整理解雇の事件で労働審判前に解決金302万円を支払ってもらうことで示談が成立したケース
1 不倫を理由に解雇?
最近、私が担当した事件で、
うまく解決できたケースがありますので、紹介します。
そのケースは、整理解雇の事案だったので、
今、新型コロナウイルスの感染拡大による
業績悪化を理由とする整理解雇が増えている状況において、
参考になると思います。
私のクライアントは、石川県内の葬儀会社に勤務していたところ、
代表者から、あらぬ疑いをかけられて、突然解雇させられてしまいました。
あらぬ疑いとは、クライアントが不倫をしているというものでした。
クライアントは、不倫をしておらず、抗議しましたが、
代表者は、クライアントの言い分に耳を傾けることなく、
解雇を断行したのでした。
この解雇に納得のいかないクライアントは、会社に対して、
解雇理由を明らかにするために、解雇理由証明書の交付を求めました。
2 解雇理由証明書の交付を求める
会社は、労働者から、解雇理由証明書の交付を求められた場合、
遅滞なくこれを交付しなければならず(労働基準法22条1項)、
往々にして、会社は解雇理由を明らかにしていないことが多いので、
労働者が解雇された場合には、会社に対して、
解雇理由証明書の交付を求めていきます。
解雇の裁判では、会社が主張している解雇理由について、
労働者が、一つ一つ反論していくことになり、
反論の対象を限定されるためにも、
解雇理由証明書を交付させることは重要です。
相手方の会社から交付された解雇理由証明書には、
「会社業績不振のため、人件費削減の措置のため」と記載されており、
クライアントが会社から口頭で聞かされた、
不倫をしているという解雇理由とは異なるものでした。
会社から、口頭で聞いていたのとは異なる解雇理由が主張され、
クライアントは、ますます納得がいかなくなり、
私に法律相談をされました。
このように、会社の真の解雇理由と、
実際に解雇理由証明書に記載される解雇理由が異なることは、
実務上よくあります。
すなわち、会社が真の解雇理由を正直に記載すれば、
解雇が無効になるケースでは、会社は真の解雇理由を隠して、
もっともらしい解雇理由をとりつくろうとするのです。
このようなケースでは、会社が主張する解雇理由が争点になるのですが、
労働者としては、会社が主張する解雇理由が無効であると主張しつつ、
真の解雇理由についても主張していきます。
3 整理解雇の4要件(要素)を検討する
さて、クライアントが不倫をしていたことを理由とする解雇は
当然に無効になりますが、会社が主張してきた、
業績不振を理由とする解雇は、
簡単に無効になるとは限りません。
業績不振を理由とする解雇は、整理解雇といい、
整理解雇は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、
③人選の合理性、④手続の相当性の4つの要件(要素)を総合考慮して、
無効となるかが判断されます。
クライアントが解雇された時期が、ちょうど、
新型コロナウイルスの感染が拡大していた時期なので、
三密を避けるために葬儀が減り、
葬儀会社の売上が減少していることが予想されました。
また、会社から開示された決算書を見ると、
新型コロナウイルスの感染拡大の前から、
会社の売上が落ちており、さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が、
売上の減少に追い打ちをかける状況でした。
そのため、①人員削減の必要性は認められそうでした。
もっとも、相手方の会社の決算書を税理士に分析してもらったところ、
外注費と接待交際費を削減できる余地があることがわかりました。
また、相手方の会社では、希望退職の募集がされておらず、
雇用調整助成金を利用していませんでした。
これまでのブログに記載していますが、
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、
雇用調整助成金が拡充されており、業績が悪化しても、
会社は、労働者を解雇するのではなく、休業手当を支払って、
休業させて、雇用を維持することが求められているのです。
そのため、相手方の会社は、
②解雇回避努力を尽くしていなかったのです。
また、クライアントは、相手方の会社が資金繰りに苦しんでいた時に、
一時的に自分の預金をおろして、会社に貸付をして、
会社の資金ショートを防ぐなどの貢献をしており、
クライアントを人員削減の対象とすることに
合理な理由はありませんでした(③の要件を満たさない)。
そして、解雇理由が途中で変わるなど、相手方会社は、
解雇の理由について、充分な説明をしていませんでした
(④の要件を満たさない)。
そのため、相手方の会社は、①の要件を満たすものの、
②~④の要件を満たさないので、整理解雇は無効になると考えました。
そこで、労働審判を申し立てたところ、相手方は、
期日の1週間前に解決金を支払うので、
裁判を終わりにしたいと白旗を挙げてきました。
クライアントの1年分の賃金から、退職金と解雇予告手当をひいた、
302万円を相手方会社に支払ってもらうことで示談が成立しました。
整理解雇の事案では、会社の決算書をていねいに分析して、
労働者に有利に使えるところを
ピックアップしていくことが重要になります。
本日もお読みいただきありがとうございます。
返信を残す
Want to join the discussion?Feel free to contribute!