ホストの飲酒死は労災と認められるか?
朝日新聞の報道によりますと,
大阪ミナミのホストクラブで働いていた当時21歳の男性が
急性アルコール中毒で死亡したことについて,
この飲酒死は業務が原因であったとして,
労災と認めらた判決が大阪地裁でくだされたようです。
https://www.asahi.com/articles/ASM5Y51FRM5YPTIL017.html
過労死などの労災の分野では第一人者である,
原告の訴訟代理人である大阪の弁護士松丸正先生のコメントによれば,
「飲酒を伴うサービス業務中の事故を
労災と認めた初めての判断ではないか」とのことです。
本日は,仕事で飲酒することと労災について説明します。
まず,労働者が労災事故に巻き込まれて負傷した場合,
労災保険が適用されれば,治療費や休業補償が国から支給されます。
この労災保険の給付を受けるためには,
当該負傷が「業務上の負傷」に該当する必要があります。
この「業務上」という要件は,
「業務遂行性が認められることを前提に業務起因性が認められること」
を意味します。
「業務遂行性」と「業務起因性」という2つの要件を満たせば,
「業務上」と認められるのです。
「業務遂行性」とは,労働者が労働契約に基づき
事業主の支配下にある状態をいいます。
「業務起因性」とは,業務が原因となって当該傷病が発生したこと,
言い換えれば,業務に内在する危険が現実化したものによると
認められることをいいます。
専門的に解説してしまいましたが,
ものすごく大ざっぱに言えば,
仕事が原因で,ケガをしたり,病気が発症したといえればいいのです。
ホストがホストクラブにおいて,
客や先輩ホストから言われて酒を飲めば,
ホストクラブの経営者の支配下において,
上司の指示に従い酒を飲み,
それが原因で急性アルコール中毒となったので,
業務遂行性と業務起因性が認められそうです。
しかし,酒を飲む行為が私的行為と評価されてしまえば,
業務遂行性が否定されることがあります。
適度な量の飲酒であれば,業務遂行性は否定されにくいのですが,
飲酒量が多くなると,自分の意思で酒を大量に飲んだとして,
私的行為と評価されることがあります。
この事件では,労災申請をしても,
労働基準監督署において,
自分の意思で大量に飲酒したとして,
労災と認定されなかったようです。
しかし,5月30日の大阪地裁の判決では,
客の証言やホスト仲間のラインという証拠から,
死亡した男性は,先輩ホストから,
濃い焼酎やテキーラを飲むように強要されて,
大量の飲酒を拒否するのが困難な状況に追いやられていたとして,
この事件では,飲酒は私的行為ではなく,
業務として飲酒したのであり,業務遂行性と業務起因性が認められて,
労災と認められたようです。
大量の飲酒は私的行為と評価されて,
労災と認められない可能性があったものの,
客の証言やホスト仲間とのラインを証拠として,
飲酒が「業務上」と判断されたことは画期的なことだと思います。
ホストクラブの実態はまったくわかりませんが,
漫画「夜王」を読む限りにおいて,ホストは,仕事として
毎回大量の飲酒をしていることが予想され,
飲酒が原因で体を壊したのであれば,
労災と判断されるケースがたくさんあるのだと思います。
キャバクラやラウンジで働くホステスにも,
同じように労災と認められる可能性があると思います。
判決文が入手できたら,もう少し細かく解説したいと思います。
飲酒が原因で若者が死亡するという痛ましい事件
がなくなることを祈念しています。
本日もお読みいただきありがとうございます。