配転命令でキャリア形成が阻害される場合の対処法

昨日は,労働者の著しい生活上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることを説明しました。

 

 

 

 

本日は,労働者の著しい職業上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることについて解説します。

 

 

専門的な知識を身に着けた労働者を,

その専門的な知識を全く活かせない部署に配転した場合に,

労働者のキャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

に該当するかが問題となるのです。

 

 

 

 

労働者が専門職としてキャリアを形成していくことが,

配転によって阻害されると,労働者は,専門知識を磨いて

キャリアをアップすることができないという

不利益を被ってしまいますので,問題となります。

 

 

この点について判断がされたエルメスジャポン事件を紹介します

(東京地裁平成22年2月8日判決・労働判例1003号84頁)。

 

 

この事件では,被告会社の本社の情報システム部で働いていた労働者が,

銀座店の倉庫係に配転されたことが問題となりました。

 

 

この事件の原告労働者は,8年間,ITプロジェクトに

システムエンジニアまたはプロジェクトリーダーとして

携わってきたという経歴を有し,被告会社には,

情報技術に関する経歴と能力が見込まれて,

情報システム専門職に就くべき者として中途採用され,

実際に,約5年半の間,情報システム部に所属し,

情報システム関連の仕事をしていました。

 

 

 

 

これらの事実から,原告労働者が,被告会社において

情報システム専門職としてのキャリアを

形成していくことができるという期待は,合理的で,

法的保護に値するものであり,原告労働者の

このような期待に対して相応の配慮が求められると判断されました。

 

 

他方,原告労働者が配転された先の銀座店の倉庫係の仕事は,

在庫管理がメインであり,原告労働者が有している

情報技術や経験を活かすことができるものではなく,

むしろ労務的な側面をかなり有するものでした。

 

 

そのため,裁判所は,本件配転命令は,

業務上の必要性が高くないにもかかわらず,

情報システム専門職としてのキャリアを形成していくという

原告労働者の期待に配慮せず,原告労働者の理解を求めるなどの

実質的な手続を行わないまま,漫然と,

原告労働者の技術と経験をおよそ活かすことのできない

倉庫係に配転したものであり,権利の濫用として,

無効であると判断されました。

 

 

専門的な仕事の場合,労働契約に,

職種を限定する合意があることがあれば,

限定された職種以外に配転されることはありません。

 

 

もっとも,職種を限定する合意があったとは

認定されない場合があり,そのようなときには,

ある程度職種を特定して採用されたなど,

労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があれば,

キャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

と認められて,配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

 

 

そのため,専門的な仕事をしている労働者が,

別の仕事に配転する命令を受けたものの,

今の専門的な仕事を継続したい場合,

労働契約に職種を限定する合意があるか,または,

会社が労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があるかを検討するべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

客室乗務員の配転命令事件

フィンランド航空は,名古屋ベースを廃止することから,

名古屋ベースで勤務している客室乗務員に対して,

成田ベースへ配転する命令をしました。

 

 

 

 

名古屋ベースで勤務している客室乗務員は,東海地方において,

自宅で育児や介護をしている関係で,

成田に単身赴任をするのが困難であり,

片道約4時間かけて成田に通勤することを余儀なくされました。

 

 

この名古屋から成田への配転命令が違法無効であるとして,

客室乗務員が裁判を起こしたのです。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_9274/

 

 

このように,遠い勤務地への配転は,

育児や介護を抱える労働者にとって,過酷となります。

 

 

それでは,育児や介護を根拠に,配転命令が

違法無効となるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

本日は,会社の配転命令が違法となり,

慰謝料請求が認められたNTT西日本(大阪・名古屋配転)事件

を紹介します(大阪高裁平成21年1月15日判決・

労働判例977号5頁)。

 

 

この事件は,大阪支店から名古屋支店への配転命令が争われ,

配転命令に関して,様々な争点について,検討されていますが,

労働者の生活上の不利益の部分について,みていきます。

 

 

配転命令は,配転命令を受けた労働者に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合には,

権利の濫用として無効と判断されます。

 

 

そして,育児介護休業法26条では,会社が労働者に対して,

配転命令をする場合,子供の養育,家族の介護の状況に

配慮しなければならないと定められているので,

労働者の育児や介護の状況が,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を検討する際に考慮されるのです。

 

 

NTT西日本の事件では,複数の労働者について,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が認められました。

