便の大阪事件の最高裁判決について

解説したので、本日は、日本郵便の東京事件と佐賀事件の

最高裁判決について解説します。

 

 

 

日本郵便の東京事件と佐賀事件の最高裁判決では、

大阪事件における扶養手当や年末年始勤務手当以外で、

病気休暇や夏期冬期休暇について判断されました。

 

 

2 病気休暇

 

 

まず、日本郵便では、正社員に対して、

私傷病によって会社を休む場合、

90日間有給の病気休暇が与えられている一方、契約社員に対して、

病気休暇は1年に10日間無給で与えられているなど、

病気休暇について、正社員と契約社員との間に、

日数と有給か無給の相違がありました。

 

 

この病気休暇の目的は、正社員が長期にわたり

継続して勤務することが期待されることから、

その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、

その継続的な雇用を確保することにあります。

 

 

継続的な勤務が見込まれる労働者に対して、

私傷病による有給の病気休暇を与えることは、

会社の経営判断として尊重されるものです。

 

 

もっとも、病気休暇のこのような目的に照らせば、

郵便業務をする契約社員についても、

相応に継続的な勤務が見込まれるのであれは、

私傷病による有給の病気休暇を与えるとした

趣旨が妥当することになります。

 

 

原告ら契約社員は、有期労働契約を繰り返して更新していることから、

相応に継続的な勤務が見込まれるので、

私傷病による病気休暇の日数につき相違を設けることはともかく、

これを有給とするか無給とするかについての労働条件の相違は

不合理と判断されました。

 

 

正社員と契約社員の病気休暇について、

日数に差があるのは許容されますが、正社員を有給として、

契約社員を無給とすることは不合理となるわけです。

 

 

3 夏期冬期休暇

 

 

次に、日本郵便では、正社員には、

夏期と冬期に各3日まで有給休暇が与えられるのですが、

契約社員には夏期冬期休暇が与えられていませんでした。

 

 

この夏期冬期休暇の目的は、

年次有給休暇や病気休暇とは別に、

労働から離れる機会を与えることにより、

心身の回復を図ることにあります。

 

 

そして、夏期冬期休暇を取得できるかや、取得できる日数は、

正社員の勤続期間の長さに応じて定まるものとはされていませんでした。

 

 

郵便業務を担当する契約社員は、

繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、

業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれるので、

夏期冬期休暇を与える趣旨は、

契約社員にも妥当することになります。

 

 

そのため、正社員に対して、夏期冬期休暇を与える一方、

契約社員に対して、夏期冬期休暇を与えないことは、

不合理であると判断されました。

 

 

個々の労働条件の目的や趣旨を個別に考慮した結果、

病気休暇と夏期冬期休暇についての相違が不合理と判断されたのです。

 

 

先週の一連の労働契約法20条に関する最高裁判決を検討すると、

賞与や退職金については、影響が大きすぎるので、

企業経営が混乱するリスクがあるのですが、

それ以外の手当や労働条件については、影響がそれほどでもなく、

正社員と非正規雇用労働者の格差是正に企業が取り組みやすい、

という価値判断があるのではないかという印象を受けました。

 

 

 

まずは、手当や労働条件についての、

正社員と非正規雇用労働者の格差是正がすすむことに期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

契約社員に対して扶養手当や年末年始勤務手当を支給しないことは不合理な待遇格差といえるのか?~日本郵便大阪事件最高裁判決~

1 日本郵便の労働契約法20条裁判

 

 

10月13日のメトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件に続いて、

10月15日、労働契約法20条をめぐる裁判で最高裁判決がでました。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20201015/k10012664601000.html

 

 

日本郵便における労働契約法20条の裁判で、

東京地裁、大阪地裁、佐賀地裁から始まった3つの事件について、

昨日、最高裁が原告勝訴の画期的判決をだしました。

 

 

メトロコマース事件と大阪医科薬科大学事件で、

原告が敗訴していただけに、日本郵便事件では、

原告が勝訴してよかったです。

 

