ANAホールディングスの賃金減額案に対して労働者はどう対処するべきか
1 ANAホールディングスの人件費削減案
ANAホールディングスが5000億円前後の
赤字になるとの報道がありました。
https://www.asahi.com/articles/ASNBP7H68NBPULFA021.html
新型コロナウイルスの影響で、海外旅行をする人がいなくなり、
国際線での売上がほとんどなくなり、
経費を支払うのが苦しくなっているようです。
そのため、ANAホールディングスは、
人件費を削減するために、労働組合に対して、
基本給などを一律5%減額すること、
厚生年金保険料の従業員負担を3割から5割に引き上げること、
退職金を加算する希望退職を募集すること、
理由を問わない休業・休職制度を活用すること、
などを提案したようです。
既に、冬のボーナスの支給は見送られることが決まっているようで、
基本給の削減などを合わせると、年収ベースで平均3割減となるようです。
このように、会社の業績が悪化した時に、
会社から労働条件の引き下げを提案された場合に
どう対処するべきかについて検討したいと思います。
2 整理解雇の前段階
まず、このままANAホールディングスの業績が悪化し続けると、
どうなるかといいますと、おそらく、
どこかのタイミングで、人件費を削減するために、
整理解雇、いわゆるリストラが実施されるでしょう。
会社の業績悪化を理由に労働者を解雇することを整理解雇といい、
整理解雇の場合、労働者側に落ち度がないのに解雇されることになるので、
①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性、
という4つの要件(要素)を総合考慮しなければ、
整理解雇は有効になりません。
ようするに、いきなり、整理解雇をすることはできず、
会社が、整理解雇を避けるために、
いろいろな手段を尽くしたけれど、
どうしても会社の業績悪化が止まらないから、
やむを得ず、会社の存続のために、
整理解雇を実施して、はじめて整理解雇が有効になるのです。
そのため、整理解雇の前に、②解雇回避努力として、
賞与の減額・不支給、賃金減額、
希望退職の募集などが実施されるのです。
会社が、解雇回避努力をしたことで、業績が回復すれば、
整理解雇を実施する必要はなくなるのですが、
解雇回避努力を尽くしても、業績の悪化が止まらなければ、
整理解雇もやむなしとなり、有効になりやすくなります。
3 賃金減額には原則として労働者の同意が必要
次に、会社からの賃金減額について、
応じるべきかについては、悩ましい問題です。
賞与については、会社の業績に連動しているところが多いので、
会社の業績が悪化すれば、賞与が支給されないことは
しかたがないことですが、毎月の基本給などが削減されると、
生活費が足りなくなり、生活が苦しくなるので、
労働者にとっても死活問題となります。
基本給などの賃金については、
労働基準法24条に賃金全額払の原則が規定されており、
保護が手厚く、会社が、労働者の同意なく、
一方的に賃金を減額することは原則としてできません。
そのため、会社が基本給などの賃金を減額したい場合には、
会社が労働者に対して、賃金減額について説明して、
労働者に賃金減額に合意してもらう必要があるのです。
労働者としては、賃金減額に合意しなければ、
基本的には、賃金減額はされないのです。
4 労働協約
また、労働組合が会社と交渉して合意したことについて、
労働協約を締結すれば、労働組合の組合員である労働者には、
労働協約が適用されるので、賃金減額についての労働協約が締結されれば、
組合員である労働者の賃金が減額されます(労働組合法16条)。
労働組合の組合員の労働者は、
労働組合が会社との間で賃金減額に合意するのかについて、
積極的に意見を述べて、
自分の意見が反映されるように行動すべきと考えます。
おそらく、ANAホールディングスは、
労働者との個別の合意や、労働組合との労働協約をもとに、
基本給などの賃金減額を実施しようとしていると考えられます。
労働者としては、無理に賃金減額に応じる必要はないものの、
ANAホールディングスの危機的状況は明らかであり、
新型コロナウイルスが終息すれば、業績が回復する可能性があるので、
ここは、労使が痛みを分け合うことも必要かと思います。
労働組合には、賃金減額に応じる代わりに、
業績が回復した場合には、すぐに元の賃金に復活させるなどの
条件を勝ち取ってもらいたいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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