企画業務型裁量労働制の争い方2~労使委員会~

昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の争い方として,

対象業務や対象労働者の要件が厳格に規定されているので,

対象業務や対象労働者に該当するかを

しっかりとチェックしましょうと記載しました。

 

 

 

 

本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,

手続的要件を争う方法について解説します。

 

 

企画業務型裁量労働制を導入するためには,会社に,

労使委員会を設置して,法律で定められた7つの項目について,

労使委員会の委員の5分の4以上の多数による議決で決議し,

かつ,そのその決議内容を労働基準監督署へ届け出る必要があります

(労働基準法38条の4)。

 

 

労使委員会とは,賃金,労働時間その他の当該事業場における

労働条件に関する事項を調査審議し,事業主に対し

当該事項について意見を述べることを目的とする機関です。

 

 

労使委員会は,労働者側の委員と会社側の委員で

構成されているのですが,労働者側の委員は,

労働組合か労働者代表者から任期を定めて指名を受けた者

である必要があり,労使委員会の委員の半数以上を占める必要があります。

 

 

労使委員会の労働者側の委員が適正に選出されていなければ,

労使委員会の決議が無効となり,

企画業務型裁量労働制が無効になる可能性があるのです。

 

 

 

 

労使委員会の開催の都度,議事録が作成されなければならず,

議事録は3年間保存されなければならず,

その議事録は,労働者に周知されなければなりません。

 

 

議事録の労働者に対する周知がされていなければ,

労使委員会の決議が無効になる可能性があります。

 

 

そして,企画業務型裁量労働制の対象労働者に不利益にならないように,

労使委員会において決議を適切に行うためには,

労働者側委員に対して,その判断の基礎となる

十分な情報提供がされなければなりません。

 

 

そのため,会社は,労働者側委員に対し,

対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度の内容を十分に説明し,

対象業務の具体的内容,実施状況に関する情報として

対象労働者の勤務状況,健康福祉確保措置の実施状況,

対象労働者からの苦情の内容及び処理状況など,

労働基準監督署への報告の内容を開示すべきなのです。

 

 

 

 

その上で,労使委員会は,次の7つの項目について決議します。

 

 

①対象業務

②対象労働者の範囲

③1日のみなし労働時間

④健康及び福祉確保措置

⑤苦情処理措置

⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止

⑦決議有効期間,記録保存期間

 

 

そもそも,労働者には,労使委員会の設置に

応じなければならない義務はありませんので,

企画業務型裁量労働制の導入に反対する場合には,

労使委員会の設置に応じなければよいのです。

 

 

また,労使委員会が設置されたとしても,

労使委員会の委員の5分の4の多数による議決が必要なので,

労働者側の委員は,会社からの説明を聞いて,

労働者にとってデメリットが大きいと判断すれば,

遠慮なく,ノーと言えばいいのです。

 

 

 

 

そうすれば,労使委員会の委員の5分の4以上の議決は得られず,

企画業務型裁量労働制の導入を阻止することができるのです。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制は,

労働者がはっきりとノーと言えば,

導入を防止することが十分可能な制度なのです。

 

 

長くなりましたので,続きは,また明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方

企画の仕事をしている労働者が裁量労働制を適用されていて,

業務量が多く,毎日遅くまで残業をさせられていたとします。

 

 

 

 

そのうえ,休日もとれず,労働者としては,

裁量が与えられているとはとても思えず,

裁量労働制が適法に運用されているのか疑問に思えます。

 

 

裁量労働制を適用された労働者は,

このような疑問を抱くことが多いと思います。

 

 

そこで,本日は,企画業務型裁量労働制の

争い方について解説します。

 

 

労働基準法38条の4で定められている企画業務型裁量労働制とは,

事業運営上の重要な決定が行われる企業の

本社・本店等の中枢部門における,

企画,立案,調査及び分析の業務を行う事務系労働者であって,

業務の遂行手段や時間配分などを自らの裁量で決定し,

会社から具体的な指示を受けない者を対象とした裁量労働制です。

 

