自分が源泉

鈴木博氏の「自分が源泉~ビジネスリーダーの生き方が変わる~

という本を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

タイトルとなっている,自分が源泉とは,

すべての結果は自分が創りだしている!という立場をとること」です。

 

 

とても自分が創り出したとは思えないことも含めて,

すべてを自分が創っているとしたら,

という立場で結果と向き合い,結果を受け取るということです。

 

 

例えば,社長が,従業員が自分の言ったとおりに

仕事をしてくれないと考えていたとしたら,

従業員の勤務態度を自分が創っているとしたら,と捉えてみるのです。

 

 

そうすると,自分の指示の仕方があいまいだったから

従業員が動いてくれないのか,日ごろの従業員の働きぶりに

感謝すれば従業員は動いてくれるのか,などと思考が動き出し,

自分の力で解決できるという選択肢が生まれます。

 

 

自分で創った結果は,自分で創りなおせる

と考えられるようになれます。

 

 

すべての結果を自分が創ったという立場を取るということは,

すべての結果への影響力とパワーが自分自身の

手元にあるということなのです。

 

 

このように,自分が源泉で考えると,

結果を前進させるための気づきを得られると考えられます。

 

 

 

 

具体的には,次のステップで思考します。

 

 

まず,結果を「これはこれ」と捉え,

その事実をあるがままに認めます。

 

 

次に,「これは私が創った」という立場をとります。

 

 

最後に,「この結果を持って,ここからどのように行動し,

何を創り出すか」を考えます。

 

 

このように思考することで,次の目標の達成のために

新しく動き出し始めることができます。

 

 

自分が源泉の力を育むためには,「完了」を生きる必要があります。

 

 

「完了」とは,起こっている状況やそのとき感じる自分の思いや

感情に対して,「そのままでいいという許可」を与えることです。

 

 

私達は,過去の出来事や周囲の人の自分への言動などに囚われて,

気づかないうちに,自分の時間がそれらの反応に支配されて,

貴重な時間が使われてしまっています。

 

 

完了とは,自分が囚われていることに気づき,

「今ここ」に集中するということです。

 

 

 

人間は,自我を守るために,失敗しないように行動するので,

周囲で起こることに刺激を受けて,自動的に反応します。

 

 

そのため,人間は,結果がでないと言い訳をしたり,

人のせいにしたがったりします。

 

 

このような反応は,人間である以上仕方がないことであり,

このような反応があってもいいと自分に許可を与えることによって

大きなパワーが生み出されるのです。

 

 

起きた出来事や自分の感情について,

「これはこれでOK」と完了することで,

自分を囚われの状態から自由にして,

集中力を高めることができるのだと思います。

 

 

「自分が源泉」や「今ここ」,「これはこれでOK」

と自分自身の会話をすれば,結果に対する捉え方が変わり,

ストレスが軽減され,より自分の力が発揮される

ことになるのだと考えました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

バイトテロに対する懲戒処分

昨日のブログに引き続き,本日は,

バイトテロに対する懲戒処分について検討します。

 

 

アルバイトの労働者が,ツイッター,インスタグラムなどの

SNSに勤務先の商品(特に食品)や什器を使用して

悪ふざけを行う様子の動画を投稿して,

それが拡散していった場合,会社は,

そのアルバイトを懲戒処分することができるのかという問題です。

 

 

 

 

まず,会社が労働者を懲戒するためには,

就業規則に懲戒の対象となる事由と懲戒処分の種類が定められ,

その就業規則が周知されていなければなりません。

 

 

そのため,会社の就業規則に,労働者が会社の信用を毀損したり,

会社の器物を損壊した場合には,懲戒処分を科すことができるという

規定が存在していなければ,会社は,労働者を

懲戒処分することができないのです。

 

 

次に,懲戒処分の対象とされた労働者の行為が

就業規則所定の懲戒事由に該当し,懲戒処分に

「客観的に合理的な理由」があると認められることが必要です

(労働契約法15条)。

 

 

この要件で問題になるのは,労働者の私生活上の行動を

理由として懲戒処分ができるかというものです。

 

 

労働者は,労働契約により,勤務時間中は

職務に専念する義務を負っていますが,

勤務時間外の時間をどのようにして過ごすかは,

労働者の自由であり,会社は,仕事に無関係な

職場外における労働者の行為を規制することはできないのです。

 