 

本日は、日本郵便事件の大阪訴訟の判決について解説します。

 

 

この事件は、日本郵便で契約社員として働いてる原告らが、

正社員との間における年末年始勤務手当、祝日給、扶養手当、

夏季休暇・冬季休暇の相違は不合理であり、

労働契約法20条に違反するとして、損害賠償請求をしたものです。

 

 

 

労働契約法20条は、現在、パート有期法8条になり、

正社員と非正規雇用労働者との間の待遇について、

業務の内容と責任の程度、

当該職務の内容及び配置の変更の範囲、

その他の事情のうち、

当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして

適切と認められるものを考慮して、

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

ようするに、正社員と非正規雇用労働者との間の

前提条件が違う場合には、その違いに応じて

待遇も均衡して取り扱わなければならず、

前提条件が同じ場合には、

正社員と非正規雇用労働者の待遇を同一に取り扱わなければならない、

というわけです。

 

 

最高裁は、各手当などの労働条件の性質・趣旨・目的をもとに、

不合理か否かを判断しました。

 

 

2 年末年始勤務手当

 

 

まず、年末年始勤務手当について、郵便局の職員は、

年賀状の配達があるので、

毎年12月29日から翌年1月3日までが最繁忙期であり、

通常の労働者が休日として過ごしている時期に

働くことに対する勤務の特殊性から、

基本給に加えて支給される性質を有します。

 

 

年末年始勤務手当は、正社員が行った仕事の内容や難しさに関係なく、

年末年始の期間に実際に働いたこと自体を支給要件とするのもので、

支給金額は、実際に働いた時期と時間に応じて一律でした。

 

 

このような年末年始勤務手当の性質・支給要件・支給金額からすれば、

年末年始勤務手当を支給することとした趣旨が契約社員にも妥当するので、

年末年始勤務手当を正社員には支給するが、

契約社員に支給しないことは、不合理と判断されました。

 

 

3 年始期間の勤務に対する祝日給

 

 

次に、年始期間の勤務に対する祝日給について、

日本郵便の正社員には、年始期間に特別休暇が与えられているものの、

最繁忙期なので年始期間に働いたの代償として、

通常の勤務に対する賃金に割増したものが支給されていましたが、

契約社員には特別休暇が与えらていないので、

年始期間の勤務に対する祝日給は支給されていませんでした。

 

 

年始勤務における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、

契約社員にも妥当するので、

年始期間の勤務に対する祝日給を正社員には支給するものの、

契約社員には支給しないことは、不合理と判断されました。

 

4 扶養手当

 

 

そして、扶養手当について、

正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されるので、

その生活保障や福利厚生を図り、

扶養親族のある者の生活設計を容易にさせることを通じて、

継続的な雇用を確保する目的があるので、

継続的な勤務が見込まれる労働者に対して扶養手当を支給することは、

会社の経営判断として尊重できると判断されました。

 

 

もっとも、契約社員にも、扶養親族があり、

相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、

扶養手当を支給することとした趣旨は契約社員にも妥当しますし、

原告らのように、有期労働契約の更新を繰り返して、

相応に継続的な勤務をしている契約社員がいます。

 

 

そのため、扶養手当を正社員には支給するものの、

契約社員には支給しないことは、不合理と判断されました。

 

 

今回の判決では、正社員と契約社員との間における職務の内容や

職務の内容及び配置の変更の範囲に相応の相違があると

判断しているにもかかわらず、

手当などの労働条件の性質・趣旨・目的が重視されています。

 

 

 

賞与や退職金と比較して、手当などの労働条件であれば、

金額もそれほど大きくなく、

最高裁も思い切った判断をしやすかったのかもしれません。

 

 

今回の判決では、扶養手当について、

継続的な雇用確保という会社の主観的な要素が重視されず、

有期労働契約が更新されて長期雇用されている契約社員にも、

扶養手当が支給されるべきとした点が画期的です。

 