 

 

具体的には,①実父が介護を必要とする状況にあり,

実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが,

家族の中には,原告労働者以外に介護を行う余力がある者が

いなかったこと,②肺がん手術後で,再発の可能性のある妻を抱えており,

新幹線通勤が認められても,妻の見舞いに大きな制約があったこと,

③妻の両親の介護について,妻を補助し,

自らも介護を手伝う必要があったこと,

などの事情が考慮されて,慰謝料請求が認められました。

 

 

 

 

このように,裁判所は,家族が病気を抱えていたり,

要介護度が重い家族の介護をしている場合に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を認めてくれる傾向にあります。

 

 

もっとも,共働き世帯で,健康な子供の面倒をみているという

事情だけで,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を

認めてくれるのかは,今のところ,よくわかりません。

 

 

ただ,子供をもって思うのは,育児とは

本当に大変であるということです。

 

 

小さい子供は,大人の言うことを聞かずに,

好きなことをするので,目がはなせず,

子供といるときは,何もできません。

 

 

実家の親が遠くに住んでいて,夫婦だけで

子供を育てなければならない共働き世帯では,

片方の親が遠くに配転されると,育児が大変になります。

 

 

 

 

そうなると,片方の親が一旦仕事を辞めるや,

子供を生むのをあきらめるなどの悪循環に陥ります。

 

 

そのため,仕事と家庭を両立するために,

育児介護休業法26条の趣旨から,

育児の困難さを考慮して,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について,

検討してもらいたいものです。

 

 

フィンランド航空の配転命令事件の裁判において,

育児や介護の困難な状況が考慮されて,

労働者に有利な判断がされることを願っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

店員の笑顔はセクハラの同意ではありません

セクハラの裁判では,セクハラ行為について

同意があったか否かが争われることが多いです。

 

 

被害者がセクハラ行為について,抵抗していなかった場合,

加害者から,嫌がっていなかったので,

同意があったなどの主張がなされます。

 

 

 

しかし,セクハラは,上司から部下,顧客から店員というように,

上下関係や強い立場を利用して行われることが多く,

被害者は,セクハラを受けて,内心では嫌だと思っていても,

部下や店員という立場上,上司や顧客に対して,

明確に拒否反応を示すのが難しいのです。

 

 

このような被害者の心理状態をふまえて,

セクハラの懲戒処分が検討された

最高裁平成30年11月6日判決を紹介します。

 

 

この事件では,加古川市環境部でゴミの運搬の仕事をしていた

50代の男性公務員が,勤務時間中に,コンビニを訪れて,

女性店員に対して,わいせつ行為をしたとして,

停職6ヶ月の懲戒処分を受けました。

 

 

懲戒処分の対象となった,わいせつ行為とは,

女性従業員の手を握って店内を歩き,

女性従業員の手を男性公務員の股間の上に

軽く触れさせたというものです(行為1)。

 

 

最高裁判決からは,明らかにされていませんが,

弁護士ドットコムニュースの記事によれば,

男性公務員は,コンビニの女性従業員に対して,

手を握る,胸を触る,男性の裸の写真を見せる,

胸元をのぞき込むといった行動をしたり,

「乳硬いのう」,「乳小さいのう」,

「制服の下,何つけとん」,「胸が揺れとる。何カップや」

などと発言するなど,そこで働く従業員らを

不快に思わせる不適切な言動を行ったようです(行為2)。

 

 

 

 

加古川市は,行為1を懲戒該当事由とし,

行為2は,行為1の悪質性を裏付ける事情とした上で,

男性公務員を停職6ヶ月の懲戒処分としたところ,

男性公務員は,懲戒処分が重すぎるとして,

懲戒処分の取消を求めて裁判を起こしました。

 

 

原審の大阪高裁は,次の理由から,

停職6ヶ月の懲戒処分を取り消すと判断しました。

 

 

①女性従業員が,男性公務員から手や腕を絡められるという

身体的接触について渋々ながらも同意していたこと

 

 

②女性従業員やコンビニのオーナーが

男性公務員の処罰を望んでいないこと

 

 

③男性公務員が常習として行為1と

同様の行為をしていたとは認められないこと

 

 

④行為1が社会に与えた影響が大きいとはいえないこと

 

 

これに対して,最高裁は,次の理由から,

停職6ヶ月の懲戒処分は相当であると判断しました。

 

