同一労働同一賃金の法改正

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

本日は,同一労働同一賃金について説明します。

 

 

パートや契約社員,派遣社員といった

非正規雇用労働者の賃金は,正社員に比べて低い水準にあります。

 

 

少し古い統計ですが,平成24年の賃金構造基本統計調査によれば,

非正規雇用労働者の平均賃金は,

正社員の平均賃金の約6割くらいの水準のようです。

 

 

(日弁連の「あなたの暮らしも危ない?誰が得する?生活保護基準切り下げ(労働編)のチラシより抜粋)

 

 

正社員と非正規雇用労働者の仕事の内容が異なり,

正社員の方が,より難しい仕事をしているのであれば,

賃金に差が生じてもしょうがないと思えるのですが,

正社員と非正規雇用労働者の仕事の内容が同じであるにもかかわらず,

賃金に差が生じているのでは,非正規雇用労働者は納得できません。

 

 

そこで,非正規雇用労働者の待遇改善を図るために,

正社員との不合理な待遇差を是正するのが

同一労働同一賃金の法改正です。

 

 

同一労働同一賃金とは,読んだとおり,

同じ仕事なら同じ賃金が支払われるべきということで,

不合理な賃金格差をなくすことにつながります。

 

 

 

具体的に,どのような賃金格差が違法になるかは,

今後,厚生労働省がガイドラインで定めるのですが,

2016年12月に公表されたガイドラインでは,

次のように定められています。

 

 

すなわち,通勤手当,皆勤手当といった手当や,

食堂の利用といった福利厚生については,

原則として待遇格差は認められません。

 

 

正社員も非正規雇用労働者も,

自宅から会社まで通勤するのは同じですし,

皆勤については,正社員も非正規雇用も変わりませんし,

正社員だから食堂が利用できて,

非正規雇用労働者だから食堂が利用できないのは不合理ですよね。

 

 

他方,基本給が,職業経験や能力,業績や成果,

勤続年数などの差に応じて支給される場合や,

賞与が,業績などへの貢献度に応じて支給される場合には,

待遇差は認められにくいです。

 

 

この待遇差については,仕事の内容を判断の基本にするべきであり,

一般的な異動の可能性や長期雇用のための動機づけ

といった会社の主観的な要素で判断されることが

ないようにする必要があります。

 

 

このような理由で待遇差を安易に許せば,

正社員と非正規雇用労働者の格差の解消が

図れなくなってしまうからです。

 

 

他にも,会社は,非正規雇用労働者から求めがあれば,

正社員と非正規雇用労働者との間の待遇差の内容や

その理由を説明しなければならない義務が生じます。

 

 

非正規雇用労働者は,正社員との待遇差に納得できない場合,

会社に説明を求め,その理由に納得できなければ,

是正を求めていくことになります。

 

 

 

同一労働同一賃金の法改正は,

大企業は2020年4月から,

中小企業は2021年4月から施行されます。

 

 

なお,NTTグループでは,

正社員と非正規雇用労働者の間で

待遇差があった福利厚生制度を見直し,

正社員の制度に一本化したようです。

 

 

その結果,非正規雇用労働者は,

定期健康診断の受診項目が増え,

提携するフィットネスクラブやレジャー施設を

割安で使えるようになったようです。

 

 

今後は,NTTグループのような取り組みが

他の会社にも広がり,正社員と非正規雇用労働者の格差が

是正されていくことが期待されます。

残業時間の上限規制とは

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

高度プロフェッショナル制度については,

これまで解説をしてきましたので,これからは,

その他の改正部分について解説します。

 

 

まずは,残条時間の上限規制です。

 

 

 

労働基準法が定める労働時間は,

1日8時間,週40時間が原則です。

 

 

これを超えて働かせることは違法なのですが,

36協定を締結すれば,1日8時間以上,

週40時間以上働かせても問題はなかったのが

これまでの労働基準法でした。

 