 

非正規雇用労働者の格差是正がすすむことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

契約社員に対して退職金を支給しないことは不合理な待遇格差といえるのか?~メトロコマース事件最高裁判決~

1 労働契約法20条をめぐる裁判

 

 

本日は、10月13日にあった、

労働契約法20条をめぐる裁判の最高裁判決のうちの1つである

メトロコマース事件について解説します。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASNBF265ZNB2UTIL050.html

 

 

この事件は、東京メトロの駅構内の売店で

販売員をしていた契約社員であった原告らが、

正社員には退職金が支給されるにもかかわらず、

契約社員には退職金が支給されないのは、

労働契約法20条の不合理な待遇の相違に該当するとして、

損害賠償請求をしたのです。

 

 

 

労働契約法20条は、現在、パート有期法8条になり、

正社員と非正規雇用労働者との間の待遇について、

業務の内容と責任の程度、

当該職務の内容及び配置の変更の範囲、

その他の事情のうち、

当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして

適切と認められるものを考慮して、

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

ようするに、正社員と非正規雇用労働者との間の

前提条件が違う場合には、その違いに応じて

待遇も均衡して取り扱わなければならず、

前提条件が同じ場合には、

正社員と非正規雇用労働者の待遇を同一に取り扱わなければならない、

というわけです。

 

 

2 メトロコマース事件の東京高裁判決

 

 

メトロコマース事件の東京高裁平成31年2月20日判決は、

次の事情を考慮して、契約社員に対して、

正社員の退職金の4分の1に相当する額を支給しないことは

不合理であると判断しました。

 

 

メトロコマースでは、契約社員は原則として契約が更新され、

定年が65歳と定められており、

実際に原告らは定年で契約が終了するまで

10年前後の長期間にわたって勤務をしていました。

 

 

また、メトロコマースの契約社員の一部は、

平成28年4月に無期契約労働者となるとともに

退職金制度が設けられました。

 

 

そのため、退職金には、継続的な勤務に対する功労報償

という性質があり、この性質は、

長期間メトロコマースで働いてきた契約社員にもあてはまるとして、

契約社員に対して全く退職金を支払わないことは

不合理と判断されたのです。

 

 

 

しかし、この東京高裁の判断は、最高裁で覆されました。

 

 

3 メトロコマース事件の最高裁判決

 

 

最高裁は、メトロコマースの退職金について、

職務遂行能力や責任の程度を踏まえた労務の対価の後払いや

継続的な勤務に対する功労報償の複合的な性質があり、

メトロコマースでは、正社員としての職務を遂行し得る人材の確保や

その定着を図る目的があると判断しました。

 

 

この退職金の性質や目的に照らせば、

メトロコマースにおける正社員と契約社員の

業務の内容と業務に伴う責任の程度を検討すると、

売店における業務の内容はほぼ同じなのですが、

正社員は、販売員に欠員が生じたときに代替として業務を行い、

複数の店舗を統括して、売店業務のサポートやトラブル処理をしており、

契約社員の職務とは一定の相違があったと判断されました。

 

 

また、職務の内容及び配置の変更の範囲について、

正社員には、配置転換を命ぜられる現実の可能性があり、

正当な理由なく、これを拒否することができなかったのに対し、

契約社員には、業務の内容に変更はなく、

配置転換を命じられることはなかったと判断されました。

 

 

そして、契約社員には、正社員に登用される試験制度があることが、

その他の事情として考慮されました。

 

 

このように、メトロコマースの退職金の

複合的な性質や支給目的を踏まえて、

正社員と契約社員との職務の内容等を考慮すれば、

正社員にだけ退職金を支給して、

契約社員には退職金を支給しないという、

労働条件の相違は不合理とはいえないと判断されました。

 

 

最高裁は、退職金は、その原資を長期間にわたって

積み立てるなどして用意する必要があるので、

社会経済情勢や会社の経営状況の動向に左右されるので、

退職金について、会社の裁量判断を尊重したのです。

 