 

①女性従業員が終始笑顔で行動し,男性公務員による

身体的接触に抵抗を示さなかったとしても,それは,

客との間のトラブルを避けるためのものであったとみる余地があり,

身体的接触の同意があったとは評価できないこと

 

 

 

 

②女性従業員が処罰を求めていないことは,

事情聴取の負担やコンビニの営業への悪影響を

懸念したことと考えられること

 

 

③男性公務員が以前から,行為2のような,

従業員らを不快に思わせる不適切な言動をしており,

これを理由の一つとして退職した女性従業員がいたこと

 

 

④行為1が勤務時間中に制服を着用してされたものであり,

複数の新聞で報道され,記者会見まで行われたので,

公務一般に対する住民の信頼が大きく損なわれ,

社会に与えた影響は決して小さいものではないこと

 

 

大阪高裁と最高裁で,結論が全く異なっていることから,

セクハラ行為に対する懲戒処分については,

どの程度の重さの処分が妥当なのかの見通しがたてにくいです。

 

 

特に,本件事件では,男性公務員が重要な役職に就いていなかったこと,

過去に懲戒処分を受けたことがないことなどの事情を考慮すると,

停職6ヶ月は重すぎると判断される余地は十分あったと思います

(停職1ヶ月程度であれば,ここまでもめなかったのではないでしょうか)。

 

 

それでも,最高裁は,停職6ヶ月を相当と判断したので,

セクハラについては,厳しく判断するということなのかもしれません。

 

 

海遊館事件の最高裁平成27年2月26日判決からも,

最高裁が,セクハラについて厳しく判断する流れにあるといえそうです

(下記のブログをご参照ください)。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201809056472.html

 

 

このように,セクハラ行為に対して,

重い懲戒処分が課せられる危険がありますので,

男性労働者は,被害者が抵抗していないから

同意があるなどと勘違いしてはならず,

セクハラ行為を絶対にしないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

2022ーこれから10年,活躍できる人の条件

神田昌典先生の「2022ーこれから10年,活躍できる人の条件

という本を読みましたので,アウトプットをします。

 

 

 

先週,福井で開催された2022全国縦断ツアーに参加してきました。

 

 

私は,2016年から毎年参加しているので,

今年で3回目の参加になります。

 

 

 

 

年初に,神田先生から,最新のビジネスの潮流を学び,

そこに集うやる気に満ちあふれた方々と交流することで,

いつも大きな刺激を受けています。

 

 

今年の2022講演で一番印象に残ったのは,

コマーシャルインサイトという言葉です。

 

 

これは,顧客に自社以外の選択肢を忘れさせるほど

購買プロセスに決定的影響力ある視点のことをいいます。

 

 

私の理解では,批判の声に耳を傾け,自分の鏡に映し出すことで,

気づいた自分の価値や強みをもとに,顧客の異なるニーズに対して,

視点を変えて商品を提供するということです。

 

 

さて,毎年新しい気づきをえられる2022講演ですが,

この講演の原点になっているのが,この本です。

 

 

歴史は70年周期で回っており,2012年から2022年の間に,

大きな歴史の転換期がくることが予想されるので,

引き継ぐべき価値観と捨てるべき価値観を見極めた上で,

日本人として,個人がどのような選択をしていくのかについて,

わかりやすく記載されています。

 

 

私が,この本の中で一番学んだことは,

神田先生が息子に伝えた3つのやるべきことです。

 

 

1つ目は,海外留学をし,英語と中国語を学ぶことです。

 

 

外国語を集中して学べるのは,20代までであり,

英語と中国語に抵抗をなくしておくために,若いうちに,

海外で生活する経験を積ませることが重要なのだと思います。

 

 

2つ目は,ボランティア体験です。

 

 

日常が大きく欠落したとき,はじめて自分を見つめ直すことができ,

欠落の中で,自分が世界で埋められるものは何かに気付かされるのです。

 

 

私は,最近,災害ボランティアにいけていないのですが,

学生の頃は,災害ボランティアをして,自分は,この世の中に対して,

何ができるのかを自問自答したことを思い出しました。

 

 

3つ目は,優秀な人材が集まる場所の空気を吸うことです。

 

 

優秀な人材が集まる場所の空気を吸うことで,

自分のセルフイメージを大きく引き上げることができ,

そのセルフイメージが未来の自分を作るのです。

 

 

