懲戒処分の前には弁明の機会を与えることが必要

1 適正な手続

 

 

現在、私が担当している、懲戒処分を争う事件で、

相手方の会社は、懲戒処分をくだす前に、労働者に対して、

言い分を聞く機会を与えないまま、懲戒処分をくだしました。

 

 

会社が懲戒処分をくだすにあたり、懲戒処分の前に、

労働者に弁明の機会を与える必要があるのかが問題となります。

 

 

労働者の立場からすれば、

弁明の機会が与えられずになされた

懲戒処分は無効であるとして、

弁明の機会が与えられていなかったことを

有利に主張していくことになります。

 

 

懲戒処分は、刑罰に類似する制裁罰としての性格があります。

 

 

 

刑罰を科すには、刑事裁判で、裁判官が、

被告人の言い分を聞き、証拠を取り調べて、判決をくだします。

 

 

仮に、有罪になるにしても、自分の言い分を何も言わないまま、

処罰されるよりも、自分の言い分を述べて処罰された方が、納得できます。

 

 

また、ごくまれにですが、被告人の言い分にも

一理あるということで、無罪になることもあります。

 

 

このように、刑事事件では、被告人の言い分を聞くという、

適正な手続が保障されていることから、国家は、被告人に対して、

懲役などの刑罰を科すことができるのです。

 

 

2 弁明の機会の付与

 

 

この刑罰の考え方を、懲戒処分にもパラレルに適用すれば、

会社が懲戒処分を行うにあたっては、

適正な手続を踏むことが必要となります。

 

 

就業規則に、労働組合との協議や懲戒委員会の開催

などの手続を経ることが規定されている場合に、

その手続を経ずになされた懲戒処分は原則として無効となります。

 

 

また、就業規則に労働者に弁明の機会を与えることが

明記されていなかったとしても、会社が懲戒処分の前に、

労働者に対して、弁明の機会を与えなかった場合、

懲戒処分が無効になることがあります。

 

 

会社が、労働者の言い分に真摯に耳を傾ければ、

労働者の言い分が正しかったことが判明して、そもそも、

労働者が懲戒処分に該当する行為をしていなかった、

という結論に至る可能性もありますので、

たとえ、就業規則に、弁明の機会を与えることが明記されていなくても、

会社は、懲戒処分の前に、労働者に対して、

弁明の機会を与えるべきです。

 

 

 

労働者としては、懲戒処分をされたにもかかわらず、

弁明の機会が与えられていなかった場合には、

そのことを理由に、懲戒処分は無効であると主張して、

懲戒処分の効力を争うことを検討すべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

整理解雇の事件で労働審判前に解決金302万円を支払ってもらうことで示談が成立したケース

1 不倫を理由に解雇?

 

 

最近、私が担当した事件で、

うまく解決できたケースがありますので、紹介します。

 

 

そのケースは、整理解雇の事案だったので、

今、新型コロナウイルスの感染拡大による

業績悪化を理由とする整理解雇が増えている状況において、

参考になると思います。

 

 

私のクライアントは、石川県内の葬儀会社に勤務していたところ、

代表者から、あらぬ疑いをかけられて、突然解雇させられてしまいました。

 

 

あらぬ疑いとは、クライアントが不倫をしているというものでした。

 

 

 

クライアントは、不倫をしておらず、抗議しましたが、

代表者は、クライアントの言い分に耳を傾けることなく、

解雇を断行したのでした。

 

 

この解雇に納得のいかないクライアントは、会社に対して、

解雇理由を明らかにするために、解雇理由証明書の交付を求めました。

 

 

2 解雇理由証明書の交付を求める

 

 

会社は、労働者から、解雇理由証明書の交付を求められた場合、

遅滞なくこれを交付しなければならず(労働基準法22条1項)、

往々にして、会社は解雇理由を明らかにしていないことが多いので、

労働者が解雇された場合には、会社に対して、

解雇理由証明書の交付を求めていきます。

 

 

解雇の裁判では、会社が主張している解雇理由について、

労働者が、一つ一つ反論していくことになり、

反論の対象を限定されるためにも、

解雇理由証明書を交付させることは重要です。

 

 

相手方の会社から交付された解雇理由証明書には、

「会社業績不振のため、人件費削減の措置のため」と記載されており、

クライアントが会社から口頭で聞かされた、

不倫をしているという解雇理由とは異なるものでした。

 

 

会社から、口頭で聞いていたのとは異なる解雇理由が主張され、

クライアントは、ますます納得がいかなくなり、

私に法律相談をされました。

 

 

このように、会社の真の解雇理由と、

実際に解雇理由証明書に記載される解雇理由が異なることは、

実務上よくあります。

 

 

すなわち、会社が真の解雇理由を正直に記載すれば、

解雇が無効になるケースでは、会社は真の解雇理由を隠して、

もっともらしい解雇理由をとりつくろうとするのです。

 

