会社から出向を打診された場合の対処法

1 ANAにおける出向

 

 

新型コロナウイルスの影響で海外に移動する人が激減した影響で、

ANAホールディングスの業績が悪化したことを受けて、

ANAホールディングスは、人件費削減策として、

外部の企業に社員を出向させるようです。

 

 

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20201028-OYT1T50276/

 

 

出向の対象となるのは客室乗務員などで、

高い接客スキルを持った人材であるとして、

大手の企業や地方自治体が出向の受け入れ先として、

手を挙げているようです。

 

 

世界でコロナ禍がおさまるまでは、

業績の回復が難しいANA(出向元)、

出向という形で雇用が保障される労働者、

高い接客スキルを持った人材を受け入れられる出向先、

というように、三方よしの対応策といえそうです。

 

 

 

とはいえ、出向となると労働者は、

勤務先が変わるので、不安が強いかもしれません。

 

 

そこで、本日は、出向についての法律関係について解説します。

 

 

2 出向の法律関係

 

 

まず、出向とは、労働者が雇用先の企業(出向元)における

従業員たる地位を維持したままで、別の企業(出向先)で

相当期間にわたって、その別の企業で働くことをいいます。

 

 

銀行では、ある程度の年齢になると出向させられるという話を聞きます。

 

 

次に、会社は、どのような場合に、労働者に対して、

出向を命じることができるのでしょうか。

 

 

会社が労働者に対して、有効に出向命令を出すためには、

出向の対象者となる労働者との間で個別の合意が成立しているか、

就業規則などにおいて、出向先の労働条件・処遇、

出向期間、復帰条件に関する規定が整備され、

その内容も労働者に著しい不利益を被らせるものでないこと

が必要となります。

 

 

すなわち、就業規則で、「出向を命じることがある」

などの包括的な規定があるだけではだめで、

出向の条件について詳細を定めた規定が必要であり、

労働者に不利益にならない配慮が必要になるのです。

 

 

 

出向は、労働者にとって、仕事を提供する相手方である

指揮命令権者の変更を意味するので、同じ会社内で、

職種や勤務場所を変更する配転と比較して、

大きな不利益を労働者に及ぼすことになるので、

出向については、就業規則などで、

詳細に定めなければならないのです。

 

 

そのため、労働者としては、出向に応じる場合には、

出向期間、出向先での労働条件(賃金、賞与、業務内容、就労場所)

などを書面でよく確認する必要があります。

 

 

復帰条件についても、文書で合意しておくのが大切です。

 

 

労働者としては、出向期間中の賃金が気になるところです。

 

 

出向期間中の賃金については、

出向先と出向元の取決め・合意によって、

出向先が支払う場合と、出向元が支払う場合があります。

 

 

例えば、出向先が出向労働者に出向前と同額の賃金を支払い、

出向先での雇用の場合との差額を出向元が出向先に補填する方法と、

出向元が継続して賃金を支払い、

出向先が自らの分担金を出向元へ支払う方法があります。

 

 

出向に際して、賃金が引き下げられないように、労働者は、

出向前の賃金を保障してもらえるように交渉することが大切です。

 

 

労働者としては、出向に応じたくないのであれば、

会社の就業規則に包括的な出向の規定しかない場合には、

出向に同意しないようにすればいいのです。

 

 

出向に応じるのであれば、出向に関する労働条件を文書で明確にして、

出向前の労働条件を保障してもらえるように会社と交渉しましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配転における手続の妥当性

1 配転とは

 

 

現在,私は,金沢から福岡への配転命令を争う裁判を担当しています。

 

 

配転とは,同一の会社での職務内容や勤務場所の変更のことをいい,

このうち,転居を伴うものを転勤,

同一事業所内での部署の変更を配置転換といいます。

 

 

 

日本の会社では,多数の職場や仕事を経験させることによって

幅広い技能・熟練を形成し,技術や市場が多様に変化していく中でも

雇用を維持できるように柔軟性を確保するために,

配転が頻繁に行われています。

 

 

もっとも,転居を伴う配転の場合,

家族と離れて生活しなければならないなど,

労働者の私生活に大きな影響を与えることになるので,

この側面をいかに調整するかが重要な課題となります。

 