 

企画業務型裁量労働制が適法に適用されれば,

労働者が実際にどれだけ働いても,

労使協定で定められたみなし時間しか働いていないことになります。

 

 

例えば,労使協定で定められたみなし時間が8時間の場合,

実際には11時間働いたとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

法定労働時間である8時間を超える

3時間分の残業代は支払われないことになるのです。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制は,どれだけ働いても,

労使協定で定められたみなし時間しか働いていないことになり,

労働者の残業代請求が制限され,

長時間労働を招くリスクがあることから,

要件が厳格に定められています。

 

 

企画業務型裁量労働制の対象業務は,

次の3つの要件を備える必要があります。

 

 

まずは,①事業の運営に関する事項についての

企画,立案,調査及び分析の業務という要件です。

 

 

 

 

これは,企業経営の動向や業績に

大きな影響を及ぼす事項に限定され,

実態の把握,問題点の発見,課題の設定,

情報・資料の収集・分析,解決のための

企画,解決案の策定などを一体・一連の

ものとして行う業務のことです。

 

 

ようするに,社長室など社長や役員直属の

中枢的な企画セクションなどに限られ,

「企画」や「調査」という名称がついた

部署の業務のすべてが該当するわけではなく,

補助的・定型的な業務や単なる書類作成業務は

対象業務に含まれません。

 

 

次に,②当該業務の性質上これを適切に遂行するには

その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に

ゆだねる必要がある業務という要件です。

 

 

これは,業務の客観的性質として,

当該労働者にあれこれ指示を出すことがかえってマイナスであり,

本人の自律性や創意工夫に任せた方が良いことが

常識的に見て誰にも明らかな業務のことです。

 

 

最後に,③当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定などに関し

会社が具体的な指示をしないこととする業務という要件です。

 

 

いつ,どのように行うかなどについての

広い裁量が労働者に認められている業務のことです。

 

 

時間配分の決定について,労働者が裁量を有し,

現にこれを発揮できる業務でなければならないので,

業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には,

時間配分の決定に関する労働者の裁量が事実上失われることになるので,

この要件を満たさないことになります。

 

 

 

 

また,対象業務を行う労働者は,

対象業務を適切に遂行するための知識,

経験などを有する労働者であり,

対象業務に常態として従事している者でなければなりません。

 

 

そのため,大学の学部を卒業した労働者であって

全く職務経験がない者は,対象労働者とはいえず,

少なくとも3年ないし5年程度の

職務経験を得た者である必要があります。

 

 

このように,企画業務型裁量労働制の対象業務と対象労働者については,

厳格な要件が定められているので,自分の行っている仕事が本当に,

これらの要件を全て満たしているのかをチェックしてみてください。

 

 

おそらく,これらの要件のうちのどこかに

ひっかかることが多いのではないかと思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

変形労働時間制を争う方法

労働者が会社に対して,未払残業代を請求すると,

会社から,うちは変形労働時間制を採用しているので,

労働者の残業代の計算方法は誤っている

という反論をしてくることがあります。

 

 

会社から,変形労働時間制の反論をされた場合,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間(1ヶ月以内,1年以内または1週間)

につき,1週間当たりの平均所定労働時間が

法定労働時間を超えない範囲内で,

1週または1日の法定労働時間を超えて

労働させることを可能とする制度です。

 

 

 

 

所定労働時間とは,労働契約で決められた勤務時間のことで,

法定労働時間とは,労働基準法で定められた1日8時間,

1週間40時間の労働時間のことで,

法定労働時間を超えると残業代が発生します。

 

 

変形労働時間制であれば,1週間あたりの所定労働時間が

40時間以内に定められていれば,

予め所定労働として特定された日や週の

特定された時間の範囲で1日8時間,1週間40時間

を超えた労働について,会社は残業代を支払わなくてよくなります。

 

 

例えば,1週間のうち1日は9時間働き,

別の1日は7時間働き,1週間で40時間の範囲内に収まっていれば,

1日9時間働いたうちの1時間分の残業について,

会社は残業代を支払わなくてよくなるのです。

 

