労災民事訴訟では安易に素因減額が認められるべきではない

1 素因減額とは

 

 

先日ブログで,パチンコ店において,

上司からパワハラを受けて,うつ病を発症したことについて,

損害賠償請求をした松原興産事件の

大阪高裁平成31年1月31日判決

(労働審判1210号32頁)を紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201912258870.html

 

 

この事件では,上司の部下に対するパワハラの存在以外にも,

もう一つ大きな争点がありました。

 

 

それが素因減額です。

 

 

素因とは,損害の発生や拡大に寄与する

被害者の肉体的・精神的要因のことです。

 

 

被害者の心因的要因や既往症が損害の発生や拡大に

寄与している場合には,損害の公平な分担という考え方から,

この素因を斟酌して,損害額を減額できるというものです。

 

 

労災事故における損害賠償請求の訴訟では,

既往症,被災労働者の性格,通院歴や投薬歴といった事情が素因として,

損害賠償請求の減額事由になるかが,争われることがあります。

 

 

松原興産事件では,原告の労働者は,

パワハラを受けてからうつ病を発症し,5年6ヶ月経過しても,

うつ病による就労不能状態が続いていました。

 

 

 

被告会社としては,ここまで治療が長引くのは

原告労働者の脆弱性や生活態度が寄与しているとして,

素因減額を主張しました。

 

 

2 素因減額が認められるのはどのような場合か

 

 

このように,労働者の個性や性格を理由に

素因減額ができるのかについては,

電通事件の最高裁平成12年3月24日判決が

判断基準を示しています。

 

 

すなわち,人間の性格や個性はそもそも多種多様であり,会社は,

そういった個人のそれぞれの多様性を前提に労働者を雇用し,

配置先や仕事内容を決めます。

 

 

そのため,労働者の性格が同じ仕事に従事する労働者の

個性の多様さとして通常想定される範囲を外れるものではない場合には,

労働者の性格や業務遂行の態様を,

心因的要因として考慮することはできないとしました。

 

 

 

ようするに,よほど変わった性格でない限り,

性格を理由に素因減額はされないというわけです。

 

 

とくに,労働者がパワハラなどの強いストレスが生じる以前には,

特に支障なく仕事をしていたのであれば,

このことがよりいっそう,あてはまるわけです。

 

 

松原興産事件でも,労働者が5年6ヶ月治療しても

うつ病が治らないことについて,労働者の個性の多様さとして

通常想定される範囲を外れるものではないとして,

素因減額は認められませんでした。

 

 

そして,被告会社がパワハラを放置して

原告労働者を退職に追い込んだこと,

裁判で事実に反することを主張して反省していないことから,

慰謝料として500万円という高額が認められました。

 

 

労災民事訴訟では,労働者の性格を理由に,

安易に損害賠償額が減額されるべきではないのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

未払残業代を含む賃金債権の消滅時効が3年になります

1 賃金債権の消滅時効

 

 

先日,未払残業代を含む賃金債権の消滅時効の期間が

2年から延長されることで労働政策審議会

の議論が進んでいることについて,ブログで紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201912268874.html

 

 

公益委員が示した案は,賃金債権の消滅時効を,

改正民法にあわせて,5年とするものの,

当分の間,3年とし,改正から5年経過後に施行状況を勘案しつつ,

検討を加えるというものでした。

 

 

 

そして,12月27日,厚生労働省は,

この公益委員の意見を受け入れて,

年明けの通常国会に労働基準法改正案を提出し,

2020年4月からの改正民法の施行に間に合わせるようです。

 

 

あっという間に,進んでしまい驚きました。

 

 

2 賃金債権の消滅時効は5年にすべき

 

 

先日のブログにおいて,私は,改正民法に合わせて,

賃金債権の消滅時効を5年にすべきと主張しました。

 

 

もともと,賃金債権は,現行民法において,

1年の短期消滅時効が適用されていましたが,

賃金債権は,労働者の生活の糧となる重要な債権であることから,

労働者を保護する観点から,労働基準法で

2年に消滅時効が延長されたという経緯があります。

 

 

そのため,改正民法の消滅時効が5年に統一される中,

労働者を保護するための労働基準法において,

改正民法の5年よりも短い2年の消滅時効にしておくことは,

根本的に矛盾が生じてしまいます。

 

 