 

そのため,労働者の私生活上の行動は,

原則として会社の規制に服することはなく,

会社の事業活動に直接関連を有するものや,

会社の社会的評価の毀損をもたらすもののみが

例外的に懲戒の対象となるにすぎないのです。

 

 

 

 

そして,懲戒処分が,「労働者の行為の性質及び態様

その他の事情に照らして」,「社会通念上相当であると」

認められる必要があります(労働契約法15条)。

 

 

ようするに,労働者の懲戒該当事由に対して,

懲戒処分が重すぎてはならないということです。

 

 

これを,懲戒処分の相当性の要件といい,

労働者が懲戒処分を争う際には,

相当性の要件でせめるのが効果的です。

 

 

労働者の私生活上の行動に対する懲戒処分については,

厳格に判断される傾向があり,「当該行為の性質,情状のほか,

会社の事業の種類,態様・規模,会社の経済界に占める地位,

経営方針及びその従業員の会社における地位・職種」を総合判断して,

「会社の社会的評価に影響を及ぼす悪影響が相当重大であると

客観的に評価される」ことが要求されます(日本鋼管事件・

最高裁昭和49年3月15日判決・労働判例198号23頁参照)。

 

 

労働者による不適切な動画の投稿が

勤務時間以外の私生活の中で行われた場合,

動画の内容が会社の業務内容に関するものであり,

会社の社会的評価を毀損するものであれば,

懲戒処分は有効となると考えられます。

 

 

とくに,くら寿司やセブンイレブンのバイトテロの場合,

SNSで拡散された上に,テレビなどのマスコミにとりあげられて,

消費者に対して,くら寿司やセブンイレブンが不衛生であるとの

印象を与えて,信用を毀損したといえますので,

懲戒処分は有効になると思います。

 

 

 

 

もっとも,バイトテロに対して最も重い懲戒解雇とした場合,

当該アルバイトに過去に処分歴がなく,

長時間労働やパワハラを受けるなど劣悪な労働環境であったり,

労働者に対するSNSの利用についての教育が杜撰であった

という事情があれば,場合によっては,

懲戒解雇は重すぎるとして無効になる可能性もあると思います。

 

 

懲戒解雇の一つ手前の諭旨解雇に

とどめておいた方が無難のように思います。

 

 

とにかく,バイトテロは,重い懲戒処分を科される

危険がありますので,労働者は,決して,

バイトテロのような行為はしないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

バイトテロに対する損害賠償請求

くら寿司のアルバイト店員が,魚をゴミ箱に捨てた後,

まな板に戻して調理しようとする動画や,

セブンイレブンのアルバイト店員がおでんのしらたきを口に入れて,

その後に出す動画がSNSへ投稿され,大きな問題となりました。

 

 

ウィキペディアによりますと,このように,

主にアルバイトなどの非正規雇用で雇われている

飲食店小売店の従業員が、勤務先の商品(特に食品)や

什器を使用して悪ふざけを行う様子をスマートフォンなどで撮影し、

SNSに投稿して炎上する現象をバイトテロと呼ぶようです。

 

 

 

 

このような動画が拡散されますと,会社のイメージは悪化し,

消費者は,他の店員も同じような不適切な行為を

しているのではないかと疑い,その会社から物を買うことをためらい,

会社の売上が減少するリスクが生じます。

 

 

そこで,くら寿司やセブンイレブンは,再発防止のために,

不適切な動画を投稿した元アルバイト店員に対して,

損害賠償請求をする検討を始めたようです。

 

 

本日は,会社のバイトテロに対する損害賠償請求が

認められるのかという問題について解説します。

 

 

この問題は,会社の労働者に対する

損害賠償請求が認められるかという論点です。

 

 

 

労働者が労働契約に基づく義務に違反して会社に損害を与えた場合,

会社は,労働者に対して,債務不履行に基づく損害賠償請求ができ,

労働者が違法に会社に損害を与えた場合,会社は,労働に対して,

不法行為に基づく損害賠償請求ができます。

 

 

もっとも,会社から労働者に対する損害賠償請求は,

資力に乏しい労働者にとって酷な結果となることから,

会社と労働者の経済力の差や,労働者の活動から利益をえる会社は

そこから生じるリスクも負担すべきという考え方(報償責任といいます)