 

2 配転の要件

 

 

まず,会社が有効に労働者に対して,配転を命じるためには,

配転命令権が,就業規則の定めや労働契約の合意などによって,

根拠づけられていることが必要です。

 

 

そのため,配転命令に労働契約上の根拠がない場合には,

配転命令は無効になります。

 

 

また,労働契約において,

職種や勤務地が限定されている場合,

その限定された職種を変更したり,

限定された勤務地を変更することは,

労働者の合意がない限り,認められず,

職種や勤務地の限定を無視するような配転命令は無効になります。

 

 

次に,配転命令に労働契約上の根拠がある場合でも,

配転命令が権利の濫用に当たる場合には,無効になります。

 

 

配転命令が権利の濫用に該当するかについては,

次の3つの要件を検討します。

 

 

①配転命令に業務上の必要性が存在するか

 

 

 ②他の不当な動機・目的をもってなされたものであるか

 

 

 ③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものか

 

 

配転命令を争う裁判では,

これら①~③の要件に該当する事実があるかについて,

主張と立証が繰り広げられます。

 

 

3 手続の妥当性

 

 

そして,近年の裁判例では,これら①~③の要件と並んで,

労働者に内示や意向聴取を行い家庭の事情等を考慮に入れたか,

配転の理由や内容等について労働者に具体的に説明したか,

労働組合等と真摯な態度で誠実に協議・交渉したかなど,

配転に至る手続の妥当性を考慮に入れて,

配転命令の権利濫用を判断する傾向がみられます。

 

 

例えば,日本レストランシステム事件の

大阪高裁平成17年1月25日判決(労働判例890号27頁)は,

会社は,あらかじめ,労働者に対して,

配転が必要とされる理由,

配転先における勤務形態や処遇内容,

配転前の勤務場所への復帰の予定などについて,

可能な限り,具体的にかつ詳細な説明を

尽くすべきであったと判示しました。

 

 

また,高野酒造事件の東京地裁平成17年9月2日判決

(労働経済判例速報1921号54頁)は,

これまで生活歴のない場所への異動という

生活上の不利益を伴うものであることから,

会社は異動の趣旨及び必要性について労働者に十分説明すべきであるし,

配置転換しなければならないかどうかという

回避のための努力がなされてしかるべきであると判示しました。

 

 

現在は,仕事と家庭の両立という

ワークライフバランスが重視されていますので,

遠隔地への転居を伴う配転については,

労働者に対して,意向を聞き取り,

十分な説明をするという手続を経ていないと,

配転命令が無効になる可能性があるのです。

 

 

 

配転命令を争う場合には,手続の妥当性も検討するのが重要です。

 

 

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内部通報を理由とした配転命令が不利益取扱として無効となった事例

1 配転命令の根拠規定はあるか

 

 

先日,転勤命令に対する対処の仕方をブログに記載しました。

 

 

転勤命令は,法律上,配転命令といいますので,本日は,

配転命令が無効であると主張していくポイントについて,解説します。

 

 

 

まずは,会社に,労働契約上の配転命令の

根拠があるのかをチェックします。

 

 

通常の会社であれば,就業規則に,

「業務上の必要がある場合,配置転換を命じることがある」

と規定されていることがほとんどであり,

このような概括的な規定があれば,

労働契約上の配転命令の根拠があることになります。

 

 

逆に言えば,このような就業規則の規定がなく,

労働契約書にも配転命令についての規定がないのであれば,

会社は,配転命令をすることができないので,

配転命令は無効になります。

 

 

次に,就業規則に配転命令の根拠規定があったとしても,

労働契約で,職種や勤務地が限定されている場合には,

限定されている職種や勤務地を変更する配転命令は無効になります。

 

 

2 配転命令が権利の濫用に該当するか

 

 

そして,職種や勤務地の限定がない場合には,

配転命令が権利の濫用に該当しないかを検討します。

 

 

配転命令が権利の濫用に該当するかについては,

次の判断基準をもとに検討します。

 

 

①配転命令について,業務上の必要性があるか

 

 

 ②配転命令が他の不当な動機・目的をもってなされたものか

 

 