朱に交われば赤くなるというように,私も,

自分よりも優秀な方々と交流していくことで,

自分が成長していったことを実感しています。

 

 

今年,私は,2児の父親になったので,

この3つについては,子供が大きくなったら,

伝授していきたいと思います。

 

 

そして,私は,この本から,人生の節目を

考えることの大切さを学びました。

 

 

人間は,7年ほどの節目で,必要な体験を

積むことを心がけるといいようです。

 

 

現在,私は,35歳で,29~35歳の時期は,探求者の時期です。

 

 

探求者とは,自分自身の強みを見出したり,

自分の専門分野を深めていく時期です。

 

 

私にあてはめてみると,弁護士の扱う分野の中でも,

労働事件を専門として深めてきました。

 

 

次の36~42歳の時期は,破壊者の時期です。

 

 

 

探求者の時期に創った自分を壊して,新しく成長していくのです。

 

 

今までの自分に固執するのではなく,

改めて自分自身のビジョンを描き直すタイミングなのです。

 

 

私は,これから破壊者の時期に突入していきますので,

これまでの自分をどう壊して,新しい自分として成長していくのかを,

模索していきたいと思います。

 

 

自己成長したいビジネスマンにとって,

大変学びになる本ですので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

1ヶ月80時間の時間外労働の固定残業代は無効です

未払残業代請求事件では,固定残業代が争点になることが多いです。

 

 

固定残業代は,大きく分けて,

残業代の支払いに代えて一定額の手当を支給する場合(手当型)や,

基本給の中に残業代を組み込んで支給する場合(組込型)があります。

 

 

 

 

おそらく,会社が,毎月,労働者の残業代を

計算するのが大変なので,定額で残業代を支払うほうが楽である

ということで,固定残業代が広がっていったのではないかと思います。

 

 

なぜ固定残業代が争点になるかといいますと,

会社の固定残業代の主張が認められるか否かで,

請求できる残業代の金額が大きく変わるからです。

 

 

すなわち,会社の固定残業代の主張が認められれば,

固定残業代は残業代の基礎賃金から外れて,

残業代は支払い済みとなり,残業代は少なくなるのに対し,

会社の固定残業代の主張が認められないと,

固定残業代が残業代の基礎賃金に組み込まれて,

基礎賃金の単価がはねあがり,残業代は未払いとなり,

残業代は多くなるのです。

 

 

さて,この固定残業代について,

労働者に有利な判決がなされたので紹介します。

 

 

イクヌーザ事件の東京高裁平成30年10月4日判決です

(労働判例1190号5頁)。

 

 

この事件では,雇用契約書には,基本給23万円のうち,

8万80000円は月間80時間の時間外労働に対する残業代

と記載されており,通常賃金部分と残業代部分とが判別されていました。

 

 

そして,原告の実際の労働時間は,

1ヶ月の時間外労働が80時間を超えることが多く,

80時間を超える時間外労働に対しては,

基本給以外に別途残業代が支払われていました。

 

 

 

 

この1ヶ月の時間外労働80時間分に相当に対する残業代を,

固定残業代として基本給に組み込んで支払うことが,

民法90条の公序良俗に違反するかが争われたのです。

 

 

公序良俗とは,公の秩序と善良な風俗のことで,

ものすごくおおざっぱに説明すると,

それをやったらだめでしょうというレベルの

社会ルールに違反することです。

 

 

公序良俗に違反すれば,無効となります。

 

 

本件事件で問題となった公序良俗とは,

1ヶ月80時間の時間外労働という過労死ラインです。

 

 

過労死の認定基準では,脳心臓疾患が発症する前2~6ヶ月間

にわたって,1ヶ月あたりおおむね80時間を超える

時間外労働が認められる場合,過労死と認定される可能性が高くなります。

 

 

 

 

そうなりますと,基本給のうちの一定額を

月間80時間分相当の時間外労働に対する

残業代とする固定残業代は,労働者に対して,

少なくとも月間80時間に近い時間外労働を

恒常的に行わせることを予定したものであり,

労働者の健康を損なう危険のあるものとして,

公序良俗に違反して無効と判断されました。

 

 

このように,固定残業代が過労死ラインの時間外労働に

対応するように設定されていた場合,

公序良俗に違反して無効になる可能性があるのです。

 

 