を考慮し,損害の公平な分担を図るために,

裁判例の多くは,一定の範囲で労働者が負う責任を限定しています。

 

 

まず,労働者に業務遂行上の注意義務違反があっても,

それほど重大なミスとはいえない場合には,

労働者に対する損害賠償請求は発生しないと考えられます。

 

 

次に,労働者に重大なミスがあったとしても,

労働者側の宥恕すべき事情や会社側の責任を考慮して,

労働者が負担すべき損害賠償額が軽減されることがあります。

 

 

茨城石炭商事事件の最高裁昭和51年7月8日判決では,

事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,

労働条件,勤務態度,加害行為の態様,

加害行為の予防若しくは損失の分散についての会社の配慮の程度

その他諸般の事情に照らして」,

労働者の損害賠償額が4分の1に減額されました。

 

 

他方,ミスといえないような,

故意による悪質な行為については,

労働者は,基本的に全額の損害賠償義務

を免れることはできないと考えられます。

 

 

くら寿司やセブンイレブンのバイトテロの場合,

業務妨害罪や器物損壊罪などの犯罪に該当する可能性があり,

故意による悪質な行為であるため,

会社が被った損害の全額を賠償しなければならないと考えられます。

 

 

 

もっとも,アルバイトが非常に劣悪な労働条件のもとで酷使されており,

その腹いせにやってしまったという,労働者側に同情すべき点があったり,

会社のアルバイトに対する教育指導が杜撰であったなどという

事情があれば,場合によっては損害賠償額が

減額される余地があるかもしれません。

 

 

また,バイトテロによって,会社にどれだけの損害が

発生したのかという点も争点になると予想されます。

 

 

仮に,会社が,会社の売上が減少したことを損害だと主張したとしても,

競合他社が自社よりも優れたサービスを提供しだしたので

売上が減少したなどという他の要因があれば,

バイトテロの行為と売上の減少との間に因果関係があるのかが

不明になってくるため,因果関係の証明ができるのか

という問題が生じます。

 

 

バイトテロの裁判が始まれば,損害額が減額されるか,

会社が主張する損害とバイトテロの行為との間に

因果関係が認められるのかに注目したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自己都合退職か会社都合退職かの判断基準とは?

会社を退職する場合,自己都合退職か会社都合退職か

が問題となることがあります。

 

 

 

 

雇用保険の基本手当を受給する際,会社都合退職ですと,

給付制限がなく,自己都合退職の場合よりも,

基本手当の給付日数において優遇されています。

 

 

また,退職金についても,自己都合退職の場合には,

会社都合退職の場合よりも,退職金の支給額を減額する

という退職金規定をもうけている会社も多いです。

 

 

ところが,退職金規定に,自己都合退職については

退職金を減額するという条項があったとしても,

どのような場合に自己都合退職になるのかについて

明確な基準を定めている会社は少ないです。

 

 

とくに,給与の大幅な切り下げを通告されたり,

遠隔地配転を命じられて退職するに至った場合,

労働者としては,会社の都合によって退職を余儀なくされた

と考えるのですが,退職に際して,「一身上の都合により」

などと記載された退職届を提出させられるケースも多く,

退職届を形式的にみると自己都合退職となっているときに

トラブルに発展することがあります。

 

 

それでは,どのような基準をもって

自己都合退職と会社都合退職とを

区別するべきなのでしょうか。

 

 

結論としては,退職に至る具体的事情を

総合的に判断して決することになります。

 

 

すなわち,労働者が勤務を継続することに障害があったか否か,

その障害が使用者,労働者のいずれの責任に帰せられるか,

退職の理由が使用者,労働者いずれの支配領域内で

起きた事情によるものか,労働者の自由な判断を困難にする事情が

使用者側に認められるか,といった諸要素を勘案して,

総合的に判断することになります。

 

 

具体的な事件で検討してみましょう。

 

 

労働者が会社に対して,自己都合退職の退職金と

会社都合退職の退職金との差額,及び,

自己都合退職の雇用保険の基本手当と

会社都合退職の雇用保険の基本手当との差額について,

損害賠償請求して,これが認められたゴムノイナキ事件を紹介します

(大阪地裁平成19年6月15日判決・労働判例957号78頁)。

 

 