 

このようなケースでは、会社が主張する解雇理由が争点になるのですが、

労働者としては、会社が主張する解雇理由が無効であると主張しつつ、

真の解雇理由についても主張していきます。

 

3 整理解雇の4要件(要素)を検討する

 

 

さて、クライアントが不倫をしていたことを理由とする解雇は

当然に無効になりますが、会社が主張してきた、

業績不振を理由とする解雇は、

簡単に無効になるとは限りません。

 

 

業績不振を理由とする解雇は、整理解雇といい、

整理解雇は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、

③人選の合理性、④手続の相当性の4つの要件(要素)を総合考慮して、

無効となるかが判断されます。

 

 

クライアントが解雇された時期が、ちょうど、

新型コロナウイルスの感染が拡大していた時期なので、

三密を避けるために葬儀が減り、

葬儀会社の売上が減少していることが予想されました。

 

 

 

また、会社から開示された決算書を見ると、

新型コロナウイルスの感染拡大の前から、

会社の売上が落ちており、さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が、

売上の減少に追い打ちをかける状況でした。

 

 

そのため、①人員削減の必要性は認められそうでした。

 

 

もっとも、相手方の会社の決算書を税理士に分析してもらったところ、

外注費と接待交際費を削減できる余地があることがわかりました。

 

 

また、相手方の会社では、希望退職の募集がされておらず、

雇用調整助成金を利用していませんでした。

 

 

これまでのブログに記載していますが、

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、

雇用調整助成金が拡充されており、業績が悪化しても、

会社は、労働者を解雇するのではなく、休業手当を支払って、

休業させて、雇用を維持することが求められているのです。

 

 

そのため、相手方の会社は、

②解雇回避努力を尽くしていなかったのです。

 

 

また、クライアントは、相手方の会社が資金繰りに苦しんでいた時に、

一時的に自分の預金をおろして、会社に貸付をして、

会社の資金ショートを防ぐなどの貢献をしており、

クライアントを人員削減の対象とすることに

合理な理由はありませんでした(③の要件を満たさない)。

 

 

そして、解雇理由が途中で変わるなど、相手方会社は、

解雇の理由について、充分な説明をしていませんでした

(④の要件を満たさない)。

 

 

そのため、相手方の会社は、①の要件を満たすものの、

②~④の要件を満たさないので、整理解雇は無効になると考えました。

 

 

そこで、労働審判を申し立てたところ、相手方は、

期日の1週間前に解決金を支払うので、

裁判を終わりにしたいと白旗を挙げてきました。

 

 

クライアントの1年分の賃金から、退職金と解雇予告手当をひいた、

302万円を相手方会社に支払ってもらうことで示談が成立しました。

 

 

整理解雇の事案では、会社の決算書をていねいに分析して、

労働者に有利に使えるところを

ピックアップしていくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ解雇を争うときは会社が雇用調整助成金を活用したかをチェックする

1 コロナ解雇が無効と判断された仙台地裁の決定

 

 

昨日のブログで紹介した、整理解雇の仮処分の続きを記載します。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由に

整理解雇されたタクシー会社の運転手が、

労働者としての仮の地位の確認と賃金の仮払いを請求した、

仮処分の手続において、仙台地裁は、2020年8月21日、

整理解雇は無効であるとして、

休業手当相当額の一部の支払いを会社に命じる決定をだしました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/771b4ea2d7714f4ab2fd38067732d7d67ab05a13

 

 

整理解雇が無効となった理由の一つに、会社は、

雇用調整助成金を申請すれば、タクシー運転手を

休ませた際に支払う休業手当の大半を補填できたと指摘して、

解雇回避努力を尽くしていなかったということが挙げられます。

 

 

すなわち、新型コロナウイルスの感染拡大による

業績悪化を理由とする整理解雇では、

雇用調整助成金を活用して、休業手当を支払って休業させて

雇用を維持したかが重要なポイントになるのです。

 

 

 

本日は、整理解雇の4要件(4要素)の1つである

解雇回避努力について解説します。

 

 

2 整理解雇の4要件(4要素)

 

 

まず、整理解雇とは、会社の業績悪化を理由とする解雇のことで、

いわゆるリストラのことです。

 

 

会社の業績が悪化するのは、経営者の経営手法に問題があったり、

新型コロナウイルスのように会社の外部要因に原因があったりするもので、

労働者に会社の業績悪化の責任があることは、基本的にありません。

 

 

労働者に責任がないのに、解雇されるわけですから、

整理解雇は、厳格に審査される必要があり、

以下の4つの要件(要素)を満たす必要があるのです。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④手続の相当性

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由とする

整理解雇の場合、会社の売上が減り、

利益も減少していることがほとんどですので、

①の人員削減の必要性が認められることが多く、

労働者は、この点は争いにくいです。

 

 

 

3 解雇回避努力

 

 

