教員の過労自殺事件から教員の労働問題を考える
1 教員の過労自殺事件
私は、石川県内の高校の学校評議委員をしています。
公立学校では、教員の働き方改革を実施するために、
様々な取り組みが行わています。
ただ一方で、教員の長時間労働の問題は依然として残っており、
報道を見ていますと、教員が働き過ぎで
過労死や過労自殺する事件が後をたちません。
教員の過労死や過労自殺の問題で、
画期的な判決がありますので、紹介します。
福井県・若狭町(町立中学校教員)事件の
福井地裁令和元年7月10日判決です
(労働判例1216号21頁)。
この事件は、27歳だった新任教員が半年後に
練炭自殺をしたという痛ましい事件でした。
自殺した新任教員が使用していたパソコンのログ、
学校のセキュリティ記録、時間外業務承認書といった証拠から、
1ヶ月の時間外労働が、161時間から128時間もの
長時間労働に及んでいることがわかりました。
過労死ラインが1ヶ月に80~100時間の時間外労働
とされていることからしても、
過酷な長時間労働をしていたことがわかります。
さらに、自殺した新任教員は、生徒の問題行動や保護者への対応や、
研修の準備などで、余裕のない、過重な労働をしていました。
そのため、自殺した新任教員は、何らかの精神障害を発症して、
自殺したとして、公務災害の認定を受けました。
その後、ご遺族が真実解明と謝罪を求めて、
損害賠償請求の裁判を起こしたのです。
2 残業は自主的な活動か
まず、裁判では、自殺した新任教員の残業が、
校長の指揮命令下の業務か、
自主的な活動だったかが争点となりました。
労働者が仕事をした時間が労働時間といえるためには、
使用者の指揮命令下で仕事をしていたと言えなければなりません。
公立学校の教員の場合、公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等
に関する特別措置法(給特法といいます)で、
本棒の4%の手当が支給されていることから、残業代は発生せず、
校長が修学旅行や職員会議などで時間外労働を命令する以外には、
残業とは認められず、教員の自主的な研鑽であると解釈されています。
そのため、被告は、自殺した教員の残業は、
校長の職務命令に基づいた時間外労働ではなく、
自主的な研鑽であり、労働時間ではないと主張しました。
しかし、裁判所は、授業の準備、部活動の指導、
保護者対応などを所定労働時間外に行うことについて
明示的な命令はないものの、自殺した教員の経験年数からすれば、
所定労働時間外に行わざるをえなかったものであり、
自主的に行ったものではなく、事実上、
校長の指揮命令下で行っていたと判断されました。
民間の労働者では、争点にならないのですが、
公立学校の教員の場合は、給特法があるばかりに、
このような争点となるのです。
給特法は、教員の働き方改革に逆行している法律ですので、
早急に廃止する必要があると考えます。
3 安全配慮義務違反における予見可能性の対象
次に、もう一つの争点が、使用者は、
長時間労働などの過重な業務の認識を有していれば責任を負うのか、
それとも、外部から認識しうる労働者の具体的な健康被害まで必要なのか、
というものです。
使用者の予見可能性の対象は何かという問題です。
被告は、教員が明らかに精神的に変調をきたしているなどの
事情がない限り、勤務時間削減などの措置をとることは
義務付けられないと主張していました。
しかし、裁判所は、自殺した教員の勤務時間や業務内容を把握すれば、
勤務時間や業務内容が労働者にとって過重であり、
心身の健康状態を悪化させるものであると認識できたにもかかわらず、
早期帰宅を促すなどの口頭指導をしただけで、
業務内容の変更をしなかったとして、
校長の安全配慮義務違反を認めました。
使用者は、労働者の生命や健康の安全を確保しつつ
働くことができるように、必要な配慮をする義務を負っているのですが、
この安全配慮義務に違反したことが認められたのです。
ようするに、仕事内容を軽減させるといった
具体的なことをしていないと、安全配慮義務違反となるのです。
教員の働き過ぎの問題にメスを入れる画期的な判決と言えます。
教員の働き方改革をすすめていく上で、
参考になる裁判例ですので、紹介しました。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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