この事件の労働者は,顧客からのクレームが多いことから,

会社から退職勧奨を受けて,退職願の届出を催促されて,

会社から言われるがまま,一身上の都合により退職するとの

退職願を作成して,提出しました。

 

 

 

会社が,自己都合退職として退職金を支給し,

雇用保険の手続をしたことから,労働者は,

会社都合退職であるとして争いました。

 

 

判決では,労働者が子供の学費や住宅ローンの状況からすれば,

全く自発的に退職を申し出るとは考えがたいこと,

労働者は自分から退職願を作成して持参したのではなく,

会社主導で作成されたこと,会社が退職願を直ちに受理して,

翻意を促すことも引き留めることも一切していなかったこと,

といった事情を考慮して,労働者の退職は

会社都合退職にあたるとされました。

 

 

その上で,会社都合退職として処理すべきところを,

自己都合退職によるものとして退職金を計算し,

離職票を作成するなどの事務手続を行ったとうい限度で,

会社に過失があったとして,会社の行為は不法行為にあたるとされました。

 

 

結果として,労働者には,退職金の差額116万円と

雇用保険の基本手当の差額159万12000円

の請求が認められたのです。

 

 

このように,一身上の都合により退職するという

退職届を会社に提出していたとしても,

退職に至る経緯を検討すれば,会社都合退職になる可能性があり,

そうなれば,会社都合退職と自己都合退職における退職金と

雇用保険の基本手当の差額を請求できる可能性があるのです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社の承諾がないと退職金を請求できないのか?

パワハラを受けたり,長時間労働が原因で,

これ以上会社で働くことはしんどいと思い,

退職届を提出して,会社を退職しました。

 

 

 

 

会社を退職した後,退職金を請求したところ,

会社から,退職金規定には,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないと記載されているので,

退職金を支払わないと言われたとします。

 

 

労働者としては,会社に対して,きちんと理由を説明して,

退職届を提出しており,会社の承諾をもらって退職しないと

退職金をもらえないのでは,パワハラを受けたり,

長時間労働を強いられる職場に拘束させられてしまうので,

納得できません。

 

 

退職金規定に,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないという記載がある場合,

会社から退職について承諾していないと言われたら,

労働者は,退職金を請求できないのでしょうか。

 

 

 

 

まず,会社に退職金規定があり,

退職金の支給基準が明確に定められている場合,

労働者は,会社に対して,退職金を請求することができます。

 

 

逆に言えば,会社に退職金規定などの退職金の根拠となる規定が

なにもない場合には,労働者は,会社に対して,

退職金を請求することはできません。

 

 

退職金規定に退職金の支払時期が定められていない場合,

会社は,労働者の退職金の請求から7日以内に

退職金を支払わなければなりません(労働基準法23条1項)。

 

 

会社が労働者の請求から7日以内に退職金を支払わない場合,

労働者は,退職金の請求から7日経過後に,

会社に対し,遅延損害金を請求できます。

 

 

次に,正社員の労働者は,退職届を提出して2週間経過すれば,

いつでも辞めれますし,2週間について,

年次有給休暇を取得すれば,会社に出勤することなく,

会社を辞めることができるのです。

 

 

すなわち,労働者には退職の自由が認められているのです。

 

 

そうであれば,会社が退職を承諾しない限り,

労働者が退職金を全く受領できないという制度では,

労働者は,労働契約の継続を望まないのであれば,

退職金受給を全て断念しなければらないということになり,

退職金の受給を望むのであれば,不本意にも労働契約を

継続しなければならないという不合理な結果になります。

 

 

 

そのため,会社の承諾なく退職した者については,

退職金を支給しないという規定は,

労働者の退職の自由を不当に制限しており,無効となります

(東花園事件・東京地裁昭和52年12月21日判決・

労働判例290号35頁参照)。

 

 

よって,労働者は,会社から,会社の承諾なく退職しているので

退職金を支払わないと言われても,ひるむことなく,

会社に対して,退職金の全額と遅延損害金を請求するべきです。

 

 

退職金を請求する際には,会社の退職金規定を入手して,

計算根拠や,不支給や減額の条項があるかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

未払残業代請求の消滅時効を中断するには

未払残業代請求の相談を受けた場合,

弁護士がまず検討すべきは,

消滅時効を中断することです。

 

 