次に、会社は、解雇を回避するための努力を

尽くさなければならないところ、具体的な措置としては、

以下のものがあります。

 

 

・広告費,交通費、交際費等の経費削減

 

 

・役員報酬の削減

 

 

・残業の削減

 

 

・中途採用、再雇用の停止

 

 

・新規採用の停止、縮小

 

 

・配転、出向、転籍の実施

 

 

・非正規雇用労働者との労働契約の解消

 

 

・希望退職の募集

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の前であれば、これらの中で、

希望退職の募集が、解雇回避努力として重視されていました。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の後では、

仙台地裁の決定でも指摘されているように、

解雇回避努力として、雇用調整助成金を活用して、

労働者を休業させて休業手当を支払って雇用を維持したかが、

重視されます。

 

 

現時点において、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、

人の動きが鈍くなっている関係で、仕事がないため、

休業する場合、雇用調整助成金を活用すれば、

労働者に支払う休業手当の大半が国から支給されます。

 

 

政府は、雇用を守ることを最優先に考えており、

雇用調整助成金を拡充して、会社が労働者を解雇せずに、

休業しても、休業手当を支払って雇用を維持させようとしています。

 

 

雇用調整助成金は、やや手続が煩雑な点は否めませんが、

厚生労働省のホームページを参考にして申請すれば、国から支給されます。

 

 

このように、国が解雇回避のための政策を実施していて、

それが活用できるのに、雇用調整助成金を活用せすに、

解雇した場合には、解雇回避努力を尽くしていないと判断されるわけです。

 

 

そのため、コロナ解雇された労働者は、

会社が雇用調整助成金を活用したのかを

チェックするようにしてください。

 

 

なお、仙台地裁の決定では、休業手当相当額の一部を支払う形で

賃金の仮払いを認めたようですが、これは、

会社の業績が悪化しているので、

会社の支払能力が考慮されたのかもしれません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ解雇で活用される賃金仮払いの仮処分の手続とは

1 コロナ解雇で賃金仮払いの仮処分が認められる

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で

業績が悪化したことを理由に解雇されたタクシー運転手が、

会社に対して、労働者としての仮の地位の確認と、

賃金の仮払いを求めた仮処分手続において、8月21日、

仙台地裁は、解雇を無効として、

休業手当相当額の一部を支払うように決定をしたようです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/771b4ea2d7714f4ab2fd38067732d7d67ab05a13

 

 

もっとも、労働者としての仮の地位の確認の請求は

認められなかったようです。

 

 

報道によりますと、裁判所は、雇用調整助成金を利用すれば、

運転手を休ませた際に支払う休業手当の大半が補填できたとして、

解雇回避努力を尽くしていないことから、

解雇は無効と判断したようです。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化により、

労働者が解雇されるケースが増えてくることが予想される中、

解雇が無効と判断されてよかったです。

 

 

 

本日は、仮処分の手続について解説します。

 

 

2 仮処分とは

 

 

まず、仙台地裁の事件では、仮処分という手続が利用されました。

 

 

通常の裁判は、提訴してから判決まで至るのに、

1年以上の時間がかかります。

 

 

1年以上時間をかけて、勝訴判決がでれば、

金銭の支払いを受けられますが、判決がでるまでは、

何の支払いもありません。

 

 

特に、解雇事件では、労働者は、仕事を失い、

収入が絶たれるので、再就職ができなければ、

勝訴判決がでるまで、生活できなくなります。

 

 

そうなれば、裁判を続けることができずに、

泣き寝入りをさせられる労働者が増えてしまいます。

 

 

このような事態を避けるために、判決が出るまでの期間、

会社から、労働者に対して、仮に賃金を支払わせれば、

労働者は、日々の生活をやりくりできて、

裁判を続けることができます。

 

 

そのため、通常の裁判手続で判決がでるまでの期間、暫定的に、

会社に賃金を支払わせるのが、賃金仮払いの仮処分という手続なのです。

 

 

この仮処分の手続ですが、仮とはいいながらも、

実際には、事件が最終的に解決するインパクトがあります。

 

 

基本的に、仮処分手続でくだされた決定は、

通常の裁判手続の判決でも同じような結論になることが多く、

裁判所のくだした決定に従って、事件が解決することがあります。

 

 

また、仮処分手続の中で、和解が試みられて、

事件が解決することもあります。

 

 

そして、仮処分の手続は、申し立てをしてから、

最初の裁判期日が指定されるのが早く、

手続が早く進行しますので、事件が迅速に解決します。

 

 

そのため、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で裁判所が、

なかなか裁判期日を指定しない場合でも、

比較的早くに手続が進むので、

新型コロナウイルスの感染拡大の状況において、

仮処分の手続は利用されました。

 

 

3 保全の必要性

 

 