 ③労働者に対して通常甘受すべき程度を

著しく超える不利益を負わせるものか

 

 

3 配転命令の不当な動機・目的が認められた裁判例

 

ここで,②配転命令が不当な動機・目的をもってされたと

判断されたオリンパス事件の東京高裁平成23年8月31日判決

を紹介します(労働判例1035号42頁)。

 

 

 

この事件では,取引先の従業員を引き抜くことが

取引先の信頼を失墜させることにつながると考えた原告労働者が,

取引先の従業員の引き抜きの件を,

会社のコンプライアンス室に内部通報しました。

 

 

すると,コンプライアンス室の担当者は,守秘義務に違反して,

原告労働者の内部通報のことを,関係者に漏らしてしまいました。

 

 

その結果,会社の関係者は,引き抜きが阻止されたのは,

原告の言動に原因があると考えて,会社は,

原告の労働者に対して,配転命令を下しました。

 

 

そこで,原告の労働者は,配転命令が無効である

として訴訟を提起したのです。

 

 

裁判所は,本件配転命令は,会社関係者が,

取引先の従業員の引き抜きができなかったのは,

原告労働者の言動が一因となっており,

原告の内部通報に反感を抱いて,

本来の業務上の必要性とは無関係にしたもので,

その動機において,不当であり,

内部通報による不利益取扱を禁止した運用規定にも違反して,

無効と判断しました。

 

 

ようするに,内部通報に対する制裁という不当な動機・目的のために,

本件配転命令をしたとして,無効になったのです。

 

 

会社の不当な動機・目的を立証するのは,なかなか困難なのですが,

内部通報の秘密が守られなかったという特殊事情もあり,

不当な動機・目的の立証に成功したのかもしれません。

 

 

配転命令について,会社の不当な動機・目的を認めた裁判例として,

紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から転勤を命じられたらどう対処したらいいのか

1 突然の転勤命令

 

 

先日,金沢から福岡への転勤を命じられたものの,

この転勤命令には従いたくないという法律相談を受けました。

 

 

相談者のお話を聞いていると,お子様がまだ小さく,

配偶者の体調がよくないこと,

今までに金沢から福岡に転勤になった労働者はおらず,

自分を退職に追い込むためになされたものと考えられること,

から転勤命令には応じられないということです。

 

 

 

転勤を伴う人事異動が頻繁に行われており,

労働者の成長を目的とした転勤であれば,

応じることができるのですが,会社は,時として,

労働者を退職に追い込むために,

非情な転勤命令を言い渡してくることがあります。

 

 

とくに,共働きで子育てをしている家庭ですと,

単身赴任で残された配偶者は,

ワンオペで育児家事をしなければならなくなり,

多大な負担を強いられることになります。

 

 

それでは,このような応じられない転勤命令に対して,

どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

2 勤務の継続を希望する場合の対処法

 

 

私の見解ですが,そのような非情な転勤命令をしてくる会社に

勤務し続けるのかをまずは検討します。

 

 

1つの方法は,転勤命令はひどいが,それ以外は,

よくしてくれる会社なので,転勤命令を争いつつも,

会社に残りたいと考える場合,労働者は,異議を留めて,

とりあえず転勤命令に従うことになります。

 

 

転勤命令に従わない場合,会社は,業務命令違反であるとして,

懲戒解雇をしてくる可能性があります。

 

 

懲戒解雇されてしまうと,給料の支給がなくなり,

当面の生活に窮することになります。

 

 

そのため,懲戒解雇を避けるために,転勤命令に異議を留めた上で,

転勤命令に従い,転勤先で働きつつ,転勤命令が無効であるとして,

訴訟や労働審判を起こすことになります。

 

 

 

3 会社を辞めてもいいと考えている場合の対処法

 

 

もう1つの方法は,このような非情な転勤命令を

してくる会社には勤務することができないので,

辞めてもかまわないと考えている場合,

労働者は,転勤命令を拒否すべきです。

 

 

転勤命令を拒否すると,業務命令違反であるとして,

懲戒解雇されるリスクがありますが,

そのような懲戒解雇は無効であるとして,

訴訟や労働審判を起こすことになります。

 

 

