東大5年で雇止めルールを撤廃

今年8月26日のブログで,東大が有期労働契約の教職員約4800人を最長5年で雇止めにする就業規則を定めていたことの問題点について記載しました。

 

ところが,朝日新聞の報道によると,東大が,この有期労働契約の教職員を最長5年で雇止めにする規則を撤廃することになりそうです。東大の労働組合が,5年で雇止めにする規則の撤廃を強く求めた結果,撤廃が現実化しそうです。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S13274138.html

 

以前にも解説しましたが,労働契約法18条1項は,有期労働契約が2回以上更新され,契約期間が通算で5年を超えれば,非正規雇用の労働者は,会社に対して,申込をすれば,正社員になれると規定されています。この規定が施行されてから5年経過するのが平成30年4月なのです。

 

しかし,会社は,不況になった際に,人員削減を容易にできる非正規雇用を一定数確保したいことから,契約期間が通算で5年経過する前に,雇止めをしてくることが予想されていました。平成30年4月以降に,雇止めされる非正規雇用の労働者が出てくるおそれがあります。

 

このような情勢の中,東大で5年で雇止めにする規則が撤廃されれば,他の教育機関における非正規雇用の対応にもプラスの変化が波及するかもしれず,非正規雇用の労働者にとっては明るいニュースです。また,今回は,東大の労働組合が,労働者の労働条件を維持または向上するために力を発揮したといえ,労働組合の重要さが再確認されました。他の職場でも5年で雇止めのルールが撤廃されていくことを期待したいです。

22年間反復更新してきたアルバイトに対する雇止め

22年以上もの間,更新を繰り返してきたアルバイト従業員に対して,アルバイト従業員の忘れ物に関する対応,顧客からのクレーム,睡眠障害を理由としてされた雇止めについて,名古屋高裁平成29年5月18日判決(労働判例1160号・5頁・ジャパンレンタカー事件)は,アルバイト従業員と被告会社との有期労働契約は,期間の定めのない労働契約とほぼ同視できるとして,アルバイト従業員の地位確認の請求が認容されました。

 

アルバイト,契約社員,派遣社員,嘱託社員等の非正規雇用は,有期労働契約といい,契約期間が満了すると,原則として仕事がなくなり,会社が契約期間を更新すれば,仕事が続けられます。契約期間が満了で,更新がされない場合を雇止めといいます。

 

これに対し,期間の定めのない労働契約,いわゆる正社員の場合,よほどのことがない限り,解雇されることはなく,仮に解雇されたとしても,正社員は,解雇権濫用法理を根拠に解雇無効を主張しやすいのです。

 

非正規雇用の雇止めの場合,正社員の解雇と比較して,雇止めを争うのは,ハードルが高いです。まず,第1ステージで,①過去に反復更新されて,期間の定めのない労働契約と同視できる状態であること,又は,②有期労働契約が更新されることについて合理的な理由があるという要件を満たす必要があります(労働契約法19条)。

 

次に,第1ステージを乗り越えた場合,第2ステージでは,解雇と同じように,雇止めが,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当か否かを検討することになります。

 

このように,有期労働契約の雇止めを争うのは大変です。そのような中,本件事件では,アルバイト従業員の有期労働契約が22年以上も反復更新されてきたこと,アルバイト従業員の仕事内容が正社員とそれほど変わらないこと,被告会社において意に反して雇止めされた従業員がいなかったこと,更新手続きが形骸化していたことから,アルバイト従業員と被告会社との有期労働契約は,期間の定めのない労働契約とほぼ同視できると判断されました。そして,本件雇止めは,客観的合理的理由を欠き,社会通念上相当とはいえないことから,被告会社は,従前と同一の条件でアルバイト従業員の更新の申込を承諾したものとみなされるとして,アルバイト従業員の地位確認請求が認められました。

 

雇止めを争うのは大変なことが多いのですが,さすがに22年間も反復更新されてきたのであれば,第1ステージを乗り越えるのはそれほど難しくなかったのかもしれません。雇止めを検討するのに参考になると思い,紹介します。

東大5年で雇止め

 朝日新聞の報道によれば,東大が有期労働契約の教職員約4800人を最長5年で雇止めにする就業規則を定めていたようです。その結果,来年平成30年4月までに,契約期間が5年を超える教職員は順次雇止めされることになりそうです。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S13100024.html

 

 そもそも,労働契約法18条では,有期雇用の労働者の労働契約が繰り返し更新されて通算5年を超えた場合,期間の定めの無い労働契約に転換できる権利が付与されることになっています。要するに,契約の更新が2回以上あり,契約期間が通算5年を超えれば,契約社員から正社員に転換できるということです。

 

 労働契約法18条が平成25年4月に施行されて,来年平成30年4月でちょうど5年になるので,来年4月以降,無期転換できる労働者が現れてくるのです。

 

 しかし,使用者としては,契約期間が通算5年を超えれば,契約社員が正社員に転換されるのであれば,契約社員を雇用の調整弁に利用できなくなるので,契約期間が5年を超える前に,雇止めをしたくなります。そこで,東大は,就業規則で有期労働契約者の契約期間の上限を5年と定めたようです。そのため,東大の有期労働契約者は,契約期間が5年を超える前に雇止めされることになります。