 

なぜ,変形労働時間制ができたのかといいますと,

労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し,

業務の繁閑に応じた労働時間の配分を行うことによって

労働時間を短縮するためです。

 

 

 

 

変形労働時間制は,あくまで,労働時間を短縮することを

目的としているのであり,決して,法定労働時間を超えて

労働させることや残業代を支払わないための

手段としてはいけないのです。

 

 

労働基準法32条の2において,

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するには,

労使協定や就業規則などで,次の事項を定めて,

労働者に周知しなければなりません。

 

 

①変形期間(1ヶ月以内の一定期間)及びその起算日

 ②変形期間における各日,各週の労働時間と各日の始業及び終業時刻

 

 

会社が,この要件を満たしていなければ,

変形労働時間制は無効になるので,労働者は,

会社から労使協定や就業規則を開示してもらい,

特に②変形期間の労働日と労働時間が

特定されているのをチェックします。

 

 

大星ビル管理事件の最高裁平成14年2月28日判決では,

就業規則などにおいて,変形労働期間の各日,

各週の所定労働期間を具体的に特定する必要があると判断されました。

 

 

そのため,就業規則に「勤務時間については変形労働時間制とし,

個別に定める」と規定されているだけでは,

変形労働期間の各日,各週の所定労働期間が

具体的に特定されておらず,変形労働時間制は無効となります。

 

 

勤務割表で所定労働期間を特定する場合には,

就業規則において各勤務の始業・終業時刻及び

各勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続きや周知方法を定めて,

各日の勤務割は,それに従って,

変形期間開始までに具体的に特定しておけば足りることになります。

 

 

私の経験上,地方の中小企業において,

変形労働時間制の労働時間の特定を適法に定めているところは少なく,

変形労働時間制が無効になる可能性が多いと感じています。

 

 

そのため,労働者は,会社から,

うちは変形労働時間制を採用しているので,

そんなに多くの残業代を支払わなくてもいいのだと主張されたとしても,

労使協定や就業規則を見た上で,

各日,各週の労働時間が具体的に特定されているのかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職金制度の廃止

以前は,退職金規定があり,実際に退職した労働者に対して,

退職金が支払われていたので,自分も退職金が支払われると

考えていたところ,労働者の知らない間に,

退職金規定が廃止されていたため,会社から,

退職金規定が廃止されるまでの退職金は支払うが,

退職金規定が廃止されてからの退職金は支払わない

と言われてしまいました。

 

 

退職金を老後の資金と考えていた労働者は,とても困ります。

 

 

 

 

このように,退職金規定を廃止することは認められるのでしょうか。

 

 

退職金規定は,通常,就業規則の一部と捉えられており,

退職金規定を廃止することは,退職金の支給がなくなることを意味し,

労働者にとって不利益ですので,就業規則の変更によって

労働条件を不利益に変更することになります。

 

 

就業規則を変更して労働条件を不利益に変更するためには,

変更後の就業規則を労働者に周知させて,かつ,

就業規則の変更が合理的なものであることが必要です。

 

 

就業規則の変更が合理的なものといえるかについては,

①労働者の受ける不利益の程度,

②労働条件の変更の必要性,

③変更後の就業規則の内容の相当性,

④労働組合との交渉の状況

などを考慮して決められます。

 

 

 

退職金規定が廃止される場合,

①労働者は,退職金規定が廃止されてしまえば,

それ以降,退職金が支給されなくなってしまい,

老後の資金を確保できず,不利益が大きいといえます。

 

 

②労働条件の変更の必要性については,経営悪化などから,

人件費削減が必要だったのかが検討されますが,

賃金や退職金など労働者にとって

重要な労働条件を不利益に変更するには,

そのような不利益を労働者に法的に受任させることを

許容できるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである

ことが求められます。

 

 

そのため,退職金規定を廃止する場合,

単に経営が悪化したという理由だけではだめで,

経営改善のためにどのようなことがされたかが

検討される必要があります。

 