だから,改正民法の施行にあわせて,

賃金債権の消滅時効を5年にすべきなのです。

 

 

今回,政治的な妥協の産物として,

賃金債権の消滅時効が3年になったことについて,

非常に残念に思います。

 

 

労働基準法に違反して賃金の支払を怠っているにもかかわらず,

その支払を免れるための使用者側の居直りを受け入れたものであり,

到底納得できるものではありません。

 

3 消滅時効を中断するには

 

 

とはいうものの,現実には,賃金債権の消滅時効は

3年に延長されることになりそうなので,

これに対処する必要があります。

 

 

労働基準法が年明けの通常国会で改正されて,

2020年4月1日から施行されれば,

2020年4月以降に発生する賃金債権の消滅時効は

2023年4月以降まで消滅時効にかからなくなります。

 

 

賃金債権は,毎月発生して,

時効期間が経過するごとに消滅していくので,

2020年4月の賃金債権は,

2023年4月で消滅時効にかかり,

2020年5月の賃金債権は,

2023年5月で消滅時効にかかります。

 

 

この消滅時効をとめるためには,

賃金債権を会社に請求する必要があります。

 

 

 

具体的には,「2017年12月から2019年12月までの

未払残業代を含む全ての未払賃金を請求します。」などと書いた文書を,

特定記録郵便で会社に郵送します。

 

 

ポイントは,未払賃金の金額を記載する必要はなく,

請求する期間を特定することです。

 

 

FAXやメールでこの文書を送っても大丈夫です。

 

 

ようは,この文書が会社に届いたことを後から証明できればいいのです。

 

 

 

この文書が会社に届けば,

消滅時効の完成が6か月間猶予されるので,

その間に会社と交渉をします。

 

 

6か月間で会社との交渉がまとまらないのであれば,

6か月間以内に裁判か労働審判を提起することで,

消滅時効は完全にとまります。

 

 

請求書をだしただけでは,消滅時効の完成を猶予する効力しかなく,

6ヶ月以内に裁判などを提起しなければならないことを忘れないでください。

 

 

ブラック企業被害対策弁護団が作成したこちらの動画をみれば,

賃金債権の消滅時効と時効の中断について,

おもしろおかしく学べることができるので,

一度みてみてください。

 

 

 https://www.youtube.com/watch?v=2AwRdwRBHNE&feature=youtu.be

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

未払残業代を含む賃金債権の消滅時効の期間が延長されるのか?

1 未払残業代を含む賃金債権の消滅時効の延長の議論

 

 

未払残業代を含む賃金債権の消滅時効を延長する議論が

労働政策審議会においてされており,12月24日に,

公益委員から2年の消滅時効を3年に延長する案が示されました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_08597.html

 

 

本日は,未払残業代を含む賃金債権の

消滅時効の延長について解説します。

 

2 消滅時効とは

 

 

まず,消滅時効について解説します。

 

 

そもそも,ある人がある人に対して,

何かをしてくださいと請求できる権利を債権といい,

請求できる人を債権者,請求される人を債務者といいます。

 

 

例えば,労働者が会社と労働契約を締結して,仕事をした場合,

労働者(債権者)は,会社(債務者)に対して,給料を請求できます。

 

 

これを賃金債権といいます。

 

 

このような債権は,一定の時間が経過すれば,消滅してしまうのです。

 

 

このように,一定の時間が経過することで債権が消滅する制度を,

債権の消滅時効といいます。

 

 

 

なぜ,このような債権の消滅時効制度があるのかといいますと,

次の3つの理由があるといわれています。

 

 

①長期にわたって存続している事実状態を尊重して,

その事実状態を前提として構築された

社会秩序や法律関係の安定を図ること。

 

 

②過去の事実の立証の困難を救い,

真の権利者ないしは債務から解放された者を保護すること。

 

 

③権利の上に眠る者は保護に値せずということ。

 

 

おおまかには以上の3つの理由があるのですが,法律で,

何年か経ったら時効で消滅すると記載されているので,

時効期間が経過してしまえば,債権者は,

債務者に対する請求をあきらめざるをえないのです。

 

 

3 賃金債権の消滅時効

 

 

次に,賃金債権の消滅時効について説明します。

 

 

もともと,現行民法174条1号において,

賃金債権の消滅時効は1年になっていました。

 

 