2019年2月13日時点では,労働基準法115条により,

未払残業代請求権の消滅時効は2年となっております

(将来,労働基準法の改正によって

未払残業代請求権の消滅時効が5年になる可能性があります)。

 

 

 

 

未払残業代は,何もしないで放って置くと2年で消えてしまうのです。

 

 

例えば,給料が20日締めの当月末日払いの場合,

本日2019年2月13日時点であれば,

2017年2月分から2019年2月分までの

2年間分の未払残業代を請求できます。

 

 

しかし,2019年2月28日の給料支払日を経過して,

2019年3月1日以降になってしまえば,

2017年2月分の未払残業代請求権は消滅時効にかかり,

請求できなくなり,2017年3月分以降の

未払残業代しか請求できないのです。

 

 

そこで,消滅時効を止める必要があるのです。

 

 

消滅時効を止めることを,時効を中断するといいます

(民法改正により,時効の完成の猶予となります)。

 

 

未払残業代請求で,時効を中断するには,

労働者は,会社に対して,未払残業代を請求するように催告をして,

6ヶ月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起をすればいいのです。

 

 

消滅時効を中断するための催告については,

未払残業代を請求する意思表示を明確に会社に知らせるために,

配達証明付内容証明郵便で通知するのが一般的です。

 

 

 

もっとも,内容証明郵便では,相手方が受け取らなかったり,

時間的な猶予がない場合には,特定記録郵便か,

送信リポート付きでファックス送信することもあります。

 

 

では,消滅時効を中断するための催告には,

どのようなことを書く必要があるのでしょうか。

 

 

昨日のブログで紹介したPMKメディカルラボ事件においては,

会社が,原告の通知には,請求金額やその内訳,

未払賃金の期間などが記載されていないとして,

消滅時効を中断するための催告にはあたらないと主張していました。

 

 

PMKメディカルラボ事件の東京地裁平成30年4月18日判決では,

催告とは,「債務者に対し履行を求める,債権者の意思の通知であり,

当該債権を特定して行うことが必要である」と定義し,

「債権の内容を詳細に述べて請求する必要はなく,

債務者においてどの債権を請求する趣旨か分かる程度に

特定されていれば足りる」と判断されました。

 

 

そして,原告の通知には,「賃金の未払いについて

(1)早出,休憩未取得,残業,休日出勤等に対して,

未払いである賃金を支払うこと。」という記載があり,

「資料提出について (2)過去2年間分の労働時間記録,

給料明細書のコピーを書面にて提出すること」と記載されていることから,

原告が会社に対して,原告の在籍期間のうち,

通知からさかのぼって2年間の時間外労働に対する

未払残業代の請求をしていると認められるとして,

催告にあたり,消滅時効の中断が認められました。

 

 

また,日本セキュリティシステム事件の

長野地裁佐久支部平成11年7月14日判決では

(労働判例770号98頁),

未払残業代を計算するのに必要な賃金台帳やタイムカードは

会社が所持しており,労働者が容易に計算できないことから,

消滅時効の中断の催告としては,

具体的な金額及びその内訳について明示することまで

要求するのは酷に過ぎ,請求者を明示し,

債権の種類と支払期を特定して請求すれば,

時効中断のための催告としては十分である」と判断されました。

 

 

よって,消滅時効を中断するための催告としては,

「~年~月から~年~月までの残業代を含む全ての

未払い賃金を請求します。」と記載して,

会社に通知すればいいのです。

 

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業代計算の基礎賃金に含まれる賃金とは?

労働者が未払残業代を請求する場合,

残業代を計算しなければなりません。

 

 

残業代の計算方法は,次のとおりです。

 

 

 

 

残業代=時間単価×残業した時間×割増率

 

 

このうち,時間単価は次のようにして計算します。

 

 

時間単価=月によって定められた賃金÷月平均所定労働時間

 

 

賃金にはどこまでが含まれるのか,

月平均所定労働時間をどうやって計算するのか,

残業した時間をどうやって特定するか,

割増率が時間外労働,深夜労働,休日労働で異なっていることから,

はっきり言って,残業代の計算は面倒です。

 

 

残業代の計算は面倒なのですが,

会社に対して残業代を請求するには,

これらのことに対応していかなければなりません。

 

 

