退職金の放棄が認められる場合とは?

労働者が不祥事を起こしてしまい,

会社からその不祥事を不問にするので,自己都合退職として,

退職金を受け取らないという文書を提出するように言われて,

そのとおりにしてしまいました。

 

 

このように,退職金の請求を放棄する文書を提出してしまった労働者は,

退職金を請求することができないのでしょうか。

 

 

本日は,退職金の放棄について解説します。

 

 

 

まず,退職金は,就業規則などに

支給基準が明確に定められている場合には,

会社は,支払義務を負うものとして,賃金に該当し,

労働基準法24条1項の賃金全額払の原則が適用されます。

 

 

退職金には,賃金全額払の原則が適用されるので,

退職金を放棄することは,賃金全額払の原則に

違反するのではないかが問題となりますが,通説は,

賃金全額払の原則は,退職金の放棄を禁止していないと解しています。

 

 

とはいえ,労働者が,退職金を放棄することは

通常の場合に予測できないことから,

退職金を放棄する意思表示をした労働者の

真意や自由意思を慎重に判断する必要があります。

 

 

それでは,どのような場合に,退職金の放棄が,

労働者の真意や自由意思でなされたと判断されるのでしょうか。

 

 

退職金の放棄について判断した裁判例として,

シンガーソーイングメシーンカンパニー事件の

最高裁昭和48年1月19日判決

(判例タイムズ289号203頁)があります。

 

 

この事件において,最高裁は,退職金の放棄が,

自由な意思に基づくものであると認めるに足る

合理的な理由が客観的に存在していたものということができる」場合に,

退職金の放棄が有効になると判断しました。

 

 

 

そのうえで,この事件において,

原告労働者が退職後直ちに競合他社に

就職することが判明していること,

原告労働者が在職中に旅費等の経費について

不正をしていたようで,その損害の一部を補填する趣旨で,

退職金を放棄する旨の文書に署名したことから,

原告労働者の退職金の放棄は,

自由な意思に基づくものであると判断されました。

 

 

私としては,これらの事実関係で,

退職金の放棄について自由な意思があったと

認定することには疑問を持っています。

 

 

退職金には,賃金の後払い的性格があり,退職金の放棄は,

その後払いの賃金を全ていらないということになるので,

やはり,労働者の真意を慎重に判断すべきと思います。

 

 

とはいえ,退職金の放棄は,

「自由な意思に基づくものであると認めるに足る

合理的な理由が客観的に存在していた」場合に限って,

認められますので,労働者の不利益の内容及び程度,

労働者が退職金を放棄するに至った経緯や態様,

会社から労働者に対する情報提供や説明の内容

などを考慮して,慎重に判断されるべきです。

 

 

もし,労働者が不本意ながら,

退職金を放棄する文書を提出してしまっても,

退職金の放棄が真意でないのであれば,

事情によっては,退職金を請求できる可能性がありますので,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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