もっとも、仮処分の手続で、賃金の仮払いが認められれて、

会社から労働者に賃金が支払われた場合、

労働者は、その賃金を生活費として使ってしまうので、

もし、仮処分の手続の後の通常の裁判手続で、

労働者が敗訴してしまったら、労働者は、

会社から支払いを受けた賃金を返還しなければならないのですが、

賃金を使ってしまっているので、返還できません。

 

 

このような観点から、仮処分の手続では、

保全の必要性という要件を満たす必要があるのです。

 

 

法律上は、保全の必要性について、

労働者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため、

と規定されています。

 

 

具体的には、仮処分がないまま

通常の裁判手続の判決を待っていたのでは、

労働者やその家族の生活が危機におちいることを言います。

 

 

 

労働者は、この保全の必要性について、

労働者に貯金などの資産があるか、

同居家族の収入があるか、

家計の状況などをもとに、

疎明しなければならないのです。

 

 

疎明とは、裁判官に対して、

一応確からしいという推測を得させる程度の証拠をあげることを言います。

 

 

この保全の必要性の疎明のハードルが高く、

貯金がたくさんあったり、

夫婦で共働きをしていたりしていた場合には、

保全の必要性は認められにくいです。

 

 

保全の必要性のハードルが高いので、

労働事件において仮処分手続は、

あまり多く利用されてはいませんでした。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を原因とする、

タクシー会社の整理解雇の場合、タクシー運転手は高齢で、

貯蓄もなく、賃金仮払いがないと、

生活が困窮する方が多いことが予想され、

保全の必要性を疎明できる可能性があったため、

仮処分の手続が利用されたと考えられます。

 

 

そして、仙台地裁で実際に、一部ではありますが、

賃金の仮払いの仮処分が認められてよたったです。

 

 

長くなりましたので、続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

人事考課による賃金の減額を争うポイント

1 人事考課による賃金の減額

 

 

現在、私が担当している未払残業代請求事件において、

人事考課による賃金の減額が有効になるかが争点となっています。

 

 

私のクライアントは、人事考課について何も説明を受けておらず、

短期間に基本給を約半分にまで減額されているため、

賃金の減額は無効であると主張しています。

 

 

人事考課による賃金の減額が無効になれば、

減額前の賃金で残業代を計算できるので、

クライアントが請求できる残業代がアップするのです。

 

 

また、会社からの人事考課がどのようになされて、

どうしてこの金額の賃金になるのか

不満に思っている労働者の方々もいるでしょう。

 

 

 

それでは、会社から人事考課を理由に賃金を減額されたら、

どのような場合に、賃金の減額が無効になるのでしょうか。

 

 

結論から言うと、人事考課が公正な評価に基づかない場合に、

会社の人事考課権の濫用として、

人事考課による賃金減額が無効になります。

 

 

2 人事考課とは

 

 

まず、人事考課とは、労働者の能力や成果を評価して

賃金や処遇を決定する制度です。

 

 

おおむね、年度のはじめに、会社と労働者との間で、

評価基準と達成目標を設定し、中間レビューや賞与評価を経て、

年度末に評価が行われます。

 

 

評価項目は、①成果(職務の達成度)、

②能力(知識・技能、理解・判断力など)、

③意欲・職務行動(能力を成果に向けてどのように発揮したか)、

④情意(勤務態度、協調性など)に分かれ、

これらが基本給や賞与の決定や処遇に反映されます。

 

 

3 公正な評価

 

 

次に、人事考課が公正であることが、

人事権行使の必須の要件となります。

 

 

賃金は、労働者にとって重要な生活原資であり、

人事考課はその先行手続なので、人事考課を公正に行うことは、

会社の賃金支払義務に内在する責務なのです。

 

 

すなわち、会社が恣意的に人事考課を行い、

不当に低い評価となって、賃金が減額されたのでは、

労働者は、生活原資を不当に減額されて、

生活が困窮するリスクがあるので、会社は、

労働者の納得が得られるように

公正に評価をする責務を負っているわけです。

 

 

そして、人事考課における、公正な評価の具体的な内容としては、

①会社は、公正・透明な評価制度を設計し、

②それに基づいて公正な評価を行い、

③評価結果を労働者に対して開示して説明することです。

 

 

人事考課の制度や手続の公正さ(①と③)が重要でして、

実際の評価(②)の命運を握っています。

 

 

そのため、人事考課の制度や手続(①と③)が

十分に整備されていない場合には、

実際の評価(②)の不公正さが推定されて、

人事権を濫用したとされます。

 

 

 

実際の評価の部分(②)については、

会社の裁量が認められやすくて争いにくいですが、

問題となっている人事考課の制度や手続(①と③)については、

就業規則を検討したり、

実際に会社からどのような説明を受けたかなどによって、

人事権の濫用であると主張しやすいです。

 

 

問題となっている人事考課の制度や手続(①と③)が

十分に整備されているかについては、

具体的には、次の観点から検討します。

 

 