 

③変更後の就業規則の内容の相当性については,

不利益を被る労働者に対して,

代償措置がとられたかが重要となります。

 

 

退職金規定を廃止する場合には,

退職金に変わる給付金を労働者に支給するか,

現在働いている労働者の退職金だけは保証するなどの

代償措置が考えられます。

 

 

退職金規定の廃止について,代償となる労働条件を

何も提供していないとして,退職金規定の廃止を認めなかった

御國ハイヤー事件の最高裁昭和58年7月15日判決があります。

 

 

④労働組合との交渉の状況については,労働組合に,

変更によって不利益を被る労働者が含まれており,

その労働者を含む総意として労働組合が会社との間で交渉をした場合

初めて,労使間の利益調整の結果が尊重されることになります。

 

 

まとめますと,退職金規定を廃止するには,

労働者の被る不利益が大きいので,高度な必要性が求められ,

何も代償措置がない場合には,退職金規定の廃止は認められず,

労働者は,廃止前の退職金規定に基づいて,

退職金を請求することができるのです。

 

 

 

 

退職金規定が廃止された場合には,

退職金規定の廃止についてどのような必要性があったのか,

代償措置として何があったのか,

労働組合や労働者に対してどのような説明があったのか

を検討するようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

降格の対処法2

昨日に引き続き,降格された場合の

労働者の対処法について説明します。

 

 

 

会社の人事権の行使としてなされる降格は,

①職位・役職を引き下げる場合,

②職能資格等級を引き下げる場合,

③職務等級を引き下げる場合

の3つに分かれます。

 

 

①職位・役職を引き下げる場合については,

昨日のブログで説明しましたので,本日は,

②職能資格等級を引き下げる場合,

③職務等級を引き下げる場合の2つについて説明します。

 

 

まず,②職能資格を引き下げる場合です。

 

 

職能資格制度とは,会社における職務遂行能力を

職掌として大くくりに分類したうえ,

各職掌における職務遂行能力を資格とその中での

ランク(級)に序列化したものをいいます。

 

 

勤続年数が長くなれば,それだけ職務を遂行する能力が

高いとされているため,年功序列や終身雇用を前提にした等級制度です。

 

 

 

職能資格制度でいう職務遂行能力は,

勤続によって蓄積されていくことが暗黙の前提とされているため,

いったん蓄積された能力が下がることは想定されておらず,

資格等級の引下げは基本給の低下をもたらすことから,

労働者の同意があるか,もしくは就業規則上,

会社に資格等級の引下げの権限が明確に

与えられている場合に限り可能となります。

 

 

就業規則の規定に基づかずに,会社の裁量権を理由にして

一方的に資格等級を引下げて降格,減給をすることはできないのです。

 

 

また,就業規則に降格の根拠規定があっても,

降格が権利の濫用にあたれば,降格は無効となります。

 

 

権利の濫用の判断においては,降格による減給の金額や

労働者の勤務態度などが検討されます。

 

 

次に,③職務等級を引き下げる場合です。

 

 

職務等級制度とは,労働者の職務遂行能力

(勤務年数によって蓄積された能力)ではなく

職務内容に着目する制度であり,会社内の職務を

職責の内容・重さに応じて等級(グレード)に分類・序列化し,

等級ごとに賃金額の最高値・中間値・最低値による

給与範囲(レンジ)を設定するものです。

 

 

仕事のみで賃金や働きぶりを評価するもので,

資格や熟練度などの項目で審査・評価し

賃金や報酬を支給する制度です。

 

 

成果主義型に近い賃金制度です。

 

 

 

 

職務等級制度では,もともと職務等級の変更が予定されていることから,

職務等級の引下げも,当該制度の枠組みのなかでの

人事評価の手続と決定権に基づき行われるかぎり,

原則として会社の裁量に委ねられ,

権利の濫用となる場合に,違法となるのです。

 

 

