定年退職前後の賃金の相違は不合理といえるか
先日,ある労働組合の勉強会に講師として呼ばれまして,
同一労働同一賃金について,解説しました。
私の講義の後に,多くの方が質問をされ,
正社員と非正規雇用労働者との間の労働条件の格差は
切実な問題なのだと実感しました。
さて,本日は,同一労働同一賃金に関連する
裁判例を紹介したいと思います。
ホテルの営業職の定年退職前後の賃金額の相違が
不合理な労働条件の相違といえるかが争われた
日本ビューホテル事件の東京地裁平成30年11月21日判決
(労働判例1197号55頁)です。
この事件では,被告の会社において,
正社員の定年は60歳だったのですが,
高年齢者の雇用確保措置として,
継続雇用制度が採用されており,正社員は,
定年退職後に,有期労働契約を締結して,
嘱託職員として再雇用されていました。
原告の退職時の月額賃金は約38万円でしたが,
嘱託職員として再雇用された後には,
月額賃金は約21万円~25万円に減額されました。
このように,定年退職の前後で,賃金額に差があることが,
労働契約法20条の不合理な労働条件の相違といえるかが争われたのです。
労働条件の相違が不合理といえるかについては,
①職務の内容,②人事異動,③その他の事情
という3つの考慮要素を総合検討して判断されます。
まず,①職務の内容について,定年退職前の原告の業務は,
売上目標を課せられ,部下の仕事の承認や,
クレーム対応などの相応の責任を伴うものでしたが,
定年退職後の原告の業務は,営業活動に限定され,
売上目標が達成できない場合には人事考課に影響するという
人事上の負担が軽減されており,職務の内容は異なっていました。
次に,②人事異動について,実態としては,
正社員には配転が実施される可能性があるのに対して,
嘱託職員には配転の実績がなく,今後も予定されておらず,
人事異動についても異なった取り扱いがされていました。
そして,③その他の事情について,正社員の賃金制度が
長期雇用を前提として年功的性格を含みながら
各役職に就くことなどに対応したものであるのに対し,
嘱託職員の賃金制度は長期雇用を前提とせず年功的性格を含まず,
役職に就くことも予定されていないという,
定年後再雇用制度の運用実態が考慮されました。
①業務の内容及び②人事異動について相違があり,
③定年後再雇用制度の運用実態からして,
定年退職の前後で賃金月額に相違があることは
不合理ではないと判断され,原告の請求は棄却されました。
最近の裁判例の傾向から,定年後再雇用のケースや
基本給の格差を争うケースの場合,
不合理と判断されるのは難しいように思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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