しかし,賃金債権は,労働者にとって生活の糧となるものであり,

それがたったの1年で消滅するのでは,

労働者の保護に欠けることになります。

 

 

そこで,労働基準法115条が制定されて,

賃金債権の消滅時効が1年から2年に延長されたのです。

 

 

4 民法改正で消滅時効が5年に統一される

 

 

ところが,2020年4月から改正民法が施行されることになり,

現行民法に記載されていた様々な期間の消滅時効が

全て5年に統一されることになりました。

 

 

そうなりますと,労働者保護のために

賃金債権の消滅時効を2年にしていたのですが,

他の債権の消滅時効が5年になるのに,

賃金債権の消滅時効が2年のままですと,

労働者の保護に欠けることになります。

 

 

そこで,改正民法の消滅時効を5年に統一することにあわせて,

賃金債権の消滅時効を5年に延長すべきではないか

が議論されてきたのです。

 

 

しかし,労働政策審議会では,企業側の委員が大反発して,

現行の消滅時効2年を維持することを訴え続けました。

 

 

結局,労使の委員で合意することができず,

2020年4月の改正民法施行が近づいてきたこともあり,

12月24日に公益委員から次の折衷案がだされました。

 

 

まず,民法改正により債権の消滅時効が5年に統一される

バランスをふまえ,賃金債権の消滅時効は5年とする。

 

 

もっとも,賃金債権について,直ちに消滅時効を5年に延長すると,

労使の権利関係を不安定化するおそれがあり,

紛争の早期解決・未然防止という賃金債権の消滅時効が果たす役割の

影響を踏まえて慎重に検討する必要がある。

 

 

そこで,当分の間,賃金債権の消滅時効を3年として,

一定の労働者保護を図り,5年後に再び,

状況をみながら消滅時効を5年にするかを検討する。

 

 

 

そして,2020年4月1日以降に発生した賃金債権から,

消滅時効が3年に延長されるというものです。

 

 

5 賃金債権の消滅時効は5年に延長されるべきです

 

 

労使双方のかおをたてた折衷案ですが,中途半端な感はいなめません。

 

 

論理的に考えれば,民法改正にあわせて

賃金債権を5年に延長すべきであり,

中途半端に3年にすべきではありません。

 

 

むしろ,賃金債権の消滅時効が5年になれば,

企業は,5年分の残業代を支払うことを嫌がり,

否が応でも,残業を規制することになり,

長時間労働の撲滅につながると思います。

 

 

なんとか,賃金債権の消滅時効が5年になることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラ防止指針が確定しました

1 パワハラ防止指針とその問題点

 

 

12月23日,どのような言動がパワハラに該当するのか

をまとめたパワハラ防止指針が確定しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMDR4RZPMDRULFA01G.html

 

 

事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する

問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」といいます。

 

 

この指針では,パワハラの定義として,

①優越的な関係を背景とした言動であって,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,

③労働者の就業環境が害されるもの,

と定められました。

 

 

この定義の中の「①優越的な関係を背景とした」の解釈について,

パワハラの被害者が,パワハラの加害者に対して

抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

を背景として行われるものを指すとされています。

 

 

 

しかし,被害者がパワハラの言動を嫌だと思えば,

加害者に対して,多少の抵抗や拒絶の反応を示すことが通常であり,

優越的な関係を抵抗または拒絶することができない蓋然性が高い関係

と解釈してしまうと,パワハラに該当する言動が

不当に制限されるおそれがあります。

 

 

また,今回の指針では,規制の対象となるパワハラは,

職場において行われた言動が対象となっていますが,

会社の労働者が多く参加する懇親会の場で行われたパワハラは,

規制の対象外となってしまいます。

 

 

そのため,これらの問題点について,

指針案から改善されることを願っていましたが,

残念ながら,改善されることはありませんでした。

 

 

とはいえ,これまでなかったパワハラ規制が

一歩前進したのは事実なので,今後は,

指針を労働者に有利に活用していくことが求められます。

 

 

2 パチンコ店におけるパワハラ労災民事訴訟

 

 

さて,ここでパワハラに関する労災の裁判例を紹介します。

 

 

上司からのパワハラによって,うつ病を発症し,長期間,

会社を休んで療養することを余儀なくされた労働者が,

会社に対して損害賠償請求をした松原興産事件の

大阪高裁平成31年1月31日判決です(労働判例1210号32頁)。

 