そのような懲戒解雇を争う裁判では,実質的な争点は,

転勤命令が有効だったか否かとなり,

転勤命令が無効になれば,懲戒解雇も無効になります。

 

 

懲戒解雇されるリスクを承知で,

転勤命令を拒否する場合,気をつけるべきことがあります。

 

 

それは,ひどい転勤命令をしてくる会社を

辞めてもかまわないと考えたとしても,

自分から退職してはならないことです。

 

 

自分から退職してしまったのでは,

後から,転勤命令を争いにくくなります。

 

 

自分から退職すると,その時点で,

会社との労働関係がなくなるので,

懲戒解雇が無効であったなら,

請求できたはずの未払賃金を請求できなくなり,

転勤命令を争ったとしても,

わずかな慰謝料が認められるだけとなります。

 

 

懲戒解雇された後に,転勤命令の効力を争い,

転勤命令が無効となり,懲戒解雇も無効になれば,

懲戒解雇されていた期間の未払賃金を請求できます。

 

 

また,裁判手続の中で,和解する場合にも,

会社から支払ってもらえる解決金の金額が多くなる傾向にあります。

 

 

そのため,転勤命令を受けて,会社を辞めてもいいと考えても,

自分から辞めるのではなく,しんどいかもしれませんが,

懲戒解雇された方が,裁判では争いやすくなるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

専門的な職種の労働者は職種限定合意で配置転換命令を争える

昨日,「ドクターX 外科医・大門未知子」

のスペシャルドラマが放映されていました。

 

 

「わたし,失敗しないので」という決めゼリフが

有名な天才外科医のドラマは,人気があるためか,

何年にもわけて放映されています。

 

 

さて,大門未知子は,フリーランスなので,病院との間で,

どのような契約を締結しているのかよくわかりませんが,

通常の場合,医師は,病院との間で労働契約を締結し,

病院から賃金の支払を受けて,

患者の治療という労務の提供を行います。

 

 

医師も病院と労働契約を締結するので,労働契約に基づき,

病院から配置転換を命令されることがあります。

 

 

もっとも,医師の専門性から,

病院の配置転換命令が有効となるのかが

問題となることがあります。

 

 

本日は,外科医に対する配置転換・診療禁止命令の有効性が争われた,

地方独立行政法人岡山市立総合医療センター事件の

広島高裁岡山支部平成31年1月10日決定

(労働判例1201号5頁)を紹介します。

 

 

この事件では,消化器外科部長であった外科医に対する,

がん治療サポートセンター長に任命する配置転換命令と,

外科の一切の診療に関与することを禁止する命令が

有効なのかが争われました。

 

 

配置転換とは,同一企業内における労働者の

職種,職務内容,勤務場所のいずれかを

長期間にわたって変更する企業内人事異動の一つです。

 

 

職種,職務内容,勤務場所は,いずれも労働条件なので,

会社と労働者との労働契約において,

これらを限定する合意がされている場合には,

配置転換命令は,限定された範囲内に制約されます。

 

 

職種を限定した合意をしていた場合,会社は,労働者に対して,

限定している職種以外の職種への配置転換命令をだせないのです。

 

 

この職種限定合意については,専門業務をしている

労働者には認められやすい傾向があります。

 

 

本件事件では,外科医と病院との間に,

職種を外科医に限定する明示の合意はありませんでした。

 

 

しかし,外科医は,極めて専門的で

高度の技能・技術・資格を要するものであり,

長年にわたり特定の職務に従事することが必要で,

熟練度や経験が仕事を進めていくうえで重要になります。

 

 

 

そのため,技能・技術・資格を維持するために,

外科医としての臨床に従事することは必要不可欠であり,

その意に反して外科医としての臨床に従事しないという

労務形態は想定できないとして,

黙示の職種限定合意があったとしました。

 

 

そして,医師の同意なく,専門とする診療科での診療を禁止することは,

医師としての高度の技能・技術・資格を一方的に奪うことになるから,

本件の配置転換命令と診療禁止命令は無効と判断されました。

 

 

さらに,本件事件では,民事保全という裁判手続がとられており,

民事保全では,保全の必要性という要件が必要になります。

 

 