職務等級を引き下げる場合においても,

就業規則における明示的な根拠規定が必要であり,

労働契約上,職務が特定されている場合には,

降格させることはできません。

 

 

また,降格を行うべき業務上の必要性,

賃金減額の幅や程度など労働者の不利益の程度をふまえて,

人事評価制度自体の合理性・相当性・公平性などを検討して,

権利の濫用となるかを判断します。

 

 

さて,降格には様々な種類があるのですが,

労働者としては,降格が何を根拠にしているのかをチェックし,

降格による賃金の減額がいくらくらいになるのか,

降格をされたことについて自分に責任があるのかなどを検討します。

 

 

その上で,降格に納得できない場合には,

弁護士に早めに相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

降格の対処法

会社から降格処分を根拠に給料を減額された場合,

労働者としてはどのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

 

 

降格については,種類が分かれており,

降格の類型に応じて争い方が異なってくるので,

降格の種類ごとの争い方について説明します。

 

 

まず,降格には,懲戒処分として行われる降格と,

会社の人事権の行使としてなされる降格の2つがあります。

 

 

懲戒処分として行われる降格については,

懲戒処分の有効要件を満たす必要があります。

 

 

具体的には,①降格処分の根拠となる就業規則の条項があり,

かつその条項に合理性があって周知されていること(労働契約法7条),

②降格処分の根拠となる就業規則の条項に該当する事実があること,

③懲戒権の濫用でないこと(労働契約法15条)

の要件を満たさなければ,降格処分は無効となり,

降格処分に伴う賃金切り下げも無効となります。

 

 

 

 

懲戒処分として行われる降格については,

③懲戒権の濫用となるか否かにおいて,

労働者の違反行為に対して,降格処分が重すぎないか,

他の事案と比較して不平等になっていないか,

降格処分をするにあたり,労働者の言い分を聞くなどの

適正な手続がなされているかが検討されることになるので,

労働者としては,比較的争いやすくなります。

 

 

会社の人事権の行使としてなされる降格は,

①職位・役職を引き下げる場合,

②職能資格等級を引き下げる場合,

③職務等級を引き下げる場合

の3つに分かれます。

 

 

①職位・役職を引き下げる場合とは,

営業所長を営業所の成績不振を理由に営業社員に降格する場合や,

勤務成績不良を理由として部長を一般職へ降格する場合のことをいいます。

 

 

職位・役職を引き下げる降格の場合,会社は,

労働契約条当然に,組織内における労働者の具体的配置を

決定・変更する広範な人事権を有していることから,

就業規則などの具体的な根拠規定がなくても,

人事権の行使として職位・役職を変更することができ,

それが違法になるのは,権利の濫用となる場合です(労働契約法3条5項)。

 

 

職位・役職を引き下げる降格が権利の濫用となる場合とは,

労働者の人格権を侵害するなどの

違法・不当な目的・態様をもってなされた場合,または,

会社における人事権行使の業務上・組織上の必要性の有無・程度,

労働者がその職務・地位にふさわしい能力・適性を有するかどうか,

労働者の受ける不利益の性質・程度などから,

会社に委ねられた裁量権に逸脱がある場合です。

 

 

 

 

もっとも,労働契約上,職位・役職が特定されている場合には,

労働者の同意なくして降格させることはできません。

 

 

人事上の措置として職位・役職が引き下げられ,

それに連動して役職や職位に基づいて

支給される手当(役職手当・職務手当)が減額または不支給となった場合,

賃金の減額については,職位・役職の引き下げの効力を判断する際に,

労働者の受ける不利益の性質・程度として考慮されます。

 

 

職位・役職の引き下げと賃金の減額が連動しない制度と

なっていた場合には,賃金減額が独立して行われたことになるので,

職位・役職の引き下げの効力とは別に,

賃金減額の効力を判断する必要があります。

 

 

賃金減額が,職位・役職の引き下げと独立して行われている場合,

賃金減額が有効になるには,

賃金減額だけの独立した契約上の根拠が必要になります。

 

 