 

今回の法改正で,この原則に対する例外として,

残業時間の上限が1ヶ月45時間及び

1年について360時間となりました。

 

 

さらに,例外の例外で,

「当該事業場における通常予見することのできない

業務量の増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて

労働させる必要がある場合」には,

1年間に6ヶ月以内なら,

1ヶ月の時間外労働が45時間を超えても,

年間上限720時間以内であれば違法になりません。

 

 

もっとも,この例外の例外には,

休日労働は含まれていません。

 

 

休日労働を含めた場合は,

1ヶ月100時間未満,

2~6ヶ月の平均80時間未満が,

休日労働を含んだ残業時間の上限となります。

 

 

そして,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合,

企業には,6ヶ月以下の懲役若しくは

30万円以下の罰金の刑罰が科されます。

 

 

例外の例外があったり,休日労働を含めるか含めないか

という複雑な構造になっていますが,ようするに,

休日労働を含む残業時間が,1ヶ月100時間を超えるか,

または,2~6ヶ月の平均80時間を超える場合に,

企業に刑罰が科せられると覚えておけばいいと考えます。

 

 

労働者としては,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合には,

労働基準監督署へ相談にいけば,

労働基準監督署が会社に対して,

監督指導する可能性があります。

 

 

この残業時間の上限規制は,大企業であれば,2019年4月から,

中小企業であれば,2020年4月から適用されるので,

労働者を働かせすぎている会社は気をつけた方がいいでしょう。

 

 

もっとも,この残業時間の上限規制は,

建設業や運送業,医師については,5年間,

適用が猶予されていますし,

新技術や新商品などの研究開発業務については,

適用がはずされています。

 

 

これまでは,残業時間の上限がなかったので,

際限なく働かせることも可能でしたが,今回の法改正で,

働かせすぎを予防する規制ができました。

 

 

 

 

しかし,残業時間の上限が,

1ヶ月100時間未満,2~6ヶ月の平均80時間未満という,

過労死や過労自殺ラインに設定されているので,

過労死や過労自殺に至るまで働かせることを

容認することになりかねないので,今後は,

残業時間の上限時間を段階的に少なくしていくことが求められます。

 

労働基準監督官は高プロを取り締まれない?

昨日に引き続き,6月29日に成立した

高度プロフェッショナル制度(通称,「高プロ」といいます)

に抗議する意味を込めて,高プロの問題点を指摘します。

 

 

今回の高プロの問題点は,

労働基準監督署の労働基準監督官が,企業に対して,

長時間労働の監督指導をできないということです。

 

 

 

 

労働基準法に定められている労働時間規制によって,

労働者は,企業から働かされ過ぎないように保護されています。

 

 

具体的には,企業は,労働者を

1日8時間以上働かせてはいけなくて,

これに違反した場合には,

残業代を支払わなければなりません。

 

 

労働基準法は,企業に残業代を支払わせることで,

長時間労働を抑制して,労働者の働き過ぎを

予防しようとしているのです。

 

 

そして,労働基準監督官は,残業代を支払わずに

長時間労働をさせている企業があれば,監督指導を行います。

 

 

しかし,高プロが適用されれば,

この労働時間規制がはずされるため,

残業代ゼロで24時間働かせても合法になり,

労働基準監督官は,高プロが適用されている

労働者の長時間労働について,

企業に監督指導ができなくなります。

 

 

また,企業は,高プロが適用されている労働者の

労働時間を管理する必要がないので,

高プロが適用されている労働者の労働時間

についての記録が残らなくなります

 

 

 

 

労働時間の記録が残らないため,労働基準監督官が,

高プロが適用されている労働者がどれだけ働いていたのかを

証明することができないので,監督指導が困難になります。

 

 