 

この事件では,パチンコ店の上司が部下に対して,

他の労働者も聞こえる状態のインカム

(スタッフに対して一斉指令ができる構内電話)で,

「しばくぞ」,「殺すぞ」などと怒鳴りつけました。

 

 

 

また,上司は,部下に対して,景品交換カウンター横に立ち番をさせて,

景品交換にくる客に声掛けのあいさつをさせることを約1時間させて,

他の従業員に対して「みんなもちゃんと仕事をしなかったらあんな目にあうぞ」

とインカムを通じて発信して,晒し者にしました。

 

 

これらのパワハラによって,部下はうつ病を発症し,

5年半もうつ病の症状が改善しませんでした。

 

 

3 指針のパワハラ該当例へのあてはめ

 

 

「しばくぞ」,「殺すぞ」などと怒鳴ることは,

人格を否定する精神的な攻撃に該当し,さらに,

インカムで他の労働者にも聞こえるようにしている点で,

指針のパワハラの該当例である

他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと

にあたります。

 

 

また,景品交換カウンター横での立ち番については,

極めて屈辱的な扱いを強いるものであり,

業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた

程度の低い仕事を命じているので,

指針の過小な要求のパワハラに該当します。

 

 

これらのパワハラについて,休業損害716万円,

慰謝料300万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

パワハラ防止の指針ができることで,

このようなパワハラがなくなることを期待したいです。

 

 

会社のパワハラ防止措置については,

大企業は2020年6月から,

中小企業は2022年4月から義務付けられます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

育児を理由に時短勤務の申し出をした女性労働者に対するマタハラ事件

1 育児のための所定労働時間の短縮措置

 

 

子育て中の方であれば,仕事に復帰すると,

子供を保育園や幼稚園に迎えに行く関係で,

労働時間を短縮した時短勤務を希望したいときがあります。

 

 

育児介護休業法23条において,会社は,

3歳未満の子供を養育している労働者であって,

育児休業をしていないものから,

時短勤務の申し出があった場合,

これに応じる必要があります。

 

 

これを育児のための所定労働時間の短縮措置といいます。

 

 

 

そして,育児介護休業法23条の2において,

労働者が時短勤務の申し出をしたこと理由として,

会社は,当該労働者に対して不利益な取扱をしてはならない

と規定されています。

 

 

2 育休のための時短勤務の申し出をしたことに対する不利益取扱が争われた事件

 

 

本日は,この育児のための時短勤務の申し出をした

労働者に対する不利益な取扱が争われた

フーズシステム事件の東京地裁平成30年7月5日判決

(労働判例1200号48頁)を紹介します。

 

 

この事件では,第1子を出産した後に,

職場復帰した原告の女性労働者が,

時短勤務を希望したところ,会社から,

時短勤務のためには,正社員からパート社員になるしかない

という説明を受けました。

 

 

会社は,原告労働者に対して,

正社員のままで時短勤務ができない理由について説明しませんでしたが,

原告労働者は,正社員からパート社員に変更され,

賞与が支給されなくなることに釈然としないものの,

他の従業員に迷惑をかけている気兼ねや,

出産後に別の仕事を探すのが困難であったことから,

有期労働契約の内容を含むパート契約に署名押印しました。

 

 

その後,原告労働者は,有期労働契約の期間満了により,

雇止めされたことから,正社員としての地位の確認の裁判を起こしました。

 

 

原告労働者が時短勤務の申し出をしたところ,

パート社員に転換することに合意したことが,

育児介護休業法23条の2の不利益な取扱に

該当するかが争点となりました。

 

 

3 労働者の合意は厳格に判断される

 

 

一般的には,労働者が,会社との間の文書に署名押印すると,

労働者は,その文書に合意したと捉えられます。

 

 

しかし,会社と労働者との間には力関係の差があることから,

労働者が,会社から圧力を受けて,

文書に署名押印せざるをえない状況に追い込まれることがよくあります。

 

 

そのため,最近の裁判例では,会社との合意が

労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在することが必要になっています。

 

 

そして,当該合意により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者が当該合意をするに至った経緯及びその態様,

当該合意に先立つ労働者への情報提供及び説明の内容

などが総合考慮されます。

 

 