本日は,残業代請求における時間単価を計算するための

基礎となる賃金にはどこまでが含まれるのかについて解説します。

 

 

これは,給料明細に記載されている賃金の各項目のうち,

どこまでが基礎賃金に含まれて,

どれが除外されるのかという問題です。

 

 

 

まず,労働基準法37条5項,労働基準法施行規則21条において,

基礎賃金から除外されるものが記載されています。

 

 

①家族手当

 ②通勤手当

 ③別居手当

 ④子女教育手当

 ⑤住宅手当

 ⑥臨時に支払われた賃金(結婚手当など)

 ⑦一ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)

 

 

個人的事情に応じて支払われ,

労働の内容や量との関連性が弱い賃金,

または,計算技術上算定が困難である賃金について,

基礎賃金から除外することにしているのです。

 

 

この7つの除外賃金に該当するか否かは,

その名称によらずに,実質的に判断されます。

 

 

例えば,⑤住宅手当ですが,基礎賃金から除外されるのは,

住宅に要する費用に応じて算定される手当のことです。

 

 

 

 

名称は住宅手当であっても,実際には,

住宅の形態ごとに一律に定額で支給することとされているもの,

住宅以外の要素に応じて定率または定額で支給するとされているもの,

全員に一律に定額で支給されているものは除外されません。

 

 

昨日のブログで紹介したPMKメディカルラボ事件では,

住宅手当が除外賃金にあたるかも争われたのですが,

この事件の住宅手当は,労働者が親族から家賃補助を受けておらず,

自分名義で契約したアパートに居住している場合に,

労働者の住宅が存在する地域や最寄り駅からの距離に応じて

支給されていることから,住宅手当は除外賃金にあたるとされました。

 

 

また,PMKメディカルラボ事件では,業績給が

⑥臨時に支払われた賃金にあたるかについても争われました。

 

 

⑥臨時に支払われた賃金とは,

支給条件が確定されているのですが,

支給事由の発生が労働と直接関係のない個人的な事情により

まれに生ずる賃金をいいます。

 

 

PMKメディカルラボ事件の業績給は,

店舗ごとの売上目標を達成するという条件が成就した場合に

支給されていたので,支給事由の発生が不確実なものといえ,

⑥臨時に支払われた賃金といえ,除外賃金にあたるとされました。

 

 

PMKメディカルラボ事件では,住宅手当と業績給は

除外賃金にあたるとされましたが,手当の名称にとらわれずに,

手当の支給実績などを検討すると,実質的には除外賃金にあたらず,

基礎賃金にふくめられるときもあります。

 

 

そのため,労働者は,未払残業代を計算するときには,

給料明細に記載されている各手当がどのような支給基準に基づいて,

実際に支給されているのかをチェックするべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

就業規則の周知とは?

昨日に引き続き,PMKメディカルラボ事件から

(東京地裁平成30年4月18日判決・労働判例1190号39頁),

就業規則の周知について解説していきます。

 

 

まず,労働契約法7条により,合理的な労働条件が定められている

就業規則が労働契約締結時点ですでに存在し,

会社がそれを労働者に周知させていた場合には,労働契約の内容は,

その就業規則で定める労働条件によることになります。

 

 

 

 

労働条件通知書や労働契約書がなくても,

就業規則によって,労働契約の内容が決められるのです。

 

 

就業規則に記載されている労働条件が,

労働契約の内容になるためには,

就業規則が労働者に周知されていなければなりません。

 

 

ここでいう周知とは,実質的に見て事業場の労働者集団に対して

当該就業規則の内容を知りうる状態に置いていたことをいい,

実際に,労働者が就業規則を見る必要はないのです。

 

 

それでは,会社が,どのようなことをしていれば,

就業規則を実質的に周知したといえるのでしょうか。

 

 

 

PMKメディカルラボ事件では,会社は,毎年1回,

労働者1名に就業規則を閲覧してもらい,

承諾書に署名押印してもらっていました。

 

 

その承諾書には,「私は貴社の従業員として勤務するにあたり,

就業規則や賃金規定が所定の場所(本社)にあり,

いつでも本社内で閲覧ができ,要請があれば

各店舗に郵送できる状態にあることを確認しました。」

と記載されていました。

 

 

しかし,承諾書に署名押印する労働者を

どのように選任したのか不明であり,

承諾書に署名押印した労働者が,

各店舗の店長や労働者に対して,

どのように周知するのかが不明でした。

 