本件の配置転換命令と診療禁止命令によって,

外科医としての技能・技術の質を低下させられ,

専門医の資格を失うことにより,

外科医としての専門性が失われるという不利益が大きいことから,

保全の必要性が認められました。

 

 

このように,専門性のある仕事をしている労働者の場合,

黙示の職種限定合意があったとして,

配置転換命令を争う可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配転命令でキャリア形成が阻害される場合の対処法

昨日は,労働者の著しい生活上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることを説明しました。

 

 

 

 

本日は,労働者の著しい職業上の不利益を理由に,

配転命令が権利の濫用として無効になる

場合があることについて解説します。

 

 

専門的な知識を身に着けた労働者を,

その専門的な知識を全く活かせない部署に配転した場合に,

労働者のキャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

に該当するかが問題となるのです。

 

 

 

 

労働者が専門職としてキャリアを形成していくことが,

配転によって阻害されると,労働者は,専門知識を磨いて

キャリアをアップすることができないという

不利益を被ってしまいますので,問題となります。

 

 

この点について判断がされたエルメスジャポン事件を紹介します

(東京地裁平成22年2月8日判決・労働判例1003号84頁)。

 

 

この事件では,被告会社の本社の情報システム部で働いていた労働者が,

銀座店の倉庫係に配転されたことが問題となりました。

 

 

この事件の原告労働者は,8年間,ITプロジェクトに

システムエンジニアまたはプロジェクトリーダーとして

携わってきたという経歴を有し,被告会社には,

情報技術に関する経歴と能力が見込まれて,

情報システム専門職に就くべき者として中途採用され,

実際に,約5年半の間,情報システム部に所属し,

情報システム関連の仕事をしていました。

 

 

 

 

これらの事実から,原告労働者が,被告会社において

情報システム専門職としてのキャリアを

形成していくことができるという期待は,合理的で,

法的保護に値するものであり,原告労働者の

このような期待に対して相応の配慮が求められると判断されました。

 

 

他方,原告労働者が配転された先の銀座店の倉庫係の仕事は,

在庫管理がメインであり,原告労働者が有している

情報技術や経験を活かすことができるものではなく,

むしろ労務的な側面をかなり有するものでした。

 

 

そのため,裁判所は,本件配転命令は,

業務上の必要性が高くないにもかかわらず,

情報システム専門職としてのキャリアを形成していくという

原告労働者の期待に配慮せず,原告労働者の理解を求めるなどの

実質的な手続を行わないまま,漫然と,

原告労働者の技術と経験をおよそ活かすことのできない

倉庫係に配転したものであり,権利の濫用として,

無効であると判断されました。

 

 

専門的な仕事の場合,労働契約に,

職種を限定する合意があることがあれば,

限定された職種以外に配転されることはありません。

 

 

もっとも,職種を限定する合意があったとは

認定されない場合があり,そのようなときには,

ある程度職種を特定して採用されたなど,

労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があれば,

キャリア形成上の不利益が,

労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

と認められて,配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

 

 

そのため,専門的な仕事をしている労働者が,

別の仕事に配転する命令を受けたものの,

今の専門的な仕事を継続したい場合,

労働契約に職種を限定する合意があるか,または,

会社が労働者のキャリアに相応の配慮をする必要があるかを検討するべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

客室乗務員の配転命令事件

フィンランド航空は,名古屋ベースを廃止することから,

名古屋ベースで勤務している客室乗務員に対して,

成田ベースへ配転する命令をしました。

 

 

 

 

名古屋ベースで勤務している客室乗務員は,東海地方において,

自宅で育児や介護をしている関係で,

成田に単身赴任をするのが困難であり,

片道約4時間かけて成田に通勤することを余儀なくされました。

 

 

この名古屋から成田への配転命令が違法無効であるとして,

客室乗務員が裁判を起こしたのです。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_9274/

 

 

このように,遠い勤務地への配転は,

育児や介護を抱える労働者にとって,過酷となります。

 

 

それでは,育児や介護を根拠に,配転命令が

違法無効となるのはどのような場合なのでしょうか。

 

 