そのため,労働者は,会社から残業代が定額で支払われていた場合,

何時間分の時間外労働に対応するのかをチェックして,

固定残業代が1月80時間の時間外労働に対する

残業代に設定されていれば,固定残業代は無効となる可能性があり,

残業代を請求できることがあるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

保険外交員の搾取の問題

保険外交員が労働契約を締結する保険代理店から

搾取されている問題がクローズアップされています。

 

 

給料から様々な費用が天引きされて収入が低い,

売上が低いと費用のマイナスが多くなり,

借金を背負わされてしまう,

会社から損害賠償請求すると脅されて,

会社を辞めさせてもらえない,

等といった被害が発生しているようです。

 

 

 

このような保険外交員の搾取被害に対応するために,

保険外交員搾取被害弁護団」が結成され,

私も,弁護団の一員に加えていただきました。

 

 

http://hokenhigai.com/problem.html

 

 

本日は,保険外交員の搾取被害について解説していきます。

 

 

以前は,保険外交員は,保険代理店と委任契約を締結し,

保険の販売を行っていたようです。

 

 

委任契約の場合,労働基準法が適用されないため,

一方的に契約を解除されたり,最低賃金法が適用されないため,

毎月の収入が最低賃金を下回るなどのリスクを負うことになります。

 

 

ところが,2014年に金融庁の指針により,

保険外交員と保険代理店の委任契約は,

保険業法で禁止されている再委託の禁止に該当するとされて,

委任契約から労働契約へと切り替わりました。

 

 

 

 

委任契約から労働契約に切り替わると,

雇用主である保険代理店は,保険外交員の社会保険料を

一部負担しなければならなくなります。

 

 

保険代理店は,これまでなかった,

社会保険料などの費用負担が生じるので,

どこかで費用を圧縮したいと考えます。

 

 

そこで,保険外交員の給料から,

パソコンのキーボードの購入代金,

プリンター代,パソコンシステム使用料,名刺代など,

保険代理店が負担すべき費用について,

さまざまな名目で控除しているようです。

 

 

また,リーズという見込み客を割り当ててもらう費用も,

給料から天引きされていたようです。

 

 

保険に関心のある消費者を5,000円の商品券などで勧誘し,

その見込み客に対して,保険外交員が営業をかけるのです。

 

 

保険になにも関心がない人よりも,

商品券で勧誘されてたとはいえ,

保険に関心のある人に営業をかけた方が,

保険契約の締結につながる確率はあがることから,

リーズというものが利用されているようです。

 

 

とはいえ,商品券だけもらって契約しない見込み客もいますので,

リーズの割当を受けたからといって,

保険契約の締結につながるわけでもありません。

 

 

 

 

このリーズの割当を受けるのに費用がかかり,

給料から天引きされるのです。

 

 

保険外交員が保険契約を獲得して,

売上を伸ばせればいいのですが,売上が少ないと,

給料よりも費用が大きくなり,それが借金になるというのです。

 

 

このような保険外交員の借金が積み重なると,

退職したくても,借金の返済ができないので,

辞めさせてもらえないという悪循環になるのです。

 

 

しかし,給料から,会社にかかる費用を勝手に天引きすることは,

労働基準法24条1項の賃金全額払の原則に違反します。

 

 

賃金全額払の原則は,労働者に賃金の全額を確実に受け取らせて,

労働者の生活が脅かされないように保護するために導入されました。

 

 

この賃金全額払の原則から,会社は,

労働者に対して請求権をもっていたとしても,

一方的に賃金と相殺することは禁止されています。

 

 

さらに,労働者が自由な意思に基づいて

賃金との相殺に合意することは禁止されていませんが,

この労働者の合意は,自由な意思に基づいてされたものと

認められるに足りる合理的な理由が客観的に存在する時に

限り認められ,厳格かつ慎重に判断されます。

 

 

そのため,保険外交員の給料から,

保険代理店の費用が天引きされていることについて,

保険外交員が自由な意思に基づいて合意していない限り,

無効となります。

 

 

石川県内の保険外交員の搾取被害については,

私が担当させていただきますので,

保険外交員の給料からの天引き,借金を背負わされる,

退職させてもらえないなどのご相談があれば,ご連絡ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

正社員と非正規雇用労働者の賞与の格差は不合理か?