さらに,高プロが適用されている労働者が,

本当に高プロの対象業務を行っているのか,

いつ働くかの裁量を本当にもっているかについて,

法律の概念が抽象的なので,労働基準監督官が,

高プロが適法に運用されているのかを調査するには,

時間と手間がかかり,やはり,監督指導が困難になります。

 

 

例えるなら,穴の空いた網で魚を捕まえようとするようなものです。

 

 

 

 

 

労働基準監督官を増やせば,高プロ違反を

取り締まることができるという意見もありますが,

労働基準監督官を増やしても,高プロ違反の摘発は困難なのです。

 

 

なお,公務員の人員削減が進んでいる中で,

地方労働行政の職員が,労働基準法違反を監督指導する

労働基準監督官に移されている結果,

労災を担当する職員が減少し,労災の認定が遅くなっている

というひずみも生じているようです。

 

 

このように,違法に高プロが適用されていたとしても,

労働基準監督官が違法に高プロを適用している企業を

監督指導することが困難ですので,企業は,

残業代ゼロで労働者を長時間働かせてしまい,

過労死が増えるのは目に見えています。

 

 

取締が困難で,過労死を助長する高プロは,廃止するべきです。

 

高度プロフェッショナル制度の成立に抗う

平成30年6月29日,残念ながら,

高度プロフェッショナル制度(通称,「高プロ」といいます)

を含む働き方改革関連法案が参議院で

可決されて,成立してしまいました。

 

 

これまで,何度もブログで,

高プロの危険性やおかしな点を指摘してきましたが,

抗議の意味を込めて,改めて,

高プロの問題点について解説します。

 

 

まず一番の問題点は,高プロが適用されれば,

労働時間の規制がはずされるので,

残業代ゼロで24時間働かせることが合法になり,

長時間労働が蔓延して,過労死を助長させます。

 

 

 

 

高プロに賛成する立場の人は,高プロを導入すれば,

労働生産性が向上すると主張しています。

 

 

しかし,高プロによって,長時間労働が蔓延することで,

かえって労働生産性がおちる結果になると考えられます。

 

 

また,先日のブログに記載しましたが,

労働者は,当然,高プロを求めていないのですが,

経営側にも高プロのニーズがあまりありません。

 

 

6月26日の参院厚生労働委員会において,安倍首相は,

適用を望む企業や従業員が多いから導入するのではない

と答弁をしました。

 

 

労働者側にも経営者側にもニーズがないのに,

なぜ高プロを導入するのか,全く理解できません。

 

 

必要がない上に,過労死を助長するマイナスが多いのであるから,

高プロは当然に廃案にすべきだったのです。

 

 

また,高プロの適用対象となる職種ですが,

高度の専門的知識を必要とする業務で,

具体的には,金融商品の開発業務やアナリストの業務,

コンサルタント業務,研究開発業務などが

対象になると言われていますが,

まだ明確には定まっていません。

 

 

高プロの対象業務については,省令に委ねられています

 

 

これは何を意味するかというと,厚生労働省が,

国会の審議を経ることなく,高プロの対象業務を

拡大することができてしまうのです。

 

 

これまで,専門業務型裁量労働制や労働者派遣

の対象業務が省令で拡大されてきた前例がありますから,

高プロも同じように対象業務が拡大されることが予想されます。

 

 

小さく産んで大きく育てるというものです。

 

 

 

労働者は,知らないうちに,自分の仕事が省令によって

高プロの対象業務に含まれていて,

会社から高プロの導入を求められるリスクがあるのです。

 

 

高プロが成立してしまいましたが,法案審議の中で,

様々な欠陥が明らかになったので,改めて,抗議し,

高プロを速やかに廃案にすべきと考えます。

 

定年退職後に30~40%も賃金が減額されても合法なのか?