本日は,会社の配転命令が違法となり,

慰謝料請求が認められたNTT西日本(大阪・名古屋配転)事件

を紹介します(大阪高裁平成21年1月15日判決・

労働判例977号5頁)。

 

 

この事件は,大阪支店から名古屋支店への配転命令が争われ,

配転命令に関して,様々な争点について,検討されていますが,

労働者の生活上の不利益の部分について,みていきます。

 

 

配転命令は,配転命令を受けた労働者に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じる場合には,

権利の濫用として無効と判断されます。

 

 

そして,育児介護休業法26条では,会社が労働者に対して,

配転命令をする場合,子供の養育,家族の介護の状況に

配慮しなければならないと定められているので,

労働者の育児や介護の状況が,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を検討する際に考慮されるのです。

 

 

NTT西日本の事件では,複数の労働者について,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が認められました。

 

 

具体的には,①実父が介護を必要とする状況にあり,

実母についても頻繁に世話をすることが必要な状況にあったが,

家族の中には,原告労働者以外に介護を行う余力がある者が

いなかったこと,②肺がん手術後で,再発の可能性のある妻を抱えており,

新幹線通勤が認められても,妻の見舞いに大きな制約があったこと,

③妻の両親の介護について,妻を補助し,

自らも介護を手伝う必要があったこと,

などの事情が考慮されて,慰謝料請求が認められました。

 

 

 

 

このように,裁判所は,家族が病気を抱えていたり,

要介護度が重い家族の介護をしている場合に,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益

を認めてくれる傾向にあります。

 

 

もっとも,共働き世帯で,健康な子供の面倒をみているという

事情だけで,通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を

認めてくれるのかは,今のところ,よくわかりません。

 

 

ただ,子供をもって思うのは,育児とは

本当に大変であるということです。

 

 

小さい子供は,大人の言うことを聞かずに,

好きなことをするので,目がはなせず,

子供といるときは,何もできません。

 

 

実家の親が遠くに住んでいて,夫婦だけで

子供を育てなければならない共働き世帯では,

片方の親が遠くに配転されると,育児が大変になります。

 

 

 

 

そうなると,片方の親が一旦仕事を辞めるや,

子供を生むのをあきらめるなどの悪循環に陥ります。

 

 

そのため,仕事と家庭を両立するために,

育児介護休業法26条の趣旨から,

育児の困難さを考慮して,

通常甘受すべき程度を著しく超える不利益について,

検討してもらいたいものです。

 

 

フィンランド航空の配転命令事件の裁判において,

育児や介護の困難な状況が考慮されて,

労働者に有利な判断がされることを願っています。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

転籍の対処法

人事異動の一つに転籍というものがあります。

 

 

転籍とは,会社と労働者との間の現在の労働契約関係を終了させて,

新たに他の会社との労働契約関係を成立させ,

労働者がその他の会社の業務に従事する人事異動のことです。

 

 

 

 

関連小会社が複数ある企業や,外郭団体が複数ある

中央官庁や地方公共団体で,転籍が行われることがあります。

 

 

それでは,労働者は,転籍に応じたくない場合には,

どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

本日は,転籍が争われた大阪地裁平成30年3月7日判決

を紹介します(判例時報2384号112頁)。

 

 

この事件は,もともとは厚生労働省の一部局であった

国立研究開発法人に勤務していた労働者が,

別の独立行政法人への人事異動を命じられたのですが,

この労働者は,妻が重篤な精神疾患にかかっていることから,

人事異動に応じなかったところ,懲戒解雇されたというものです。

 

 

 

 

まずは,本件事件の人事異動が,

転籍にあたるか否かが争われました。

 

 

転籍になれば,労働者の個別の同意が必要になり

(民法625条1項参照),就業規則の転籍条項を根拠に

転籍を命令することができないため,そもそも,

当該人事異動が転籍なのかが争点となったのです。

 

 

本件事件では,異動元の退職手続と

異動先の採用手続がとられており,

人事異動後においては異動先の就業規則が適用され,

懲戒権も異動先が持ち,異動した職員が異動元に対し,

何らかの権利を有することは認められておらず,

異動元に復帰できるかはその時々の人事異動の結果に

よらざるをえないことから,本件の人事異動は,

実質的にみて転籍であると判断されました。

 