本件事件にあてはめると,正社員から有期労働契約のパート社員に

転換されることで,雇用が不安定となり,

賞与が支給されなくなるので,原告労働者の不利益は大きいです。

 

 

また,会社は,時短勤務をするためには

パート社員になるしかないと説明しただけであり,

実際には正社員のままでも時短勤務は可能であったこと,

原告労働者は,他の従業員に気兼ねして

パート社員への転換に合意したことという事情が考慮されました。

 

 

結果として,正社員からパート社員への転換の合意については,

原告労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在しないとして,

正社員の地位確認が認められました。

 

 

4 産前産後の労働禁止

 

 

さらに,本件事件では,会社は,

原告労働者が第2子出産に際して,

産休の取得を認めないと伝えていました。

 

 

 

労働基準法65条では,6週間以内に出産する予定の女性,

産後8週間を経過しない女性を働かせてはならないと規定されています。

 

 

また,男女雇用機会均等法9条3項において,

労働者が産休を請求したことを理由として,

不利益な取扱が禁止されています。

 

 

そのため,この会社の対応は,違法であり,

慰謝料50万円が認められました。

 

 

会社は,産休や育休の対応を誤ると,

マタハラとして訴えられるリスクがありますので,

気をつける必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業代請求事件や過労死事件において自宅での持ち帰り残業は労働時間といえるのか

1 時間外労働の上限規制が導入されても会社の外で残業をする

 

 

働き方改革関連法が成立し,

時間外労働の罰則付き上限規制が導入されました。

 

 

これにより,時間外労働は,原則1ヶ月45時間までとなり,

1月100時間を超える時間外労働があれば,会社には,

6ヶ月以下の懲役,または30万円以下の罰金が科せられます。

 

 

 

この時間外労働の上限規制によって,

17時か18時にはオフィスを強制的に退去させる

ノー残業デーを設けたり,

22時になったらオフィスを消灯する企業があらわれました。

 

 

しかし,こちらの朝日新聞の記事によりますと,

残業時間が規制されても,仕事量が変わるわけではないので,

会社でできない仕事を自宅に持ち帰ったり,

カフェで仕事の続きをしたりしている労働者が少なくないようです。

 

 

 https://www.asahi.com/articles/DA3S14269128.html

 

 

仕事量が変わらないのであれば,労働時間が変わることはなく,

会社には実際よりも少ない残業時間を申告して,

隠れて残業をしている労働者がいるのです。

 

 

2 自宅の持ち帰り残業は労働時間にあたるのか

 

 

それでは,自宅に仕事を持ち帰ったり,

退勤後にカフェで仕事をした場合の時間は,

労働時間になるのでしょうか。

 

 

まず,労働時間とは,会社の指揮監督下に

置かれた時間のことをいいます。

 

 

自宅の持ち帰り残業や退勤後のカフェで仕事をする場合,

会社の自分のデスクで働くという場所的な拘束はなく,

仕事以外に本を読んだり,音楽を聞いたりすることも自由なので,

規律的な拘束も受けません。

 

 

そのため,自宅の持ち帰り残業や退勤後のカフェで仕事をした時間は,

会社の指揮監督下にあるとはいいにくく,

原則として,労働時間とはいえません

 

 

もっとも,これだけ通信機器が発達し,

テレワークが推進されている情勢でもあり,

会社の外で仕事をしているから,

一律に労働時間ではないとするのは不当です。

 

 

3 持ち帰り残業が労働時間となる場合

 

 

そこで,持ち帰り残業は,会社から業務の遂行を指示されて

これを承諾し,私生活上の行為と峻別して労務を提供して

当該業務を処理した場合に,例外として,労働時間と認められます。

 

 

 

具体的には,次の事情を考慮します。

 

 

①担当業務を一定期限までに処理しなければ,

会社から不利益に取り扱われること

 

 

②自宅に持ち帰って仕事をしなければ,

一定の期限までに担当業務を処理できないこと

 

 

③労働者が自宅に持ち帰って仕事をしていることを,

上司などが認識していること

 

 

これら3つの考慮要素をもとに,

持ち帰り残業が例外的に労働時間にあたるかを検討します。

 

 

そして,持ち帰り残業の場合,

私生活上の行為と峻別して仕事をしたことを立証しないといけないので,

成果物や作成・変更履歴を示しながら,

仕事に専念した時間を立証していきます。

 