 

もっとも、有為な人材の確保という会社の主観的な事情を考慮すると、

会社の恣意的な判断で待遇の相違を認めてしまうことにつながるので

不当な結果になると思います。

 

 

また、配置転換については、実際に正社員にはどの範囲で

配置転換が実施されていたのかという

客観的な実態を検討する必要があったと考えます。

 

 

私としては、契約社員の原告らは、

10年以上もメトロコマースで勤務していたので、

功労報償としての退職金として一定の金額を支給すべきと考えますので、

東京高裁の判断が妥当だと考えます。

 

 

画期的な東京高裁の判断が覆されたのは残念ですし、

退職金の格差を争うのは難しくなりそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

アルバイト職員に対して賞与を支給しないことは不合理な待遇格差といえるのか?~大阪医科薬科大学事件最高裁判決~

1 労働契約法20条裁判の最高裁判決

 

 

昨日、最高裁で重要な判決がくだされました。

 

 

大阪医科薬科大学事件とメトロコマース事件において、

最高裁判決がでたのです。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO64929970T11C20A0000000/

 

 

この2つの事件については、高裁段階で、

正社員と非正規雇用労働者の労働条件の格差を縮める

画期的な判断がなされたので、過去にブログで紹介して、

注目していました。

 

 

しかし、昨日の最高裁判決では、原告側が敗訴してしまい、

残念な結果となってしまいました。

 

 

本日は、昨日の最高裁判決のうち、

大阪医科薬科大学事件について解説します。

 

 

2 大阪医科大学事件高裁判決

 

 

大阪医科薬科大学事件の大阪高裁平成31年2月15日判決は、

正社員とアルバイト職員との賞与の格差について、

初めて不合理と判断しました。

 

 

 

この事件では、正社員には、賞与が支給されているにもかかわらず、

アルバイト職員には、賞与が支給されていないことが、

不合理であるとして、アルバイト職員の原告が、

労働契約法20条違反を理由に、損害賠償請求をしたのです。

 

 

労働契約法20条は、現在、パート有期法8条になり、

正社員と非正規雇用労働者との間の待遇について、

業務の内容と責任の程度、

当該職務の内容及び配置の変更の範囲、

その他の事情のうち、

当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして

適切と認められるものを考慮して、

不合理であってはならないと規定されています。

 

 

ようするに、正社員と非正規雇用労働者との間の

前提条件が違う場合には、その違いに応じて

待遇も均衡して取り扱わなければならず、

前提条件が同じ場合には、

正社員と非正規雇用労働者の待遇を同一に取り扱わなければならない、

というわけです。

 

 

大阪医科薬科大学事件の大阪高裁の判決では、

大阪医科薬科大学における賞与の性質に注目して、

この大学の賞与は、基本給のみに連動しており、

正社員の年齢や成績、大学の業績には連動していないので、

賞与の算定期間に在籍し、

働いていたことの対価としての性質を有するので、

このことは、アルバイト職員にも妥当するものと判断されました。

 

 

そして、非正規雇用労働者のうち契約社員には

正社員の約8割の賞与が支給されていたのに、

アルバイト職員には賞与がゼロということも

不合理と判断する要素となりました。

 

 

その結果、大阪高裁は、正社員の賞与の60%を

下回る支給しかしない場合には、不合理になると判断しました。

 

 

3 大阪医科薬科大学事件最高裁判決

 

 

しかし、最高裁は、この大阪高裁の判断を否定しました。

 

 

最高裁は、大阪医科薬科大学の賞与について、

通年で基本給の4.6ヶ月分が一応の支給基準となっていて、

正社員の基本給は、勤続年数に伴う職務遂行能力の向上に応じた

職能給の性格を有するので、正社員の賃金体系や

求められる職務遂行能力や責任の程度に照らして、

正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図る目的から、

正社員に対して賞与を支給していると判断しました。

 