ⓐ透明性・具体性のある評価項目・基準の整備があるか。

 

 

ⓑ評価の納得性を確保するための評価方法が導入されているか。

 

 

ⓒ評価を処遇に反映されるためのルールが整備されているか。

 

 

ⓓ個々の労働者との間の面談・説明・情報提供がなされているか。

 

 

ⓔそれらルールの労働者への説明・情報提供・開示がなされているか

 

 

4 賃金の変動幅にも注意

 

 

加えて、人事考課による賃金の減額については、

減額できる賃金の幅に、一定の制約があると考えられます。

 

 

あまりにも大きな幅の賃金の減額は、

労働者の生活に大きな打撃を与えることになりますし、

制約のない大幅な賃金の減額は、退職強要などの

不当な動機も目的のために用いられることがあるからです。

 

 

まとめますと、人事考課による賃金の減額を争うときには、

人事考課の制度や手続が十分に整備されているか,

大幅な賃金の減額になっていないかを検討することが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から休業手当が支払われない場合には新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金を申請する

1 新型コロナウイルスの第2波の真っただ中

 

 

日本感染症学会の理事長が明言したように,

多くの方々は,現在の新型コロナウイルスの感染状況について,

「第2波の真っただ中」という認識を抱いていると思います。

 

 

 

多くの都道府県で,新規の感染者数が増えており,

クラスターもあちこちで発生しています。

 

 

一部の繁華街では休業要請がされていました。

 

 

このように新型コロナウイルスの感染が拡大してくると,

勤務先が休業することになり,

休業期間中の賃金がどうなるのかが問題となります。

 

 

2 休業期間中の賃金の支払はどうなるのか

 

 

結論からすると,緊急事態宣言が出ていない現状において,

都道府県知事から休業の要請があり,これに応じたとしても,

会社が自主的に協力しただけであり,

会社側の事情に基づく経営判断に過ぎず,

労働者は,民法536条2項に基づいて,

会社に対して,賃金の全額を請求すべきです。

 

 

場合によっては,会社側が休業に応じざるを得ない状況であれば

労働基準法26条に基づき,最低でも,

平均賃金の6割以上の休業手当を請求できます。

 

 

しかし,新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,

売上が落ちている会社も多く,

休業手当すら支払われていない労働者も多くいます。

 

 

新型コロナウイルスに関する労働問題の電話相談を実施すると,

ほとんどの相談が,休業期間中に賃金が支払われないというものです。

 

 

休業期間中に,賃金が支払われないと

労働者は生活ができなくなるので,大問題です。

 

 

3 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

 

 

そこで,会社が休業期間中に労働者に賃金を支払わない場合に,

国が労働者に対して,直接,

支援金・給付金を支給する制度が始まっています。

 

 

これを「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金

といいます。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/kyugyoshienkin.html

 

 

この制度は,新型コロナウイルス感染症及びその蔓延防止のための

措置の影響により中小事業主に雇用される労働者が

事業主の指示により休業し,

休業中に休業手当を受けることができない場合に

休業前賃金の8割(日額上限11,000円)を支給するものです。

 

 

この制度が始まって約1ヶ月が経過し,

8月19日の厚生労働省の発表によりますと,

約9万2000件の申請があり,

約3万7000件の支給が決定されたようです。

 

 

 

やはり,休業期間中に賃金が支払われずに

困っている労働者が多いことがよくわかりました。

 

 

この制度ができたおかげで,会社から休業手当が支払われなくても,

国に対して,直接,支援金・給付金を請求できて,

安心できますので,画期的だと思います。

 

 

この制度では,労働者が提出しなければならない支給要件確認書に,

事業主が休業手当を支払っていないことを記載する欄があります。

 

 

会社がこの欄に正直に休業手当を支払っていないことを記載すれば,

労働基準法26条に違反していることを自白することになり,

会社の協力を得られにくいことが懸念されました。

 

 

この点については,厚生労働省のQ&Aにおいて,

会社が休業手当を支払っていないことの記述は,

「労働基準法26条の休業手当の支払義務の有無の判断に

影響することはありません。」と記載されているので,

会社としては,ありのままを記載すればいいわけです。

 

 

また,会社が支給要件確認書に記載することを拒否しても,

労働者は,会社が協力してくれないことを記載して,

申請すればいいのです。

 

 

もっとも,このような場合には,労働局が会社に対して,

報告を求めることになり,会社からの報告があるまで,

審査が進まず,支給までに時間がかかることが懸念されています。

 

 

労働者に対する迅速な支給が求められますので,

会社は,労働局に対して,迅速に報告をすべきです。

 

 

厚生労働省の発表を見るに,支給までに

そこまで時間がかかっているとは思われないです。

 

 

他にも,大企業の非正規雇用労働者は

この制度の対象になっていなかったり,

会社から6割の休業手当をもらうと

国から8割の支援金・支給金がもらえなくなるという

不均衡が生じています。

 