正社員と非正規雇用労働者との労働条件の格差が,

労働契約法20条に違反するかが争われている

事件が増えています。

 

 

労働契約法20条では,

正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

 

 

 

仕事内容が同じなのに,正社員ではないというだけで,

非正規雇用労働者の賃金が低いのはおかしいと考える

非正規雇用労働者が増えているのかもしれません。

 

 

本日は,定年後再雇用された労働者が,

定年前の賃金から30~40%ほど減額されたことについて,

労働契約法20条に違反しているとして,

定年前との差額賃金を請求した学究社事件

(東京地裁立川支部平成30年1月29日判決・

労働判例1176号・5頁)を紹介します。

 

 

原告の労働者は,被告が経営している進学塾の

正社員の講師をしていて,定年退職しました。

 

 

 

原告が定年退職した後,被告との間で,再雇用契約について,

労働条件の交渉が行われましたが,

被告から定年退職後の賃金が定年退職前の賃金の

30~40%削減された額になるとの労働条件を提示されて,

原告は,再雇用契約書にサインをしませんでしたが,

再雇用後の労働の対価として,定年退職前の賃金から

30~40%削減された金額が支給されていました。

 

 

原告は,定年退職の前後で,

仕事内容が変わっていないのに,

賃金が30~40%減額されたことが不合理であるとして,

労働契約法20条違反を訴えましたが,

判決では,労働契約法20条違反は認められませんでした。

 

 

労働契約法20条違反が認められるためには,

定年退職の前と後の仕事内容や責任がほぼ同じ

であることが前提になります。

 

 

本件では,原告の定年退職の前と後の仕事内容や

責任が異なると判断されたのです。

 

 

具体的には,原告は,定年退職前には,授業以外にも,

生徒・保護者への対応や研修が義務付けられていたのに対して,

定年退職後には,基本的には授業のみを行い,

生徒・保護者への対応は上司からの指示がある

例外的な場合に限られていました。

 

 

そのため,定年退職の前後で,

仕事の内容や責任の程度に差があり,また,

定年退職後に賃金が下がることは一般的に

どの会社でも実施されていることでもあり,

不合理ではないとして,労働契約法20条違反

ではないと判断されました。

 

 

とはいえ,定年退職後に賃金が30~40%も

減額されたのでは,労働者のモチベーションが下がりますし,

なかなか納得いかないはずです。

 

 

定年退職後に大幅な賃金減額がされるケースでは,

どこまでの減額幅なら許容されるのかが,

まだまだ不明ですので,今後の労働契約法20条

に関する裁判例の動向をチェックしていく必要があります。

医療現場の働き方改革

現在,働き方改革関連法案が参議院で審議されており,

今週が山場になる見通しです。

 

 

働き方改革が世の中で叫ばれていることから,

新潟市民病院における働き方改革について紹介します。

 

 

平成28年1月,新潟市民病院の女性研修医が自殺しました。

 

 

自殺した女性研修医は,月平均の時間外労働が約187時間,

最も多い月では251時間に達していました。

 

 

過労自殺の場合,精神疾患が発症する前6ヶ月間

の時間外労働が100時間を超えると,

強い心理的負荷があったとして,労災認定されます。

 

 

 

 

自殺した女性研修医は,100時間を大幅に超える

時間外労働をしていたことから,過労自殺が労災認定

されたのだと考えられます。

 

 

この過労自殺の労災認定を受けて,

新潟市民病院は,平成29年6月に

緊急対応宣言を発表しました。

 

 

緊急対応宣言には,市民に対して,

休日や夜間に緊急ではない受診を控えてほしいことや,

軽症だと思うけれども心配な場合にまずは

電話で相談してほしいことが記載されています。

 

 

また,外来受診について,一般外来の新規患者の場合,

まずはかかりつけ医を受診して,それでも治らないときに

紹介状をもってきてもらうという対応に変わりました。

 

 

その結果,救急搬送が前年と比べて6%減少し,

周辺の病院が協力して,救急患者を受け入れてくれたようです。

 

 

 

また,電子カルテの新システムや

病院の出入口で入退館を自働で記録することで

医師の労働時間を把握するようになりました。

 