2019年2月15日,大阪医科大学の元アルバイト労働者が,

アルバイト労働者には,賞与が支給されないなどの待遇格差は

労働契約法20条に違反するとして,大学に対して,

差額の支給を請求した事件の控訴審判決がくだされました。

 

 

この判決では,アルバイト労働者に対して,

賞与を支給しないことが不合理であると判断されました。

 

 

非正規雇用労働者に対して,賞与を支給するべきだと判断した

画期的な判決であり,今後の,非正規雇用労働者と正社員の

賃金格差の裁判に与える影響は大きいと思います。

 

 

 

 

本日は,この大阪医科薬科大学の大阪高裁判決について解説します。

 

 

まず,労働契約法20条は,正社員と非正規雇用労働者の

労働条件に相違がある場合,業務の内容,業務に伴う責任の程度,

職務の内容及び配置の変更の範囲,その他の事情を考慮して,

その相違が不合理であってはならないと定められています。

 

 

おおざっぱに言えば,正社員と非正規雇用労働者が,

同じ仕事をしているなら,同じ労働条件にしましょうということです。

 

 

労働契約法20条の趣旨は,非正規雇用労働者については,

正社員と比較して合理的な労働条件の決定が行われにくく,

両者の労働条件の格差が問題となってきたことをふまえて,

非正規雇用労働者の公正な処遇を図るため,

その労働条件につき,期間の定めがあることにより

不合理なものとすることを禁止したことにあります。

 

 

さて,大阪医科大学の事件では,正社員には,

通年で4.6ヶ月分の賞与が支給され,契約社員には,

正社員の賞与の8割に当たる額の賞与が支給されていましたが,

原告のアルバイト労働者には,賞与は支給されていませんでした。

 

 

そのため,アルバイト労働者に全く賞与を支給しないのは

不合理であるとして争われたのです。

 

 

 

 

ここで,労働契約法20条違反について争われた裁判では,

問題となる手当などの趣旨や性質を詳細に検討して,

不合理か否かが判断されてきました。

 

 

そして,賞与とは,会社業績や労働者の勤務成績によって

変動することが多く,支給対象期間における労働の対償としの性格

だけでなく,功労報奨的な意味や生活補填的な意味も含まれ,

労働者の労働意欲を高めるインセンティブという性質もあります。

 

 

この賞与の性質のうち,労働意欲を高めるインセンティブの側面

を重視すれば,長期雇用へのインセンティブを与えるものとして,

正社員にだけ賞与を支給しても不合理とはいえないという方向に傾き,

労働の対償という側面を重視すれば,正社員にだけ賞与を

支給することは不合理であるという方向に傾きます。

 

 

そこで,大阪医科大学の賞与がどのような性質のものかが

検討されたところ,基本給にのみ連動するものであり,

労働者の年齢や成績に連動するものではなく,

大学の業績にも一切連動しておらず,大阪医科大学の賞与は,

賞与算定期間に就労していたことそれ自体に対する

対価としての性質を有するものと判断されました。

 

 

そうであるなら,フルタイムのアルバイト労働者に対して,

額の多寡があるにせよ,全く支給しないことは

不合理であると判断されました。

 

 

 

 

もっとも,大阪医科大学の賞与には,

付随的には長期雇用へのインセンティブという趣旨も含まれており,

正社員とアルバイト労働者とでは,実際の仕事内容も

採用の際に求められる能力にも相違があり,

アルバイト労働者の賞与算定期間における功労も相対的に低いことから,

アルバイト労働者の賞与の金額を正社員と同額にしなければ

不合理とまではいえず,正社員の賞与の60%を下回る

支給しかしない場合に不合理になると判断されました。

 

 

なぜ,アルバイト労働者に正社員の賞与の60%を支給すれば

不合理にならないのかについて不明な点はありますが,

正社員とアルバイト労働者の仕事内容が異なっているものの,

アルバイト労働者に賞与を全く支給しないのはおかしいとして,

バランスをとったのだと考えられます。

 

 

非正規雇用労働者に対して,

賞与を支給すべきとした画期的判決であり,

非正規雇用労働者の格差是正に一歩前進したと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者は会社の調査に協力しなければならないのか?