 

この点,自宅の持ち帰り残業の労働時間が争われた

医療法人社団明芳会事件の東京地裁平成26年3月26日判決

(労働判例1095号5頁)があります。

 

 

この事件では,病院の学術発表会の準備を自宅でした時間が

労働時間にあたるかが争われました。

 

 

裁判所は,学術発表会の準備を所定労働時間内に行うことが

許容されており,準備ための資料作成が,作業量からして,

自宅に持ち帰らなければ処理できないものとは認められないとして,

自宅の持ち帰り残業の時間は,会社の指揮監督下に置かれておらず,

労働時間ではないと判断されました。

 

 

このように,持ち帰り残業は,原則として労働時間とは認められず,

例外として労働時間と認められるので,

労働者としては,争いにくいものです。

 

 

自宅に持ち帰って仕事をする場合には,

パソコンの履歴や成果物を証拠として確保することが重要になります。

 

 

4 残業規制には業務量の調整が必要である

 

 

さて,時間外労働の上限規制が導入されても,

持ち帰り残業が増えるだけでは,

長時間労働による疲労は回復せず,

残業手当もあたらくなるので,

労働者にとってはマイナスです。

 

 

業務量を調整した上での,残業時間の削減をする

働き方改革が実施されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

徳田弁護士の記事が,弁護士ドットコムニュースに掲載されました

徳田弁護士の記事が,弁護士ドットコムニュースに掲載されました。

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_10491/

労災申請をするときに会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたときの対処法

1 楽天のパワハラ労災事件

 

 

ここ2日間,楽天における上司の部下に対する暴行の

パワハラ労災事件について,記載してきました。

 

 

もう一つ,楽天のパワハラ労災事件で気になったことがあります。

 

 

それは,マスコミ報道によりますと,被災労働者が楽天に対して,

労災申請書の事業主の欄の署名押印を求めたところ,

楽天がこれを拒否したということです。

 

 

本日は,会社から労災申請書の事業主の欄の

署名押印を拒絶されたときの対処法について解説します。

 

 

 

2 労災保険の請求をするのは誰か

 

 

まず,労災保険の請求人は,被災労働者またはそのご遺族です。

 

 

そのため,被災労働者またはそのご遺族が,

被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署に,

労災申請書を提出することになります。

 

 

ただ,実際には,会社や会社と契約している社会保険労務士が,

労災申請の手続を代行することが多いです。

 

 

労災申請書には,労働保険番号を記入したり,

事業主の証明欄に署名押印する必要があることから,

会社が代行したほうが,スムーズに手続が進むことから,

会社が代行することが多いのです。

 

 

3 会社が労災申請手続を代行するときの注意点

 

 

もっとも,会社に労災申請手続を代行してもらう場合に

注意する点があります。

 

 

それは,労災申請書の「災害の原因及び発生状況」の欄に,

被災労働者が納得できる労災事故原因が記載されているかです。

 

 

会社は,労働基準監督署からの調査や

被災労働者からの損害賠償請求をおそれて,

会社に有利なように「災害の原因及び発生状況」

の欄を記載することがあります。

 

 

そのため,被災労働者としては,

会社に労災申請手続を代行してもらう場合には,

会社に任せきりにするのではなくて,

会社が労働基準監督署に対して,労災申請書を提出する前に,

「災害の原因及び発生状況」の欄を自分でチェックするべきです。

 

 

 

被災労働者が,「災害の原因及び発生状況」の欄をチェックした結果,

事実と異なる記載がされていた場合には,会社に,訂正を求めるべきです。

 

 

もし,被災労働者が,会社との関係が悪化するのをおそれて,

会社に訂正を求めるのが困難な場合には,

労災申請書とは別に,労災事故が発生した原因をまとめた文書を

労働基準監督署に提出する方法があります。

 

 

4 事業主の証明欄が空白でも労災申請はできる

 

 

次に,会社に労災申請手続を代行してもらうのではなく,

被災労働者が自分で労災申請をしようとして,

会社に,事業主の証明欄に署名押印を求めたところ,拒否された場合,

拒否されたことを労働基準監督署に説明して,

事業主の証明欄を空白のまま提出すればいいのです。

 

 