具体的には,賃金減額について,

労働者の同意を得るなどです。

 

 

しかし,職位・役職の引き下げと賃金の減額が連動していない場合に,

会社が降格を賃金減額の理由として主張していれば,

上記の賃金減額だけの独立した契約上の根拠がないことがほとんどです。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

一般先取特権を活用した未払残業代のスピード回収方法

労働者が会社に対して,未払残業代を請求する場合,

まずは,会社にタイムカード等の資料の開示を求めて,

未払残業代を計算し,会社に未払残業代を

請求する旨の文書を送付します。

 

 

会社が素直に残業代を支払ってくれればいいのですが,

会社は,なんだかんだとケチを付けてきて,

そんなに簡単には残業代を支払ってくれないことが多いです。

 

 

そこで,労働者は,会社に対して,

労働審判か裁判を起こして,未払残業代を請求します。

 

 

 

 

裁判で会社が敗けても,会社が残業代を支払わないのであれば,

会社の財産を差押えて回収する強制執行手続にすすみます。

 

 

労働審判の場合は,決着するまでに,申立てから2~4ヶ月,

裁判の場合は,決着するまでに,提訴から約1年以上の時間がかかります。

 

 

このように,裁判は時間がかかるのが難点です。

 

 

ところが,未払残業代を早期に回収する方法があることを

知りましたので,本日は,その方法を紹介します。

 

 

大分共同法律事務所の弁護士の玉木正明先生が担当された,

健康ランドの店長の未払残業代請求事件で,

一般先取特権を活用して,未払残業代をスピード回収したものです。

 

 

先取特権とは,法律で定められた債権を有する者が,

他の債権者に優先して弁済を受ける権利のことです。

 

 

 

 

民法306条2号と民法308条により,

労働者には,会社の財産について,優先的に弁済を受ける

一般先取特権を有しているのです。

 

 

この一般先取特権を利用すれば,

労働審判や裁判という時間がかかる手続をすっ飛ばして,

会社の財産に対する差押えができるのです。

 

 

さらに,会社の言い分を聞かずに,書面による審理で足り,

保証金を積む必要もありませんので,

1ヶ月くらいのスピード回収が見込めるのです。

 

 

もっとも,一般先取特権は,労働者の手持ち証拠だけで,

会社の反論を聞くまでもないと判断できるくらいに,

高度な証明を書面のみで行う必要があるので,

裁判所が認めるのはかなり稀であります。

 

 

そのため,一般先取特権は,あまり利用されていません。

 

 

玉木先生の未払残業代請求事件では,タイムカードがあり,

毎日の始業・終業時刻を,月末に月報でまとめて

会社に提出していたので,残業して働いていたことの

証明があったと認定されたようです。

 

 

タイムカードに漏れなく始業・終業時刻が打刻されていて,

会社がタイムカードをチェックして承認を与えており,

あわせて,給料明細や労働契約書といった証拠がそろっている場合には,

一般先取特権による未払残業代の回収が認められそうです。

 

 

そして,会社のどの財産を差し押さえるかですが,

大きく分けて,不動産,債権,動産の3つがあります。

 

 

不動産の差押えについては,費用が多くかかりますので,

費用対効果の観点で,使い勝手が悪いです。

 

 

会社の預金債権や売掛債権の差押えについては,

これが認められると,会社の銀行や取引先に対する信用がなくなり,

会社の資金繰りがショートして倒産する危険がありますので,

裁判所は,なかなか認めてくれないと考えられます。

 

 

そこで,未払残業代を回収する際に,

差し押さえるのは,現金などの動産が効果的なようです。

 

 

 

玉木先生の未払残業代請求事件では,

健康ランドが閉店する午前9時に,

裁判所の執行官と共に店舗へ乗り込み,

券売機,両替機,レジ,金庫,翌営業日用の釣り銭

全て提出するように促して,現金を回収したようです。

 

 

裁判所の許可があるので,会社は抵抗できません。

 

 

このように,店舗に一定金額の現金がある場合には,

動産執行が効果的なようです。

 

