就業規則に配転命令の根拠規定がない場合,配転命令を拒否できるのか?

池井戸潤氏の半沢直樹シリーズの小説

「オレたちバブル入行組」,

「オレたち花のバブル組」,

「ロスジェネの逆襲」を読むと,

サラリーマンは,辞令という紙切れ一枚で,

配転や出向を命じられ,それに従わざるをえない

理不尽さが痛切に記載されています。

 

 

 

会社が,労働者に人事異動を命じることができるのは,

就業規則に人事異動に関する規定が定められており,

その人事異動の規定が労働契約の内容となっているからなのです。

 

 

通常,会社の就業規則には「業務上の都合により

出張,配置転換,転勤を命ずることがある」という規定があり,

この規定を根拠として配転命令がくだされるのです。

 

 

それでは,就業規則に配転に関する規定がない場合,

会社は,労働者に対して配転を命じることができるのでしょうか。

 

 

本日は,この点が争われた学校法人大手門学院(大手門学院大学)事件

を紹介します(大阪地裁平成27年11月18日判決・

労働判例1134号33頁)。

 

 

この事件では,学長を辞任した大学教授が,

以前の大学の学部の教授から

被告の学校法人の教育研究所へ配転させられました。

 

 

もともと,被告の学校法人の就業規則には,

大学教授についての配転に関する規定が存在せず,

原告が配転させられるころに,就業規則の服務規律の章に

「業務上の都合により,職務の変更を命ぜられた場合は,

旧職務を引き継いだ上,新職務に専念する」

という規定が新設されました。

 

 

裁判では,この規定が配転命令権の根拠となるのかが争われました。

 

 

裁判所は,この規定について,

職務の変更を命ぜられる原因となる事由について

何も記載されていないこと,

この規定が人事の章ではなく,

服務規律の章に定められていることから,

この規定は,職務変更がなされた後の服務規律に関する規定であり,

配転命令権の根拠になるものではないと判断しました。

 

 

また,被告は,本件配転は,労働契約に内在する

人事権を行使して行ったものであると主張しました。

 

 

 

 

しかし,裁判所は,配転命令権は労働契約により

その範囲が画されており,配転命令権の根拠となる

具体的な規定がないことから,被告は,

原告の同意をえることなく,

配転を命じることはできないとしました。

 

 

裁判所が,就業規則に配転の規定がなくても,

労働契約に内在する人事権を根拠に

配転ができるとしなかったことは重要です。

 

 

これが認められると,会社は労働者に対して,

広い配転命令権をもってしまう危険があり,

会社の配転命令権に一定の歯止めをかける必要があるからです。

 

 

本件事件では,原告が大学教授のという

専門性の高い職種であり,過去に専門の学部以外への

配転が行われていなかったという特殊事情があったものの,

就業規則に配転命令の根拠規定が全くない場合に,

配転が無効になると判断されたことは,

労働者に有利に活用できます。

 

 

労働者は,配転を命令された場合,

まずは,就業規則を確認して,

就業規則に配転命令の根拠規定があるのかを

チェックしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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