 

平成29年1月に,厚生労働省のガイドラインにおいて,

会社は,労働者の労働時間を適正に把握する責務があるとされました。

 

 

具体的には,会社は,タイムカードやパソコンの使用時間

の記録などの客観的な記録を確認して,労働者の労働日ごとの

始業時刻と終業時刻を適正に記録しなければなりません。

 

 

会社が労働者の労働時間を適正に把握すれば,

労働者が働き過ぎの状態であるかが分かりますので,

会社は,労働者に対して,労働時間を少なくするように

指導することができます。

 

 

労働者自身も,労働時間を把握していないと,

ついつい働き過ぎてしまい,

健康を害するおそれがあります。

 

 

労働者の健康を守るためにも,労働時間を把握することは重要です。

 

 

医師の労働時間を病院が把握することで,

働き過ぎの医師に休むように指導することができるようになります。

 

 

さらに,新潟市民病院では,

複数の医師で患者を担当する複数主治医制を導入したようです。

 

 

患者を複数で担当することで,

緊急時の対応を一人の医師だけでなく,

他の医師も対応できることで,

休みを確保しやすくなるのだと思います。

 

 

医師が働き過ぎで健康を害せば,

医師の治療を求める患者にとって,とてもデメリットです。

 

 

 

 

医師が無理なく適正に働けるように,

私達は,すぐに大病院を受診するのではなく,

まずはかかりつけ医を受診する,

平日の朝まで我慢できるのであれば,

休日や夜間の受診を控えるなど,

できる範囲の協力をしていくべきだと考えます。

 

女性事務職員に対する転居を伴う配転命令が違法とされた事例

会社から,遠くの地方へ転勤を命じられたとしたら,

これを受け入れますか,それとも拒否しますか?

 

 

総合職の労働者であれば,いつ会社から,

転勤を命じられるか分かりません。

 

 

介護を必要としている親がいたり,

まだ小さい子供がいると,家族を残して

単身赴任するのはためらわれます。

 

 

 

 

今回は,会社から受け入れがたい

人事異動をさせられたときに,労働者が

どのように対応すべきかについての

ヒントとなる裁判例を紹介します。

 

 

全国に営業拠点のある一般財団法人の

複数名の女性の事務職員が,それぞれ,

東京から仙台,

横浜から金沢,

さいたまから北海道

へ配置転換する命令を受けました。

 

 

 

そこで,配転命令を受けた女性事務職員らが,

本件配転命令は違法であるとして,

精神的苦痛を受けたことの慰謝料を求める

損害賠償請求をしました

(東京地裁平成30年2月26日判決・

一般財団法人あんしん財団事件・

労働判例1177号29頁)。

 

 

原告の女性事務職員らは,独身であったものの,

それぞれ,体が不自由であったり,

介護を必要とする家族がいました。

 

 

また,原告の女性事務職員らは,

本件配転命令を受けるまでは,

転居を伴う広域の異動をしたことがなく,

被告の一般財団法人においても,

女性職員に対して転居を伴う

配転命令はありませんでした。

 

 

そのため,原告の女性事務職員らが独身であろうとも,

介護などを必要とする家族がいることや,

これまで転居を伴う配転命令がなかったことを考慮すると,

原告の女性事務職員らに対する転居を伴う広域の異動は,

相当程度に大きな負担を生じさせます。

 

 

そうであるならば,被告の一般財団法人としては,

本件配転命令をするにあたり,

原告の女性事務職員らの個別具体的な状況に十分に配慮して,

事前に希望を聞いたうえで,

本件配転命令の業務上の必要性や目的を丁寧に説明して,

その理解を得るように努力するべきであったのに,

これをしませんでした。

 

 

その結果,本件配転命令は,

人事権の濫用にあたり,違法であると判断されました。

 

 