労災保険法施行規則23条により,会社は,

被災労働者から労災申請書の事業主の証明欄に署名押印を求められた場合,

すみやかに証明しなければならないという

労災申請に助力する義務を負っています。

 

 

それにもかかわらず,労災申請書に被災労働者が記載した

「災害の原因及び発生状況」の内容に,会社が納得しない場合には,

会社は,事業主の証明欄の署名押印を拒否することはよくあります。

 

 

労災申請において,事業主の証明は必須ではないので,

会社から事業主の証明欄の署名押印を拒否されたことを説明すれば,

労働基準監督署は労災申請を受理してくれるのです。

 

 

もっとも,一度も,会社に事業主の証明を求めることなく,

事業主の証明欄を空欄のまま労災申請書を提出すると,

労働基準監督署から補正の指示があります。

 

 

そこで,会社に対して,文書で

労災申請書の事業主の証明欄に署名押印をすることを求めます。

 

 

この文書には,いつまでに返答することと,

事業主の証明欄に署名押印ができない場合には,

送った労災申請書を返却してほしいことを記載します。

 

 

このように,会社から,事業主の証明欄に署名押印してもらえなくても,

労災申請をすることができますので,被災労働者は,

会社からの協力がえられなくても,

労災申請をあきらめる必要はないのです。

 

 

なお,労災保険とは異なり,

健康保険の傷病手当金の申請をする場合には,

会社の証明が必要になりますので,注意が必要です。

 

 

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楽天における暴行のパワハラ労災事件からパワハラ防止措置義務を考える

1 楽天における暴行のパワハラ労災事件

 

 

昨日のブログでは,楽天における上司から部下への暴行について,

労災認定されたことを記載しました。

 

 

この楽天の事件で,被災労働者は,

マスコミに対して,次のようにコメントしています。

 

 

「会議中の暴行で怪我を負い,

困って社内のパワハラ相談の部署に相談したにもかかわらず,

十分な調査もせず,相談を否定され,

配転希望にも対応してもらえず,退職せざるを得なかった。」

 

 

 

仮に,この被災労働者のコメントが真実であれば,

楽天は,改正労働施策総合推進法30条の2に規定されている,

パワハラ防止措置義務に違反することになると考えられます。

 

 

本日は,パワハラ防止措置義務について説明します。

 

 

2 パワハラ防止措置義務

 

 

改正労働施策総合推進法30条の2第1項には,

「事業主は,職場において行われる

優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう,

当該労働者からの相談に応じ,

適切に対応するために必要な体制の整備

その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」

と規定されています。

 

 

すなわち,会社は,パワハラを防止するために

必要な措置をしなければならないのです。

 

 

その具体的な内容については,11月に指針案が公表されました。

 

 

会社が講じなければならないパワハラ防止の措置の1つ目は,

パワハラを行ってはならない方針等の明確化及びその周知・啓発です。

 

 

就業規則などにパワハラを行ってはならないという方針を明確化し,

パワハラに対する懲戒処分を規定して,労働者に周知させ,

パワハラ予防の研修などで啓発するというものです。

 

 

2つ目は,パワハラの相談に応じ,

適切に対応するために必要な体制の整備です。

 

 

会社は,パワハラの相談窓口を設置して,

労働者に周知しなければなりません。

 

 

また,パワハラの相談窓口の担当者が,

パワハラ被害者からの相談に対して,

適切に対応する必要があります。

 

 

 

具体的には,相談窓口の担当者は,

パワハラ被害者の相談を傾聴し,

相談内容の秘密を厳守し,

適切な事後対応につなげることが求められます。

 

 

楽天の事件では,被災労働者は,

相談を否定されたとコメントしているので,

相談窓口での対応が不十分だったのかもしれません。

 

 

相談窓口の担当者には,人の話を傾聴するスキルが求められるので,

コミュニケーションに関する研修を受けた

適切な人材を配置する必要があります。

 

 

相談窓口で適切な対応がなければ,

事後対応につながらないので,

相談窓口の役割は重要です。

 

 

3つ目は,事後の迅速かつ適切な対応です。

 

 

まずは,被害者,加害者から事実関係を聴取します。

 

 

次に,事実確認の結果,パワハラの事実が確認できた場合,

被害者と加害者を引き離すための配置転換,

加害者から被害者に対する謝罪,

加害者に対する必要な懲戒処分などを実施します。

 

 