 

さらに,原告労働者の妻は,本件人事異動を聞いて

パニック状態となり,自殺未遂を起こすまでの状況となっており,

原告労働者は,不当な目的で人事異動を

拒否しているわけではないこと,本件人事異動は,

ジョブローテーションの一環として定期的に行われるものであり,

原告労働者を異動させることに高度な必要性はなかったことから,

本件転籍は,権利の濫用にあたると判断されました。

 

 

その結果,原告労働者に対する懲戒解雇は無効となりました。

 

 

転籍になっとくできない場合,

転籍には労働者の個別同意が必要なので,

同意しなければいいのです。

 

 

 

 

転籍に同意しないことを理由に解雇されたとしても,

その解雇は無効になることがほとんどです。

 

 

また,仮に転籍に同意してしまったとしても,

家族が病気であり,それに対応できなくなるといった事情があれば,

転籍命令が権利の濫用として無効になる可能性もあります。

 

 

転籍になっとくできない場合には,

これらの対処法がありますので,

早めに弁護士へ相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

家族の病気や介護を理由に配転命令を拒否できるのか?

本日も昨日に引き続き,家庭生活上の不利益を理由に

配転命令を拒否できるかという論点に関連して,

ネスレジャパンホールディングス事件を紹介します

(神戸地裁姫路支部平成17年5月9日判決・労働判例895号5頁)。

 

 

姫路工場のギフトボックス係が廃止されることになり,

そこで働いていた労働者は,霞ヶ浦工場へ転勤するか,

やむを得ない事由で応じられない場合には

退職してもらうことになりました。

 

 

 

 

会社は,時として,労働者に対して,

非情な決断を迫ってくることがあるのです。

 

 

原告の1人の労働者は,妻が非定型精神病に罹患しており,

妻が援助を必要していることを理由に配転命令を拒否しました。

 

 

もう1人の原告の労働者は,単身赴任になれば,

母親の介護ができなくなり,妻の負担が大きくなること

を理由に配転命令を拒否しました。

 

 

 

 

配転命令が権利の濫用にあたれば,

労働者は,配転命令を拒否できます。

 

 

配転命令が権利の濫用にあたるかは,

①配転をする業務上の必要性があるか,

②不当な動機・目的があるか,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という3つの要件にあてはめて決定されます。

 

 

まずは,会社がその生産,販売体制を

より効率的なものに変更することは,

会社の経営権の範囲であり,会社の一部署を廃止し,

その部署の労働者を配置転換することには,

①業務上の必要性があると判断されました。

 

 

次に,私企業が利潤追求の観点から労働者の配置転換をすることは,

②不当な動機・目的があることにはならないと判断されました。

 

 

そして,1人の原告の労働者については,

妻が非定型精神病に罹患して,

単身で生活することが困難で,

治療や生活のために,

原告労働者の肉体的精神的援助が必要となり,

原告労働者が単身赴任すれば,

妻の病状が悪化する可能性があると判断されました。

 

 

もう1人の原告の労働者については,

妻と共に母の介護を担当しなければならず,

原告労働者が単身赴任となれば,

妻1人では母の介護が困難になり,

母の症状が悪化する可能性があると判断されました。

 

 

その結果,③労働者が配転によって受ける不利益が

通常甘受すべき程度を超えていると判断されて,

本件の配転命令は権利の濫用にあたり,無効とされました。

 

 

この裁判例で注目すべきなのは,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか

の要件を検討するに際して,

育児介護休業法26条の配慮義務について,

次のように判断した点です。

 

 

すなわち,配転によって子の養育または

家族の介護が困難な労働者に対しては,

配転を避けることができるのであれば避け,

避けられない場合には,

より負担が軽減される措置をするようにしなければならず,

その会社の配慮の有無や程度が,

配転命令が権利の濫用になるかの判断に影響を与えるということです。

 

 

家族に病気があったり,介護が必要な場合には,おそらく,

③労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益がある

と判断される可能性は高いといえそうです。

 

 

 

 

他方,家族に病気がなく,介護も必要ない場合,

すなわち,共働き世帯で子供が小さいという理由で

配転命令を拒否できるかは,正直なところ,不透明です。

 