 

 現在,東大の教職員組合が団体交渉を申し入れて,有期労働契約者の契約期間の上限を5年と定めた就業規則の撤廃を求めているようです。契約期間が5年を超える直前に雇止めになった場合,裁判で争ったとしたら,労働契約法18条の趣旨に違反しているとして,雇止めが無効になる可能性もありますが,雇止めの裁判では,労働者側が敗訴することも多いため,裁判結果がどうなるかは,見通しが立てにくいです。そのため,団体交渉で,有期労働契約者の契約期間の上限を5年と定めた就業規則を撤廃できれば,最も効果的です。東大の団体交渉に注目していきたいです。

 

裁判係属中に行われた予備的な雇止めが有効とされた事例

 短大講師に対する体調不良等を理由とする雇止めの有効性が争われた,平成28年12月1日最高裁判決・福原学園(九州女子短期大学)事件(労働判例1156号・5頁)を紹介します。

 

 原告は,被告学校法人との間で契約期間を1年間とする有期労働契約を締結し,女子短大の講師として勤務しました。被告の契約社員規程によれば,雇用期間は,契約社員が希望し,かつ,当該雇用期間を更新することが必要と認められる場合は,3年を限度に更新することがあり,契約社員のうち,勤務成績を考慮して,被告がその者の任用を必要と認め,かつ,当該者が希望した場合は,契約期間が満了するときに,期間の定めのない職種に異動することができると定められていました。

 

 原告は,最初の契約期間1年が経過した時点で雇止めにあい,訴訟を提起したところ,訴訟係属中に,被告は,2年目と3年目に予備的な雇止めをしました。裁判では,1年目と2年目の雇止めは無効とされましたが,3年目の雇止めについては,高裁は無効としましたが,最高裁は有効としました。

 

 最高裁が3年目の雇止めを有効とした理由は,①上記規程には,契約期間の更新限度が3年であり,その満了時に労働契約を期間の定めのないものとすることができるのは,契約社員の勤務成績を考慮して被告が必要と認めた場合と明確に規定されていること,②大学の教員の雇用については一般的に流動性のあること,③被告において,3年の期間満了後に労働契約が期間の定めのないものとならなかった契約社員が複数上がっていたことから,本件労働契約が期間の定めのないものとなるかは,原告の勤務成績を考慮して行う被告の判断に委ねられていることから,本件労働契約が3年の期間満了時に当然に無期労働契約になることを内容とするものではないからということです。

 

 裁判係属中に更新の上限である3年を経過した事案であり,雇止めの事件では迅速に訴訟準備をする必要があります。正規雇用の場合は,解雇権濫用法理にあてはめて検討すればいいのですが,非正規雇用の場合は,解雇権濫用法理に持ち込む前に,契約更新についての合理的期待があったか等が争点となり,ハードルが高くなります。非正規雇用が不安定と言われる所以ですね。

 

私立大学の専任教員の定年後の再雇用が認められた事例

 私立大学の専任教員が,65歳の定年後に再雇用を拒否されたものの,労働契約法19条2号を類推適用して,定年後の再雇用が成立したとされた東京地裁平成28年11月30日判決(判例時報2328号・129頁)を紹介します。

 

 被告私立大学では,就業規則において,専任教員の定年が満65歳に定められていましたが,特例として「理事会が必要と認めたときは,定年に達した専任教員に,満70才を限度として勤務を委嘱することができる。」という規程が定められており,実際に,定年後も引続き勤務を希望する専任教員については,70歳まで1年間ごとの再雇用契約が締結されていました。

 

 原告は,被告私立大学に対して,上記規程に基づき,再雇用の希望を申し出たのですが,被告私立大学は,理事会の決定により,原告の雇用は定年で終了し,再雇用契約を締結しないこととしました。これに対して,原告が地位確認と賃金の支払を求めて提訴しました。

 

 判決は,原告の採用を担当した理事が70歳までの雇用が保障されている旨の説明をしており,採用決定後の説明会においても,事務担当者が,定年後は70歳までほぼ自動的に勤務を委嘱することになる旨の説明をしており,被告私立大学では再雇用契約の締結を希望した専任教員の全員が再雇用契約を締結して70歳まで契約更新を繰り返していたことを考慮して,原告が定年時に再雇用契約が締結されると期待することが合理的であるとして,労働契約法9条2号を類推適用して,原告の請求を認めました。

 

 65歳までであれば,高年齢者等の雇用の安定等に関する法律で,原則雇用が継続されるのですが,本件は,65歳以降の雇用の継続が問題となり,高年法の適用がないケースでした。高年法が適用されない場合,再雇用契約を締結するか否かは,使用者の裁量に委ねられます。

 

 しかし,本判決は,上記の事情を考慮して,再雇用契約を締結するものと期待することに合理性があるとして,労働契約法19条2号を類推適用して,原告を救済しました。高齢化社会が進展しており,今後,定年をめぐる紛争が増加するかもしれない中,労働者に有利な判断がなされたので,紹介させていただきます。