パワハラの事実が確認できなかった場合,

パワハラの事実が確認できないと判断した理由を

相談者に丁寧に報告します。

 

 

パワハラの事実が確認できなかったものの,

そのまま放置しておくと関係が悪化する場合には,

関係改善を促すことが考えられます。

 

 

楽天の事件では,被災労働者のコメントが真実であれば,

パワハラの事実関係の調査に問題があり,

その結果,パワハラの事実を確認できず,

適切な事後対応がなされなかったのかもしれません。

 

 

そして,労働者がパワハラを受けたにもかかわらず,

会社がパワハラ防止措置義務を怠った場合,

会社は,損害賠償義務を負うリスクがあります。

 

 

労働者が安心して働くことができるように,多くの会社が,

真摯にパワハラ防止措置を実施してくれることを期待したいです。

 

 

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楽天の上司による暴行事件から職場における暴行の労災認定を解説します

1 楽天における上司の暴行が労災と認定されました

 

 

楽天に勤務していた労働者が,

仕事中に上司から暴行を受けて,

頚椎不全損傷とうつ病を発症し,

渋谷労働基準監督署から労災認定を受けたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMD55228MD5ULFA01F.html

 

 

マスコミ報道によりますと,会社内のチーム会議において,

会議参加者の発言について,被災労働者が意見を述べたところ,

上司が突然激高して,被災労働者の首付近をつかんで持ち上げて,

壁際に押さえつけるという暴行をしたようです。

 

 

 

被災労働者と上司との関係がよくなかったといった事情はないようです。

 

 

2 職場における暴行で労災認定される場合とは

 

 

このように職場において暴行が行われた場合に,

労災と認定されるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

まず,労災と認定されるためには,

仕事が原因となって負傷したことが必要となります。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

別の言い方をすれば,業務に内在する危険が

現実化したものによると認められることです。

 

 

職場で上司や同僚から暴行を受けた場合,

業務に内在する危険が現実化したといえるのかが

争われることがあります。

 

 

例えば,工事現場の監督者が作業員に対して,

きつい口調で注意したところ,

作業員から足で背中を蹴られるという暴行を受けたことについて,

業務起因性が争われた新潟労基署長(中野建設工業)事件の

新潟地裁平成15年7月25日判決(労働判例858号170頁)

を紹介します。

 

 

この事件では,監督者は,作業員に対して,

「親のしつけがなっていない。私生活がいい加減だ。

親がバカならお前もバカだ」と言っていたようです。

 

 

裁判所は,労働者が業務遂行中に同僚や部下から

暴行という災害によって負傷した場合には,

当該暴行が職場での業務遂行中に生じたものである限り,

当該暴行は労働者の業務に内在する危険が現実化したものと

評価できるのが通常であると判断しました。

 

 

原則として,仕事中に暴行を受けた場合には,

業務起因性が認められるということです。

 

 

もっとも,例外として,当該暴行が被災労働者との私的怨恨

または被災労働者による業務上の限度を超えた

挑発的行為若しくは侮辱的行為によって生じたものであれば,

業務起因性が否定されます。

 

 

 

この判断にあたっては,暴行が発生した経緯,

被災労働者と加害者との間の私的怨恨の有無,

被災労働者の職務の内容や性質(他人の反発や恨みをかいやすいものか),

暴行の原因となった業務上の事実と暴行との時間的・場所的関係

などが考慮されます。

 

 

この事件では,監督者には作業員に対する挑発的行為,

侮辱的行為があったのですが,監督者の指示に対して

反抗的な態度をとったことに対する戒めの意味も込められた発言

と評価され,監督者の仕事上の指示,注意という業務に関連して,

暴行が発生したと判断されたのです。

 

 

3 楽天事件へのあてはめ

 

 

楽天の事件では,もともと被災労働者と上司の関係は問題なく,

会議中の被災労働者の発言をきっかけに,

上司が激高して暴行したようなので,

業務起因性が認められたのだと思います。

 

 

そして,当該暴行によって,被災労働者は頚椎不全損傷となったので,

精神障害の労災認定基準の別表1の心理的負荷評価表によれば,

「治療を要する程度の暴行を受けた」に該当し,

心理的負荷は強と判断されたと考えられます。

 

 

職場で暴行が行われるのは悲しいことなので,

このようなことがおこらないことを願います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。