 

一般先取特権を活用すれば,未払残業代を早急に

回収できる可能性があることを知ったので,

証拠が確実にそろっていて,店舗に一定金額の現金が存在するような,

未払残業代請求事件を担当することになった場合,

一般先取特権を利用してみようと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

明石市市長のパワハラ発言~録音の威力~

兵庫県明石市の泉房穂市長が,国道の拡幅事業をめぐり,

建物の立ち退き交渉の担当職員に対して,

暴言をはくパワハラをしたとして,

謝罪したことがニュースになりました。

 

 

 

この事件が発覚したのは,暴言をはかれた担当職員が,

市長の暴言を録音していたからです。

 

 

録音データによると,市長は,

次のような暴言をはいたようです。

 

 

「7年間,何しとってん。ふざけんな。

何もしてないやろ。お金の提示もせんと。あほちゃうかほんまに。」

 

 

「立ち退きさせてこい,お前らで。今日,火つけてこい。

今日,火つけて捕まってこい,お前。燃やしてしまえ。

損害賠償,個人で負え。当たり前じゃ。」

 

 

市長の発言が,新聞に文章として記載されており,

これを読めば,誰が見ても,これはパワハラだと理解できますが,

少し法的に分析してみます。

 

 

パワハラの定義については,これから法律で定められる予定ですが,

労働政策審議会では,次の3つの要素を満たすものを

パワハラと定義しています。

 

 

 

 

①優越的な関係に基づく

 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

 ③労働者の就業環境を害すること

(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

 

①市長は,部下である担当職員に対して,

業務命令を指示しますので,

明らかに優越的な地位にあります。

 

 

②国道の拡幅事業に関するやりとりの中の発言であるものの,

「あほちゃうかほんまに」という発言は,

担当職員の人格を否定するものであり,

「火つけてこい」と犯罪行為を命令し,

「損害賠償,個人で負え」と担当職員が個人では

負担できない責任を負わせようとしていることから,

市長の言動は,業務上必要かつ相当な範囲を超えています。

 

 

③市長からこのような暴言を浴びせられれば,

担当職員は,多大な精神的苦痛を感じ,市長に恐怖を覚え,

過大なストレスによって仕事がすすまなくなります。

 

 

というわけで,市長の発言は,

上記3つの要素を全て満たすので,

パワハラと認定できます。

 

 

今回の市長のパワハラ発言を聞いて,私が感じたのは,

やはりパワハラの立証には録音が重要であるということです。

 

 

市長は,NHKディレクター,弁護士,

旧民主党の衆議院議員を経て,明石市の市長に就任し,

子育て支援に関する政策で市民から好評価を得ていたので,

そのような経歴の方が,上記のような暴言をはくとは,

通常考えがたいことです。

 

 

録音がなければ,「え~,あの市長がそんな暴言をはくはずがない」

と捉えられたかもしれません。

 

 

しかし,市長のパワハラ発言がバッチリ録音されていたので,

市長は,言い逃れができませんでした。

 

 

パワハラ発言の録音がなければ,

「そのような発言をした記憶はございません」や

「厳しく叱責したかもしれませんが,

そのようなひどい発言はしていません」

と言い逃れをされた可能性があります。

 

 

さらに,録音データの場合,発言者の口調や声の大きさ,

声のトーンの全てが記録されて再現できるので,

パワハラの実態がリアルに伝わります。

 

 

 

 

NHKのニュースを視聴したかぎりでは,

市長のパワハラ発言は,ヤクザが脅すように,

語気鋭く,まくしたてるように,激しい口調でなされていたので,

市長の発言を誰が聞いてもパワハラであると判断できるものでした。

 

 

パワハラ発言をメモして,それを証拠にする方法もあるのですが,

パワハラの実態をリアルに証明するためには,

やはり録音するしかないと実感しました。

 

 

言葉の暴力によるパワハラを受けた場合は,

スマホやボイスレコーダーでパワハラ発言を

録音するようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。