 

このような不均衡はあるものの,

休業期間中に賃金が支払われない労働者を救済する制度として,

貴重ですので,会社から休業期間中に賃金が支払われない場合には,

この支援金・支給金の申請をしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

早く労働事件が解決できる労働審判の手続

1 労働事件における裁判手続

 

 

労働者側の弁護士が労働事件を受任した場合,

まずは,会社側と交渉を行います。

 

 

会社側に弁護士が就くことも多く,会社側の弁護士と交渉して,

話し合いで事件が解決することもよくあります。

 

 

もっとも,交渉では話し合いがまとまらないときには,

裁判手続に移行します。

 

 

 

労働事件以外の民事事件では,

訴訟や民事調停という手続を選択することになりますが,

労働事件では,労働審判という手続を選択することが可能です。

 

 

そして,労働審判には,訴訟にはないメリットがあり,

私は,労働事件を解決するに当たり,労働審判をよく利用します。

 

 

本日は,労働審判のメリットについて解説します。

 

 

2 労働審判とは

 

 

労働審判とは,①個別労働関係民事紛争について,

②裁判官と労使の専門委員で構成される労働審判委員会が,

③事件の審理(争点整理,証拠調べ等)を行うとともに,

④調停(話し合いによる紛争解決)を試み,

⑤調停が成立しない場合には,労働審判委員会が「労働審判」

(通常の訴訟における判決に相当するもの)を出す裁判手続です。

 

 

訴訟では,裁判官が審理しますが,労働審判では,裁判官の他に,

労働者側から選任された労働審判員と

使用者側から選任された労働審判員が

審理に加わる点に大きな特徴があります。

 

 

裁判官ではない労使から選任された労働審判員が手続に関与するのは,

労使関係や労働現場の実情について十分な知識,経験を有する者を

審理に参加させることで,紛争の実情に即した適正な解決を図るためです。

 

 

私がこれまで経験した労働審判では,

労働審判員の方々は,真摯に事件に取り組み,

事件を解決しようという熱意を持って,担当していました。

 

 

私の個人的な印象ですが,

労働者側の労働審判員の方は,労働者にやや厳しく,

使用者側の労働審判員の方は,使用者にやや厳しい気がします。

 

 

3 労働審判では早く事件が解決する

 

 

労働審判の最大のメリットは,早く事件が解決することです。

 

 

労働審判は,申し立てをしてから概ね40日以内に

第1回の期日が指定され,申し立てから概ね3ヶ月程度の間に

3回の期日が設けられます。

 

 

労働審判は,3回以内の期日で審理を

終結させなければならないので,手続が迅速に進みます。

 

 

第1回の期日までに,必要な証拠は概ね提出され,

第1回の期日で,労働審判委員会は,

労働者側と使用者側に事実の聴取を行い,

おおよその心証を固めます。

 

 

そして,第2回以降に調停が試みられて,

どのような条件であれば,調停がまとまるかについて,

交渉が実施されます。

 

 

 

調停については,会社から労働者に対して,

いくらの金銭を支払えば,調停がまとまるかが大きなポイントになり,

金額の交渉が中心となります。

 

 

最近,私が担当した2つの労働審判の手続の状況について紹介します。

 

 

1つの事件は,5月中旬に申し立てをして,

第1回期日が6月下旬,第2回期日が7月上旬,

第3回期日が7月下旬に実施されて,

第3回期日で調停が成立しました。

 

 

申し立てから約2ヶ月で解決しました。

 

 

もう1つの事件は,4月下旬に申し立てをして,

第1回期日が6月中旬,第2回期日が7月中旬,

第3回期日が8月中旬に実施されて,

第3回期日で調停が成立しました。

 

 

申し立てから約4ヶ月で解決しました。

 

 

この2つの事件では,会社が労働者に対して,

労働者が納得できる水準の解決金を支払うことで解決しました。

 

 

通常の訴訟ですと,提訴してから解決までに

1年以上かかることが多いことを考えると,

早く解決できる労働審判には,大きなメリットがあります。

 

 

労働者としては,以前の会社との揉め事を

いつまでも引きずりたくないので,労働事件では,

早く決着を付けたいというニーズが強く,

このニーズに応えることのできる労働審判は,

使い勝手がいい手続なのです。

 

 

解雇や未払残業代請求の事件で,労働審判を活用することが多いです。

 

 

労働審判を利用したい場合には,弁護士にご相談ください。

 

 

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労働時間を過小に自己申告してもパソコンのログデータで労働時間が認定される

1 自己申告の労働時間とパソコンのログデータから導かれる労働時間が異なる問題

 

 

私が現在担当している未払残業代請求の裁判において,

労働者の自己申告によって労働時間

特定してもよいかが争点となっています。

 

 

労働者が会社に対して,業務日報を提出しており,

そこに記載されている労働時間を用いるべき,

と会社側は主張しています。

 