 

PMKメディカルラボ事件では,

本店の総務部に就業規則は備え置かれていましたが,

各店舗には備え置かれておらず,各店舗の店長に申し出れば,

いつでも就業規則を閲覧することができる取扱になっていたようですが,

原告は,店長からこの取扱について説明を受けておらす,

就業規則の存在も知らない上に,実際にこの取扱のとおりに,

就業規則を各店舗に郵送して閲覧された実績がないことから,

この取扱によって就業規則の周知があったとはいえませんでした。

 

 

その結果,就業規則に記載された労働条件は,

労働契約の内容にならないため,

会社が主張する固定残業代は認められず,

労働者の未払残業代請求が認められたのです。

 

 

会社が就業規則をどのように周知させていたかについては,

労働者が把握しにくいところです。

 

 

 

 

労働者が就業規則を見たことがなかったとしても,

会社から,実はここにいつでも閲覧できるようにしてありましたよ

と言われれば,労働者としては,過去にその場所を探したけれども

就業規則はなかったことを証明するのは難しいと考えます。

 

 

このように,就業規則が周知されていたかが争われるのが珍しい中,

PMKメディカルラボ事件では,

各店舗に就業規則が備え置かれていないことに争いがなく,

上記の取扱についての説明がなく,実績がなかったことから,

就業規則の周知が否定された貴重な裁判例です。

 

 

労働基準法施行規則52条の2によれば,

就業規則の周知方法の1つとして,

常時各作業場の見やすい場所へ掲示し,又は備え付けること

と記載されています。

 

 

そこで,本店には就業規則が備え置かれているけど,

支店には就業規則が備え置かれていない場合には,

就業規則の周知がされていないとして,

争うことが十分に可能なのだと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働契約の内容はどうやって決まるのか

長時間労働をしているにもかかわらず,

残業代が支払われないことから,労働者が,

会社に対して,未払残業代を請求しました。

 

 

すると,会社からは,会社説明会や入社説明会で,

うちは固定残業代を採用しているという説明をしているし,

就業規則や賃金規定にも固定残業代のことが規定されているから,

残業代は支払わなくていいのだという説明をされたとします。

 

 

固定残業代とは,残業代が,すでに給料の中に組み込まれていたり,

別の手当として支給されているものであり,これが適法に認められると,

残業代はすでに支払い済みとなってしまいます。

 

 

 

 

労働者は,入社する前に固定残業代のことを聞いた覚えもなく,

就業規則を見たことがなく,納得できません。

 

 

ここでは,入社のときに,どの程度の説明があれば,

労働契約の内容となるのか,

就業規則が周知されていたのかが問題となります。

 

 

本日は,これらの問題点が争われた

PMKメディカルラボ事件を紹介します

(東京地裁平成30年4月18日判決・労働判例1190号39頁)。

 

 

この事件では,エステティシャンの原告が

会社に未払残業代を請求したところ,会社は,

会社説明会や入社説明会で固定残業代について説明しており,

固定残業代は労働契約の内容になっていたと主張してきました。

 

 

 

 

しかし,原告が,会社説明会での会社からの説明をメモしており,

そのメモには,固定残業代についての記載がなく,

原告が保管していた入社説明会で配布された資料にも

固定残業代についての説明が記載されていませんでした。

 

 

さらに,会社は,労働条件通知書や労働契約書を作成しておらず,

原告が退職するころに,ホームページの採用情報に

固定残業代の説明を掲載しました。

 

 

これらの事実関係から,原告が入社するときに,

固定残業代の説明がされておらず,

固定残業代が契約の内容になっていないと判断されました。

 

 

労働基準法15条1項において,会社は,

労働契約を締結する際に,労働者に対して,

労働条件を明示しなければならず,通常は,

労働条件通知書や労働契約書に記載されている内容が,

労働契約の内容になることがほとんどです。

 

 

ところが,労働条件通知書や労働契約書が作成されておらず,

どのような労働契約の内容だったのかが争点になることがあり,

その際には,会社説明会や入社説明会における説明内容や資料が

重要な証拠になります。

 

 

また,求人票も,労働契約の内容を見極める上で,

貴重な証拠となります。

 

 

 

 