他方,支局長や課長といった男性職員については,

支援を必要とする家族がいても,職責が高いため,

業務上の必要性が高くなり,結果として

家庭生活上の不利益を受け入れなければならないとして,

支局長と課長に対する配転命令は

違法ではないと判断されました。

 

 

このように,これまで広域の人事異動がされていなかった職種や,

実際に人事異動の経験がない労働者に対する配転命令については,

慎重に判断される傾向にあります。

 

 

また,支援を必要とする家族の状況

なども重要な判断要素となります。

 

 

今後は,介護離職が問題になりそうですので,

納得いかない配転命令を受けた場合には,

過去の人事異動の状況を把握した上で,

家族の状況を会社に丁寧に説明して,

配転命令には応じがたいことを伝えてみましょう。

 

 

それでも,会社が取り合ってくれなかった場合には,

専門家へご相談ください。

結婚前に夫婦のトラブルを回避するための結婚契約書・婚前契約書

読者の皆様は,結婚契約書または婚前契約書をご存知でしょうか。

 

 

結婚契約書または婚前契約書とは,結婚前に,

夫婦の財産のことや夫婦間でトラブルが発生した場合

の対処方法などを,結婚する相手との間で定めておくものです。

 

 

 

 

具体的にどのようなことを契約書に記載するのかといいますと,

 

 

①結婚後の生活費の負担,家計の管理,

結婚前から保有する財産の帰属など結婚後のお金に関すること

 

 

②不倫を予防するために,不倫があった場合には,

いくらくらいの慰謝料を支払うことや,

離婚の協議を開始するといったように,

夫婦間のトラブル対処方法

 

 

③家事や育児の分担に関すること

 

 

④親族や友人との付き合い方

 

 

など,さまざまなことを取り決めることができます。

 

 

もっとも,③家事や育児,④親族や友人との付き合い方については,

取り決めをおこなっても,相手に強制することはできませんので,

あくまで努力義務になります。

 

 

そこで,実務上重要になるのが,

①お金に関すること,②夫婦間のトラブル対処方法です。

 

 

①お金に関することについては,

夫と妻のどちらが家計を管理するのか,

家計にいくらいれるのか,

といったことを結婚前に決めておくことで,

家計の管理が円滑になります。

 

 

 

 

その他に,相手に給料明細を開示することも決めておけば,

相手の収入がいくらなのかが分かり,

不測の事態に対処しやすくなります。

 

 

夫のお小遣いについて,ガチガチに決めてしまうと,

夫の交流の機会が減少して,

夫の不満が増える要因になりますので,

あえて契約書には書かずに,

その時々の話し合いで決めた方がいいと考えます。

 

 

夫は,ときには後輩におごらないといけないとき

がありますので,ある程度のお小遣いは必要なのです。

 

 

さて,結婚契約書または婚前契約書が威力を発揮するのは,

②不倫などのトラブルが発生したときです。

 

 

 

例えば,結婚契約書または婚前契約書に,

不倫をした場合には,慰謝料300万円を支払う

と取り決めをしていた場合,いざ,不倫が発生した場合,

慰謝料の金額をいくらにするのかでもめなくて済みます。

 

 

不倫の慰謝料は,

①結婚の長さ

②不倫の長,

③不倫当時の夫婦間の関係

④不倫に至る経緯

などの事情を総合考慮して,最終的には裁判所が決めます。

 

 

不倫の慰謝料は,おおむね100~200万円くらいなのですが,

最終的には裁判所が決めますので,実際にいくらになるかは,

裁判をしてみないと分からないのです。

 

 

結婚する前に,不倫をした場合の慰謝料の金額を決めておけば,

結婚契約書または婚前契約書が重要な証拠となって,

相手に対して,スムーズに慰謝料を請求できます。

 

 

さらに,相場より高額な300万円ほどの慰謝料金額

を設定ておけば,不倫の予防になります。

 

 

