パワハラ防止指針案の改訂~パワハラの範囲を不当に狭めるべきではない~
1 パワハラ防止指針案の改訂版が公表されました。
以前,ブログで紹介しましたが,
今年10月にパワハラを防止するための指針が,
厚生労働省から公表されました。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201910248667.html
しかし,労働者側から,対象範囲が狭く,
会社の弁解カタログになってしまうという批判がありました。
この批判を受けて,11月20日に,
「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する
問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)について」
という文書が公表されました。
https://www.mhlw.go.jp/content/11909500/000568623.pdf
本日は,この改訂されたパワハラ防止の指針案について解説します。
2 被害者の主観を考慮すべき
改訂されたパワハラ防止の指針案においても,
①優越的な関係を背景とした言動であって,
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,
③労働者の就業環境が害されるもの,
という3つの要件の具体的な内容は変わっていません。
もっとも,パワハラの相談窓口の担当者が,留意すべきこととして,
「相談を行った労働者の心身の状況や当該言動が行われた際の
受け止めなどその認識にも配慮しながら,
相談者及び行為者の双方から丁寧に事実確認等を行うことも重要である。」
と記載されました。
参議院の附帯決議に,労働者の主観に配慮することが
記載されていたのに,今年10月の指針案には,
このことが盛り込まれていなかったことから,
今回の改訂で追加されました。
ある出来事をどのように受け止めるのかは,人それぞれですので,
パワハラの被害者の受け止め方も当然に考慮されるべきです。
3 改訂版での変更点
10月の指針案には,身体的な攻撃の類型の中に,
誤って物をぶつけてしまうことがパワハラに該当しない例
としてあげられていましたが,今回の改訂で削除されました。
通常,人に物をぶつけるときは,意図的にすることが多く,
誤ってぶつけることが考えにくいことから,
削除されたものと思われます。
10月の指針案には,精神的な攻撃の類型の中に,
パワハラに該当しない例として,重大な問題行動を行った労働者に対して,
強く注意することとがあげられていましたが,これが,
「一定程度強く注意する」に変更されました。
一定程度という表現を加えることで,
問題行動を行った労働者を指導することが
パワハラに該当しない余地を残す必要があったのだと思います。
10月の指針案には,過小な要求の類型の中に,
パワハラに該当しない例として,
「経営上の理由により,一時的に,
能力に見合わない簡易な業務に就かせること。」
があげられていましたが,今回の改訂でこれが削除されました。
「経営上の理由」という会社にとって,
いかようにもつかえる都合のいい表現でしたので,
特定の労働者に無意味な作業を延々とやらせる
追い出し部屋を容認しているという批判を受けて削除されました。
追い出し部屋は労働者の尊厳を踏みにじって,
退職に追い込む狡猾な手段なので,
これが削除されたのはよかったです。
4 一番の問題点
10月の指針案よりも,表現がわかりやすくなり,
一歩前進していますが,私が一番懸念している
箇所が改訂されていなかったのが残念です。
それは,優越的な関係を背景とした言動の解釈として,
パワハラの被害者が加害者に対して
「抵抗又は拒絶することができない蓋然性が高い
関係を背景として行われるもの」という点です。
パワハラの被害者がパワハラをやめてほしくて,
何かしらの抵抗や拒絶をすれば,
優越的な関係を背景とした言動に該当しないと判断される余地があり,
パワハラの範囲を不当に狭めるリスクがあると考えるからです。
なんとか,この表現を変更して,
パワハラの範囲を広げる必要性があります。
今後の,パワハラ指針の動向に注目したいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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