労働者が会社の経費を不正に使用するなどの

懲戒処分に該当する行為(非違行為といいます)をした場合,

会社は,労働者の非違行為の有無を調査します。

 

 

経費の不正使用であれば,具体的には,

領収書や会計帳簿を税理士にチェックしてもらい,

お金の流れにおかしいところがないかを確認したり,

他の労働者の聞き取りを行います。

 

 

 

 

客観的に手堅い証拠を固めた後に,

非違行為をしたと疑われる労働者に

事情を聴取することになると思われます。

 

 

このような調査を経て,会社は,非違行為があったのか,

あったとしたらどのような懲戒処分とするのかを決定します。

 

 

それでは,会社が懲戒処分を検討すための調査をする場合に,

労働者は,会社の調査に応じなければならないのでしょうか。

 

 

この論点について争われた富士重工事件の

最高裁昭和52年12月13日判決では,

違反者に対し制裁として懲戒処分を行うため,

事実関係の調査をすることができることは,

当然のことといわなければならない」と判断されました。

 

 

また,ドコモCS事件の東京地裁平成28年7月8日判決では,

「労働者は自身の労働契約上の義務に違反する行為に関し,

使用者が調査を行おうとするときは,

その非違行為の軽重,内容,調査の必要性,その方法,態様等に照らして,

その調査が社会通念上相当な範囲にとどまり,

供述の強要その他の労働者の人格・自由に対する

過度の支配・拘束にわたるものではない限り,

労働契約上の義務として,その調査に応じ,

協力する義務がある」と判断されました。

 

 

 

 

ようするに,非違行為をした労働者は,

会社の調査に協力する義務を負うのが原則といえます。

 

 

そして,非違行為をした労働者が,会社の調査の過程で,

うそをついたり,積極的に調査を妨害する行為をした場合は,

会社との信頼関係を悪化させるので,会社が懲戒処分を決める上で,

労働者にとって不利益に評価されてしまうのです。

 

 

そのため,非違行為をしたことに争いがない場合には,

労働者は,素直に会社の調査に応じた方が,

自分の身を守ることにつながるといえそうです。

 

 

次に,非違行為をした労働者ではない,その他の労働者には,

会社の調査に応じる義務があるのでしょうか。

 

 

この論点について,富士重工事件の最高裁判決では,

①当該労働者の職責に照らして,

調査に協力することが職務内容になっている場合,または,

②調査対象である非違行為の性質・内容,

非違行為見聞の機会と職務執行との関連性,

より適切な調査方法の有無などを総合判断して,

労務提供義務を履行するうえで必要かつ合理的であると

認められる場合には,調査に協力する義務はありますが,

それ以外の場合には調査に協力する義務はないと判断されました。

 

 

ようするに,①非違行為をした労働者を監督する立場にある

上司の場合や,②防犯カメラなどがなく,

非違行為を目撃した労働者が一人しかおらず,

非違行為を証明するためには,目撃した労働者の証言が必要な場合

などには,調査に協力する義務はありますが,そうでないなら,

一般の労働者には調査に協力する義務はないことになります。

 

 

非違行為をしていない労働者は,

会社の調査に無理に協力する必要はありませんが,

非違行為をした労働者に対して同情する理由がないのであれば,

通常は会社の調査に協力することがほとんどだと思います。

 

 

非違行為をした労働者が,会社から調査を受けており,

どのように対応すればいいか迷った場合には,

早急に弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます

降格による賃金減額に理由はあるのか?

会社における長時間労働やパワハラが原因で体調を崩し,

一定期間休職した後,職場に復帰したところ,

会社から降格を告げられて,給料が減額されてしまったとします。

 

 

せっかく,体調が回復して,仕事ができることになったのに,

明確な理由もなく,給料が減額されるのでは,労働者は,納得できません。

 

 

このような場合,労働者は,どのようにして

降格を争っていけばいいのでしょうか。

 

 

本日は,育児休業後に復職したところ,

担当職務を変更されて減給されたことが違法であると

争われたコナミデジタルエンタテインメント事件を紹介します

(東京高裁平成23年12月27日判決・労働判例1042号15頁)。

 

 

 

 

この事件では,育児休業から復職後に

役割グレードが引き下げられて,

役割報酬が550万円から500万円に減額され,

さらに成果報酬がゼロと査定されて,

年俸が育休前の640万円から,

復職後に520万円に引き下げられたのです。

 

 

この事件のように,労働者の組織における職務の価値や

職務遂行上の責任・権限の大きさである役割の等級によって,

労働者を格付けする制度を職務・役割等級制度といいます。

 

 