 

このように、賞与の性質や目的の判断が、

高裁と最高裁とで分かれたのです。

 

 

そして、アルバイト職員の職務内容は相当に軽易であるのに対して、

正社員の職務は、学内の英文学術誌の編集事務、

病理解剖に関する遺族への対応などの業務をするなどもあり,

正社員とアルバイト職員との職務の内容に

一定の相違があると判断されました。

 

 

さらに、アルバイト職員には、

契約社員や正社員への登用試験の制度があり、

格差是正のための一応の対応もあるとして、

「その他の事情」として考慮されました。

 

 

その結果、賞与の性質や支給目的を踏まえて、

正社員とアルバイト職員の職務内容を考慮すれば、

正社員には賞与を支給して、アルバイト職員には賞与を支給しない

という相違は不合理ではないと判断されたのです。

 

 

最高裁は、大阪医科薬科大学の賞与を、

正社員としての職務を遂行し得る人材の確保や

その定着を図るなどの目的から支給しているというように、

会社の主観的な事情をもとに判断しているのですが、

このような判断をするのであれば、

およそ全ての待遇について相違の不合理が

否定されてしまうおそれがあります。

 

 

 

待遇の性質や目的については、支給要件や内容、

支給実態などの客観的な事情をもとに判断すべきと考えます。

 

 

高裁段階で、賞与の格差が不合理と画期的な判断が出されて

期待していたのに、最高裁で賞与の格差が不合理ではないと

ひっくり返ってしまい、とても残念です。

 

 

賞与の格差が不合理となるのは難しいと言えそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスの影響で在宅勤務を命じる場合,正社員と非正規雇用労働者で待遇格差を認めるべきではない

1 非正規雇用労働者には在宅勤務が認められないという問題

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて,

人が密集しやすい公共交通機関やオフィス街において,

自社の社員が新型コロナウイルスに感染するのを避けるために,

在宅勤務に切り替えてる企業が増えています。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200302/k10012308891000.html

 

 

しかし,一方で,正社員には在宅勤務は認められたが,

非正規雇用労働者には在宅勤務が認められなかった

というケースもあるようです。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_10870/

 

 

本日は,正社員にだけ在宅勤務が認められて,

非正規雇用労働者には在宅勤務が認められないことの

法律的な問題点について解説します。

 

 

 

2 不合理な待遇格差の禁止

 

 

この問題点については,今年の4月1日から施行される,

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

(パートタイム有期雇用労働法)8条に,次のように規定されています。

 

 

会社は,正社員と非正規雇用労働者との間において,

業務の内容,業務に伴う責任の程度,

職務の内容及び配置の変更の範囲,

その他の事情を考慮して,

不合理と認められる相違を設けてはならないとされています。

 

 

正社員と非正規雇用労働者の仕事内容がほぼ同じで,

責任の程度も異なることはなく,

正社員と非正規雇用労働者の人事異動が実質的に同じであれば,

正社員と非正規雇用労働者との間の労働条件の相違は無効になるのです。

 

 

ものすごく平たく言うと,

正社員と非正規雇用労働者が同じ仕事をしているなら,

同じ労働条件にすべきということになります。

 

 

ここで注意すべきなのは,問題となる労働条件に

相違が生じている場合に,当該労働条件の性質や目的

に応じて判断していくことです。

 

 

例えば,通勤手当や食堂の利用など,

仕事内容や配置転換の範囲と直接関連しない給付については,

原則として同一の取り扱いが求められます。

 

 

これに対して,職能給などの仕事内容や配置転換の範囲と

関連性をもつ給付については,その前提となる仕事内容や

配置転換の範囲に違いがある場合には

その前提の違いに対してバランスを欠く

相違があるときに不合理となるのです。

 

 

 

3 新型コロナウイルス感染拡大を理由とする在宅勤務を

正社員にだけ認めて,非正規雇用労働者に認めないのは不合理です

 

