パワハラが発生した場合に会社がしなければならないこと
現在,通常国会でパワハラを規制する法改正が議論されており,
立憲民主党が労働安全衛生法の一部を改正する
パワハラ規制法案を提出したようです。
https://cdp-japan.jp/news/20190410_1540
パワハラによって労働者の職場環境が害されないように,
必要な措置を講ずることが会社に義務付けられるという内容です。
特に,取引先からのハラスメントや,
消費者からのハラスメントについても,
労働者の職場環境が害されないように,
必要な措置を講ずることが会社に義務付けられるという点で,
労働者の保護の範囲を拡大していることが注目されます。
パワハラの問題が拡大していく中,会社は,
パワハラにどう対応していけばいいのでしょうか。
本日は,会社のパワハラ対応について,
興味深い判断がされたいなげや事件を紹介します
(東京地裁平成29年11月30日・労働判例1192号67頁)。
この事件では,原告である知的障害者の労働者に対する,
パートタイム労働者の言動が問題となりました。
原告は,そのパートタイム労働者から様々なパワハラを受けた
と主張しましたが,客観的な証拠は乏しく,
原告が提出した証拠は,原告の母が原告から聞いたことを
記載したメモなどの伝聞の証拠であったことから,
「幼稚園児以下」,「バカでもできる」という発言以外は,
証拠がないとして認められませんでした。
「あの人がこう言っていました」というように,
人から聞いたことを証言しても,
自分が直接体験したことを証言することに比べて,
聞き間違い,記憶違い,言い間違いが入り込むリスクがあり,
証言の信用は低くなるのです。
このように,伝聞の証拠は信用されにくいのです。
暴言によるパワハラの場合,言った言わないという
水掛け論となりやすく,パワハラ発言を
証明できるかをまず検討することになります。
暴言によるパワハラを証明するためには,
録音をするのが最も効果的です。
この事件では,「幼稚園児以下」,「バカでもできる」
という発言が認定されて,パートタイム労働者に対して,
不法行為が認められ,会社に対しても,
民法715条の使用者責任が認められました。
使用者責任とは,労働者が仕事に関連して,
不法行為をして,他人に損害を与えた場合には,
会社も不法行為責任を負うというものです。
他方,原告は,会社に対して,安全配慮義務違反の主張もしていました。
裁判所は,労働者が職場において他の労働者から
暴行・暴言を受けている疑いのある状況が存在する場合,
会社は,事実関係を調査し適正に対処する義務を負い,
どのように事実関係を調査し,そのように対処すべきかは,
会社の置かれている人的物的設備の現状により異なることから,
各会社において判断すべきとしました。
会社には,労働者に対して,安全配慮義務として,
合理的な範囲で,事実関係の調査と適正な対処をする義務があるわけです。
本件事件では,店長が,事実関係を調査し,
パートタイム労働者に対して,原告を他人と比べるような
発言をしないように注意した上で,
配置転換や職務の切り分けなどを検討していました。
被告は,配置転換や職務の切り分けを検討したのですが,
実際にそれは困難となったものの,知的障害者である原告に対して,
困っているときには気付いた従業員が声をかけたり,
連絡ノートを使って家族と情報交換をしたり,
休暇や勤務日の変更に柔軟に応じていたなどの配慮をしていました。
そのため,被告には,事後対応義務違反はなく,
合理的配慮が足りなかったとはいえず,
安全配慮義務違反は認められませんでした。
結果として,安全配慮義務違反は否定されたものの,
使用者責任が認められ,慰謝料20万円が認められたのです。
会社は,パワハラを認めた場合,合理的な範囲において,
事実関係の調査をし,適正な調査をする義務を負っており,
それを怠った場合には,損害賠償をしなければならないリスクが生じます。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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