この事件では,役割グレードが報酬グレードと連動していることを

定めた就業規則などの根拠規定はなく,会社は,労働者に対して,

役割報酬の大幅な減額を生じるような役割グレードの変更が

なされることについて具体的な説明をしていませんでした。

 

 

その結果,役割報酬の引き下げは,労働者にとって

最も重要な労働条件の一つである賃金額を

不利益に変更するものであり,就業規則に明示的な根拠もなく,

労働者の個別の同意もないまま,会社の一方的な行為

によって行うことは許されないと判断されました。

 

 

 

 

また,育児休業から復職後に成果報酬を

ゼロ査定としたことについては,

育児休業を取得したことを理由として

成果報酬を支払わないとすることであり,

不利益な取扱にあたるとされました。

 

 

育児介護休業法10条では,

労働者が育児休業をしたことを理由として,

不利益な取扱をしてはならないと規定されています。

 

 

会社には,育児休業を取得したことを

不利益に取り扱うことがないように,

前年度の評価を据え置くなどの適切な方法を

とるべき義務があるのです。

 

 

 

 

結果として,役割報酬の減額に伴う差額請求と,

成果報酬については慰謝料が認められました。

 

 

このように,降格によって賃金を減額された場合,

まずは,就業規則上の根拠を確認し,

就業規則に根拠規定がないのであれば,

会社に対して,賃金を減額した根拠を質問してみてください。

 

 

この質問に対する回答が不明確であれば,

なんの根拠もなく,降格して賃金を減額したとして,

賃金減額が無効になる可能性があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

職場における自由な人間関係を形成する自由

昨日,とても嬉しいことがありました。

 

 

毎日ブログを書き続けて9ヶ月を経過して,ついに,

私のブログを見て,法律相談に来れられた方が現れたのです。

 

 

 

 

その相談者の方は,次のようにおっしゃりました。

 

 

働く人に役立つ情報が記載されているので,

毎日チェックしています,ブラック企業対策として息子にも

ブログをすすめています,同じ職場の悩みをもっている同僚にも

ブログをすすめていますなど,本当にありがたいお言葉をいただきました。

 

 

ブログを毎日更新している者にとって,

自分のブログが誰かの役に立っていると実感できるときが,

最高に嬉しいのです。

 

 

毎日ブログを更新することが,

人の役に立つことが実感できましたので,

今後とも毎日ブログを更新していきます。

 

 

さて,本日は,職場における自由な人間関係を形成する自由

について解説したいと思います。

 

 

労働者が,会社から不合理な取扱を受けたため,

労働組合を結成しようとしたら,会社が,

他の労働者から労働組合結成の動きを聞き出すなどの監視をして,

労働組合の結成を抑制するような言動をしてきた場合,

労働者は,どのような対応をすればいいのでしょうか。

 

 

この問題について参考になるのが,

関西電力事件の最高裁平成7年9月5日判決です。

 

 

関西電力事件では,共産党員などの労働者に対して,

会社として,職場内外で尾行・待ち伏せなどによって監視し,

また,他の労働者と付き合わないように働きかけるなどして

孤立化を図りました。

 

 

 

 

また,労働者のロッカーを無断で開けて,

上着のポケットに入っていた手帳を取り出して,

その内容を写真撮影しました。

 

 

最高裁は,会社のこれらの行為について,

原告らの職場における自由な人間関係を形成する自由

不当に侵害するとともに,名誉やプライバシーを侵害するものであり,

労働者の人格的利益を侵害していることから,

不法行為に基づく損害賠償請求を認めました。

 

 

このように,会社が労働者を継続的に監視したり,

他の労働者との接触や交際を妨げることは,

労働者の職場における自由な人間関係を形成する自由

を侵害することになります。

 

 

労働者の職場における自由な人間関係を形成する自由については,

人間関係からの切り離しのパワハラを受けた場合に,

主張すると効果的だと考えます。

 

 

 

 

もっとも,会社の監視行為を証明するには,

会社の内部文書などを入手する必要があり,

困難なことが多いと思います。

 

 

また,労働組合を結成することを抑制しようとする会社の言動は,

労働組合法7条1号に規定されている不当労働行為に該当し,

違法になる可能性があります。

 

 

労働者としては,会社が労働組合結成の準備段階において,

労働組合つぶしを仕掛けてくるおそれがありますので,

会社側の人物の言動を録音するか,メモするなどして記録に残し,

不当な配転や解雇については,争うことを検討するべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。