とはいえ,結婚前に,不倫した場合にはいくら支払う

などについて話し合うのは,相手を信頼していない

ようにも捉えられてしまい,結婚前に交際が

破局するリスクがあると考えられます。

 

 

そのため,結婚契約書または婚前契約書は,

それほど作成されていませんでしたが,

今は3組に1組が離婚する時代ですので,

結婚前の幸せな時期に,

結婚契約書または婚前契約書を作成するかは別にして,

2人の将来のことを真剣に話し合うのは重要なことです。

 

 

 

結婚後には,様々な利害対立が生じていて,

夫婦間で決めごとをしにくいので,

結婚前に,自分と相手を見つめ直す機会があった方がいいと考えます。

「いい質問」が人を動かす

コーチングの勉強会に向けて,

質問に関する本を探していたところ,

質問に関する素晴らしい本を発見したので,

紹介させていただきます。

 

 

気鋭の弁護士谷原誠先生が書かれた

『いい質問』が人を動かす」という本です。

 

 

 

 

弁護士は,法律相談,交渉,証人尋問などで,

人に質問をして,人を動かすことを日常的に行っています。

 

 

谷原先生は,長年の弁護士経験で培われた

質問の力について,次のようにおっしゃっています。

 

 

人は,「質問をされると,①思考し,②答えてしまう」のです。

 

 

この質問による「①思考」と「②答え」の強制力

という2つの機能により,

1 思いのまま情報を得る

2 人に好かれる

3 人をその気にさせる

4 人を育てる

5 議論に強くなる

6 自分をコントロールする

という6つの力を身に着けれるようになるのです。

 

 

 

 

この6つの力の中から3点についてアウトプットします。

 

 

まずは,人をその気にさせる2大原則です。

 

 

人は,自尊心を満足させるか,

あるいは自尊心が傷つくのを避けるために

その気になり,動きます。

 

 

そのため,人を動かすときには,

相手の自尊心を満足させるような質問をするか,

自尊心が傷つくのを避けたくなるような質問をすればいいのです。

 

 

その他に,人が動くには,

まず感情が動いて欲求が発生して,

その後理性でその行動を正当化する

というプロセスをたどります。

 

 

そのため,人を動かすには,

まず感情を動かす質問をして,

その後に理性を動かす質問をすれば,

相手はその気になります。

 

 

テレビの通販番組は,このプロセスを忠実に守っています。

 

 

 

 

最初に,商品のメリットを打ち出して,

消費者の欲望をかきたてた後に,

分割払いや金利ゼロといった理性に関する情報を提供し,

消費者は,購入に至るのです。

 

 

次に,人を育てる質問のプロセスにおいて,

①相手の意見を肯定し,

②相手の立場に立ち,どうすれば相手が望む結果が得られるかを考え,

③相手に答えを出させる,

ということがポイントになります。

 

 

①相手には自尊心があり,

自分の意見を持っているので,

それをまず肯定する必要があります。

 

 

②相手は,自分のことに関心がありますが,

私のことに関心がないことが多いので,

相手の立場に立ってともに考えることが必要になります。

 

 

相手の立場に立つ際に,

ポジティブクエッションが効果を発揮します。

 

 

「なんでお前はこんなことができないんだ?」

というネガティブな質問を,

「どうしたらできるようになる?」

というポジティブな質問に言い換えるのです。

 

 

ポジティブな質問をすれば,相手は,

ポジティブな考えをすることができるようになるのです。

 

 

③人は,他人から押し付けられた意見

に縛られるのは苦痛ですが,

自分で出した結論には喜んで従うので,

相手に自分で答えを出させるのです。

 

 

最後に,自分をコントロール質問において,

7つのフィードバッククエッションというものがあります。

 

 

 1 よくできた点は何か

 2 それはなぜうまくいったのか

 3 今後も続けた方がよいことは何か

 4 うまくいかなかった点は何か

 5 それはなぜうまくいかなかったのか

 6 今後やめた方がよいことは何か

 7 今後改善すべき点はどこか

 