 

 

他方,労働者は,上司から残業の申請を減らして,

調整するように指示を受けていたので,会社に対して,

実際の労働時間よりも少な目に労働時間を申告していました。

 

 

そして,労働者は,自己申告の労働時間ではなく,

労働者が使用していたパソコンのログデータで

労働時間を認定すべきと主張しています。

 

 

おそらく,労働時間を自己申告制にしている会社では,

労働者が過小に労働時間を自己申告しているケースは多いと思います。

 

 

このように,労働者が自己申告した労働時間と,

パソコンのログデータから導かれる労働時間とが異なる場合,

どちらの労働時間が認められるのでしょうか。

 

 

結論は,パソコンのログデータから導かれる労働時間が

認められることになります。

 

 

2 労働時間把握義務

 

 

まず,改正労働安全衛生法66条の8の3において,会社は,

労働者の労働時間の状況を把握しなければならないと規定されています。

 

 

これを労働時間把握義務といいます。

 

 

労働安全衛生規則52条の7の3において,

会社の具体的な労働時間の把握の方法として,

「タイムカードによる記録,パーソナルコンピュータ等の電子計算機の

使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする」

と規定されています。

 

 

要するに,会社は,原則として,

タイムカードやパソコンの使用時間などの客観的な記録で,

労働時間を把握しなければならないのです。

 

 

 

3 労働者の自己申告によって労働時間の把握が認められる場合

 

 

次に,タイムカードやパソコンの使用時間などの客観的な記録ではなく,

労働者の自己申告による労働時間の把握も,例外として認められています。

 

 

しかし,労働者の自己申告による労働時間の把握が認められるためには,

厳しい制限が課されています。

 

 

その厳しい制限については,基発1228第16号平成30年12月28日の

「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律による

改正後の労働安全衛生法及びじん肺法関係の解釈等について」

と題する通達に規定されています。

 

 

具体的には,労働者の自己申告による労働時間の把握が認められるのは,

「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」に限られます。

 

 

そして,会社がパソコンの使用時間などのデータを有する場合に,

自己申告による把握のみにより労働時間の状況を把握することは,

「やむを得ず客観的な方法により把握し難い場合」には当たらず,

認められません。

 

 

また,労働者の自己申告による労働時間の把握が認められるためには,

会社は,自己申告により把握した労働時間の状況が,

実際の労働時間の状況と合致しているか否かについて,

必要に応じて実際調査を実施し,

所要の労働時間の状況の補正をしなければなりません。

 

 

したがって,労働者の自己申告による労働時間の把握が

認められる余地は限定されており,

パソコンの使用時間で労働時間が把握できる場合には,

労働者の自己申告による労働時間の把握は認められないのです。

 

 

そのため,労働時間を過小に自己申告していても,

パソコンのログデータから導かれる労働時間が労働者に有利であれば,

労働者は,パソコンのログデータで労働時間を認定して,

残業代を請求すればいいのです。

 

 

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神戸アンパンマンこどもミュージアム&モールで子供たちが大はしゃぎ

お盆休みを利用して,神戸アンパンマンこどもミュージアム&モール

へ行ってきましたので,レポートします。

 

 

 

私の長女(3歳半)と長男(1歳半)は,現在,

アンパンマンに熱中していますので,

今の時期にアンパンマンの世界を楽しんでもらおうと考えて,

金沢から約4~5時間,車を走らせて,神戸へ行きました。

 

 

神戸のアンパンマンミュージアムは,神戸ハーバーランドにある

モザイクという複合商業施設の一角にあります。

 

 

https://www.kobe-anpanman.jp/

 

 

車で行く場合には,モザイクの駐車場に車を停めて,

モザイクの飲食店で食事をするなどすれば,

駐車料金が割引されますが,

アンパンマンミュージアムに入るだけでは

駐車料金は割引されないようです。

 

 

神戸のアンパンマンミュージアムは,

1階は無料のショッピングモールになっています。

 

 

 

ジャムおじさんのパン工場でパンを買ったり,

アンパンマンのカフェやレストランで食事ができます。

 

 

 

アンパンマングッズがそろうショップでは,

神戸アンパンマンミュージアム限定の商品が売っています。

 

 

2階は,有料のミュージアムです。

 

 

 

現在,新型コロナウイルス感染拡大防止のため,

人数制限がかかっており,入場できる時間が区切られています。

 

 

事前にネットで,デジタルチケットを購入しておくと

スムーズに入館できます。

 

 

ミュージアムに入ると,おでむかえ広場では,

船に乗ったアンパンマンのオブジェが出迎えてくれます。

 

 

 

港町神戸らしく,水兵姿のカバオくんとちびぞうくんと

一緒に写真撮影できるスポットがあります。

 

 

 