以上を前提に,新型コロナウイルス感染拡大を理由とする

在宅勤務を正社員にだけ認めて,非正規雇用労働者に認めないという

相違は不合理となるかについて検討します。

 

 

会社は,自社の社員が新型コロナウイルスに感染することを

阻止する目的で在宅勤務を命じています。

 

 

自社の社員が新型コロナウイルスに感染すると,

職場で感染が拡大して,社員が職場で働けなくなり,

会社が経営活動を続けていけないからです。

 

 

この目的を前提とすれば,同じ職場環境に置かれている

正社員と非正規雇用労働者との間で,

社員の安全管理に相違を設ける必要はなくなります。

 

 

ましてや,正社員と非正規雇用労働者の仕事内容が同じで,

配置転換も同じであれば,なおさら,

在宅勤務で相違を設けることは不合理です。

 

 

そのため,会社が新型コロナウイルス感染拡大を理由に

在宅勤務を命じる場合,正社員にだけ在宅勤務を認めて,

非正規雇用労働者には在宅勤務を認めないのでは,

パートタイム有期雇用労働法8条に違反するとして,

無効になると考えます。

 

 

会社が労働法に在宅勤務を命じるのであれば,

正社員も非正規雇用労働者も同じように在宅勤務を認めるべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

定年退職前後の賃金の相違は不合理といえるか

先日,ある労働組合の勉強会に講師として呼ばれまして,

同一労働同一賃金について,解説しました。

 

 

私の講義の後に,多くの方が質問をされ,

正社員と非正規雇用労働者との間の労働条件の格差は

切実な問題なのだと実感しました。

 

 

さて,本日は,同一労働同一賃金に関連する

裁判例を紹介したいと思います。

 

 

ホテルの営業職の定年退職前後の賃金額の相違が

不合理な労働条件の相違といえるかが争われた

日本ビューホテル事件の東京地裁平成30年11月21日判決

(労働判例1197号55頁)です。

 

 

 

この事件では,被告の会社において,

正社員の定年は60歳だったのですが,

高年齢者の雇用確保措置として,

継続雇用制度が採用されており,正社員は,

定年退職後に,有期労働契約を締結して,

嘱託職員として再雇用されていました。

 

 

原告の退職時の月額賃金は約38万円でしたが,

嘱託職員として再雇用された後には,

月額賃金は約21万円~25万円に減額されました。

 

 

このように,定年退職の前後で,賃金額に差があることが,

労働契約法20条の不合理な労働条件の相違といえるかが争われたのです。

 

 

労働条件の相違が不合理といえるかについては,

①職務の内容,②人事異動,③その他の事情

という3つの考慮要素を総合検討して判断されます。

 

 

まず,①職務の内容について,定年退職前の原告の業務は,

売上目標を課せられ,部下の仕事の承認や,

クレーム対応などの相応の責任を伴うものでしたが,

定年退職後の原告の業務は,営業活動に限定され,

売上目標が達成できない場合には人事考課に影響するという

人事上の負担が軽減されており,職務の内容は異なっていました。

 

 

次に,②人事異動について,実態としては,

正社員には配転が実施される可能性があるのに対して,

嘱託職員には配転の実績がなく,今後も予定されておらず,

人事異動についても異なった取り扱いがされていました。

 

 

そして,③その他の事情について,正社員の賃金制度が

長期雇用を前提として年功的性格を含みながら

各役職に就くことなどに対応したものであるのに対し,

嘱託職員の賃金制度は長期雇用を前提とせず年功的性格を含まず,

役職に就くことも予定されていないという,

定年後再雇用制度の運用実態が考慮されました。

 

 

 

 

①業務の内容及び②人事異動について相違があり,

③定年後再雇用制度の運用実態からして,

定年退職の前後で賃金月額に相違があることは

不合理ではないと判断され,原告の請求は棄却されました。

 

 

