パワハラの労働相談の増加とあっせん手続
1 パワハラの労働相談が増加しています
7月1日に厚生労働省から,
「令和元年度個別労働紛争解決制度の施行状況」が公表されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000643973.pdf
都道府県労働局には,総合労働相談コーナーという
労働相談の窓口があり,そこに寄せられた
労働相談の統計情報が毎年公表されます。
これを見れば,世の中でどのような労働問題が増えているのかが
よくわかるので,私は,毎年参考にしています。
さて,令和元年度の統計情報では,
総合労働相談コーナーに寄せられた相談のうち,
会社と労働者との間における個別労働紛争相談件数は
342,966件で,そのうち87,570件が
「いじめ・嫌がらせ」というパワハラに関する相談です。
個別労働紛争相談のうちの25.5%が
パワハラに関する相談ということになります。
このパワハラに関する相談は,年々右肩上がりに上昇しており,
今年は前年比5.8%で増加しました。
以前は,解雇の相談が最も多かったのですが,
平成24年度を境にパワハラが解雇を上回り,
以後パワハラが増加し続けています。
それだけ,パワハラの被害が蔓延しており,
深刻化していることが明らかとなっています。
そのような状況を受けて,今年の6月から
改正労働施策総合推進法が施行され,大企業に対して,
パワハラ防止措置義務が課されるようになりました。
今後は,パワハラ防止措置義務によって,
パワハラの相談件数が減少に転じるのかが注目されます。
2 あっせん手続
さて,この統計情報には,もう一つ興味深い情報が掲載されていました。
それは,都道府県労働局でのあっせん手続の処理件数です。
都道府県労働局では,労働紛争の当事者が話合いをして,
労働紛争を解決するためのあっせん手続が利用できます。
このあっせん手続の最大のメリットは,お金がかからないことです。
労働審判などの裁判手続を利用するときには,
基本的には弁護士を依頼することがほとんどですが,
弁護士に依頼するとどうしても費用がかかってしまいます。
これに対して,あっせん手続を申し立てる際に弁護士は不要で,
ほとんど個人で申立てをしていることが多く,
弁護士に依頼するための費用を節約できます。
ただ,あっせん手続には,大きなデメリットがあり,
相手方があっせん手続に応じなければ,終了してしまうのです。
裁判手続では,被告が裁判に応じなければ,
原告の主張が認められる判決がでるので,
被告は,裁判に応じることが多いです。
あっせん手続では,相手方があっせん手続に応じないと返事をすれば,
あっせん手続は打ち切られてしまいます。
また,あっせん手続では,最終的な和解が設立する
見通しがたてにくいというデメリットもあります。
今回の統計情報によりますと,和解が成立したのは36%で,
打ち切りになったのは59%で,和解が成立するよりも,
打ち切られる可能性の方が高いのです。
そのため,あっせん手続では,労働紛争は解決せず,
結局,裁判手続になるのであれば,
最初から裁判手続を選択した方がいいことになります。
このような事情があるため,私は,
これまであっせん手続を利用したことはありません。
3 パワハラの事案ではあっせん手続が活用できる余地がある
もっとも,今回の統計情報には,
あっせん手続がうまくいった事例が紹介されており,
パワハラの事案では,あっせん手続が
活用できるかもしれないと思いました。
紹介された事例では,45万円の慰謝料を求めて
パワハラ被害者の労働者があっせんを申請し,
会社が35万円の慰謝料を支払うことで和解が成立したようです。
言葉の暴力によるパワハラの場合は,
慰謝料の金額があまり大きくならない傾向にあり,
弁護士に依頼すると費用対効果が悪いので,
あっせん手続であれば,費用がかからないので,
多少低い金額の慰謝料でもなっとくできるのであれば,
あっせん手続を利用する価値はあると思いました。
弁護士に依頼する費用がもったいないけど,
会社に対して一矢報いたい場合に,
あっせん手続の利用を検討してみるといいと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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