みんなのまちのコーナーでは,てっかのまきちゃんのおすしの屋台,

どんぶりまんトリオのどんぶりやの屋台,アイスクリーム屋などで,

おままごとの遊びができます。

 

 

 

おままごとが大好きな長女は,いらっしゃいませと言いながら,

屋台で注文を聞いていました。

 

 

パン工場の中では,アンパンマンのパンをこねたり,

パン焼窯に火をつける遊びができます。

 

 

 

アンパンマン号やSLマンに乗って,記念撮影もできます。

 

 

みみ先生の学校では,アンパンマンのお面の工作ができます。

 

 

長女が上手にアンパンマンの顔を描いたのを見て,

成長を実感できました。

 

 

やなせたかし劇場では,アンパンマン,バイキンマン,

ドキンちゃん,おねえさんと一緒にアンパンマンの体操を踊りました。

 

 

 

リアルなアンパンマン達と一緒に踊ると,とても盛り上がり,

子供たちのテンションは最高潮となりました。

 

 

やなせたかし劇場も,新型コロナウイルス感染拡大防止のため,

人数制限がされていますので,早目に行って

場所取りをすることをおすすめします。

 

 

我が家は,妻が場所取りをして,その間,

私が子供たちを遊ばせるという役割分担をして,

スムーズにやなせたかし劇場へ入ることができました。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大防止のためだと思いますが,

バイキン秘密基地とボールパークが閉鎖されており,

リアルなアンパンマン達との触れ合いがなかったのは残念でしたが,

人数制限がされていたこともあり,

ミュージアム内をのびのびと走り回って遊べたので,大満足です。

 

 

ミュージアムは室内なので,暑い日でも熱中症の心配はありません。

 

 

子供が楽しむ様子を見れて,

大人も一緒に楽しく過ごせる場所ですので,

子供の思い出作りに最適です。

 

 

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副業を始める際に気をつけるべき在職中の競業避止義務

1 本業と競業する副業には注意が必要

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけとして,

副業の活用を検討している企業が増えているようです。

 

 

在宅勤務の普及で,外部人材の登用を進めやすくなったようです。

 

 

休業中の収入確保のためや,在宅勤務のスキマ時間の活用などで,

労働者の副業ニーズが高まっていることと合致していそうです。

 

 

 

2 在職中の競業避止義務

 

 

もっとも,この副業ですが,本業と競業するようなことをすると,

本業の会社から懲戒処分や損害賠償請求されるリスクがありますので

気をつける必要があります。

 

 

本業で培ったスキルや人脈を活かすことを考えると,

本業と競業する副業をしてしまいがちですが,

労働者は,会社に在職している期間中,

労働契約における信義誠実の原則に基づく付随義務として,

会社の利益に著しく反する競業行為を差し控える義務があるからなのです。

 

 

これを労働者の在職中の競業避止義務といいます。

 

 

労働者は,会社から賃金を支払ってもらう代わりに,

会社の指揮命令に従って労務を提供します。

 

 

労働者は,会社の指揮命令下で働くので,当然,

会社の利益になる行動をすることが要求され,

会社の不利益になる行動は慎むべきです。

 

 

労働者は,在職中に競業避止義務を負っているので,

本業の会社に在職している期間中に,

本業の会社と競業する会社を設立して,自分で設立した会社に,

本業の会社の取引先を紹介して,取引を成立させて,

利益を得させたのであれば,本業の会社は,

得られるべきであった利益を失うことになるのです。

 

 

こうなると,在職中の競業避止義務違反となります。

 

 

そのため,本業の会社の利益を著しく損ねる悪質な行為をすると,

競業避止義務違反として,本業の会社から,

懲戒処分をされたり,損害賠償請求されたりするのです。

 

 

例えば,エープライ事件の東京地裁平成15年4月25日判決

(労働判例853号22頁)は,労働者の次の行為が,

労働契約の忠実義務(競業避止義務)に違反するとして,

損害賠償請求が認められました。

 

 

自己または競業会社の利益を図る目的で,

①職務上知り得た使用者が顧客に提示した

販売価格を競業会社に伝えたこと,

②競業会社を顧客に紹介したこと,

③競業会社が使用者の協力会社であるかのように装って

競業会社に発注させたこと,

④上司に競業会社がより安い価格で

顧客と契約する可能性があることを報告しなかったこと,

といった行為です。

 

 

 

これらの労働者の行為が,使用者の営業上の利益を侵害する

違法な行為であるとして,315万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

他方,労働者に競業避止義務違反が認められても,

本業の会社には,受注機会の喪失などの具体的な損害がなかったとして,

本業の会社からの労働者に対する損害賠償請求が

認められなかった事例もあります。

 

 

とはいえ,会社に在職している期間中に副業で,

本業と競業することをすると,懲戒処分や損害賠償請求など,

思わぬ落とし穴に陥るリスクがありますので,副業をする場合には,

本業と競業しない事業をすることをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。