最近の裁判例の傾向から,定年後再雇用のケースや

基本給の格差を争うケースの場合,

不合理と判断されるのは難しいように思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

均等待遇と差別的取扱いの禁止

9月21日に,ある労働組合から,

同一労働同一賃金についての勉強会の講師の依頼を受けましたので,

同一労働同一賃金について勉強をしています。

 

 

同一労働同一賃金については,働き方改革において,

パートタイム・有期雇用労働法が成立し,

8条において均衡待遇に関する規定が,

9条において均等待遇に関する規定が整備されました。

 

 

 

均等待遇とは,等しきものには等しい待遇をすることをいい,

均衡待遇とは,等しくなくてもバランスのとれた待遇をすることをいいます。

 

 

本日は,このうち,均等待遇について解説します。

 

 

パートタイム・有期雇用労働法9条の内容は次のとおりです。

 

 

「事業主は,職務の内容が通常の労働者と同一の

短時間・有期雇用労働者であって,

当該事業所における慣行その他の事情からみて,

当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において,

その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の

職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが

見込まれるものについては,短時間・有期雇用労働者であることを

理由として,基本給,賞与,その他の待遇のそれぞれについて,

差別的取扱いをしてはならない。

 

 

まず,職務の内容が同一といえるためには,

個々の作業まで完全に一致している必要はなく,

それぞれの労働者の職務の内容が実質的に同一であればいいのです。

 

 

具体的には,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間において,

業務の内容が実質的に同一かを判断し,

次に責任の程度が著しく異なっていないかを検討します。

 

 

業務の内容については,中核的な業務を抽出して比較します。

 

 

中核的業務については,以下の3つの基準にしたがって総合考慮します。

 

 

①与えられた職務に本質的又は不可欠な要素である業務

②その成果が事業に対して大きな影響を与える業務

③労働者本人の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務

 

 

中核的業務が実質的に同一であれば,

正社員とパートタイム・有期雇用労働者の

職務に伴う責任の程度が著しく異なっていないかを検討します。

 

 

その際には,以下の事項について比較を行います。

 

 

ア:授権されている権限の範囲

(単独で契約締結可能な金額の範囲,管理する部下の数,決裁権限の範囲など)

イ:業務の成果について求められる役割

ウ:トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度,

エ:ノルマ等の成果への期待の程度

オ:所定外労働の有無及び頻度(補助的指標)

 

 

もうひとつ,職務の内容及び配置の変更の範囲が

同一か否かについて,検討します。

 

 

これは,転勤,昇進を含む人事異動や

本人の役割の変化の有無や範囲を総合判断します。

 

 

 

例えば,正社員の就業規則には,「正社員には配置転換することがある」

と規定されているものの,他方でパートタイム・有期雇用労働者には

そのような規定がないという形式的な違いではなく,

実際の人事異動の実態をみて判断されるので,

正社員もパートタイム・有期雇用労働者の両方とも

実際には配置転換がされていないという実態があれば,

職務の内容及び配置の変更の範囲が同一であると判断されます。

 

 

以上を具体的な裁判例でみてみます。

 

 

京都市浴場運営財団ほか事件の

京都地裁平成29年9月20日判決です

(労働判例1167号34頁)。

 

 

この事件では,パートタイム労働者である嘱託職員であっても

主任になる者がいたこと,嘱託職員には

他の浴場への異動が予定されておらず,

正社員にもそれが予定されていたという事情はなく,

正社員と嘱託職員との間での人材活用の仕組み,

運用が異なっていたわけではないにもかかわらず,

正社員にのみ退職金が支給され,

嘱託職員には退職金が支給されないことは

差別的取扱いに該当するとして,

損害賠償請求が認められた。

 

 

 

そのため,正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間で,

仕事の内容と人事異動の範囲が同じであるにもかかわらず,

正社員にだけ退職金が支給されていて,

パートタイム・有期雇用労働者には退職金が支給されていないなど,

労働条件に格差がある場合には,

差別的取扱いに該当するとして,

損害賠償請求が認められる可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。