 

育児介護休業法26条の労働者に対する配慮義務と,

労働契約法3条3項の仕事と生活の調和の配慮義務,

さらに,昨今の働き方改革と女性の社会進出などから,

今後は,共働き世帯で子供が小さいという理由で

配転命令を拒否できる可能性がでてくるかもしれません。

 

 

今後の裁判例の動向を注目していきたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」から配転命令の要件を考える

私は,仕事柄,出張が多いので,

各地のご当地グルメが紹介される

「秘密のケンミンSHOW」が好きです。

 

 

秘密のケンミンSHOWで紹介される

ご当地グルメをメモしておき,出張のときに,

そのご当地グルメを堪能するのが,出張の楽しみになります。

 

 

この秘密のケンミンSHOWでは,

連続転勤ドラマ「辞令は突然に・・・」というコーナーがあり,

東京一郎というサラリーマンが毎回,

不条理にも全国各地へ転勤させられるというドラマです。

 

 

ドラマなので,毎回全国各地へ転勤させられても

笑って見ていられますが,あのような転勤が本当に行われたら,

労働者が退職していくか,裁判を起こされるか,どちらかとなるでしょう。

 

 

仮に,東京一郎が連続転勤を不服として裁判を起こせば,

あれだけ頻繁に全国転勤をさせる業務上の必要性がないとして,

連続転勤は権利の濫用として無効と

判断される可能性があると考えられます。

 

 

では,労働者はどのような場合に転勤

(労働法の世界では,配転と言われます)を断れるのでしょうか。

 

 

まずは,就業規則に配転の条項がなかったり,

労働契約において勤務地を限定する特約があれば,

労働者は,配転を拒否できる可能性があります

 

 

次に,配転命令が権利の濫用となれば,

労働者は,配転を拒否できます。

 

 

配転命令が権利の濫用の濫用となるかは,

①配転の業務上の必要性があるか,

②不当な動機や目的があるか,

③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という3つの要件を検討して決められます。

 

 

通常の配転命令では,

①業務上の必要性があることが多く,

②不当な動機や目的がないことが多く,

③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益があるか,

という要件が実質的な争点となります。

 

 

特に,共働き世帯が増えてきたことで,

配偶者も働いており,子供がまだ小さいことを理由に,

配転命令を拒否できるかが争われやすいです。

 

 

この点について争われたのが明治図書出版事件です

(東京地裁平成14年12月27日決定・労働判例861号69頁)。

 

 

この事件で東京支社から大阪支社へ転勤を命じられた労働者には,

3歳の長男と6ヶ月の長女がおり,

2人の子供がアトピー性皮膚炎にかかっていました。

 

 

特に,6ヶ月の長女のアトピー性皮膚炎が重症で,

顔をはじめ身体全体に出ており,かゆくてかいては出血し,

リンパ液が出てかさぶたになり,またかいての繰り返しが続いており,

長女がかかないように親が注意している必要がありました。

 

 

また,労働者の妻は,正社員で,

外国人顧客の旅行のコーディネートの業務をしており,

1ヶ月に1~2度は泊まりの出張がありました。

 

 

このような育児負担の重い労働者の状況からすると,

労働者かその妻の一方が仕事を辞めることでしか

回避できない不利益は通常の不利益ではないと判断されました。

 

 

また,育児介護休業法26条において,

会社は,子供の養育状況に配慮しなければならない

と規定されており,労働者が配転を拒否しているときは,

真摯に対応しなければならず,

既に配転命令を所与のものとして労働者に

押しつけるような態度を一貫してとる場合は,

配転命令が権利の濫用として無効になると判断されました。

 

 

 

 

結果として,東京支社から大阪支社への転勤は,

権利の濫用として無効となったのです。

 

 

この事件では,子供が重度のアトピー性皮膚炎に

かかっていたことが決定打になったと考えられます。

 

 

共働き世帯の育児負担に配慮した判決内容となっていますが,

子供に病気がなく,共働き世帯で子供がまだ小さいということだけで,

転勤を拒否できるのかは,それを否定した裁判例もあるので,

今後の裁判例の動向をチェックしていく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。