日常の様々なことに対して,

7つのフィードバッククエッションを行うことで,

その全てにおいて,向上し続けて,

自己成長することができるのです。

 

 

他人と自分に的確な質問をすれば,

人生をより良くできることに気づかせてくれる

素晴らしい一冊です。

妻の病気を理由に人事異動を拒否できるのか

ある日突然,会社から県外の別会社への

出向を命じれられてしまいました。

 

 

 

共働きの妻がいて,小さい子供もいます。

 

 

また,両親と同居していて,両親の介護もしないといけない。

 

 

家族のことを考えると県外への転勤は

とても受け入れがたいけれども,

会社の業務命令に逆らうとどうなるのか,とても不安です。

 

 

さて,このような場合,労働者はどうすればいいのでしょうか。

 

 

このような人事異動のトラブルについて,

労働者に有利な判決がだされたので紹介します。

 

 

妻の病気を理由に人事異動を拒否した

労働者に対する懲戒解雇が無効とされた

大阪地裁平成30年3月7日判決です。

(国立研究開発法人国立循環器研究センター事件

・労働判例1177号5頁)

 

 

原告の労働者は,被告である国立循環器研究センター

に勤務していたところ,独立行政法人国立病院機構

の傘下にある病院へ異動するように命令されました。

 

 

原告の妻は,強迫性障害,パニック障害,うつ状態であり,

原告の支援がなければ,抑うつ状態が悪化して,

自殺にいたる危険がありました。

 

 

そこで,原告は,この人事異動命令を拒否したところ,

業務命令違反として懲戒解雇されました。

 

 

原告は,この懲戒解雇が無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

裁判では,国立病院機構への異動が

転籍出向であると判断されました。

 

 

出向には,在籍出向と転籍出向があります。

 

 

在籍出向は,もとの雇用先の会社の従業員

としての地位を残したまま,別会社で長期間働きますが,

出向期間が経過すれば,もとの雇用先の会社に

戻ってくることができる人事異動です

(一般的な出向のことです)。

 

 

他方,転籍出向は,もとの雇用先の会社との

労働契約を終了させて,別会社との間で新たに

労働契約を結ぶ人事異動で,もとの雇用先の会社に

戻ってくることができません

(一般的な転籍のことです)。

 

 

本件の人事異動は,被告である国立循環器研究センター

との労働契約を解消して,国立病院機構と新たに労

働契約を締結することになっているので,

転籍出向であると判断されたのです。

 

 

転籍出向が有効になるためには,

労働者の個別の同意が必要になります。

 

 

転籍出向は,もとの雇用先の会社との労働契約上

の権利を放棄するという重大な効果を伴うものであり,

会社が一方的に行うべきではなく,

労働者自身の意思が尊重される必要があるからです。

 

 

そして,本件では,原告の個別の同意がないため,

転籍出向を命じる人事異動は無効となります。

 

 

さらに,原告の妻の病状が相当深刻であり,

原告の妻は,本件人事異動を聞いてパニックになり,

自殺未遂を起こしており,原告の不利益が大きすぎるため,

転籍出向を命じる人事異動は

権限を濫用したものであると判断されました。

 

 

人事異動が無効になり,その結果,懲戒解雇も無効になりました。

 

 

会社には,人事について広い裁量が認められていますが,

人事異動は,労働者の生活を大幅に変えるものであり,

労働者の子育てや介護の必要性も考慮されなければなりません。

 

 

1億総活躍社会ということで,

様々な立場の人達が働くのであれば,

労働者の子育てや介護の観点から,

人事異動の効力を見直す必要がでてくると考えられます。

 

 

半沢直樹のように,人事異動を恐れることなく

自分を貫き通すことは難しいかもしれませんが,

子育てや介護の観点から,人事異動に納得いかないときには,

専門家へご相談することをおすすめします。