過労死の労災認定において本業と副業の労働時間と賃金が合算されるようになります
1 副業をする労働者が増えています
働き方改革関連法が成立し,
残業時間の上限規制が導入されることになり,
企業が残業時間を削減する流れになってきています。
残業がなくなることで,残業手当が削減されて,
収入が減少する労働者がでてくることが予想されます。
この残業手当の削減により,
収入が減少する労働者が収入を維持するために,
残業時間がなくなった分を副業で稼ぐことが考えられます。
また,これからは,同じ会社でずっと働くのではなく,
いつかは自分で独立することも増えていくことが予想され,
独立をみすえて,副業でスキルアップを図ることも考えられます。
そして,政府としても,イノベーションのために,
副業を推進しています。
とはいえ,本業で働き,副業でも働くことになると,
単純に労働時間が増えて,過労に陥りやすくなる懸念があります。
そこで,副業をする労働者が増加していく現状をふまえて,
副業をする労働者が安心して働くことができるように,
副業をする労働者の労災保険給付の見直しが検討されています。
https://www.asahi.com/articles/ASMDB43F0MDBULFA00L.html
本日は,副業における労災保険給付の見直しについて説明します。
2 過労死の労災認定基準
まず,働き過ぎで疲労が蓄積して,脳や心臓の病気にかかり,
死亡する過労死において,現在の労災認定基準では,
発症前1ヶ月におおむね100時間,または,
発症前2ヶ月から6ヶ月にわたって1ヶ月当たりおおむね80時間
を超える時間外労働が認められれば,原則として労災と認定されます。
この1ヶ月80時間から100時間の時間外労働が,
いわゆる過労死ラインと呼ばれているものです。
例えば,本業の仕事で1週間40時間働き,
副業の仕事で1週間25時間働いたケースで考えてみます。
時間外労働は,1週間で40時間を超えて働いた労働なので,
本業では時間外労働がなく,副業でも時間外労働がないことになります。
1ヶ月を4週で計算すると,
本業では40時間×4週=160時間となり,
時間外労働はゼロとなり,
副業では25時間×4週=100時間となり,
時間外労働はゼロとなります。
そのため,本業の労働時間と副業の労働時間を別々に算定すれば,
時間外労働は1ヶ月0時間となり,労災認定されないのです。
3 副業における労災保険給付の見直し
もっとも,本業と副業は別の仕事であっても,
労働者が長時間労働をしていることには変わりなく,
本業と副業の労働時間を通算すれば,
1ヶ月の労働時間は260時間となり,
1ヶ月160時間を超える,100時間が時間外労働となり,
労災認定されることになります。
そして,労働政策審議会において,
「複数就業先での業務上の負荷を総合・合算して評価することにより
疾病等との間に因果関係が認められる場合,
新たに労災保険給付を行うことが適当」という見解が示されました。
ようするに,本業と副業の労働時間を通算した結果,
1ヶ月80時間から100時間の時間外労働があったと評価できれば,
労災認定されるわけです。
さらに,労災認定された場合,過労死の場合,
ご遺族に遺族補償給付が支給されます。
この遺族補償給付は,過労死した労働者の
直前3ヶ月分の賃金の平均である給付基礎日額をもとに計算します。
この給付基礎日額を算出するための賃金について,
本業の賃金と副業の賃金を総合して算定する方向になります。
その結果,ご遺族が受け取る遺族補償給付の
金額が増額することになります。
このように,本業と副業の労働時間が通算されて,
賃金が合算されることは,副業をする労働者にとって,
大きなメリットになります。
副業をする労働者が安心して働くことができるように
法整備がされることを期待したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。