労働者は,入社したときに,労働条件通知書や労働契約書を

もらえなかった場合,後日のトラブルに備えて,

会社説明会や入社説明会の資料やメモ,求人票

などの証拠を確保しておくといいでしょう。

 

 

長くなりましたので,就業規則の周知については,明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

企画業務型裁量労働制の争い方3~労働者の同意を活用する~

昨日のブログでは,企画業務型裁量労働制の

手続的要件を争うポイントとして,

労使委員会の設置や決議について解説しました。

 

 

本日は,昨日に引き続き,企画業務型裁量労働制の争い方のうち,

手続的要件を争う方法の続きについて説明します。

 

 

 

 

昨日も述べましたが,労使委員会は,

次の7つの項目について決議します。

 

 

①対象業務

 ②対象労働者の範囲

 ③1日のみなし労働時間

 ④健康及び福祉確保措置

 ⑤苦情処理措置

 ⑥労働者の同意を要すること,不同意労働者への不利益取扱の禁止

 ⑦決議有効期間,記録保存期間

 

 

このうち,特に重要なのが,③1日のみなし労働時間です。

 

 

例えば,毎日11時間ほど残業しているにもかかわらず,

1日のみなし労働時間が8時間とされてしまえば,

企画業務型裁量労働制が導入されていないのであれば,

8時間を超える3時間分の残業代を請求できるのですが,

この3時間分の残業代を請求できなくなってしまいます。

 

 

そのため,労働者が長時間労働をしているのに,

みなし労働時間が実態の労働時間よりも短く設定されてしまうと,

労働者は,残業代を減額されてしまうのです。

 

 

労使委員会では,対象業務の内容を十分検討するとともに,

対象労働者に適用される評価制度及び賃金制度について,

会社から十分な説明を受け,みなし労働時間が,

実態に見合った水準になるように決議する必要があります。

 

 

裁量労働制は,実際の労働時間のいかんにかかわらず,

一定の時間労働したものとみなされるので,

会社が残業代削減,残業隠しのために濫用する危険があります。

 

 

労働者が過大な目標を背負わされてしまい,

目標を達成するために,長時間労働を強いられてしまい,

肉体的・精神的ストレスによる身体の不調が生じ,

最悪の場合には,過労死や過労自殺に追い込まれる危険があります。

 

 

 

 

会社には,裁量労働制のもとでも,

労働者に対する安全配慮義務を負っていることから,

タイムカードなどによって実際の労働時間を把握し,

業務の目標などの基本的事項を適切に設定することが求められます。

 

 

次に,⑥労働者の同意を要すること,

不同意労働者への不利益取扱の禁止について,説明します。

 

 

労働者の同意は,労働者にとって強力な武器です。

 

 

労働者は,企画業務型裁量労働制の適用について,

個別具体的な同意をしなければ,

企画業務型裁量労働制を適用されないのです。

 

 

すなわち,労働者は,企画業務型裁量労働制の適用に対して,

自由に諾否を選択・決定できるのです。

 

 

この同意は,就業規則や入社時の労働契約書の条項などの

事前の包括的な同意ではだめで,

企画業務型裁量労働制を適用するタイミングで,

労働者から個別に取得する必要があります。

 

 

労働者が,企画業務型裁量労働制の適用に同意しなかったとしても,

会社は,そのことを理由に,同意をしなかった労働者に対して,

解雇・配転・降格などの不利益な取扱をすることが禁止されています。

 

 

さらに,労働者が,一度,企画業務型裁量労働制の適用に

同意しても,後から撤回することができます。

 

 

 

 

そのため,労働者としては,残業代が少なくなる上に,

長時間労働をさせられるのは嫌だと思えば,

企画業務型裁量労働制の適用に同意しなければよく,

一度,同意しても,後から同意を撤回すれば,

企画業務型裁量労働制が適用されない,

普通の働き方に戻ることができるのです。

 

 

以上,3回にわたって企画業務型裁量労働制について

解説してきましたが,企画業務型裁量労働制は,

労働基準法において要件が厳格に制限されていて,

大企業でも違法に適用していることもあるので,

労働者は,企画業務型裁量労働制が労働基準法の

要件をちゃんと満たしているのかをチェックし,また,

企画業務型裁量労働制の適用について,同意しなかったり,

同意を撤回することで,適用を免れることができます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。